ミンチョル
僕がドンジュンとどうにかなってると思っているようだが、それはない
ドンジュンとは「義兄弟」の契りを結んだだけなのだ
ドンジュンと話をしていると気持ちが落ち着く
以前こんな気持ちを味わった事があるような気がする
妻となのか…それとももっと違う人となのか…
…あのテス君という人となのか?
まさか!
あのテス君には妻がいるというし、しかも男だ!
僕はホ○ではあるまい!
しかし、ドンジュンには肩を貸してあげたいし、肩を組んであげたいし、腕を組んであげたいし、…モンゴル…
満点の星空を見上げて寝る…いや、眠る…
夢の様だ
一ヶ月の長期休暇が取れたら、絶対に「義兄弟」であるドンジュンと二人で、二人っきりで、行きたい
ん?「二人っきりで…」
このフレーズをどこかで言ったような気がする…
妻にだろうか…
まさかあのテス君に?
い…いや…そんなハズはあるまい
やせても枯れても僕は男だ
…
少し前、まだ僕が熱を出す前のあの日、テプンが企画した変な忘年会のとき、あのスケートリンクを歩けなかったのは、スヒョンと僕だけだった…
ウシクは、可愛らしく滑りながらもちゃんと立っていたし、一番心配だったジュンホ君は、チャンという理事に「針靴」を借りて歩いていた
さすがは元ボクサーだ。運動神経はバツグンのようだ
僕は、…不器用な男らしい
だから…『歩けなくても当然だ』とイナは言った
でも、口元が曲がっていたな
笑っていたんだな…。フン
しかし、僕は不器用らしいから歩けなくても当然らしいが、完璧な男といううたい文句のついているスヒョンまでが歩けなかったのは見物だった
ケンカしているのか仲がよいのかわからないドンジュンが面倒を見ていたが、そのあとのビデオ上映会で、ドンジュンは真っ青になった
僕は知らんふりしてスヒョンの顔色を窺ってみたが、スヒョンも真っ青になっていた
こういうのを自業自得というのだろう…
その後の二人は、ブリザード状態だ。フフ
それでドンジュンが僕を頼ってくるのも解るだろう(僕は彼の指導者でもあるし…)
スヒョンが焦っているのが解る
オモシロイ
今日も店の前で座り込んでいた
僕たちが肩を組んだり腕を組んだりして「義兄弟」として密着していたからな
何か誤解したかもしれないが、構わない
僕たちさえしっかりしていればいいんだからな…フフ
スヒョン
確かに、からかっていた
でも、あの日、あのスケートリンクで堂々と歩いているドンジュンを見てから、僕は少しおかしくなってしまった…
あのまま、あそこで二人で話をしていたかったのに…
テプンの奴…あのビデオを上映しやがった…
隣でドンジュンが凍り付いた
そして、リンク中央まで走っていって(僕は追いかけたかったけど無理だった…)途中でビデオを止めさせ、ものすごい形相でテープの回収をした
回収してもコピーはあと5本ほどあるのに…
そして青いまま僕の横に戻ってきて
「これは…なんですか?」
って言ったんだ…
「…見てなかったっけ?」
とニコリと笑ってごまかしたけど、その後会話が続かなかった…
僕は初めて『後悔』という感情を味わった…
そして、どうやら本格的にそのビデオを見たらしいドンジュンは、僕の顔さえ見てくれなくなった…
ドンジュンはミンチョルになついている…
あの日までは、それが少しだけ悔しかった
あの日からは、それがたまらなく苦しくなった…
僕はおかしい…
あの、泣き虫で何もできなかったドンジュンをカッコイイと思うなんて…
どうかしている…
ドンジュン
このビデオはなんなんだ!
僕はこんなものを編集したスヒョンさんを許せないと思った
けど、編集したのは、シチュンさんとチョンマンだと解って、スヒョンさんに対して少し冷たすぎたと反省した
でも、でもやっぱり腹が立つし泣けてくる
ミンチョルさんに話を聞いてもらってとてもすっきりした
自信が持てた
ぱ○つを替えるといいらしい
もちろん、毎日履き替えているさ。違うんだ!
いままで履いていた「トランクス」をボクサータイプのもの、それも「紺」とか「黒」とかにすると、なんだか引き締まった気持ちになるらしいんだ
それにぱ○つのラインも写らないとか聞いたし…
それで、さっそくボクサータイプのぱ○つにしてみた
本当に気が引き締まる
「もっと引き締めたかったら、『プライド男祭』のタカダノブヒコのように、ふん○しを締めればよい」
と、ラブ君に聞いたけど、それはちょっと自信がない
それで、僕は今日、スヒョンさんを許そうと思い(こんな風に思う事からして自信満々だと思う)スヒョンさんを探した
スヒョンさんは店のすみっこで小さくなっていた。珍しいな
スヒョンとドンジュン
「スヒョンさん」
「…」
「こんな真似、二度としないでください」
「…」
「なんとか言ってください」
「…すまない…。ビデオは撮ってくれってチョンマンに頼んだけど、まさかこんな編集するとは思わなかった…」
「チョンマンの話では、スヒョンさんがこれでオーケーだって言ったそうですけど?」
『…ドンジュン…強気だな…か…かっこいい…』
「なんとか言ったらどうです?」
「…そうだ…ぼ…僕が…オーケーを出した…き…君を…その…イジメたくなって…」
「悪魔!」
「…」
「そんな人を僕は…」
「…ごめん…ごめんなさい…後悔してる…」
『えらく素直だな…』
「…あの日…スケートリンクでスタスタ歩く君を見て…僕は…敵わないと思った…」
『?どうしたんだろスヒョンさん…今までと違うぞ?』
「…素直にいうよ…君はカッコイイ。なんの細工もしなくても、君はかっこいいんだ…ドンジュン…その事に気づいてる?」
「…スヒョンさん…」
「許してくれなんて調子のイイコトは言わない…でも…話ぐらいは…してくれないかな?」
「…スヒョンさん…どうしたんですか?また騙そうとしてませんか?」
「ド…」
『あ…涙目になっちゃった…。ほんとかなぁ…』
「…仕方ないね…僕は君をからかってたんだもん。ほんとに…君は可愛くて、からかいがいがあった…」
「…今もからかってるんでしょ?」
「…そう思われても仕方ない…。でも…僕、本当は…天使…みたいなキャラだったんだ…知ってる?」
「…え…ええ…人を幸せにするっていう…でも僕は幸せじゃないけど!」
「…僕はある人に頼まれて…まあその人はもう死んでるんだけど…その人の娘さんたちに『愛』を教えたんだ…。そこまではよかった
ただね。僕は、その時初めてこの世界に降りてきて」
『降りてきて?』
「それで『快楽』を知ってしまったんだ」
『ああ…キ○とかセッ○○とか…』
「その事は父には内緒だったんだけど…知られてしまった…」
「父?」
「うん。父」
「…」
「それで、女性と接するなと言われたんだけど、僕は女性を幸せにするのがどうしていけないのかって反発して、それで、ここへ来たんだ…」
『…ほんとかなぁ…。ニホンバージョンではテンシらしいけど、カンコクバージョンではジツザイノヒトらしいし…』
「…悪いけど、ニホンバージョンが本当なんだ…」
『げっ…読まれてる』
「ごめん…テンシだから…」
「じ…じゃあ父って言うのはあの…」
「…それは言えない」
『って…ほぼ言ってるも同じだと思うけど…』
「それでね。ここへ来て、いろいろなお客様と節度を持って接した
んだけど、こないだ、ほら、『ポラリス』がらみのユジンさんと一泊旅行に行った事が父の耳に入って…それで…とうとう『破門』された…」
「破門?」
「そう…破門…。それで僕は『家』に帰れなくなって…。知ってるかな?古今東西破門されたテンシってのは大抵アクマに転身しちゃうって…」
『転身したのか?』
「しそうになった…でも…。君が…僕を留めてくれたんだ…」
「へっ?」
「あのスケートリンクで、君が僕の手を引いてくれた…あの時僕は父に反発した事を、そして君のあのビデオを撮った事を…猛烈に反省した…」
「へっ?」
「それほど君は素敵だった…」
「…そ…それほどでもないと思いますけど…」
「…ドンジュン」
「はい?」
「モンゴルへ行くのか?」
「いえ…あの…まだ先の話で…行けたらいいなって…」
「じゃあ…お願いだ」
「はい?」
「その前に…1日でいいから…僕を…」
「…」
「シベリアというところに連れていってくれないか?」
「…無理です」
「!」
「シベリアには1泊では行けないです」
「…そうなの?」
「…スヒョンさんって…完璧な男なんじゃあ…」
「…ごめん、こちらの生活はまだ半年ぐらいだから…距離感とかよくわかんなくて…。でも…雪というものが見てみたいんだ」
「あれ?見てないですか?」
「チラチラ降る雪は見たけど、シベリアのように雪と氷に覆われた大地ってものを…僕は見てみたい…。そして…君のような男になりたい!」
「す…スヒョンさんにそんな風に言われるなんて…光栄ですけど…でも僕、そんな『なりたい』なんて言われる男じゃないです!」
「いや!君は素晴らしい男なんだ!その証拠にミンチョルだって君に…君に…」
「ミンチョルさんとは…その…特別な…あの…でも変な関係じゃ無いです!」
「それはmayoさん達が言ってたから知ってる。でも…ミンチョルは君のことを…」
「…スヒョンさん…スヒョンさんは銀世界を知らないんですね。だからスケートリンクであんなにカッコ悪かったんだ…
わかりました。スヒョンさん。スヒョンさんは僕にとって『初めての指導者』なんです!
スヒョンさんのおかげでホ○トとしてやっていけるんだと自信が持てたのも本当です!僕、感謝してるんですよ、スヒョンさん」
「ドンジュン」『やっぱり優しい…ドキドキ』
「わかりました!行きましょう!明日から!雪山へ!」
「えっ?ほ…本当に?」
「ええ。でも二人っきりだと危険なので」
『何が危険?!…いや…危険か…』
「ミンチョルさんにも付いていってもらいます!」
「げっ…よりによってなぜミンチョルに!」
「ミンチョルさんは一番信頼出来る人ですし、それに冬の夜空なら、モンゴルに近いくらいの星が…」
「星?」
「…あ…いえ…じゃあ、オーナーに休暇願いを出して、明日から一泊二日で雪を見に行きましょう!」
「ほ…本当に?」
「…スヒョンさんの修行ってことで…」
「あ…ああ!僕にとってこれは修行だ…色々な意味で…」
「…スヒョンさん…騙してないですね?」
「ドンジュン…疑ってるの?」
「…」
「…」
「騙してない。信じます。その清らかな瞳、今までにないくらい清らかな輝きです!」
「ドンジュン…あ…ありがとう…信じてくれて…」
「じゃあ僕、ミンチョルさんとオーナーに掛け合ってきます」
「ドンジュン!」
「大丈夫、交渉事ならなれてますから!」
『…かぁっこいい…』
こうして、ドンジュンとミンチョルとスヒョンは、冬の雪山(手近なところでスキー場なのだが)へと向かう事になった…
ミンチョル
人はぱ○つを変えると、こうも変わるものなのか?
昨日まで泣いていたあのドンジュンが、なぜだか堂々と、オーナーをねじ伏せて、突然の休暇を取った
それも、僕とスヒョンと3人の・・
名目は『スヒョンの修行』らしい
何の?
僕はモンゴルの方がいいのに、スヒョンに泣き付かれたらしい
やはりスヒョンの口八丁手八丁にはかなわないのか?
心配だからついていくのは構わない
どうせ家に帰ってもあのフクス・・はに・・ソンジェが小うるさいだけだし・・
ヨンスさんはうっとおしいし・・
年末だって年始だって、僕は心が休まらなかったから、雪山で星を眺めるのはいいかもしれない。モンゴルの方がよかったが・・
けど、モンゴルは『風呂』に困るらしいしな。雪山(スキー場)なら、風呂もあるしご飯もうまいらしい(脇腹には気をつけないといけないが・・)
それに、ドンジュンが運転するというので、ラクチンだ。ウレシイ
僕は雪山の装備などないので、全てドンジュンに任せた
ドンジュンと二人旅ならなぁ・・
スヒョン
こんな展開になるなんて思いもしなかった・・
ミンチョルが邪魔だ
でも仕方が無い
いや、むしろ、居てくれた方がありがたい
僕は今、すっかり弱気だから、もしも、もしもドンジュンと二人っきりでいて、ドンジュンを怒らせたりしたら…僕はもう生きてはいけない…
でも僕はテンシだから死ねない
雪。銀世界。どんなだろうな・・
楽しみだけど、少し怖いな・・
こんな僕って・・やっぱりおかしい・・
悪魔とドライブ
三人を乗せた車は、夜、BHC前を出発した
運転はドンジュン。助手席にはスヒョン。そして後部座席にスーツ姿のミンチョルがいた
「ミンチョルさん、スーツはないでしょう・・」
「・・普段着が見当たらなくて。洗濯してないんだ・・」
「・・それにしても、セーターぐらいなかったんですか?寒いですよ」
「すまない・・。ないんだ・・。僕のカシミアのセーターは、ヨンスの手入れが悪くて、全て虫食いになってしまった・・」
「・・わかりました。一応スキーウエアは調達しましたから、スーツの上にでも着てください。スヒョンさんは・・なんでそんな薄着なんですか?」
「・・こういう服しかなくて」
「・・聞いた僕が馬鹿でした。それに、お二人にちゃんと説明しなかった僕がいけないんです・・。とにかく、ウエアはありますから・・
でも寒いとは思いますけど、一泊ならまあ我慢できると思います・・。よほどの悪天候でない限りね・・
一応カイロもあります。ものすごく寒くなったら使用してください。数に限りがありますから、無駄遣いはダメですよ」
「・・買えばいいじゃないか。セーターも買うよ」
「それじゃ修行になりません!いいですか、お二人とも贅沢すぎます!僕は幼い頃から満足に食べれず、だからこんな背なんです!
でも弟は何故か伸びました。きっと僕に隠れてどっかで盗み食いしてたんです!」
「・・」
「我慢も修行のうちですから!」
「・・スヒョン、ドンジュンなんだかカッカしてないか?」
「・・かっこいい・・」
「・・スヒョン・・」
ドンジュンは車を走らせていく
ミンチョルは後ろでウトウトしかけている
♪タリラリ〜タリラリ〜
ミンチョルのケータイが間抜けな音を出す
ドンジュンの目が険しくなった事に、二人とも気づいていない・・
「うっ・・はい。ミンチョルです」
『兄さん?今どこ?』
「・・。仕事で・・急な研修なんだ・・今。雪山に向かってる」
『またそんな嘘ばかり言う!ヨンスさんが泣いてるよ!』
「・・」
『何時に帰るの?』
「あ・・あ・・あさっての夜になると思う。一泊二日の研修だ」
『女と一緒じゃないだろうね』
「ちがう!BHCのスヒョンとドンジュンと僕の三人だ!」
『替って!』
「僕を疑うのか?」
『いいから替って!』
ミンチョル、スヒョンに黙って電話を差し出す
「も・・もしもし?」
『どなたです?』
「スヒョンですが・・あなたは?」
『兄さん!とぼけないで!何芝居してんだよ!声が一緒じゃないか!』
「え?僕は本当にスヒョンですよ・・声が一緒なのは・・BHCだから仕方ない事です」
『・・ああ・・そうか・・ほんとうに?ほんとうに研修なんですか?こんな突然?』
「あ・・はい・・僕のための・・すみません。ミンチョルはチーフなので、無理を言ってついてきてもらいました・・」
『そうですか。それにしても雪山とは?兄さん、今朝スーツで出ていったんでしょう?言ってくれれば、僕のセーターを貸したのに!
虫が食ってるとか言ってヨンスさんを泣かせたんだ!許せないよ!』
「はあ・・すみません」
『あなたに謝られても!・・まあいい。明後日ですね?
ちゃんとヨンスさんにお土産を買うように兄に言ってください!野沢菜じゃなくてヨンスさんの喜ぶ物をね!じゃあ』
「・・切れたけど・・」
「パンって切れパンって!」
「パン?」
「耳でこう・・」
「・・」
「はあっ・・嫌だよねぇミソチョルちゃん」
「・・それは・・何?」
「ミソチョルちゃんだよ。この子がいないと眠れないんだ、この頃・・」
「・・そ・・そう・・ミンチョルもいろいろ大変なんだな・・」
「ああ・・」
二人の不毛な会話を聞いているのかいないのか、ドンジュンはどんどんと車を走らせていく・・
「お二人は眠っててください」
「運転替わらなくていいのか?」
「・・フッ・・」
「・・フッ・・って・・」
「死にたいんですか?!」
「え・・」
「僕に任せてください。この程度の道なら全く問題はありませんし、それに、この先は雪道になると思います
お二人のようなシチーボーイに雪道の運転なんて絶対に無理です!僕は死にたくありません。全員生きて帰らなきゃ意味が無いんです!」
「「・・」」
ドンジュンの迫力に息を呑む二人
心なしか目が血走っているようなドンジュンを見て、スヒョンはまたぽおっとなっている
『ミソチョルちゃん、危ないねぇ、この二人・・。なんだか立場が逆転してないかい?何があったんだろう・・
せっかく「義兄弟の契り」を交わして慰めてあげたのに、ドンジュンったら・・どうなっちゃってるんだろう・・
やっぱり僕が信じられるのはミソチョルちゃんだけだなぁ・・』
まっすぐ前を見て口数少なく運転するドンジュンを、助手席でぼうっとなって見ているスヒョンと
その二人を、ミソチョルをぎゅうっと抱きしめながら見つめているミンチョル
雪山に行くというのに、ドンジュンが用意したのは、自分が作ったらしい『アクター』という車だ
乗用車らしいが、これでシベリアを14日間横断したという
「僕の・・車を出してもよかったのに・・」
スヒョンが口を開いた
「僕のでもよかったのに」
ミンチョルもつられてそう言った
「フッ・・」
『あっ。またフッて・・かっこいい・・』
「お二人のお車は何人乗りでしたっけ?」
「あっ・・」
「荷物もありますしね。それに、格好ばかりがいいシチーカーは雪道には不向きです
丁度スヒョンさんとミンチョルさんがあのリンクでこけてばかりいたように、きっとクルクルスピンばかりするでしょうし・・フッ・・」
『かっこいい・・』
『厭味だなぁ、今日のドンジュンったら・・。なんで?ねぇミソチョルちゃん
このドンジュンは僕が公園で肩を抱いて慰めたドンジュンとは別人みたいだよ・・やだねぇミソチョルちゃん」
「すみませんがミンチョルさん」
「ははははいっ!」
「ブツブツ小声で何言ってるんですか?耳障りなんですけど」
「・・き・・聞こえた?」
「聞こえませんが念仏のような低い声が耳につくのでできればスヒョンさんの真後ろに座っていただけますか?」
「は・・はい・・」『強気だな・・ぱ○つとはこうも人を変えるものなのか・・。じゃあ僕だってソンジェに』
「聞こえませんでしたかミンチョルさん、席を移動してください」
「ははははいっ!」『なぜだろう。心で喋っているつもりなのに・・。はっそうか。僕は意識しないときちんと口が閉じれないんだ・・
あのドラマのVTRを見ていたときはっきりわかった。ちょっと心が動揺しているとき、僕は口が少し開いてて、カワイイ前歯二本が見えてしまうんだった・・
そこから心の声が漏れるんだな・・』
「独り言をいう癖があるなんて、知らなかったな」
「い・・いや・・喋ってるつもりはなかったんだ。すまない。気をつけるよ」
「そうですか。じゃあもう少しスピードアップしますから、運転に集中させてください」
「・・はいっ・・」
『かっこいい・・』
「それからスヒョンさん」
「はいっ!」
「僕のほうばかり見てないで、ナビを見ていてください。僕だって初めての道は迷いますから、ナビで分岐点などがあったら注意しててください
それか眠るかどっちかにしてください。気が散ります」
「はいっわかりましたっどっちかにします!」
ドンジュンのペースでドライブを続ける三人である
BHC
「なんでっなんでなんでなんでぇっ」
「うるさいな、テス」
「こないだだって僕、忘年会に仲間はずれにされたし!ひどいです!」
「だってお前は『オールイン』の従業員じゃないか。そんなにあそこに行きたいならチョンウォンに頼めよ。いつだって連れてってくれるぞ」
「なんで三人なんですか?危険じゃないですか!」
「危険だから三人で行ったんだよ・・」
「・・どういうことですか?ミンチョルさんとドンジュンがどうにかなりそうだからスヒョンさんがついてったってことですか?」
「・・それはないだろう・・」
「イナさんは見てないからそんな事言えるんです!」
「・・なんかあったのか?」
「ええ、こないだ公園でこうでああでああなって・・それであれしてこれしてこんなこと言ってて」
「・・なんでそんなこと知ってる?」
「あ・・いえ・・ぐ・・偶然通りかかったら・・」
「・・ふうん・・ミンチョルもこのところ疲れてたからなぁ。癒しを求めてたんだろう」
「そんな!いつもなら僕に・・」
「ん?」
「あ・・いえ・・その・・。でも・・僕・・心配です!」
「こんにちわ」
「はい、あっソンジェさん・・どうしたんですか?」
「・・兄は・・」
「えっと・・修行の旅で明後日しか戻りませんが・・まさかお家に黙って行ったとか?」『家出ギツネかよ・・』
「本当に研修?修行って?」
「あ・・ああ・・研修と言う方が一般的ですよね。ミンチョルとスヒョンが過酷な雪山へと日頃の疲れを癒し・・いや、違う・・
日頃の贅沢な暮らしを見直すためにドンジュンという、極貧生活をしていた若者に連れられて修行・・というか・・研修に行きました」
「・・贅沢?兄は別に贅沢してるとは思えませんがね。洗濯だって掃除だってまめにこなしてるし
家事をする人間がいなくて、ヨンスさんは困ってるんだ・・。あまり兄を泊りがけの研修に連れ出さないでほしいな」
「そうは言っても彼はBHCのチーフですし、これから、より一層しっかりしてもらわないと、新人だってどんどん入ってきますからねぇ」
『ちくしょう、うるせぇなあ、こいつ・・』
「・・まさか、女が一緒じゃあ・・」
「それはありません。ミンチョルは硬派ですからね。多分女性は奥様しか知らないんじゃ・・あわわ・・」
「・・」
『あっ・・目尻が上がった・・奥さんの事は禁句だったか・・』
「兄は・・ヨンスさんを知っているかどうかは・・謎なんですよ・・僕にもね・・」
「は?」
「ヨンスさんは結婚前にあんな病気になった。それを無理して結婚し、新婚旅行で倒れたんだ!あなたの妻がもしも新婚旅行で倒れたら、あなたは・・」
「はい?」
「ヤれますか?」
「・・」
「ヤれないでしょう!それに、帰ってきてからも疲れさせてはいけないと、あんな兄でも一応気を遣ったはずだ!」
「・・」
「そして手術。治療の毎日」
「・・はあ・・」
「そのうち兄はこちらに就職し、毎晩帰りが遅い!たしかにここ最近は、僕を遠ざけて新婚生活を楽しんでいる風だけど
ちょっと覗いてみるといつも失敗ばかりしてヨンスさんを苦しめている」
「・・」
「すぐ熱を出すし、気分が優れないと言って書斎に閉じこもるし・・ヨンスさんはいつも泣いているんだ!だから僕が抱きしめて慰めてあげている・・」
「・・はあ・・」
「だから・・兄は・・ヨンスさんを知らないんじゃないかと僕は思う」
「・・」
「・・別れるなら今のうちだとヨンスさんに言ってみた・・」
「そ・・そんな事を?」
「ヨンスさんはにっこり笑って、『大丈夫。私はこれでいいの』と言ったが・・
本当にそれでいいのか、やはり兄とヨンスさんと僕との三人でもう一度じっくり話し合わなくては・・」
「・・はあ・・」
「兄は本当に研修なのですね?」
「は・・はい・・」
「わかりました。今日のところはこれで帰ります」
「はい・・さようなら〜・・。・・。・・帰ったな・・・。テス。テソンから塩貰ってこい!」
「イヤです!イナさん自分で行けばいいでしょう?僕はミンチョルさんたちを追いかけます!」
「追いかけるってどこへ?」
「どこって・・雪山でしょ?」
「うん。雪山ってことだけしか知らない」
「へ?」
「ドンジュンしか行き先を知らないんだ」
「そんな・・そんな馬鹿な・・」
「大丈夫だよ、ドンジュンは運転のプロだからさ」
「でも・・だって・・もしも何かあったら・・」
「大丈夫だよ、ドンジュンはそういう危機にも慣れてるからさ」
「・・ミンチョルさん・・」
テスの目から一筋の涙が流れた
ブリザード?
うとうとしていたスヒョンが目を覚ますと、車が止まっている
運転席は空だ
「ド・・ドンジュン!ドンジュン!」
「んあ・・どうしたスヒョン」
「ミンチョル!ドンジュンがいない!」
「なにっ?まさか僕たち二人を遭難させるつもりじゃあ・・」
「ばかっドンジュンはそんな奴じゃない!」
「何さわいでるんですかお二人とも・・」
ドアが開いて雪まみれになったドンジュンが顔を覗かせた
「さぶっ」
「ちょっと吹雪いてきたんで、はい、これ。トランク開けたの気づきませんでしたか?」
「・・そう言えば急に寒くなったなって思った・・」
「フッ…はい、スヒョンさん、これ着て。ミンチョルさんもどうぞ。車の中でも寒いですからね」
「ありがとう・・」
ミンチョルとスヒョンはドンジュンに手渡されたスキーウエアを着込んだ
「ねえドンジュン、前が見えないけど、運転できるの?」
「フッ・・」
『あっ・・またフッて・・』
「この程度なら大丈夫です・・でも・・」
「でも?」
「まだ宿まで除雪できてないですね」
「ジョセツ?」
「そう。除雪車がこないと、ほら、急に雪が大量に降って、道が雪で埋もれちゃってる」
「・・」
ドンジュンは、スヒョンの前のフロントガラスを身を乗り出して拭いてやった
『あうっ・・ドンジュンの髪が僕の鼻にっ・・』「うっ!」
「ほらこれで見えるでしょ?・・あれ・・スヒョンさん、鼻から血が・・」
「はだぢだ・・」
「・・ミンチョルさん、そこのティッシュ取って」
「はっはいっ」
「はい、これ。どうしたんです?鼻血なんて・・カッコ悪いですよ、スヒョンさん・・」
ドンジュンは少し怒ったような顔でスヒョンを見つめた。スヒョンは鼻血を押さえながらモゴモゴと言葉を呑み込んだ
「ふうっ・・本当にスヒョンさんは・・『寒いところ』が似合わないなぁ・・」
「・・ごめん・・」
「謝らなくていいですよ。大丈夫ですか?」
「・・うん・・」
「ティッシュ、詰めてあげましょうか?」
「いい!自分でやるから!」
「そ?・・それより、ほら・・前見てください。ね。道が無いでしょ?」
「・・」
「ここまでは除雪が済んでたみたいです。けどこの先は・・夜明け間近しか除雪されないようです」
「じゃあ、今夜中に宿につけないってこと?」
「そうですね」
「どうするの?」
「おにぎりも持ってますし、腹が減ったらそれを食べて・・」
「どこで寝るの?」
「え?」
「どこで寝るの?」
「・・」
ドンジュンは不思議そうな顔でスヒョンをみつめ、まっすぐ下を指差した
「え?車で?」
「そうですよ。当たり前じゃないですか・・はあ〜これだからもう・・」
ドンジュンの不機嫌そうなため息を聞いてスヒョンはまた俯いた
「見てください、ミンチョルさんなんかもう寝てますよ」
「・・よく寝れるなぁ」
「ミンチョルさんは車で夜明かしするのが得意らしいですよ」
「・・なんでそんな事知ってるの?」
「こないだいろいろ話したから・・それより、ちょっとバックしますから」
そう言うとドンジュンは、ギアをバックにいれ、信じられないテクニックで車をバックさせた
「ドドドドドンジュンっこわいっ」
「信用してないんですか?」
「でもっでもっ・・見えないじゃないかっ後ろ・・」
「こんな夜中に誰も来ませんし、それに、僕にはちゃんと見えてますよ」
「・・かっこいい・・」
「・・フッ・・よし。この駐車場で仮眠します。寝てください」
「・・えと・・」
「おやすみなさい」
「あっ・・ド・・ドンジュン・・うそ・・もう寝ちゃったの?・・ドンジュン?ドンジュン?・・」
『かっこいいな・・あんな泣き虫だったのに・・。やっぱり自信を持ってる男ってかっこいい。僕は何に自信があるんだろう・・
女を口説くこと?・・人を・・からかう事?・・はあっ・・。情けない
テンシとしてあるまじき行動・・かな・・やっぱり・・。でも・・ドンジュンってかっこいい・・。・・眠ってる・・。・・。チ・チャンスかもっ!』
スヒョンはいけない事を思いついてしまった自分を押さえようと努力してみた
窓の外の雪を見たり、後ろのキツネを見たり、目を瞑ってみたり・・
『だめだっ!据膳食わぬは男の恥だってニホンで聞いたもん!・・い・・いた・・いただきまあっす・・』
目を瞑って…スヒョンはドンジュンの顔に自分の顔を近づける…
『…ドンジュン…』
♪タリラリッタリラリッ
「はいっミンチョルです」
『くはあっ!』
うなだれるスヒョン
「んあ?ソンジェ?なんだ?え?話し合い?何の?声が遠いんだが…
ここ電波状況が悪いみたいで…あれ?切れてる…もうっ気持ち良く寝てたのに」パンッ
電話を切ってまた眠るミンチョルを見て、スヒョンはこう思った
『ああやって切るのか…。よく耳を挟まないものだな…。でもミンチョル寝たし…ふふ…もう一度チャ〜ンス…うっ』
「スヒョンさん、何ゴソゴソやってるんですか?」
「あうっドンジュン。起きてたの?」
「眠れない?ミンチョルさんと座席替わってもらいますか?」
「いやっ…いや…ここでいい。ここがいい!ここのがよく見えるし…その…雪がっ…雪がね」
「少し眠っておかないと、明日、ゲレンデにいきますよ」
「ゲレンデ?スキーするの?」
「いえ。スヒョンさんには無理でしょうから、ゲレンデで雪というものを味わって貰います」
「…」
「雪を侮ってはいけませんよ。思ってる以上に体力が奪われる」
「…」
「それに僕はここまで運転してきた。少しでも眠りたい。わかりますね?
僕の運転には、お二人の大事な命がかかってるんだ。あなたも協力してください」
「…は…はい…」
「じゃあ、寝ましょう、おやすみなさい」
「お…おやすみなさい…」
ドンジュンはスヒョンに背を向けて寝てしまった
スヒョンは、そんなドンジュンの背中を見つめながら、また流れてきた鼻血をティッシュで押さえて丸くなった
雪
いつのまにか眠り込んだスヒョンが目を覚ますと、ミンチョルとドンジュンは宿に荷物を運んでいた
「あっ…ごめんドンジュン。僕も手伝うよああああっ」ドテッ☆
「ふう…いきなり外に出るから…。大丈夫ですか?後でスノーブーツに履き替えましょうね」
「…ごめん…」
「ミンチョルさんはスノーブーツ履いてるから大丈夫ですね?荷物、お願いしますよ。さあスヒョンさん、掴まって」
「あうっ…い…いいの?」
「…?…」
「つっ…掴ってもいいの?」
「掴まらなくても歩けるんですか?」
「あうっ…掴まらせてくださいっ」
「余計なこと言わないで、僕の言うとおりにしてくださいね、スヒョンさん」
「は…はい…」『かっこいい…ドキドキ』
三人は宿で出された朝食を済ませると、部屋に荷物を置き、そしてスキーウエアに着替えた
「ミンチョルさん、スーツのズポンは脱いで、このタイツ履いた方がいいですよ、でもなあ…インナーはスヒョンさんの分しかないから…」
「いいよ、僕はここにいるから二人でゲレンデに行ってくれば?」
「ミンチョルさん、修行になりませんよ」
「だってこれスヒョンの修行でしょ?」
「…ミンチョルさん、どうせジジむさく温泉に浸かってる気でしょ。知りませんよ、脇腹が危なくなっても…」
「…」
そう言われてしぶしぶ着替えるミンチョルであった
「仕方ないな、僕のインナーを貸してあげますよ」
「え?だってドンジュンは?」
「僕は少々の寒さは平気ですから」
「…かっこいい…」
「真似すんな!ミンチョル!」
「だってかっこいいじゃないかドンジュン」
「ばか!」
「…ばかって…」
「ほら、スヒョンさん、着替えも満足にできないんですか?」
「えと…その…タイツ履かなくちゃだめ?」
「…寒いですからね」
「カッコ悪いな」
「かっこつけてる場合じゃないでしょ!ほら、このペラッペラのズボン脱いで!えいっ」
スヒョンのズボンを脱がせるドンジュン。突然のドンジュンの行為にスヒョンは焦る
「そ…そんなっいきなりっミンチョルが見てる前でそんな…準備がっ」
「何ごちゃごちゃ言ってるんです…おや…スヒョンさんは白のボクサータイプですか…ふうーん…」
「…」
「はい。タイツ。履かせてあげましょうか?」
「いいいいっじぶんでやるっ!」
「…そう?…あ…今ちょっと僕…」
「なななにっ?」
「フフッ…スヒョンさんの気持ち…わかりました…フフ」
『ななな…何がフフ?』
「…そうかぁ…フフ…」
ドンジュンはニヤリと笑うとスヒョンの前にひざまづき、タイツをクシュクシュとまとめ、こう言った
「スヒョンさん、僕の肩に掴まって」
「えええっそそそ。こここんなかっこで君の肩に掴まるってだだだめだっ」
「タイツ、履かせてあげますよ」
「いいいっいいよっじぶんではくからっいいっ」
「ひらがな喋りになってますよ。似合わないなぁ…ほら、手を置いて。またこけますよ」
「うっ…。あのっ…顔上げないでくれるかな」
「どうして?」
いたずらっぽく微笑んだドンジュンは、すっと顔をあげ、少しスヒョンのぱ○つに目をやってからスヒョンの顔を見詰めた
スヒョンは顔を赤らめている
見詰め合う二人を少し離れた場所で、タイツを履きながら眺めているミンチョルは、急に馬鹿らしくなった
『これって何?僕ってもしかしてお邪魔虫?…あっ死語だ…だめだ。チョンウォンのおんぞーし病が移っちゃったよ…』
「さ…足をここに入れて。…スヒョンさんって綺麗な足してますね、ツルッツルだ…」
「きききききききみもきっとツルツルツルツルツルッだよっ」
「フフ…ほら、ここ。ここに入れて…ああん…」
「!」
「そこじゃな〜い。こ〜こ」
ヘナヘナヘナヘナ〜
スヒョンは腰を抜かして座り込んでしまった
『ちょっとやらしすぎたかなぁ…フフ…そっかぁ〜スヒョンさん、僕をからかってるときってこんな楽しかったんだ〜…ちょっとゆるせないなぁフフ』
「あのっじじじぶんではくからっ…」
「だ〜め。よいしょ。よいしょ。はい、もう一回立ってみて」
『何やってんだろ、この二人…』
「あうう〜だめだって…恥ずかしいからやめてって…」
「よいしょ、よいしょ、はい、終り」
「あ…」『なんだ。もう終っちゃったのか…ちょっと騒ぎすぎたかな…恥ずかしい…』
「スヒョンさんって…」
「なにっ?」
「か〜わい〜い」
「…」
真っ赤になるスヒョン。それを見て真っ白になるミンチョル
「ミンチョルさん、これ。インナー。なんなら着せて差し上げますけど〜」
「いらない。自分で着る」
「あれぇ。ミンチョルさん、怒ってる?ねぇ…怒ってる?」
ドンジュンはミンチョルの方に近づいてくる
『危険だ!』
ミンチョルはガラスの目玉を装着し、仮面をつけて防御すると、さっさとインナーを着た
「あ…これかぁ…mayoさんがチェックしたっていう伝説のアレは…」
ドンジュンはそう言ってミンチョルの脇腹をくにょっと掴んだ
「あひえやぁぁぁっ」
「フフ。プヨプヨしてますね」
その様子を睨み付けているスヒョン。タイツとインナー姿でカッコ悪い
『…楽しい!スヒョンさんが僕ら新人をおちょくる気持ちがものすごくわかる!』
「ドンジュン!この次はどうすればいいの?」
「まっててスヒョンさん、先にミンチョルさんの着替えを手伝ってあげないと…」
「僕はひとりでできるからスヒョンの手伝いをしてあげなさい」
「ミンチョルさん、そんなカッコで威張っても…」
「威張ってないよ。ほら、スヒョンがすっごい顔して睨んでるからさ…あとこれ着ればいいんだろ?」
「そ。それと、えーっとミンチョルさんには、このキツネちゃん手袋と、それからこのキツネちゃん帽子ね。それからゴーグルでいいかな?」
「キ…キツネちゃん手袋?」『嬉しい…』
「はい、どうぞ。うわぁ、キュートですよぉミンチョルさん。子ギツネみたいだぁ。ちょっと抱きしめたくなっちゃいますね。ね、スヒョンさん」
「僕は抱きしめたくない!」
「僕だって抱きしめられたくないよ、スヒョンには!」
「じゃあ僕が抱きしめてあげます、ヨシヨシ」ぎゅうううう
「「!!!」」
パリーンパリパリーン
ミンチョルの仮面と、ガラスの目玉が割れる音がした
『うううっコイツ、危険だ!なんて危険な男なんだ!しかし、僕はコイツと「義兄弟の契り」を交わしたんだ!
じゃあ今のは…今のは…あ…なんだそうか「義兄弟のハグ」じゃないか…ほっ…』
どんな時も冷静にがモットーのミンチョルは、必死で平静を装っていた
「さてと、スヒョンさんは…あれ?どうしたんですか?泣いちゃったの?」
『くそう…ドンジュンのばか!からかい返ししてやがるぅ。悔しい!わかってんのになんでこんなに気持ちが乱れるんだっ!僕はテンシなのにぃっ!』
「えーっと。ミンチョルさん、こういうときは、こうでしたっけ?」
そう言うとドンジュンは親指でスヒョンの涙を拭った
『完璧…かな?』
『あああ、解っているのに引き込まれていくぅぅぅ』
「あれ。余計に泣いちゃった。ミンチョルさん、どうすればいいですかぁ?」
「放っておけば涙は乾くものだ。下手に手出しするとややこしくなる。僕の経験からいくと必ず大事になる…
って言ってるのになんで頬を挟み込むう〜!」
「泣かないで。着替えぐらいで泣いてたら、雪に負けちゃいますよ。ね。スヒョンさん」
「くううううっ」『負けたっていい。泣いたっていい。僕は…僕は今、猛烈に生きていると感じているううう』
ゲレンデにて
「さ、スヒョンさん、ミンチョルさん、ここを歩きます。あのレストハウスまで歩くんですよ」
「歩くだけなら簡単だよ…ととと…うわっ…重い…」
「雪を甘く見ちゃいけませんよ。スヒョンさん、ちゃんと手袋して!手首から雪が入ると冷たくなるから…」
「えっ…これではダメなの?」
「…ほんとに世話がやけるなぁ〜。よいしょ」グイグイ
『ああ…間近で見るドンジュンが素敵すぎて…』
「よし。…何ぼーっとしてんの。ほら。歩いて!あ、ミンチョルさん、そこはスキーヤーが滑っていくから
こっちの…フカフカのところを…フフ…歩いてみてください」
『何故にフフ?』
ミンチョルはドンジュンに言われるままにフカフカした雪の上に足を置いた
ずぼずぼずぼ〜
「あは…あははっダイジョウブですかあ〜あははは」
『…わざとか…』
ついこの間、あんなに清らかな瞳で、涙をいっぱいためていた純朴な青年はどこへいったのだ…
ここにいるコイツは本当にドンジュンなのか?
「ミンチョルさん、早く抜け出ないと埋まっちゃいますよ」
「…」
「ミンチョルさんって…え?動けないの?ウソ…」
からかっていたドンジュンの顔がサッとマジメになる
その瞬間を見逃さないスヒョン。両手を胸の前にあててお祈りのポーズである
その瞳にはハートが浮かんでいる
『かっこいい…』
「スヒョン!ばか!かっこいいとか思ってんじゃないよ!ばか!あああっ」ずぼずぼずぼ〜
「ミンチョルさん、僕に掴まって。よいしょ。よいしょ…お…重い…やっぱり脇腹、締めてくださいよ〜」
「脇腹の肉はそんなに目立たないはずだっ!」
「見た目よりも重さがあるみたいですよぉよいしょっ、ちょっと、ミンチョルさん、自分でも踏ん張ってますか?」
「踏ん張れったってあり地獄みたいに沈んじゃうんだもの〜」
「もおおおっえいっ」
「うわっ何するっ!」
ドンジュンはミンチョルの方に倒れ込み、ミンチョルを抱きかかえた
『うわっイヤだっドンジュン!そんな奴抱きしめるな!』
「もがかないで。周りの雪を固めますから!暴れないでって!ミンチョルさん!」
「わあわあわあんやめろおおおっ」
「ミンチョルさん、大丈夫だから。こんな何にもない平原で遭難したって言いふらされたいんですか?」
「…」
「すみません。僕がちょっとからかったから…いいですか。僕の後についてきてください」
ドンジュンは雪を固めながら、少し上の方にいるスヒョンのところまで進んだ
「ミンチョルさん、来れますか?」
「行ける…」
「スヒョンさん、手貸して」
「…」
「…またむくれてる…雪山じゃ、みんなが力を合わせないと難局をのりこえられないんですけど〜」
「…難局を作ったの、ドンジュンじゃん!」
「…そうだけど…修行なんだから…」
「…誰の修行なんだか!」
「スヒョンさん、手、貸して。ねっ」
「…はい…」
「ありがと…。最初っから素直に手を貸してくれればいいのに」
「…意地悪…」
「フフ…」
「あっ!」
「なんですか?」
「僕…今…ドンジュンの気持ちが…わかった…」
「そうですか?それはよかった。じゃあ進みますよ。ミンチョルさん、ぐずぐずしてると置いていきますけど」
「待って待って待って!はあはあはあ…」
「脇腹、削れば?」
「はあはあはあ…うるさい!スヒョンのばか!」
レストハウスに到着した、息も絶え絶えなミンチョルとスヒョン、そして、精悍な顔つきのドンジュンの三人
「やったぁ休憩だぁ」
「何言ってるんですか!次はあちらのリフトまでいきます。ゲレンデを横切るので
スキーヤーの邪魔にならないように素早く移動しなくちゃいけません」
「えーっはあはあ。死んじゃうよぉはあはあ」
「テンシは死なないんでしょ?」
「…じゃあ〜手をひいてよ〜」
「何甘えてるんですか!誰のための修行ですか!」
「…」『意地悪だっ…でも…ゾクゾクする…』
『スヒョン、顔がデレデレだ。それに、さっき歩いてきたとき鼻水たれてたの気づいてるのかな…カッコワリィ〜』
「ミンチョルさん、鼻水たれてますよ」
「えっ?僕が?」
「ひゃははは。カッコワリィ〜ミンチョルカッコワリィ〜」
「スヒョンだって鼻水たらしてるじゃないか!」
「もう、二人とも、子供じゃないんだから。さっさと鼻水拭いて、いきますよ
いいですか、ここから5分以内にあそこまで来てください!僕は先に行きます。よーいスタート」
ザッザッザッザッ
ドンジュンはゲレンデを素早く横切り、もうリフトの近くに行ってしまった
「…スヒョン…。お前、顔がにやけてるの知ってるか?」
「ああ、知ってる。この上なくにやけてると自分でわかってる」
「…そんなに…好きなのか?ドンジュンの事…」
「バカッ!そんな事はっきり言うな!」
「…お前って女性専門じゃなかったのか?」
「そそそそ…そんな事言うならお前だって!」
「僕は別にお前ほどにやけてはいないぞ。僕とドンジュンは『義兄弟』なんだ」
「何やってんですか〜ちっとも進んでないじゃないですか〜!」
「怒ってるぞ!」
「かっこいい〜…」
「お前、いちいち胸の前で手を合わせるのやめとけ!お前のファンが見たら卒倒するぞ!」
「うるさいな。こんなとこに僕のファンがいるわけないだろ。それに今は…プライベートタイムだ…」
「…とにかく急ごう。遅れたらどんな意地悪されるかわからんぞ。ま、お前はそれも楽しみなようだが…」
「どきっ…わかるか?」
「…ほんとにか?」
「ああ…なんだか…今までの僕じゃないみたいなんだ…ほら、今のドンジュンは今までの僕のようで、今の僕は今までのドンジュンみたいだろ?
お互いの気持ちがとてもよく解る…これって…なんだろうな。ミンチョル」
「行くぞ!」
「あっ待てよミンチョル。答えてくれよ」
「僕はその方面は不得意だ!」
「その方面って?」
「…そういう、お互いの気持ちを理解しあうところから…その…」
「その?」
「恋が始まるとかなんとか…お前の方が詳しいだろっ!行くぞ!」
「…恋?…やっぱり恋?」
「…」
「じゃあ…ドンジュンも僕の気持ちがわかるってことは…その…こい…あっミンチョル、ずるいぞ、一人だけ先にいくなんて」
「おそ〜い!」
「はあはあはあはあ。スヒョンがぐちゃぐちゃうるさいから…」
「ミンチョルさんの悪い癖だね、人のせいにする」
「ぐっ…」
「スヒョンさん!遅い!」
「ごっ…ごめんなさい…はあはあ」
「まあいいか。じゃあ今度こそ時間内に来てくださいよ。こなかったらお昼抜き」
「えっ?もう昼なの?」
「あそこからここまで何分かかったと思ってるの?5分で来いって言ったのに、30分もかかってる
それにスキーヤーが二人を避けてくれてたの知ってる?
もっと周りの状況に敏感に反応してください!」
「…」
「いいですね。じゃあ、5分は到底無理だって解りましたんで、15分であっちのレストハウスまで戻ってください!
早く来てくれないと僕、凍えちゃいますよ!ほらっ髭につららが!」
「あっ…髭が少し伸びて…かっこいい…」
「じゃ、行きますよ。よーいスタート!」
ざっざっざっざっ
ドンジュンは、さっきいたスタート地点に戻っていった
ミンチョルは間をおかずにスタートした
「あっこら待てミンチョル!卑怯者!自分ばっかりかっこつけて!」
「何言ってるか!遅れたら昼飯抜きだぞ!僕は耐えられない!」
「…脇腹ダイエットに昼飯ぬけば?」
「勝手にほざけ!僕はそんな言葉には惑わされない!」
「あっミンチョル!まて」
追いかけっこをして、二人はなんとか時間内にドンジュンのもとへたどり着けた
「よーしよしよし。ミンチョルさんの勝ち〜。ヨシヨシ、子ギツネちゃん、よく頑張ったね」
『ヨシヨシ?子ギツネちゃん?…ぽ…』
「はあはあはあ…ドンジュン、僕も間に合ったよはあはあはあ」
「ギリギリだね。まあいいか。許してあげるよ。さあ、ご飯食べよう」
「あうっ僕にヨシヨシは?」
「何?」
「あっぐっ…い…いいです…ぐすっ…」
「…なあ…スヒョン…。僕、今、子ギツネちゃんって言われたな?」
「…え?そう?しらない」
「…なんだかドキっとしたんだ…どうしてだろう…」
「何?ドキッとだと?」
「ああ…胸がキュンっとなった…」
「…寒さのせいだろ!お前昼飯何食べるんだ?キツネうどんか?」
「…寒さのせいかぁ…そうかぁ…いや、でもなんだかヨンスと昔こんな風に…」
「キツネうどんあるかなぁ」
「まてよスヒョン、なんでそう急ぐ!」
「何してるんですか二人とも早く!」
「「はあい」」
昼ご飯の後も、同様な訓練?が行われた