このページ では古今東西、銀幕の中より魅了してやまない様々なアクターを紹介しつつ独自のオマージュを捧げたいと思います。どちらかと言えば脇役、仇役的な個性派からカルト俳優まで百人を目指します。
君はウルトラQをみたか!I6話「ガラモンの逆襲」に出演、その後の足取りは全く不明、義那道夫こそ真のカルト俳優である。

義那道夫
 

 日本が誇る本格特撮ドラマの金字塔「ウルトラQ」を知らない人はいないだろう。石坂浩二の魔法の呪文のごときナレーションに導かれ、オープニングから一気にワンダーワールドへと入りこんでいくミラクルな体験は衝撃であった。幾度となく再放送された各エピソードは私たちの脳裏にしっかりと焼き付いている。そして東宝のゴジラシリーズの怪獣と並んで、このウルトラQに登場した魅惑的ともいえるキャラクター達は永遠のかがやきを決して失うことはない、そう「カネゴン」「ナメゴン」「ペギラ」「トドラ」「ケムール星人」らは怪獣クラシックの呼称で世代を越えて広く浸透しているのだ。そして中でも「ガラモン」はその小悪魔的なユーモラスな姿体でもって、絶対的なインパクトを放射し続けてやまない特異な存在なのだ。
作品では13話「ガラダマ」で初お目見えだが何ともあっけない結末。この I6話「ガラモンの逆襲」はいわばリベンジ的展開ともいえる続編だと見ていいであろう。文献によればあの松ぼっくりのような形は魚のカサゴ(尾鷲ではガシ、関東ではガシラ)からインスピレーションを受けて造型されたそうである。
さて本編は冒頭からスパイ映画のようなクールなタッチで始まる。真夜中、黒のソフト帽にコート姿、乾いた靴音を立てながらの謎の男の登場シーンである。その血の気の失せたような非情の面影は極めてスタイリッシュで、これからの物語り展開に否応なく期待感を抱かせる。天体物理研究所に厳重保管されていたガラモンを捜査する電子頭脳を彼は盗みにやってきた。小型レシーバーを操り何なく奪い去り逃避行を続ける。ここまでのオープニングシーンにタイトルバックが重なりテーマ曲が流れ、それはさながらも
義那道夫の独壇場ともいえる檜舞台でもあり一世一代の名場面だ。この遊星人Q (シナリオに記載)の逃避行劇と宇宙から東京上空に飛来し暴れだすガラモンを、交互に場面転換させ物語りはスリリングに加速していく。遊星人はまるでルキノ・ビスコンティの映画の主人公のごとく滅びゆく宿命にある一種の美学に彩られ、カメラがアップでとらえる横顔は限り無く冷たく美しい。トラックをヒッチハイクし東京都心より群馬の榛名までの道行き。遊星人を乗せるはめになった人の好さそうな気さくな運転手には沼田曜一(変身忍者嵐や近年ではリング)が好演、彼の人情味と相反して義那の虚無な雰囲気はより対称的で際立った。「榛名まで」そう言葉少なに呟くのみでほとんど無言のまま、わずかに薄ら笑いを浮かべ、時には鋭い目線で絶妙なまでの演技力でもって私たちを魅了する。当時、小学生であった私はそれをまねて何度ヒッチハイクを試みようと思ったことか知れず、しかしやはりあのコスチューム(子供であるからスーツや帽子などない)に身を包まない事には話にならないと、大人になるまでと心に誓ったものだった。
物語りは途中トラック荷台にそっと乗り込んできた子供の証言が決め手となり、いよいよ追跡劇も大詰めを迎える。榛名の湖畔へと追いつめられた遊星人は電子頭脳を奪還され銃撃に倒れて、セミ人間という本性を現し瀕死のまま、湖面より浮上してきた星人の円盤のもとへと手を降り救助を乞う。しかし彼に待っていたのは失敗を許さぬ非情な粛清であり、やはり想像通りの滅びゆく存在であった。30分にみたない短いドラマであるが故に、夜空にきらめきスーッとかき消される流れ星のように彼は疾走していった。まさに遊星人であった。その後、義那道夫は映画、テレビなどには一切、登場してないようである。彼の扮した役柄には当初、円山明宏(美輪明宏)をイメージしたキャスティングであったらしいが、スタッフが新人の劇団員であった義那を連れてきて見事抜擢されたのだった。
それにしてもたった一本の作品で強烈な印象を残したまま雲隠れしてしまった、遊星人Qに限りない憧憬を抱き続けるウルトラファンは後を立たない。ビスコンティの「ベニスに死す」ではないが「ガラモンの逆襲〜榛名に死す」と副題を名したい。

私は当時、ウルトラQがビデオ化されるやいなや直ぐさまに購入、しかし肝心のビデオデッキを持っていなかった為、いきつけのカフェで頼んで再生してもらい涙目で食い入るようにみた記憶がある。それからも時折は鑑賞している事はいうまでもない。
おそらく最も最初に見た、クールガイであろう義那道夫に乾杯!ウォッカに少量のコーヒーリキュールを注いでステア、ブラックルシアンで。


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