青い影7 「照明ダウン、スポットライトに切り替え」影山の指示が飛ぶと、まわりは暗黒に囲まれ、梅男となつみは強烈な光線にさらされた。「音楽スタート!」段取よくワーグナーのトリスタンとイゾルテが部屋にしみわたるように奏でられる。 なつみは、かつての筆おろしシリーズなどの出演でお手の物なのか、あっと言う間に梅男の衣服を脱がしてしまうと、まだ精力を帯びてない股間のものを手にし、数回こき下ろして張りに勢いを見せるや、すかさず口に含くんだ。 その絶妙の技量に、呆然となすがままであった梅男は情況を把握し、驚きためらいつつも操り人形にでもなったかのような身軽さを感じた。 快感に支配されるには緊張が緩んではいない、しかし、なつみが浴衣を脱ぎ捨て座布団を二枚かき寄せると、その上にあお向けになり手招きで体を重ねるよう誘われるに及んで、今度は突き上がって来る欲情に再び、すべてが真っ白になっていくのだった。 監督の挑発する声とワーグナーの歌劇が、より夢心地の真空地帯へと梅男をトリップさせた。開脚した谷間の女陰はまるで湿り気に糜爛したかの百合の花を思わせる。女体の上になるとなつみは手慣れた扱いで梅男の怒張したものに手を添え、ほの暗い箇所へと導いた。 なつみの口先がぬめるようにして梅男の同じところに被いかぶさると、いつの間に含んだのか、あの熱い酒が口移しで流し込まれる。喉から内蔵に火の手が上がると、燃焼とばかりに突き立てた肉棒に気を送り激しく腰を上下させれば、秘所は交接の悦びに泣いて粘着の音を立て、なつみも両の腕をしっかと梅男の背中にまわし、その律動に応酬する。 梅男は無我夢中であった。乳房をわしづかみにしてもみながら、片方の乳首に吸い付き舐めまわしていく。すでに股間のものには溶けてしまいそうな快感が襲って来た。 その時であった、梅男は腰の脇に生暖かい感触を覚えた。なつみの手触りとは別の違和感のある感覚。両手だった。無骨な肌触りは間違いない男のものだ。と、感じた刹那、尻の真ん中の門に衝撃が走り抜ける。それは蛇が穴ぐらに潜んでいった素早さであった、あるいは鉛の棒を押し込まれたような圧迫でもあった。思わず首を後ろへやると、ああ、信じられない、花野じゃないか、全裸の花野西安じゃないか、後背位の姿勢で両手を梅男の腰にあてがい、睨みつけるような表情で体を密着させている。するとこの門への侵入者は花野の一物なのか。 あまりの光景に思考が乱れ、虚脱で力が入らない、声も出せない、忍術にかけられてしまった。すると花野の上半身が念押しするように梅男の背中に被さってくる、侵入したままで。そして両腕を前にまわされしがみつかれる。下のなつみもきつく腕をからめてくる。サンドイッチ状態に完全に緊縛されると、背後の砲撃は次第に激しくなり打ちつける鉄槌の振動に梅男の尻たぶが、餅つきのような音を発する。連鎖でなつみの壷の中へとこだましていくかのように。 絵柄はここに完成した。影山実行は目のあたりにする、機械仕掛けの肉弾城に狂喜して顔がくしゃくしゃになっている。 梅男は金縛りの中、二重の挿入が連動していく感覚をもはや得ることが出来なかった。快楽と苦痛の境界さえ薄ぼんやりとした頭の中では、鈍く響くだけである。ああ、一体どこへ行くのだろう、何が始まり何が終わるのだろう、ああ、ややこしい、ややこしい。 結界は破られた。過ぎ行くうつせみに身をまかせ、感覚も感情も考えも捨て去ってしまえばいい。梅男の顔からみるみる内に血の気が引いてゆくと、青ざめた影だけが残った。 「一番賢明なのは、事情がそれに価する時にだけ狂人になることだ」 ー ジャン・コクトー |
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