過牛
人知れずぼんやりと
やがて気付くといつの間にやら鮮明に
ざわめく日だまりの中
もの言わぬはずの咳きばらいの気配が
にわかに高まってゆく
真昼のほの暗い草むらの中
湿りきった苔むす岩の奥に
見えかくれする蟹の足
忘れさろうとした傷口に、息苦しくなるほど
重い手がおおいかぶさる
やがて、佇むのがやっと
血に気も引き、ひからびた
眼に映る輪郭のない閉じた情景
今、昼下がり、窓の下で
それは失われた
朽ちおちる間を待つまでもなく
空から舞いおりてくる鳥たちに
ついばみ、えぐりとられる
真っ赤に色ついた果実
甘い甘い蜜の味がすっと遠のいていく
どこまでもしめつけられる
胸の横を、ゆっくりと
過牛が這っていく
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