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私はいつも汽笛を近くに聞く。
列車の動き出す響きは時に、哀しく耳元に残ったりもするし、まったくの無音にしかありえなかったりもする。朝日や夜空も季節の折々には、違った表情を見せてはくれるし、天候も日々、うつろい決して同じ瞬間などはない。それでも、町の生活というものは、日常以外の何ものでもない。時間の連鎖は劇的な拡がりを早々演出してくれるものでないから。
自分自身の生活世界とでも呼ぶべき空間は果たしてどこまで、存在しているんだろうか。そんな想いに駆られて、もう一度、この町を見つめてみよう。そして見慣れたはずの場から、新たに町の記憶へと揺さぶりかけてみよう。私は一人町に歩きだした。
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