2003年5月17日

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  ザ・サークルのギター弾き「ムラさん」から、 日頃お世話になっている「みなさん」へのお便りです。 ホーム・ページでは十分に伝えられないザ・サークルの近況や、 文化情報、私の雑感などを、随時お知らせします。
メイルでも配布していますので、必要な方はお知らせください。次回からお送りします。
ご意見、ご感想などは、 Eメール でどうぞ。

 幼いころ、 親の教育方針が「漫画」を認めないものでしたので、 友だちの家に遊びに行ったりして、 「少年」連載の「鉄腕アトム」や「鉄人28号」、 違う雑誌だったと思いますが「赤胴鈴之助」などを 読みふけったものでした。

 禁止されたことというのは、 大人になってからも妙に気にかかるもので、 特に、断片的にしかアトムを読んでいないというのは、 何か不達成感か、欲求不満のようなものが残っていたのだと思います。

 手塚治虫が亡くなったのは、1989年の2月だそうですが、 その後、手塚作品を片端から買い込んで、 読んでみたのでした。
それでも、手塚作品のもっている意味は、 十分には理解できないでいます。

 5月になりましたが、アトムねたは継続、 今回は、少しまじめな方のネタをお送りします。
それと、久々に映画の話題とね。

 ◇三重映画フェスティバル2003◇ 

 三重県ゆかりの映画監督って結構多いのですね。
そのひとり、小津安二郎の生誕100年の節目の年を記念して、 6月14日(土)〜6月22日(日)まで 「三重映画フェスティバル2003」 が開かれます。
会場は、津市の 三重県総合文化センター です。

 小津作品のほか、
衣笠貞之助「地獄門」、
藤田敏八「赤ちょうちん」などが上映されますし、
岸 惠子など有名人が来県して、話をするようです。

 私は、すでに 協賛通しチケット(10,000円・記念誌付) というのを買いましたので、行かなきゃ損々という状態、 会場でお目にかかったら、声をかけてください。
 ◇「鉄腕アトム」は明るいか◇ 

 「小さい頃、たしか読んだように思うのですが。 世間的に発信されているイメージとは違って、明るい話じゃなかったなあ。」 というのは、 あるHP でみかけた意見。

 アトムの誕生日にあたる4月7日は、 中日新聞のコラム「中日春秋」 も鉄腕アトムを取り上げていました。
「谷川俊太郎さん作詞の、あの歌が聞こえてくるようだ。 空をこえて ラララ 星のかなた…。」 で始まる感動的な文章ですが、やはり 「作品のヒューマニズムを評価する声は多い。が、… …  子ども心にも悲しさ、やるせなさを覚える結末があった」 と指摘し、戦争体験が手塚治虫の世界観に影響を与えていることを紹介しています。

 手塚治虫の戦争体験は、 桜井哲夫「手塚治虫−時代と切り結ぶ表現者」(1990年・講談社現代新書) でも紹介されています。
大阪空襲のときには、すぐ横を焼夷弾が落ちていったとか、 非難した人びとが黒こげの死体になっているのを見たとか、 大変な経験をしているそうです。

 手塚治虫の漫画では、 「どついたれ」(手塚治虫漫画全集311、312) という作品に、戦争体験が出てきます。
手塚自身がモデルと思われる高塚修という人物が、 空襲現場を通って、動員された工場から家に帰る場面がでてきますが、 空襲後の焼け野原や黒こげの死体など悲惨な様子が描きだされています。 たぶん手塚治虫自身の体験がベースになっているのでしょう。

 アトムのキャラクターについては、 たびたびお世話になっている 沖光正「鉄腕アトム大事典」(晶文社) のアトムの項の終わりあたりに、 「FLASH」1993年5月25日号に掲載された 手塚プロダクション資料室長の森晴路氏の言葉が紹介されています。
孫引きで恐縮ですが、ご紹介します。
「…テレビアニメを作っている段階で 明るい未来志向のスーパーヒーローに変わってしまったんですよね。 先生は『そういうキャラクターじゃないんだ』 って常に言っていましたね。 原作を読んでもらえばわかるんですけども、 人間とロボットの軋轢がテーマで 結構悲劇的な話ですよね。…」
 今、全集版で、読み返しているのですが、 たしかに、読んだ後で重たいものを感じるものが多いようです。 手塚治虫の戦争体験からくるのでしょうか。 人生に対する「不条理」のようなものが 物語の背景に流れているようにも思います。 それがまた、作品に深みを添えているようにも思うのです。

 アトムは、その「不条理」に対して、 敢然と立ち向かっていきます。 どんな苦難にもへこたれれずに前向きに生きています。 各巻の最後で、よくアトムは、友人のロボットの不条理な「死」に号泣します。 が、次の物語で、瞳をきらきらさせて登場するアトムは、どこまでも明るい。

 斎藤次郎「手塚治虫がねがったこと」(1989年・岩波ジュニア新書)は、 そのあとがきで、
「戦争や環境破壊に対する断固たる「否(ノン)」、 そして、生命へのつきせぬいとおしみが、 手塚漫画の核心だと、ぼくは決めました。  しかし、それがストレートに主張されるのではなく、 不思議な、スリルにとんだ、そして感動的な物語として、 つまり面白い漫画として花開いたところが、 手塚漫画の真骨頂です。」
としています。

 テーマの重さ、裏に流れる不条理、物語の面白さ、 それに加えて、アトムという明るいキャラクター。
子どものころに読んだ鉄腕アトムが 大人になってからも、 なぜか心に残っているのは、 たぶんそのせいでしょう。

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