6■モンスターの仲間
モンスターが仲間になって、ちょっと興奮気味の二人。


23■オラクルベリーのモンスター爺さん (ヘンリー視点)
「………」
「………」
オレとテスはしばらく、街の入り口で呆然とその街を見つめていた。
派手な装飾の大きな建物。
高い塀で囲まれた街。
沢山の人々が行き交い、街には活気があふれている。
「すげえな」
「うん」
「オレ、目がちかちかする」
「そうだね、ちょっとクラクラするよ」
「10年外を知らないとこうなのか?」
「みたいだねえ」
オレたちはあまりお金も持ってないから、ただ街を見てまわるだけにすることにした。
「取り敢えず、服だけは買おう」
それを合言葉に、見つけた小さな洋服屋で丈夫な服(もちろん男物)を買って、そのあとは宿を取るだけとって、街をめぐる。

「真ん中にあるのはカジノらしいぞ」
「寄るお金もないから関係ないけどね」
お互い苦笑して、堀の向こうに堂々と建っている建物を暫く見て
「まあ、観光はしたな」
「そうだね。あと、武器と防具ちょっと見て一泊してから出かければいいよ」
「次はドコ行く?」
「此処から北に橋が出来たらしいから、それを渡ればボクの故郷のサンタローズがあるよ。ボクの家を拠点に色々旅に出ればいいと思うから、まずはサンタローズだね」
「あ、なるほどな。それがいいな」
 
この前から、本当にテスの考え方にはビックリさせられる。
いつのまにこいつ、こんなに賢くなったんだよ。

「それよりさ、ちょっと面白そうな噂を聞いたんだ」
テスが目を輝かせて笑う。
「あ?」
「モンスター爺さんって人が、町外れに住んでるんだって。ちょっと会いに行かない?」
「何してる爺さんなんだよ? 魔物なのか?」
「それを見に行くんだよ」
こうなったら止めても無駄だな、とオレは覚悟をきめてテスとその爺さんを探しに行った。

その爺さんは結構あっさりと発見できた。
「こんにちはー」
声を掛けて入っていくと、爺さんはこちらを見て顔を輝かせた。
「わしが有名なモンスターじいさんじゃ」
「何で有名なんですか?」
「ふむ……。おぬしはなかなかいい目をしておるな。しかもふしぎな目じゃ」

聞いちゃいねえ!
 
「もしかするとおぬしならモンスターですら改心させ仲間にできるかも知れんの」
爺さんはテスの目をじっと見つめてから、そういった。
……モンスターを改心???
「それって、どうやるんですか?」
テスはテスで乗り気だ。
それにしても爺さん、テスが只者じゃないって思うとは、なかなかやるな、とも思う。
「なに? それにはどうしたらいいかだと? よろしい教えてしんぜよう。まず馬車を手に入れることじゃ! そして…… 憎む心ではなく、愛をもってモンスターたちと戦うのじゃ。そのおぬしの心が通じたときモンスターはむこうから仲間にしてくれといってくるじゃろう。もっとも彼らは自分より強い者しか尊敬しないから仲間になりたいというのはこっちが勝ったあとじゃがな。どうじゃわかったかな?」
「うん、わかった」
テスはニコニコ笑って頷く。
こういう即答するところは小さい時から全然かわんないのな。
「よろしい! おぬしならきっと多くのモンスターを仲間にできるはずじゃ! 馬車があればより多くのモンスターを連れて歩けるがそれでも限度はある。そのときはわしの所へ来ればいい。仲間のモンスターの面倒をみてやるぞ」

なるほど、だからモンスター爺さんか。

「ヘンリー君、どうにかして馬車手に入れられないかな」
「そうだな、ちょっと見てみたいよな、モンスターが仲間になるところ」
「馬車ならオラクル屋がこの前から売り出しとったな」
「うわあ、お爺さんありがとう!」
テスが一方的に爺さんと握手した。
「ヘンリー君、買い物!」
「オラクル屋は夜しかあいとらんぞ」
「爺さん、サンキュー!」

オレたちは宿で時間をつぶしてから、夜にオラクル屋へ行って見た。馬車がいくらかわからないと、お金だって貯めようがない。
「馬車? ああ、3000ゴールドって言いたいけど、300ゴールドでいいよ」
「何でそんなに格安なんですか?」
「ウマが悪いとか?」
「いやいや、単に買ってくれる人がでなかったから、俺の方も在庫を抱えて困ってんのよ。兄ちゃんたちも馬車がいるんだろ、お互い様だな」
「あ、なるほど」
オレたちは納得して、それで馬車を買った。
白いウマが引いている馬車だ。
「ウマの名前はパトリシアっていうんだ」
「わかりました、ありがとう、おじさん」
「また掘り出し物あるとき買いにきてくれや」

「本当にコレでモンスターが仲間になるのかな?」
「さあ、やってみたらわかるよ。明日サンタローズに向かうから、その時に試してみるよ」
「愛ってわかるのか?」
「わかんないけど。でも小さいころから魔物を怖いって思ったことはないよ」
「そういうもんか」
「うん、そうだったよ」

オレたちは明日に備えて眠ることにして、話をやめた。
テスがどう思ってるかわからないけど、オレはいまからモンスターが仲間になるのが楽しみで仕方ない。
24■モンスターの仲間 (ヘンリー視点)
「じゃ、とりあえずサンタローズを目指して歩くか」
そう決めて、オレとテスは歩き始める。

考えてみれば、オレはこの広い世界を歩くのはこの旅が初めてだ。修道院からオラクルベリーまでは、短い旅路だったこともあって何も問題はなかった。
実は緊張している。
それが、前を歩いているテスに気付かれてなくてちょっとラッキーだと思う。

それにしても、さすがはパパスさんと小さいころ旅をしていただけある。テスは慣れた様子で前を歩いてくれる。
慣れていないオレを気遣ってくれるあたり、なかなかやるなって感じだ。
「ヘンリー君、ちょっと休もうか」
「おう」
そういって、木陰に向かって歩き始めた時だった。
目の前に、モンスターが飛び出してきた。

テスがさっと銅の剣を構えるのを見て、オレも慌てて銅の剣を構える。
一瞬の判断っていうのが、オレはまだ甘い。

スライムが3匹。
 
夢中で剣を振り回し(テスは隙がないあたり、やっぱりやるなあって思う)なんとか勝つ。
「ヘンリー君、大丈夫?」
「ああ、何とか」
テスにホイミをかけてもらってた時だった。

「おい! 人間!」

そんな声が足元からした。

「ヘンリー君、なんか言った?」
「テスじゃないのか?」
「コッチだ! 足元だ!」
オレたちが足元をみると、さっき倒したはずのスライムが、ぴょこたんぴょこたんと跳ねている。
「あれ? さっき倒したよね?」
「だよな」
そういうと、テスはしゃがんでそのスライムと目を合わせる。
「人間! オイラを仲間にしてつれていけ!」
「うん、いいよ」

やっぱり即答か!!!
 
「オイラ、スラリンって言うんだ。人間は?」
「ボクはテスだよ。こっちはヘンリー君。よろしくね、スラリン」
「スライムって弱いだろ、連れてって大丈夫か?」
「ヘンリーは失礼だ! オイラ強くなったら炎だって吐ける気がするぞ!」
「気かよ」
「いいじゃない。行きたいって言うんだから、一緒に行けば」
オレとスラリンが一緒のタイミングでテスを振り返った。
「こういうことは最初が肝心なんだぞ! テス!」
とスラリンが言うと、オレはオレで
「弱くて死なれたら寝覚めが悪いだろうが!」
「死なない! オイラ死なない!」
火花が出るような勢いでオレとスラリンがにらみ合っているのに、テスはのんびりしたもんで
「まあ、木陰で休みながら仲良くなろうよ」
なんていっている。
 
木陰に着くまでに、もう一波乱あった。
まあ、もう一回モンスターに襲い掛かられたわけだ。
そして。

「一緒に行く?」
戦闘が終わって起き上がってきたブラウニーが、じっとテスを見つめているのを見て、テスはしゃがんでブラウニーを見つめた後、そういいやがったんだ。
 
「またかよ!!!」
オレの言葉なんて耳に届かない様子で、テスはニコニコとブラウニーに笑いかける。
ブラウニーはこくり、と頷いた。
無口だ。
「名前は?」
テスはニコニコしたまま、ブラウニーに訊ねている。スラリンはその様を無言で見ていた。やっぱり他のモンスターが仲間に入るのは、気分がいいものでもないのかもしれない。
「ブラウン」
小さな声でブラウニーが答える。
「うん、ブラウン、よろしくねー」
テスはニコニコ笑って立ち上がる。

「仲間が沢山になるのって、嬉しいねえ」

そのあまりに嬉しそうな笑顔を見て、オレはもうスラリンやブラウンに文句を言うのをやめようと思った。
「スラリン、オレたち仲良くしような」
「そうだな、オイラ仲良くしてもいいぞ」
どうやらスラリンも同じことを思ったらしかった。

こんな調子で、オレたちはサンタローズを目指していく。
25■仕える、ということ (???視点)
人間を襲うということに、今日ほど困惑を覚えた日はなかった。
そもそも、人間を襲い反撃をされること自体が、久しぶりだったということもある。
しかし。
それよりも、もっと、大きな理由。

それは。
人間の、その一行を指揮する黒髪の青年の瞳。

まっすぐで、美しく、どこか不思議な輝きを持った瞳。

心の中まで射られて、見透かされるような。
それでいて、何もかもを許してくれるような。
漆黒の瞳。

「やばい」

そう思った。
私は、その気持ちを振り切るつもりで、大きく剣を振るう。
それが、緑の頭の方の男に当たった。
男がぐらりと倒れる。
「ヘンリー君!!!」
黒髪のほうの男が悲痛な声をあげる。
戦闘中に。
余所見をするなど、考えられない。
それでも、その男は緑の頭の男のほうを見た。
そして、そのまま、私の胴に信じられないほどの一撃を食らわせた。

戦闘は、終わったのだ。

黒髪のほうは、慌てて緑の頭の方へ走っていて、回復の魔法をかけている。
「ヘンリー君! ヘンリー君!」
何度も呼びかけ、半分泣きそうな声で。

そうか、
私は悟った。

思えばずっと、考えていた。
ナイトとついていながら、私は一体、誰に仕えているのかと。
それがいま、解った。
私は、多分、今日のために生を受けた。

この青年に、仕える為に。

「よかった、ヘンリー君。気がついた」
ほっとして、緑の頭の顔を見つめたこの青年に。

「私を、連れて行ってください」

思えば、大切な仲間を殺しかけた私だ。
青年に切り捨てられてもいい、そう思いながら。
私は声を掛ける。
 
青年がこちらを見た。
その瞳は、想像と違い、穏やかだった。
「うん、いいよ」
にこりと笑って、青年は言う。
「また即答だよ……」
緑の頭の方は苦笑している。
二人とも、私に対する憎しみなど、全くなかった。
「えー? また増えるのかー?」
そういって、馬車の陰からスライムが跳ねてくる。
「あ、スライムナイト! 強いの仲間にしたな! 偉いぞテス!」
なんて、私を見てスライムは言う。

どういうことだろう。
 
このスライムや、ブラウニーも、この青年の瞳に。
この青年の魅力に、魅了されたのだろうか。
 
「ええと、よろしくね。ボクはテス。こっちはヘンリー君。あと、スラリンと、ブラウン。ええと、君は何て呼べばいいのかな?」
青年は首をかしげて、私に笑いかける。
 
「私の事はピエールとお呼び下さい、主殿」

そういうと、青年はかーっと顔を赤くした。
「あ、主殿って、そんな大層なものじゃないよ、テスでいいよ」
「そういうわけには参りません」
「あー、どうしようかヘンリー君」
「情けない声あげるな」
ヘンリー殿が、主殿の頭をぺしりと叩く。
「仲間を増やすってことは、それだけ責任を負うってことだ」
「うわ、ヘンリー君、格好いい」
 
無垢な人なのかもしれない、と私は思う。
このひとを、守っていくのが、これからの私の仕事になるのだ。

心も、体も。
守り抜こう。
 
 
「さ、サンタローズにいこうぜ!」
「今度はヘンリー君、地図読み間違わないでね」
 
……ちょっと不安だ。

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