3■妖精の国
ゲレゲレ、ベラ登場の妖精の国騒動。大人テっちゃんも登場。


8■アルカパの街 (???視点)
体中が痛かった。
一体何をしたって言うんだ。人間に興味を持って街に来たのはいいけど、こういう目にあうとは思ってなかった。仲間の忠告をきくんだった。
 
このやろう、噛み付いてやろうか!
 
さすがにそう思い始めていたころ。
「お化け、退治してきたわよ! ネコさんを渡してもらうからね!」
凛とした声が広場に響く。耳に入ってくる。
思わず振り返ると、金色の髪をした女の子が、びしりとこちらを指差して、勝ち誇ったような笑顔でムネを張っている。
黒髪の男の子が、その隣でこちらを心配そうに見ている。変わった目をした子だな、と思った。

 
「まさか本当に退治してくるとは思わなかったよ」
率先していじめてきていた男の子が肩をすくめて呟く。
「ネコさん、もう大丈夫よ」
ぎゅっと抱きしめられる。太陽のにおいのする女の子。ニコニコしてくるりと一回転。世界がくるっと、変わった気がした。
「なんか、強そうなネコだねえ」
黒髪の男の子は、ぼんやりした声で言うと、ニコニコと笑ってこっちを見ている。近寄るとますます、不思議な瞳だ。真っ黒な中に、緑とも青ともわからない、不思議な色が見える。

「これに反省してネコとかもういじめちゃだめよ!」
女の子は二人組みにそういうと、黒髪の男の子とともに広場をあとにしようとして、少し歩き、急に立ち止まる。
「そうだわ! このネコさんに名前をつけてあげなきゃ!」
名案を思いついた、といった風にニコニコわらって、こっちを見る。
「なまえ?」
男の子はきょとんとした顔で女の子を見ると、首をかしげた。

「ネコさん、私はビアンカ。この子はテスよ。あなたの飼い主になるのよ」
「え? ビアンカちゃんが飼うんじゃないの?」
「ウチはお店屋さんだから、ダメなの。テスのうちはお店じゃないし、おじ様もサンチョおじさんも優しいからきっと、大丈夫よ」
「え、頼むのもボク?」
「頼むのは一緒にやってあげるわよ。さ、ネコさんの名前だけど」
ビアンカとテスが話し合いを始める。
 
……ネコじゃない。
ネコじゃないぞ、気づけ。よく見ろ。
 
「ボロンゴってどうかしら?」
「なんか強そうだね。でも似合わないよ」
「じゃあ、プックルは?」
「可愛すぎかなあ」
「アンドレ! アンドレは?」
「……なんか、優雅っぽい」
「チロルは?」
「それもちょっと可愛くない?」
「リンクスは?」
「素早そう。このネコさん、いじめられてたし、そんなに素早くないよ」

……失礼な子だ。

「ゲレゲレは?」
「強そう! でも、ビアンカちゃん他にもあったら言ってみて?」
「……テスは私に頼りすぎよ。ええとね、じゃあ、モモは?」
「女の子なの? ネコさん」
「オスっぽいわよね、モモはダメね。ええと、じゃ、ソロ」
「格好良すぎじゃない?」
 
……やっぱり失礼な子だ。格好いいじゃないか、こんなに。
 
「ビビンバは?」
「食べ物?」
「……ギコギコとか」
「……ビアンカちゃん、本気?」
「もう! ちゃんときめてよね!」
「じゃあ! じゃあ! ゲレゲレ! 強そうだし、格好イイもん」
はーい、とテスは手を挙げて言う。

ゲレゲレか。
強そうなのか、格好イイのか。人間の感覚だとそうなのか。気に入った。強そうなんだったらいい。
 
「あら、ゲレゲレちゃんも気に入ったみたいね!」
ビアンカがコッチを見てにっこり笑う。
「ほんとだ、嬉しそうだねえ」
テスもコッチを見て笑った。少し頼りなさそうに見える。この子が飼い主になると、ビアンカは言った。
守ってやらなきゃ、と思う。

「さ、行きましょ」
ビアンカはそういうと、テスを引っ張って歩き始める。その後ろをちょこちょこと付いていく。太陽の似合う子達だ。
行き先は、大きな宿屋。
その前に大人たちが三人、話し合いながら立っている。
こちらを見て、一番強そうなのが軽く手を挙げた。
「おう、帰ったな。じゃあ、ダンカン、体に気をつけろよ。テス、みんなに挨拶は済んだか?」
「うん」
「では行くか」
「お父さん、ゲレゲレ、飼ってもいい?」
テスがコッチを指差した。
強そうな男は、コッチを見て少し考えている。まあ、ネコじゃないからな。気付かれるだろうな。
「……ま、いいだろう。ちゃんと面倒を見るんだぞ?」
「うん」
テスが、ニコニコ笑ってこっくり頷く。
違う、コッチがテスの面倒を見てやるんだ。
男が歩き出し、テスはその後ろをちょこちょこと付いて歩き出す。
「待って!」
ビアンカが小走りにコッチに来た。
「コレ、あげるわ」
そういって、髪を止めているリボンをはずす。
「テスにあげると絶対落とすから、ゲレゲレちゃんにつけておいてあげるわね」
きれいな色のリボン。太陽のにおいのするリボン。首に巻かれる。ちょっとくすぐったい。
「私、本当はお化けちょっと怖かったのよ。でも、テスがいたから頑張れたの。本当よ」
ちょっと恥ずかしそうに、ビアンカが言う。
「ボクもねえ、ビアンカちゃんがいたから頑張れたよ」
「また、遊びましょうね」
「うん、またね」
テスとビアンカが握手をした。
「おじ様、今度テスに字、教えておいてあげてね」
「ああ、そうするよ、ありがとうビアンカ。体に気をつけるんだぞ」
「ありがとう、おじ様」
ビアンカが、強そうな男に手を振る。
街の入り口近くで男が立ち止まった。
「テス、今回のお化け退治、この父も感心した。でも、もう危ないことをするんじゃないぞ?」
「えー? 大丈夫だよー?」
「あっはっはっは、もう英雄気取りか?」
「違うよー、もっと強くなってお父さんを手伝ってあげるの。だから、ちょっとは危ないこと、しなきゃだめなの、ボク」
「そうかそうか。父さんと一緒に強くなろうな」
男は嬉しそうに笑って言うと、テスを連れて歩き出す。
新しいうちに、もうすぐつくのだ。
9■サンタローズ (テス視点)
お家に帰って、サンチョの作ってくれた鶏のトマト煮込みバジル風を食べて、寝ちゃった。
次の日、朝起きたら、お父さんはもう起きていて、本を読んでいた。
「ああ、起きたかテス。おはようよくねむっていたようだな。父さんは調べることがあるので今日は家にいるがお前も村の外に出たりしないようにな」
「はーい! 行こ、ゲレゲレ」
ボクはゲレゲレと一緒に一階におりる。
「あ、ぼっちゃんおはようございます。あの、まな板しりませんか?」
「しらないよー?」
「ですよね。おかしいなあ、どこへやったんだろう……?」
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい!」
ボクはサンチョに手を振って、外に出る。今日も天気が良くて、気持ちいい風が吹いている。ビアンカちゃんのいるアルカパに比べたら何にもないけど、ボクはこっちの村のほうが好きだなあって思う。
 
「おう、ぼうず」
武器屋のおじさんが声を掛けてきた。
「さいきんおかしなことがおこるんだ。先日村にやってきたあの変なヤローのせいじゃねえのかって俺は思ってる。ぼうず、気をつけろよ」
「うん、わかったー」
ボクがお出かけしてるあいだに、街には見慣れない男の人が来ているみたい。で、色々へんなことが起こってるんだって。
……外に出たらダメでも、中でだったらいいかも。
よーし、その変なお兄ちゃん、探してみようかな。
そう思ってあちこち歩く。
教会のシスターは、ちょっと嬉しそうに、
「ねえテっちゃん。教会の前にいたステキな人はまだいたかしら……。どうしましょ……。もしかして私に気があったりして……」
「気があるってなあに?」
「好きってことよ」
「今度、会ったら聞いてあげようか?」
「聞いちゃだめよ」
何だか難しいなあ、って思って外に出てみると、紫色のマントとターバンのお兄ちゃんと目が合った。

「こんにちは。ボク」
お兄ちゃんはにっこり笑ってボクを見た。
「こんにちわ!」
ボクは元気に返事する。
「強そうなネコだね」
お兄ちゃんは、ゲレゲレを見てにっこり笑う。
「うん。ゲレゲレ、強いよ! ビアンカちゃんと助けたの!」
「へえ、ボク強いんだ」
「えへへー」
ボクは笑う。ゲレゲレを見てみたら、困ったように僕とお兄ちゃんを見比べている。
「わかった、お兄ちゃんが怪しい素敵な人でしょ」
「……ボクそんな風に言われてるんだ」
お兄ちゃんは困ったように笑った。
「ボクはね、ちょっと探し物をしててね。で、世界中を回ってるんだ。今日はこの村を探しにきたんだよ」
「へえ! じゃあ、ボクのお父さんと一緒だね! ボクのお父さんも探し物してるんだよ。お話してみたら、いいかも! ボクのお家ね、あれ!」
ボクが家を指差すと、お兄ちゃんも家の方を見る。
ちょっと泣きそうな顔をしてた。
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
「うん、元気だよ。……大丈夫」
お兄ちゃんはしゃがんで、ボクと目を合わせた。
お兄ちゃんは、どこかで見たような感じの顔をしてた。
そうだ、お父さんとちょっと似てるかも。やさしそうな、お兄ちゃんだ。
「あれ、ボク、ステキな宝石を持っているねえ。その宝石をちょっと見せてくれないかなあ?」
「えー? どうしようかなあ」
ビアンカちゃんから預かったんだけど、人に見せてもいいのかな?困ってると、お兄ちゃんは困ったように笑った。
「あはは、別に盗んだりしないよ。信用してね」
「そうなの? じゃ、いいよ」
ボクが宝石をみせると、お兄ちゃんは立ち上がって太陽にすかしてみたり、顔に近づけたりしてまじまじと調べた後、
「本当にきれいな宝石だね。はいありがとう。……坊やお父さんを大切にしてあげるんだよ」
ボクは宝石を受け取る。
「うん、お父さん、大好きだもん!」
ボクは宝石をしっかりしまうと、お兄ちゃんに手を振ってさようならって言った。
「あ、ねえ!」
お兄ちゃんがボクを呼び止める。
「あのねボク! キミはこれから大変な目にあうかもしれない。……けどね。キミはすごい強運の持ち主だよ。世界はキミにやさしいし、みんなキミの味方だよ」
「おにいちゃんも?」
「もちろん。だからね、負けちゃいけないよ。いっぱい大変な目にあったあとは、いっぱい楽しいことがあるからね。負けないでね」
「うん、わかったー。ボクね、負けないよー。じゃあね、おにいちゃんバイバイ!」
お兄ちゃんはボクに手を振った。ボクもおにいちゃんに手を振った。
ゲレゲレが、ちょっと困ったようにお兄ちゃんを見上げてる。
「早く行かないと、おいてかれちゃうよ? ゲレゲレ」
向こうでお兄ちゃんの声がして、ゲレゲレがボクの方に走ってきた。ボクはお兄ちゃんに手を振りなおして、そのまま遊びに行くことにした。
 
 
村では変なことがいっぱい起こってるみたいだった。
「宿帳に落書きしたの、坊やじゃないよね?」
「ちがうよー?」
「お鍋の中身が全部なくなっちゃったのよ、変ねえ」
「おかしいねー?」
犯人を見つけるぞー!
ボクは村中を走り回って、それで、宿屋の地下のお酒屋さんで、女の子に会った。
ちょっと、透けてて向こうが見える。
 
透けてる人は、お化けだ。
 
「ねえ、お化けなの?」
ボクが話しかけたのを、お酒屋さんのおじさんが不思議そうに見ている。もしかして、誰にもこの女の子、見えてないのかな?
「お化けじゃないけど……。ようやく私の事を見てくれる人が居たわけね!」
女の子は、嬉しそうに言うと立ち上がった。
 
犯人だ!
やったあ! 
10■妖精の国へ (テス視点)
「君、だあれ?」
「私が何者か、ですって? 待って。ここじゃ落ち着かないわ。確かこの村、地下室がある家があったわね。その地下室に行ってて。そこで会いましょう?」
「うん、わかったー」
ちょっと透明だけど、お化けじゃない女の子はそういった。地下室がある家って、たぶん、ボクのお家だ。ゲレゲレはしばらく女の子を見ていたけど、あんまり興味がないみたいで、すぐに知らん顔をし始めた。
「じゃあ、ボク、行くね」
ボクはそういうと、女の子に手を振ってお家に帰ることにした。さっき会った、お兄ちゃんは、まだ教会の前で村の様子を見てるみたいだった。

「来てくれたのね!」
女の子は、嬉しそうに笑った。
「私はエルフのベラ。あなたは?」
「ボクはねー、テスっていうの」
「そう、テス。あのね、実は私たちの国が大変なのっ! それで人間界に助けを求めて来たのだけど、だれも私に気がついてくれなくて……。気がついてほしくていろいろイタズラもしたわ。そこへあなたがあらわれたってわけ」
「やっぱり君が犯人だったんだー」
「……犯人?」
ベラが一瞬眉を寄せた。
「人間界ってなあに?」
「人間が住んでるところのことよ。私が住んでいるところとは、ちょっと違うってことなの」
「ふーん」
「でね。……シ! ちょっとまって。だれか来たみたいだわ……」
ベラは人差し指を口元に持っていって、黙ってなさい、って顔をした。
そうしたら、お父さんが階段を下りきったドアの前でこっちを見て、不思議そうな顔をしていた。
「話し声がしたのでだれかいるのかと思ったがお前ひとりか……。ここはとても寒い。ひとり遊びもそこそこにしてカゼをひかぬうちにあがってくるのだぞ」
お父さんはそういって、階段を上がっていってしまった。
「……???」
ボクはちょっと困った。お父さんにも、ベラは見えないみたいだ。ベラもため息をついている。
「やっぱりほかの人には私は見えないみたいね……。ともかく私たちの国に来てくださる? そしてくわしい話はポワンさまから聞いて!」
「ボク、村の外に出られないよ?」
「心配いらないわ。だって、村の人はみんな、テスが村の外に行った、なんて思わないもの」
「どうして?」
「それはね?」
ベラはにっこり笑って、魔法を使ったみたいだった。
ボクが使えるホイミとか、バギとかと違う。ビアンカちゃんが使ってた、メラやギラとも違う。なんだか不思議な力。
見とれてたら、上のほうからキラキラ黄色く光る、大きな階段が一段ずつ見えるようになった。端っこがくるって丸まってる、可愛い手すりがついてる。
「ここから、妖精の国に行くの。村の皆は、テスが地下室で遊んでるって思うわ」
「……そうなの?」
「そうよ」
「じゃ、行っちゃおうか、ゲレゲレ」
ゲレゲレはちょっと迷って黄色い階段を見ていたけど、ちょっとしたらボクの足にほっぺを寄せてきた。たぶん、行ってもいいよって言ってるんだと思う。
「それじゃ、行きましょ」
ベラが先に階段を駆け上っていく。ボクもそれについていった。
 
ふわって、感覚が一瞬あった。
ボクは、大きな木の前に立っていた。その木には大きな階段と、大きなドアがついている。ボクがたっているのは、湖の真ん中の島みたいだった。ちょっと曇ったそらからは、雪がずっと降ってきていて、周りにもたくさん積もっている。
「さあ! ポワンさまに会って!」
「……ポワンさまって、だあれ?」
「会えば分かるから」
ベラは一瞬、がっくりしたみたいだった。
ボクは、ベラにつれられて、目の前にあった、大きな木の中に入った。木に見えたけど、中は建物になっていた。
壁には水がゆらゆらとカーテンみたいになって張り巡らされてて、大きな本棚がたくさんあった。そこでベラによく似た子が、本を読んだりしてる。
壁際の、大きな水色の階段を上っていくと、一番上の階に出た。
そこは屋根がなくて、ずーっと遠くまで見ることが出来た。
屋根がないのに、部屋の中には雪が積もってなかった。赤いじゅうたんが敷いてあって、その真ん中に大きい椅子があって、そこに冠をかぶった、綺麗な女の人がいた。

ベラが、その女の人にお辞儀をした。
「ポワンさま仰せのとおり人間族の戦士を連れてまいりました」
人間族の戦士って、ボクのことみたい。
「まあなんてかわいい戦士さまですこと」
ポワン様って呼ばれた人が、ボクを見てにっこり笑った。
「め……めっそうもありません。こう見えましても彼は……」
ベラが慌てて何か言いかけたら、ポワン様はちょっと笑った。
本当に綺麗な人だなあって思う。
「言い訳はいいのですよベラ。すべては見ておりました。テスといいましたね。私たちの姿が見えるのは、あなたに不思議な力があるためかも知れません。……テス、あなたにたのみがあるのですが引き受けてもらえますか?」
「うん、いいよー」
ボクがこっくり頷くと、ポワン様はにっこり笑った。
「実は私たちの宝、春風のフルートをある者にうばわれてしまったのです。このフルートがなければ、世界に春をつげることができません。テス、春風のフルートをとりもどしてくれませんか?」
「ある者って、なあに?」
「誰か分からないってことですよ」
「ふうん、じゃあ、その人を探して貰ってきたらいいんだね。いいよ、ボク、貰ってきてあげる。春が来ないと、イヤだもんね」
ボクが言ったら、ポワン様はまた、にっこりと笑った。
「まあ! 引き受けてくださるのですね! ベラ、あなたもおともしなさい」
「はい! ポワンさま」
ベラが答えて、ボクににっこりと笑った。

ボクは、ゲレゲレと、ベラと一緒に、フルートを探すことになった。
 
……フルートって、何なのか、ポワン様に聞くのを忘れたなあ、って気づいたのは、木のお城から出たところだった。
ベラが教えてくれるといいなあ、ってちょっとだけ思う。
 
11■妖精の国 1 (テス視点)
「フルートって言うのはね、笛よ、笛。綺麗な銀色の横笛。私が見たら分かるから、テスは犯人を探してくれればいいの」
「そうなの?」
「そうよ」
ボクは、ベラにフルートっていうのが何かを聞いてから、妖精の国にある町を見て回った。
みんな、ベラによく似てる。紫色の髪の毛で、綺麗な緑色した服を着てる。

「ここは季節をつかさどる妖精の国。このまま春を告げられないと世界は冷え切ってしまうでしょう」
って、女の人が悲しそうに言っている。
「そうよね、いつも冬って言っても、ここまで寒くはならなかったわ」
「ボク、雪って好きだよ」
「そういう問題でもないのよ」
ベラがまた、がっくりしたように言った。
ボク、何か間違ったのかな?って思ったけど、ベラはそれ以上何にも言わなかった。

こんなことを言ってる人もいた。
「ポワンさまも考えが甘いのよ。妖精も人間も怪物ですら、みんなで仲よくくらそうだなんて……。だからフルートを盗まれたりするんだわ」
「私はポワンさまの考えに大賛成だから、ああいう意見は寂しいわ」
ベラが泣きそうな顔をしていった。
「ベラ、泣いちゃ駄目だよ。ボクも、みーんな仲良くなったら、いいなあって思うよ」
「テスもそう思う?」
「うん」
ボクが頷くと、ゲレゲレも「がう」ってほえた。
「……ちょっと元気になったわ、ありがとう」

「あわわわ! おぬしが連れているのはまさしくキラーパンサー! まだ小さいとはいえ、地獄の殺し屋キラーパンサーが人間になつくとは……信じられんわいっ」
町のはずれにいたおじいさんはそういって、ゲレゲレとボクをじっと見た。
「ちがうよー、ゲレゲレは猫だよー」
「……まあ、おぬしがそういうなら、いいんだがの」
おじいさんは肩をすくめて、困ったようにゲレゲレを見た。ゲレゲレはきょとん、っておじいさんを見返してる。
キラーパンサーって、つよーい魔物だよね。ゲレゲレはいじめられてた猫だもん、そんなわけ、ないもん。
 
色々町の人に話を聞いてたら、フルートを盗んだ悪いやつを見かけた人が何人かいた。なんか、北のほうにある氷の館ってところに逃げていったんだって。
それとは別に、西のほうにはこの町を追い出されたドワーフのおじいさんがいるんだって。おじいさんは、鍵を開ける方法を思いついたから、追い出されちゃったんだって。
ポワン様だったら、追い出さなかったんだって。
ちょっと、かわいそうだなあ。今なら平気なんだったら、おじいさんに「もう帰ってきても平気だよ」って、教えてあげなきゃ。
そう思って、ベラに言ってみたら、ベラも「そうね、それもいいかもしれないわね」って言った。
北の氷の館ってところに行く前に、ちょっとよってみることにした。
 
 
ボクとゲレゲレと、ベラの三人で、西のほうへ歩いていく。
結構長く歩いたところに、その洞窟があった。
「わたし、洞窟って入るの初めて。テスは?」
「ボク、二回目」
「テスってもしかして、見た目によらず結構冒険に慣れてるのね。たのもしいわ」
ベラはにっこり笑ったけど、洞窟にはいってすぐに笑わなくなった。じめじめしてて、暗いから恐いんだって。
ビアンカちゃんなら何ていうかな?きっと平気だって言うんだろうなって、ちょっと思った。
 
ドワーフのおじいさんは、洞窟の入り口に近いところに住んでた。スライムも一緒に住んでた。
「うわ! 人間と妖精だ! フルートを盗んだのはボクじゃないよっ。ザイルがやったんだよ!」
ぴょこんぴょこんってはねながら、スライムはいう。
「ザイルって、だあれ?」
ボクがスライムに聞くと、おじいさんが答えた。
「ザイルというのは、わしが一緒に住んでる子じゃよ。しかし……まったくザイルにはあきれてしまうわい。わしが、ポワンさまに追いだされたとカン違いして、仕返しを考えるとは……。妖精の村から来たお方よ。おわびといってはなんだが、カギの技法をさずけよう。カギの技法は、この洞くつ深く宝箱のなかに封印した。どうかザイルを正しい道にもどしてやってくだされ」
おじいさんは、ちょっと泣いてるみたいだった。
「うん、わかったよ。ザイルを見つけて、いい子にしてなきゃ駄目だよって、いってあげる」
「小さい子よ、お願いだよ」
おじいさんに手を振って、ボクらは洞窟の階段をおりた。

何回か、魔物にがーって襲われたけど、先にゲレゲレがうなってボクらにおしえてくれたから、そんなにビックリしないですんだし、ベラが魔法をがーって使ってくれたから、恐くなかった。
 
随分奥の方までいったら、宝箱の中に、鍵を開ける方法がかいてある巻物があった。絵がついてたから、ボクでもわかったけど、大体はベラが読んでくれた。字が読めるって、格好いいなあ。
近くにあった、鍵がしてあるドアで練習してみたら、簡単に開いた。
「すごーい、本当に開いたわ! テスって器用ね。でも、悪いことに使っちゃだめよ?」
「うん、わかってるよー」
ボクらは来た道を戻って、おじいさんに挨拶した。
「おお! カギの技法を身につけましたなっ! どうかザイルを正しい道にもどしてやってくだされ」
「うん、約束ね」
 
洞窟の出口で、ベラが
「私って、方向音痴なのよ。テスがいてくれてよかったわ」
って、小さな声で恥ずかしそうに言った。
……方向音痴って、なんだろう?
そう思ったけど、ベラに聞いたらいけないんだろうなって思ったから、聞かなかった。
お家に帰ったらサンチョに聞いてみようと思った。

12■妖精の国 2 (テス視点)
目が覚めたら、おうちにいた。
確か、西の洞窟で鍵の開け方を教えてもらって、妖精さんたちが住んでるところに行って、宿屋に泊まって寝ちゃったはずだったんだけど。
「起きたか、テス。なんだかうなされていたみたいだが、どうした? 変な夢でも見たか?」
「ええとね、妖精の国がね、大変なの。春風のフルートが盗まれてね、それで、人間界ってところに春が来ないんだって」
「……スケールの大きな夢だな。寝惚けてるな? ……今日もお父さんは調べ事だ。おまえも村の外に出ちゃいけないぞ?」
「……??? うん……」
ボクは、夢見てたのかな?
そう思ってキョロキョロしたら、窓際にベラが座ってた。
「夢じゃないわよ。私がここにいて、テスと話をしてるのが何よりの証拠でしょ? ……それにしてもテスのお父さんって強そうね。どうせならああいう人に助けに来て欲しかったわ。……あ、いや、テスが悪いってことじゃないのよ?」
「……うん」
お父さんのほうが、強いもん。ボクも助けに来てほしいなって思うけど、ベラが見えないんだったら、まあ、仕方ないよね。

階段を下りていって、サンチョに挨拶をする。
「おはよう、サンチョ」
「おはようございます、ぼっちゃん。何だか浮かない顔ですね」
「うーん? 元気だよ」
「そうですか?」
ボクはサンチョの作ってくれた朝ごはんを食べてから、地下室に行ってみた。やっぱり階段がある。
「テスが大変なのはわかるけど、誰にも分かってもらえないのよね。言わない方がいいわ」
ベラがそういいながら階段をのぼっていく。
ボクもゲレゲレを抱き上げて、階段を登った。
 
今日も、妖精の国は雪で真っ白だった。
「さ、今日は北の氷の館よ」
「うん」
ボクとゲレゲレはベラの案内で北の方へ歩く。
ちょっと山道が続いてて大変だったけど、しばらくいくと氷の館っていうのが建っていた。
氷で出来てるみたいで、青白くって綺麗。
「すっごーい。綺麗ね!」
ベラも初めて見るんだって。
「でも、すっごく寒そう! なるべく早く終わらせたいわね。長くは居たくないわ」
「うん、寒そうだねえ」
ボクも氷の館を見上げる。ゲレゲレがくしゃみをした。
「ゲレゲレも寒い?」
ボクがゲレゲレをみると、ゲレゲレは頷いたみたいだった。

「鍵がかかってるわね」
ベラが氷の館の大きな扉を見て、呟く。
「あける? 悪いことじゃない?」
「うん、開けて。今は開けてもいいのよ」
ベラがそういったから、僕は扉を開けた。
中は、外から見るよりもっと綺麗だった。
青白い氷が、どこからか入ってきている光を反射してキラキラと青く光ってる。大きな氷の柱が、自分で光ってるみたいにも見えた。
床もつるつるの氷だった。
「綺麗だねー、ベラ!」
「そうね、綺麗ね」
そういって、一歩前に歩き始めたら。

「!?!?」
つるって。滑った。
ゲレゲレも、四本の足が踏ん張り利かなくて、かりかりって爪を立ててる音がするけど、やっぱり滑ってる。
ベラも「きゃあ!?」って滑った。
床は、ちょっとだけ傾いてるみたいだった。
入り口すぐのところに、落とし穴があった。
「あ、うそ!」
ベラが叫んだのが聞こえて。
僕らは落とし穴にまっさかさまに落ちた。
 
痛かった。
 
 
上を見たら、ボクらが落ちてきた穴がぽっかり開いてるのが見えた。
「……床はすべるから気をつけないといけないわね。あと、ちょっと傾いてるみたいだし。ゆっくり歩けばそんなに滑らないわよ、きっと」
「うん」
「だから、気をつけて、なるべく最短距離を歩くようにしていきましょう」
「うん」
ボクはベラが指差した方に小さくみえてる階段を見て、頷いた。
 
ベラには悪いけど、すべる床はちょっと面白いと思う。
 
13■妖精の国 3 (ゲレゲレ視点)
今まで、四本足というのは得だと思ってた。
テスはちょっとした段差でよくつまずいていたし(こけるまではいかないんだが)この前、テスが片付け忘れていたビー玉とやらで滑って階段から転げ落ちたテスの親とか見てると、二本足というのは、よくこけるんだと思っていた。四本足の俺は転んだことがなかったからだ。
 
……どうやら違うらしい。
 
この氷の館とやらは床が氷で出来ていて、つるつるすべる。四本足はすべる本数が多いだけ、損か?
そう思うくらい、よくすべる。
どうにも爪が立てられないから、滑っていくしかない。テスなんかは、もうすべる感覚を掴んだらしい。楽しそうに笑いながらつつーっと滑っていく。
ベラもこわごわだが、もうちゃんとすべり歩きができるみたいだ。
俺が出来ないのは、格好が悪い。もうちょっとでコツがつかめそうなもんだが、いまいちだ。テスの居る方に滑っていくだけだ。どうするんだ、俺がテスの面倒をみなきゃいけないのに、これじゃ俺が面倒みられてるみたいなもんじゃないか!?

な、なさけない。
 
階段に辿り着くと、テスが俺を持ち上げてそのまま階段をのぼってくれる。いつもなら……階段で滑って落ちるみたいなこと、しないんだ。テスのほうが転げ落ちそうなのに。なんてことだ。
 
階段を何度かのぼった。三回くらいだったような気がする。さすがに、もう俺もだいぶ上手に動けるようになっている。
もう怖いものはない。
もちろん、最初から敵など怖くない。怖かったのは床だ。
 
三階だと思う。まあ、しっかり数えていたわけではないから、よくわからないが。大きな椅子があるところに、宝箱がおいてあるのが見える。その前に、覆面の子どもが一人、立っていたのだ。
ははーん、コイツがザイルとか言う奴だな。そいつは、俺たちをみると、ぎょっとしたように叫んだ。

「なんだお前は!? そうか! ポワンに頼まれてフルートを取り戻しに来たんだなっ! ポワンはじいちゃんを村から追いだした憎いヤツだ! フルートが欲しければ力づくでうばってみろっ!」
「え!? 違うよー、ポワン様悪くないよー。ボク、おじいちゃんにザイル君を迎えに行くように頼まれたのー!」

……なんだか、微妙に話が変わってないか?

思わずベラを見上げたら、ベラも一瞬考えたような顔をしていた。どうやらテスが言ってることが微妙に間違ってる気がするのは、俺の気のせいでもなさそうだ。
そう思って見ていたが、ザイルはザイルで聞いてない。

「うるさい! ウソを言うな!」
叫んで、ザイルが飛び掛ってきた。
「うわ!? ザイル君!? いきなりはずるいよ!!」
テスに、ザイルが飛び掛った。

コレは、敵だ。
テスはまだそう思ってないみたいだが、ザイルがテスをなぐった時点で、俺にとっては、敵だ。
俺が一番最初にザイルに飛び掛った。遅れてベラ。
「え?! えー!?」
一番分かってないのはテスだったが、それでもどうにか戦闘態勢に入ったみたいだった(殴り合いのケンカみたいだったが、まあ、いい)
 
「くそー! お前はなかなか強いな……」
「ザイル君も強いよ。あのね、ザイル君。ええと、おじいちゃんは、ポワン様が追い出したんじゃなかったよ。ねえ、ベラ」
「うん、ポワン様じゃなくて、先代よ」
「え? じいちゃんを村から追いだしたのは、ポワンさまじゃないって? けど雪の女王さまが……」
そういって、ザイルが後ろの空中を見上げた。
「雪の女王さま?」
テスが首をかしげて聞き返す。
その時、一瞬で部屋の中が今以上に寒くなった。これ以上寒いのは、困るんだが。
「ククククク……。やはり子供をたぶらかせて、という私の考えは甘いみたいでしたね。今度は私が相手です。さあいらっしゃい!」
現れたのが、雪の女王ってヤツだろう。
青っぽい服を着た、ばあさんだ。
……ちょっと怖い顔してるな。テスは怖いのかびっくりしてるのかいまいち分からない顔で、女王をぽかんと見てる。
「ふ、フルートを返しなさい!」
ベラの声で、俺は我に返った。
「力づくでいらっしゃい!」
俺は低く吠えた。テスもそれで我に返ったらしい。なんとかブーメランを構えた。
 
戦いはあっけなく終わった。
なんというか、女王は、弱かった。3対1だったからかもしれないが、ともかく女王は溶けるようにいなくなった。
「なんだ……雪の女王さまって、悪い怪物だったんだっ! オレ、たまされてたみたいだなあ……。……!!! うわー! まずい! じいちゃんにしかられるぞ! かえらなくっちゃっ!」

ザイルがすごい勢いで帰っていく。なんであいつは氷の床を思い通りに走れるんだ?……そのコツだけ言ってから帰れ。
「ちょっと……謝っていきなさいよ!!!」
ベラはベラで俺とは違うことを叫んでた。
テスは、あまりコッチに興味がなかったのか、奥にあった宝箱を開けて、なにやら銀色の長細い筒を取り出してきた。
「ベラ、コレが春風のフルート?」
ベラがテスの手の中をのぞきこんで、顔を輝かせる。
「そうよ! そう! これが春風のフルート! 綺麗でしょ! コレをポワン様が吹くと、世界に春が来るのよ!」
「へー、そうなの?」
「そうなの!」
ベラは嬉しそうに何度かくるくると踊って見せた。
「じゃ、帰りましょ!」
 

……もういっかい、この床を歩くのか。
そう思うと、俺は気分が暗くなった。ついでに視界も暗くなった気がした。
 
14■妖精の国 4 (テス視点)
ボクはゲレゲレとベラと、三人一緒に妖精の村にもどった。
まだ、雪は降っているし、積もってるけど、村の皆はもうボクが春風のフルートを取り返したのを知ってるみたいだった。……なんでかな? ザイル君がさきに来て言ってったのかな?
みんな、口々にボクやゲレゲレや、ベラの事をほめてくれてる。皆嬉しそう。
いいことした後って、気分がいいなあ、って思った。
 
ボクらはポワン様のところへまっすぐ、一番最初に行った。
ポワン様は立ち上がってボクからフルートを受け取って、にっこり笑った。
「まあ! これはまさしく春風のフルート! テス、よくやってくれました。これでやっと、世界に春をつげることができますわ。なんてお礼をいっていいのやら……。そうだわ! 約束しましょう。あなたが大人になり、もしなにかに困ったとき再びこの国を訪ねなさい。きっとちからになりましょう。いいですか? よく覚えておくのですよ?」
「うん、わかったー」
ボクがにっこり笑って答えると、ポワン様はもう一回笑って、それからフルートを口元に持っていった。
綺麗な音楽が、流れる。
その音楽にあわせて、お城になってる樹の枝に、お花が咲いた。
ピンク色で、ふわってした花びらの、お花。
それが、次々と咲いていく。お城の樹だけじゃない。どんどん遠くのところのお花が次々咲いていく。
とっても綺麗。
「さあ、寂しいけれど、そろそろお別れの時です」
ポワン様の声が聞こえた。
「テス、あなたのことは忘れないわ。これ、今はまだ枯れ木に見えるけど、暖かくなったらお花が咲くわ。もって行って。……元気でね」
ベラがボクに、木の枝をくれて、それから手を振った。
「ボクも、忘れないよ、ベラ。ポワン様も、忘れないよ」
ボクも手を振る。
お別れは、やっぱり寂しいな。
 

気付いたら、僕はお家の地下室にいた。ゲレゲレも一緒に居る。
振り返ったら、黄色に光ってた階段がすーっと消えていった。
「あ、なくなっちゃうね、ゲレゲレ」
本当にあったことなのか、ちょっと疑っちゃうよね。
そうしたら、空から一枚、ピンクの花びらが落ちてきた。
でも、透けてる。
ボクの足元に落ちちゃう前に、消えちゃった。
「ゲレゲレ、楽しかったね!」
ボクがゲレゲレに笑うと、ゲレゲレはちょっとだけ頷いた。
 
ボクが一階に登っていくと、サンチョがちょっとびっくりしたようにボクを見た。
「坊ちゃん、ドコへ行ってらしたんですか? 旦那様にラインハットの城から使いが来て、出かけることになったんです! 坊っちゃんも連れていくつもりで、ずいぶんさがしたんですが……。見つからなくて、旦那様はたった今お出かけになりましたっ。すぐに追いかければ、まだ間に合うかも知れません。さあ坊っちゃん!」
サンチョがそういって、ボクをお家の扉の方へ連れて行ってくれる。
「ラインハットのお城って、遠いの?」
「そんなに遠くはありませんよ。それに、旦那様はまだ多分村の中でしょうから、すぐ追いつけますよ」
「そうなの?」
「ええ、そうです」
ボクが扉を開けようとしたら、サンチョが
「あれ? 坊ちゃん、ポケットから何かが……。おや、桜の小枝ですね。もう咲き始めてるじゃないですか。最近暖かくなったからですかね。……それにしても綺麗ですねえ。坊ちゃんたちのお部屋に飾っておきましょうか?」
枝をみてみたら、ベラがくれた時には何にも咲いてなかった枝に、もうお花が咲いてる。樹のお城で咲いてたお花と一緒。
「桜って言うの? じゃあ、飾っておいて?」
「そうですよ、桜です。じゃあ、飾りましょうね」
サンチョがそういって、二階に枝を持って上がっていく。
お父さんは、桜、好きかな?
「ねえ、サンチョ」
ボクは呼びながら二階にあがる。
「おや、どうされました?」
「お父さん、桜、好き?」
「ええ、好きだと思いますよ」
「じゃあ、これ、もって行ってお父さんに見せてあげたいの」
「それはいいですね。では持っていってくださいな」
「うん、じゃあ、サンチョ、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
ボクはサンチョに手を振って、お家の外に出た。

確かに、ちょっと暖かい気がする。さっきまで雪の積もってた妖精の国にいたからかな?
「あったかいねえ、ゲレゲレ」
ゲレゲレがおおきくあくびをした。
「お父さん、探さなきゃ。どこかな?」
ボクは最初に、村の入り口の方へいってみた。いつも村の入り口を守ってるお兄さんは、今日もそこにいた。
「村の外はキケンだ。坊やいい子だから、おうちにもどりなさい。え? パパスさんが出ていかなかったかって? いや見ていないぞ」
「そっか、お父さん、まだ村の中に居るんだね。探してくる」
ボクは村の中にもどった。
探してたら、教会にお父さんはいた。
「あら、テっちゃん。良かったわね、間に合ったわよ」
シスターがにっこりと笑いながらボクに言ってくれた。お父さんは、教会の中でお祈りをしてた。
「それにしても、パパスさんを呼びつけるなんて、ラインハットの国王も、傲慢な人よねっ。用があるなら自分から来ればいいのに……」
「傲慢って、なあに?」
「偉そうってことよ」
「ふうん」
ボクがシスターとお話してたら、お父さんがお祈りを終わらせて
ボクの方へ歩いてきた。
「おおテスか! 今までどこにいたんだ!? 随分探したぞ。まあ、いい。父さんは旅立つ前に神にお祈りをしていたところだ。お前も祈っておくといいだろう。父さんは村の入口で待っているからな」
「うん、お祈りしたら行くね。待っててね」
ボクが答えると、お父さんはボクの頭を二・三回ぽんぽんって叩いてから外に出て行った。

今度の旅が楽しくなりますようにって、ボクはお祈りしてから、お父さんが待ってる村の入り口まで、ゲレゲレと一緒に走った。

今度はどんな旅になるのかなあ、ってわくわくする。

 / 目次 /