2■レヌール城
レヌール城の攻略。


3■レヌール城1 (テス視点)
夜になって、ビアンカちゃんがボクを起こしにきてくれた。なんだっけ、そうだ、お化けだっけ。
「なに? まだ眠いの?」
「そうでもないよー」
「じゃ、その眠そうな顔は普通なのね」
「え、ボク眠そう?」
「眠そうよ」
ボクはぺちぺちとほっぺを何回か叩いてみたけど、ビアンカちゃんは「変わってないよ」って言った。ボクの顔は眠そうなんだろう。
夜の街は静かだった。街を守ってるっておじさんも、寝ちゃってる。
「夜の街を歩くなんてはじめてー、ドキドキするわー」ってビアンカちゃんはスキップしてる。楽しそうだなあ。
ボク、実際、ちょっとお化けって何か分からないんだけど、怖くないのかな、スキップだもんね。
怖くないんだったら、いいや。
街の外に出ると、それまで気楽だったビアンカちゃんもさすがに黙った。街の外は、ほとんど明かりがないし、草だって沢山生えてて何が起こるかわからない。
ボクはこの前洞窟を探検して、ちょっと慣れてたけど、さすがにビアンカちゃんはちょっと「……私達、大変な事をやくそくしちゃったのかなあ」って困った声を出している。
「大丈夫だよー、ビアンカちゃん。ボクら二人だもん。一人だったら怖いけど、二人だったら大丈夫だよー」
そういったら、ビアンカちゃんは「根拠がないわよー」って言って、気が抜けたような笑い声を上げた。
ビアンカちゃんは笑ってるほうが可愛いなあって思う。
4■レヌール城2 (テス視点)
「レヌール城は北のほうよ」
そういって、ビアンカちゃんはボクに前を歩くように言った。「後ろは守ってあげるからね!」って言われたけど、もしかして、ビアンカちゃん、恐いのかな?
確かに、夜って子どもだけで外を歩くことって、ないもんね。ボクも色々お父さんと旅をしてきたけど、あんまり夜に歩いた覚え、ないもん。
でも、ビアンカちゃんは女の子だから、ボク、守ってあげないとね。だから恐いとか、あんまり言わないほうがいいんだろうなあ、って思った。……まあね、あんまり恐くないけどね。
街の明かりがもう全然見えなくなった。こっそり持ってきたランタンの光だけがあたりを照らしてくれている。その分、光が当たらないところが余計に暗く見えて、さすがに恐くなってくる。
「ねえ、ビアンカちゃん」
「何?」
「お城ってさ、ボクらの歩く早さで、夜のうちに着けるの?」
「多分大丈夫よ、もう死んじゃっていないけど、うちのおばあちゃんがまだ小さくて、まだお城にお化けがいなかったころ、お城までお散歩しにいったことがあるっていってたから」
「……夜に?」
「昼よ」
テスこれだけ歩いてまだ寝てるの?って、ビアンカちゃんは呆れている。ボク、夜の話を聞いた気がしたんだけど、どこで間違ったのかなあ?
 
ちょっと大きな川にかかっている橋を二回越えたところに、お城は建っていた。ボクらは急いでお城まで歩く。あんまり天気のいい夜じゃなかったけど、お城についたころは雷が何回も鳴っていた。
「私、お化けは恐くないけど、ちょっとだけ雷は恐いわ」
「雷って、青白くて綺麗だよ?」
「そんなまじまじよく見てられるわね」
ビアンカちゃんはそういうと、「早くお城に入っちゃいましょ」って言って先に大きな門のほうへ歩いていってしまった。
……お化けは雷より恐くないのが分かった。
で、お化けって、結局何なのか、ボクにはまだ分からない。
 
「あかないよ?」
ボクとビアンカちゃんは一緒になって門を押してみたけど、大きいドアだったからか、全然ドアは開かなかった。
「あ、さびちゃってるんだ。別の入り口、探すしかないわね」
「さびってなに?」
「さびはさびよ」
ビアンカちゃんはそういうと、ぴょんぴょんと飛び跳ねるみたいな歩き方で、先に行ってしまう。
「どうしてこんな玄関にお墓がたくさんあるのかなあ?」
「お化けがすんでるからじゃない? あんまり考えると負けよ、テス!」
階段を下りて、ボクらはお城の裏手に回ってみた。高い塔がくっついていて、そこの入り口は壊れて開いていた。ぐるぐる回る階段が、上のほうまで続いているのが見えた。
「ここから行けそうね。さ、テス、いくわよ」
「おじゃましまーす」
「相手はお化けなんだから、そういうことは言わなくていいの!」
「そうなの?」
「そうよ!」
ぐるぐる回る階段を上りきったところの、大きな門をくぐりぬけたときだった。
がしゃーん。って。後ろで音がしたのは。
「……と、とじこめられちゃったわよ」
「……ここからじゃ帰れないってことだよね?」
「……ま、どこかに他の門があるわよ。だって、お城だもの」
ビアンカちゃんの言葉にボクは納得して、こわごわと二人で歩き始める。遠くのほうから風の音が聞こえて、それがなんだか寂しそうな泣き声に聞こえた。
「棺おけが並んでるのはなんでかなあ?」
「お化けが寝てるんじゃない?」
ビアンカちゃんがそういうから、ボクはその棺おけを一個、開けてみた。お化けが何か分かるのは、早いほうがいいなあ、って思ったから。そうしたらビアンカちゃんが慌てたような声で
「ちょ! 何やってんのよ!」
って声を上げた。ちょっと吃驚したような声。
「ビアンカちゃん?」
「何よ」
「これ、空っぽだよ?」
「……ふーん。じゃ、別にいいじゃない。何にも入ってないほうがいいよ。さ、進みましょうよ」
「うん」
並んだ棺おけを通り過ぎたら、すぐのところに階段があった。どうせ進むところがここしかないから、ボクらは二人でその階段を下りる。
と。
突然、目の前が真っ暗になった。
「っきゃー!!!」
ビアンカちゃんの声がする。いきなり真っ暗になって、恐かったのかな?
「ビアンカちゃん、大丈夫だよ。すぐに見えるようになるって」
声をかけてみたけど、ビアンカちゃんの返事はなかった。
「ビアンカちゃん?」
もう一度。でも、やっぱり返事はない。
ようやく、あたりが見えるようになったら、ビアンカちゃんがいなくなっていた。
 
ちょっと考える。
1・ビアンカちゃんは真っ暗になったとき、階段を踏み外して下に落ちた。
2・ビアンカちゃんは先に行ってしまった。で、ボクが恐がるのをどっかで見ている。
3・それ以外。
……「きゃー」って言ってたから、2じゃないだろうなあ。1かな。3っていっても、何にも思い浮かばないし。
ボクは階段を下りてみた。石で出来たおおきな像がたくさん並んでいる場所で、そこにビアンカちゃんはいなかった。
そのうちの一個と、目が合った。なんで石の像と目が合うんだろう、って思って近寄ったら。
「み・た・なー!!」
って。像が動いて飛び掛ってきた。

……もしかして、ボク、いますっごく大変な目に遭ってるんじゃない?
5■レヌール城 3 (ビアンカ視点)
「ちょっとー! 出しなさいよー!」
真っ暗で、狭くて、息苦しかった。
階段のところで、真っ暗になる瞬間。私とテスはたくさんの骸骨に取り囲まれてたような気がする。そのあと、気づいたらここに閉じ込められてた。
隣に、テスはいない。私だけ捕まったのかしら。それとも、テスは別のところに閉じ込められたのかしら。
……きっとそう。私はお姉ちゃんだもん、テスのこと、助けに行かなきゃ。でもまず、この狭いところから抜け出せないのが問題だわ。こういうとき、子どもで力がないのが悔しいったらないわよ。
「もうー! 出しなさいってばー!」
何回か叫んでいたら、息が苦しくなってきちゃった。これははっきり言って、まずいわ。私、このままこの中で死んじゃうんじゃない?いやよそんなの。
 
そう思って、必死にそのあとも何回か叫んでいたら、急に目の前が明るくなった。私を閉じ込めていた蓋が開いて、雷が鳴る空が見えた。雷の強烈な光を背に、誰か立ってる。新しいお化けかしら。
「あ、ビアンカちゃん、みーっけ」
聞こえたのは、緊張感のないテスの声。
「なにが『みーっけ』よ、来るのが遅いわよ!」
そんな抗議の声も、テスは聞いていないみたいで、
「ひどいよビアンカちゃん。かくれんぼならそう言ってからにしてよね。ボク、ビアンカちゃんが階段から転げ落ちたのかと思って、先に階段おりちゃったよ」
「そんなに鈍くさくないわよ」
そういいながらテスを見ると、テスはホコリだらけだった。
「ホコリだらけじゃない、どうしたの?」
「階段を降りたところでね、石像が動いてきてね、ボクに殴りかかってきたの。逃げてるときに転んだからねえ、そのせいだと思う」
「えー!? テス、大丈夫だったの!?」
「うん、なんかね、ブーメランを何回か当ててたら、その石像壊れちゃったから」
……テス、強いんだ。そんな大物のお化けを退治してたんなら、まあ、来るのが遅くても仕方ないか。
「ホコリ、払ってあげるからこっちいらっしゃい」
「うん」
ホコリを払うためにテスが近づいたら、何だか血のにおいがした。
「どっか怪我したの?」
「避けるときに転んじゃって」
そういいながら、テスは左の腕をちょっと上げて見せた。見れば手首からひじあたりまで、擦り傷になってる。うわ、痛そう。見てるこっちがちょっと血の気引きそうだわ。
「い、痛くないの?」
「痛いよ」
痛いならそんな平気な顔してないでよね!
「手当てしたげるから、腕、だしなさい」
こっそり持ってきた薬草を、テスの腕に塗ってあげると、テスが顔をしかめた。
「痛いよビアンカちゃん」
「怪我してるんだもん。痛いわよ」
「……しみるよ。痛いよ」
「薬が効いてるのよ」
変なところでよわっちい。見直して損したわ。
「はい、おしまい。さ、こんなお城、さっさとお化け退治して帰るわよ。……もう恐くなんかないんだから。さっきからこけおどしばっかりじゃない!」
私は右手でグーを作って空に向けて突き上げる。テスもつられて同じことをしてた。よし、元気出てきたわ。
 
しばらく歩いていたら、綺麗な女の人を見つけてしまった。こんなところに綺麗な人がいるなんて、変。あれはお化けだわ。
「ビアンカちゃん、あそこにいる人、何か、向こうが透けて見えるよ?」
「……お化けなんだわ、きっと。だからよ」
「お化けって、あんなのなんだ」
「テス、もしかしてお化けが何かも分からないで来てたの?」
テスがこっくりと頷くのを見て、私は体中から力が抜けるような気分になった。さっきから、何かずーっと平気そうに見えて、ちょっと頼もしかったんだけど。そうか、何か分かってないなら恐がりようもないわね。なるほど、納得したわ。
「こんばんわー!」
「!」
テスがその綺麗な人にいきなり話しかけた。
待って、あんたは何か分かってなくて恐くないんでしょうけど、私はそれなりにやっぱり恐いのよ!
話しかけられた女の人のほうも、吃驚したみたいだった。
でも、その人は悲しそうで。恐いお化けじゃないんだってことは、すぐに分かった。
「まあ、こんなところまで来てくれた上に話してくれた人なんてはじめて」
綺麗な声。優しそうな表情。そうか、この人、悪くない人だ。
「私はソフィア。ここの城の王妃です」
ソフィアさんの話だと、この城は10年以上前に、魔物に襲われて全滅しちゃった上に、その魔物が住み着いてみんなのお墓を返してくれないらしいの。で、そのせいで、城の皆が眠れないらしいのよね。かわいそう。
「お墓を、とりもどしてくれませんか?」
「いいよー」
考える暇もないくらいの早さで、テスがかるーく返事をしちゃった。まあ、私も取り返してあげることに反対じゃないからいいんだけど、もうちょっと考えてほしいわ。絶対それ、悪い癖よ。
「ビアンカちゃん、いいよね?」
順番逆!
「いいわよ。ソフィアさん、かわいそうだもん」
私達はソフィアさんに手を振って、その部屋を出た。
 
で。
「ねえ、どうやったらお墓取り戻せるのかな?」
テスは部屋から出たところで首をかしげて困ったように言った。
 
そうなのよ、問題はそれなのよ。
6■レヌール城 4 (テス視点)
このお城の王妃だったっていう、ソフィアっていうお化けと別れてから見つけた階段をおりると、真っ暗なところに出た。
「ビアンカちゃん、今度はかくれんぼするなら先に言ってね」
「あれはかくれんぼじゃないわよ。私お化けにさらわれたの。見てなかったの?」
「……知らないよ?」
「今度はテスがさらわれる番かも……。手、つないでいきましょ?」
ビアンカちゃんと手をつないで、ボクは歩き出す。
「こけないように、足元に気をつけてね?」
「……がんばる」
手、つないだまま転んだらビアンカちゃんまで転んじゃうもんね。気をつけなきゃ。
 
ちょっと歩くと、すぐに明かりのあるところに出た。
「あ、結構楽にすすめたわね」
ビアンカちゃんが手を離して、あたりをきょろきょろと見回してる。そうしたら、またお化けが出た。
さっきのお化けと似てて、やっぱりちょっと豪華な服を着ている。今度はおじさん。
「こんばんわ」
挨拶したらビアンカちゃんが「また!?」って叫んでた。人に会ったら挨拶するんじゃないのかな?

「何年か前からこの城にゴーストたちが住みついてしまい……わたしとソフィアは眠りにつくこともできぬ。どうか願いじゃ!ゴーストたちのボスを追いだしてくれぬか?」
って、王様だった人は言った。
「いいよー」
そうやって、返事をしたら
「またなのね!」
って、ビアンカちゃんが叫んだ。
「何が?」
「私達二人で来てるのよ? ちょっとは私に相談してもいいんじゃない?」
「ボクらお化けを退治しに来たんでしょ?」
「そうよ! そうだけど! やっぱり物には順番があるのよ!」
「……そうなの?」
「そうよ!」
ボクが一方的にビアンカちゃんに言われているのを、しばらく王様は楽しそうに見ていた。
「台所にたいまつがあったはずじゃ。とある国の王妃様からいただいた聖なるたいまつじゃ。そのたいまつを使えば、どんな暗闇でも照らせるはずじゃ。さ、こっちじゃ」
そういって、王様はすーっと空中を飛んでいってしまう。
「ちょっと! 私達飛べないのよ! 待ってよ!」
ビアンカちゃんはそういって、王様の後を追いかけて走っていく。ボクもあわててその後ろを走った。
王様は階段の前で待ってくれていた。
「じゃ、待っててね。絶対その悪いお化け退治してあげるから!」
ビアンカちゃんは王様にそういうと、階段をおりはじめる。
「王様、待っててね。……あ! 待ってよビアンカちゃん!」
ボクもそういってからちょっと走ってビアンカちゃんについていく。
「テスー! 早くー!」
ちょっと先でビアンカちゃんが待ってくれてて、手を振っている。ビアンカちゃん、足、速いなあ。
 
 
「ここが台所みたいね」
ボクらは大きなおなべや大きなテーブルがある部屋にようやくたどり着いた。骨のお化けが二人と、料理人のおじさんがいて、お料理をしてる。なんか、あんまりおいしそうじゃない。
「あんなにいい材料によくあんなソースかけられるよね。まずそ」
ビアンカちゃんも顔をしかめてる。
「とりあえず、たいまつ探しましょ? ……たいまつって分かる?」
「分かるよ」
「よかった。分からないって言われたらどうしようかと思ってたのよ。じゃ、テスはそっちね。私はこっち」
そういって、ビアンカちゃんはおなべのほう、ボクは壁のところの壷の中を探す。
 
「あったよ、ビアンカちゃん」
「よし、じゃ、行くわよ」
ボクらはおりてきた階段をのぼって、お城の大広間のほうへ出た。ここでは沢山のお化けたちが、骨のお化けたちにむりやり踊らされてる。なんだかちょっと気の毒。
「ねえ、さっき骨のお化けたちが『今日はおいしい料理が出る』って言ってるのが聞こえたのよ。私、いやな予感がするのよね」
「……なんで?」
「……なんか、その材料……ま、なんでもないわ。気にしないで」
「そう?」
 
ボクらは階段をどんどん上る。
真っ暗なところに漸く帰ってきた。
「ここでたいまつを使うんだったわね。テス、持ってて。火、つけるから」
ビアンカちゃんが、たいまつにメラで火をつけてくれると、青白い不思議な火がついた。
「……綺麗な火ね」
「壁とかも青白く見えるよ、すごいねえ。……ビアンカちゃんもちょっと青白いよ」
「テスも青白いわよ」
「綺麗だねえ」
「綺麗ねえ」
しばらくたいまつを見つめてたけど、そうじゃなかった、お化けのボスだった、って気づいてボクらは歩き出す。
王様が座るような大きな椅子に、お化けのボスが座ってた。

「おいしい料理をあげるからこっちへおいで」
「駄目よテス、あれはうそだからね」
「うん」
「そんな事ないさ、おいで」
「……おいでって言ってるよ?」
「うそだって」
結局、これを倒すためにはどの道近くに行かなきゃ行けないことに気づいて、ボクらはボスのほうに歩いていく。
「おいしいご馳走に、お前らがなれ!」
そういわれて、足元の床が抜けた。
 
……落ちたら痛いだろうなあ、で、ビアンカちゃんに怒られるんだ。
7■レヌール城 5 (テス視点)
落ちた先は、さっきたいまつを取りに行った台所だった。ボクとビアンカちゃんは骨のお化けと、男の人のお化けが料理をしているお皿の上に乗っかってた。
「子どもを料理するなんてできません!」
男の人が叫んでる。
「うるさい、地獄に送るぞ!」
骨のお化けがいうと、男の人は泣きながらゴメンゴメンって謝りながら、僕とビアンカちゃんに味付けをした。
「……やっぱり、材料って私達だったのね」
「え? ビアンカちゃん知ってたの?」
「そんな気がしたのよね……」
「でもさあ、ビアンカちゃん。上でご飯待ってたお化けも骨だったよね。食べてもおなか膨れないよね。……食べる意味ってあるのかな?」
「テス、あなたこんな状況でそんな事考えてる余裕がよくあるわね」
ビアンカちゃんが泣きそうな声で言った。
ビアンカちゃんが泣くのはいやだなあ。
そう思ってると、ボクらが乗ってたお皿が、机ごと上に運ばれ始めた。大広間の、骨のお化けたちに囲まれてる。
「おお! うまそうだ」
「やっとごちそうが出たぞ!」
って、骨のお化けたちがいっせいにボクらに手を伸ばす。
「食べられてなんか、あげない。ビアンカちゃんを泣かせて、許さない」
ボクは立ち上がると、ブーメランを骨に向かって投げつける。
「ちょっと! 誰が泣いたのよ!」
ビアンカちゃんが怒って立ち上がって、とげのむちを振り回す。

気づいたら、骨のお化けはいなくなっていて、ボクらは大広間の真ん中にぽつんと立っていた。
「誰が泣いたって?」
ビアンカちゃんがひくーい声で言ってボクをじとっとにらむ。
「泣きそうだったよ」
「気のせいよ! 大体『泣きそう』と『泣いた』は違うわよ!」
「そうなの?」
「そうよ!」
ビアンカちゃんは腕組みをしてほっぺを膨らませてる。
「ええと、ごめんね。それにしても、ビアンカちゃん、よくそんな長いの、ちゃんとぶつけられるね」
「テスこそ、ブーメランって手から離れるのにちゃんと当てられるってすごいわね」
「……ボクってすごい?」
「私もすごいわよ」
ボクらはにこーっと笑いあうと、机から飛び降りて、また階段をのぼった。
 
真っ暗なところはもういっかい、たいまつをつけて歩く。やっぱり青白い炎は綺麗だと思う。
さっき、ボスのお化けがいたところに着いた。
何でか分からなかったけど、ボスはベランダのほうへ慌てたように走っていく。
「落とし穴のほうからいなくなったわ。今しかチャンスはないわよ、テス! 用意はいい?」
「えーっとねえ」
「トイレとか言わないでよ? もし行きたいなら時間がないからその辺の物陰でしなさいよ」
「……ええと、トイレじゃないから大丈夫。ビアンカちゃんって……強いねえ。怪我、しないでね」
「テスもね」
 
ボクらは、ボスのお化けの後ろから声を上げる。
「さっきはよくもやってくれたわねー!」
「なんと! がいこつどもはお前たちを食べそこねたようだな……。ではこのオレさまが食ってやろう!」
そういって、ボスのお化けが襲い掛かってきた。
 
ボスのお化けは、緑色の服で、じゃらじゃらと首飾りをかけていた。何だか、あんまり恐そうじゃない顔をしてる。
ビアンカちゃんがルカニの呪文を唱えてくれて、後はボクがブーメランをあてたり、ビアンカちゃんのむちがあたったりして、もちろんボスのお化けもボクらを引っかいたりしたけど、とりあえず、ボクらが勝った。
……2対1だからかもしれない。
 
「たっ……助けてくれー! 王と王妃の墓はもと通りにするから!」
ボスのお化けはそういって僕らに手を合わせた。
「……どうしようか、ビアンカちゃん」
「お墓を元通りにするだけじゃなくて、二度とここに悪さをしにこないってのも約束しなさい!」
「わかった、わかったよお嬢ちゃん」
「どうして、このお城に悪いことしたの?」
「俺達は魔界でもはぐれ者でなあ。面白おかしく楽しく過ごせるところがほしかったんだよ……」
「ああ、おじさん可哀想だね。うん、許してあげるね。もう悪いことしちゃ、駄目だよ?」
「へっへっへ。ありがたい。あんたりっぱな大人になるぜ……」
「りっぱって何?」
「偉いって事よ」
「おい! 野郎共引き上げだ!」
ボスのお化けがそういうと、ボスのお化けとか骨のお化けとかがいっせいにどこかに消えてしまった。
「よかった。無事に退治できたわね」
ビアンカちゃんがにっこり笑ってる。
「うん、よかったねえ」
ボクらが握手をしていると、王様と王妃様がやってきた。
「よくやってくれた! 心から礼をいうぞ」
「本当にありがとう。あなたたちのおかげでゆっくり眠れそうです」
「さあ、いこうかおまえ」
「はいあなた……。さようなら。あなたたちのことは忘れません」

そういうと、二人もどこかへ消えてしまった。お化け同士だから、さっきのボスのお化けとかと行くところは一緒なのかなあって思ってビアンカちゃんに聞いたら「一緒なわけ、ないでしょ」って小突かれちゃった。どことどこの違いかなあ?
 
「でも、よかったわね。これからは2人幸せに眠りつづけるはずよ。……でもゴーストたちはなんでこの城をあらしていたのかしら?」
「そうだよね、寝るのは嬉しいよね」
「……それはちょっと、違うわよ」
「そうなの?」
「そうよ」
そうやって話していると、上からきらきらの綺麗な石が落ちてきた。
「あら? なにかしら? きれいな宝石ね。……もしかしたら、あのお化けたち、これがほしくて、お城を荒らしてたのかもしれないわね。でも、これ、きっと私達への王様達からのお礼よ。ねえ持ってゆきましょう」
「いいのかな?」
「いいのよ、お礼なんだもん」
ボクらは、王様達のお墓に手を振って、町のほうへ歩き出した。
ずっと鳴っていた雷も、もう鳴っていない。綺麗な星がいっぱい空に浮かんでた。

 
次の朝、ちょっと遅く起きたら、お父さんやダンカンさん、おかみさんが、ボクとビアンカちゃんがお化けを退治してきたことに、一回は褒めた後、「危ないことをしちゃいけません」って怒った。
……もしかして、ボクは悪い子になっちゃったのかな。
そう思って寂しい気分になったけど、ビアンカちゃんはあんまり気にしてないみたいだった。
「さ、テス! ネコさんを助けに行くわよ!」
ビアンカちゃんに手を引っ張られて、ボクは町の真ん中の広場に歩いていく。
 
ビアンカちゃんのみつあみが、歩くたびにゆれて、それがお日様の光できらきらしてた。
青白い炎でみたビアンカちゃんも綺麗だったけど、お日様のほうが似合うな、って思った。
 
 
レヌール城、おしまい。

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