1■オープニング〜アルカパ
オープニングからレヌール城まで。テス、ビアンカちゃん、登場。


2■オープニング〜サンタローズ (パパス視点)
「あのね、ボクが産まれるときの夢を見たよ」
そういって、息子のテスが目を擦りながら起きてきた。
「なんかねえ、お城みたいなところでね、お父さんは赤いマントで、うろうろしてたよ。お父さん、マントがとっても似合わないの。お母さんがね、テスって名前をつけてくれたんだよ。……お父さんがつけようとした名前、すごく格好悪かったんだよ。お母さんが名前をつけてくれてよかったな、って思ったんだよ、ボク」
「お城? ……わはははは、寝惚けてるなテス。目覚ましに甲板にでも行っておいで」
私は息子の言葉に内心ドキリとしながらも、彼の言葉を笑い飛ばす。テスは首を傾げてから頷くと、階段を登っていった。
その姿を見て、私はため息を付く。もしかしたら、彼にもマーサ同様、不思議な力があるのかもしれない。
 
暫くすると、船が港についたらしく、船員の一人が私を呼びにきてくれた。息子もひのきのぼうを引きずりながら歩いて、甲板の端にやってくる。
「忘れ物はないか?」
「うん、たぶんないよ」
「そうか。ならば行くとしよう」
これから船には持ち主だという男と、その娘さんが乗り込んできた。かわいらしい娘さんで、ちょうど息子と同じくらいの歳に見えた。
 
港では懐かしい顔が待ってくれていた。
「お父さんはこの人と話があるから、その辺で遊んでおいで」
「はーい」
息子は返事だけはよく、笑いながら答えている。
懐かしい話に時間を忘れていると、息子の姿が見えないことに気付いた。
「……テス?」
「あれ、さっきまで此処にいたのに?」
「外にいったんだろうか? 申し訳ないが、コレで失礼するよ」
「ああ、また寄っておくれ」
 
息子は外にいた。丁度スライムと戯れている。いや、戦っているのかもしれないが、ひのきのぼうを振り回す息子は少々頼りない。後ろから加勢して、スライムを蹴散らす。
「お父さんはやっぱり強いねえ」
「怪我はなかったか?」
「うん、ないよ?」
答えている息子にホイミをかけて、私は再び歩き出す。
 
サンタローズはもうすぐだ。
2■サンタローズ (ビアンカ視点)
おじさまが帰ってくる、って。
お父さんのお薬を貰いに来たサンタローズで、そう聞いたの。
それで待ってたのね。おじさま、好きだもの、会いたいよね、やっぱり。
だからおじさまの家で待っていたの。今日くらいに帰ってくるっていうから。
サンチョおじさんは朝からシチューを作って待っていて、とっても嬉しそう。
そうしていたら、ドアが開いたの。おじ様と、テスが一緒に入ってきたの。あいかわらずおじ様は、背がおっきくて、強そうで、格好いい。
「だんなさま、お帰りなさいませ! ぼっちゃんもおかえりなさいませ」
直ぐに大人はつまんない話を始めるの。いっつもそうなの。
「テス、大人の話は長いから、二階で遊びましょ?」
テスは不思議そうな顔をして、それでも頷いて私の後ろにくっついてきたわ。久しぶりに会うけど、やっぱりなんだかドンくさそうな感じの子。可愛いんだけどね。
「私はビアンカ。私の事覚えてる?」
「?」
テスは首を左右に振る。
「私はビアンカ。テスより2歳年上なのよ。小さいころ、よく遊んだんだよ? 憶えてない?」
「ごめんねー、ゼンゼン憶えてないよ」
ま、小さい時のことなんて覚えてないよね。
「そうだ、本、読んであげるわ」
「うん」
引っ張り出した本、すごく難しかったの。
「これは だめだわ!
だって むずかしい字が 多すぎるんですもの!」
「そうなの?」
テスが首をかしげて聞いてきたときに、下からお母さんの声がしたの。帰るわよって。
「じゃ、テス、またね」
「うん、ビアンカちゃん、またね」
ニコニコ笑ってテスは手を振る。私も手を振り返した。それにしても、『ビアンカちゃん』だって。ずっこけるかと思ったわ。今度会ったら呼び方を改めるように言わなきゃ。
3■サンタローズ (テス視点)
あんまり憶えてないけれど、ここはサンタローズっていって、ボクの家があるところ。サンチョと、お父さんと、三人で住んでる家があって、町の人が沢山居るところ。ビアンカちゃんはお母さんと、隣の町にすんでいて、今日は宿屋に居るんだって。
お父さんは、朝から御用があってボクはいい子でお留守番。でも、つまんないから、外に行っていいかサンチョに聞いたら、「いいですよ」っていうから、お外に出てきたところ。
ぽかぽかのお日様で、草の匂いがする。お花がいっぱい咲いてるきれいな町だなあって思った。
最近は、これでも寒いんだって。焚き火にあたってるおじさんが言ってた。洞窟にすんでる薬屋さんは、おやかたっていう人が洞窟から帰って来ないって困ってた。ビアンカちゃんのお母さんも、その人が帰って来なくて困ってるって言ってた。
今日、お家に帰ったら、お父さんに言ってみよう、と思った。
ビアンカちゃんがボクに「ビアンカちゃんって呼ぶのをやめて」と言ってきた。他に呼び方が思いつかなかったから、どうしていいのかわからないなあ、と思った。
町の中をあっちこっち歩いていたら、洞窟に入れそうになっていた。入ったらいい子じゃなくなるのかなあ、と思った。
3■サンタローズの洞窟 (テス視点)
昨日は、お父さんが帰ってくるより先に寝てしまったから、今日こそお父さんに洞窟の薬屋さんの事を頼もう、って思ってたのに、お父さんは朝からまたお仕事に行ってしまった。
サンチョはサンチョで忙しそうで、サンチョに頼むのも無理なんだなあ、と思う。
洞窟って、どのくらい怖いところなんだろうな。
いってみよう、と思って、洞窟の方へ歩いていく。昨日もいたおじさんが、やっぱり「迷子になってもしらないぞー」って言ってる。洞窟って、迷子になるところなのかな。
だったら怖いなあ。
そう思って中に入る。洞窟の中は暗くて、湿った土のにおいがした。ちょっと寒くて、長袖を着てきたらよかったなあ、って思った。
洞窟には、ボク以外の人は居ないみたいだった。「わ!」って大きい声をあげたら、ずっとずっと奥のほうまで「わっわっわっわ」って声が響いていった。とても面白くて、何回も声をあげていたら、急にスライムが飛び出してきた。
いろんな人が魔物は怖いって言うけど、僕はスライムならかわいいと思う。
でも、ボクも怪我をしたくないからスライムを棒でばしばし叩いた。そうしたらスライムはいなくなった。勝ったんだと思う。

何回かスライムやドラキーをばしばし叩きながら奥へ進むと、おじさんが寝ていた。石に足を挟まれて動けなくなっちゃったんだって。そうなっても寝ちゃえるのはすごいなあって思った。
ボクが石をどけるのを手伝ってあげたら、おじさんは起き上がって「ありがとう!」とか云って、帰っていった。ありがとうって言われるのは気持ちがいいなあって思った。
 
お家に帰ったら、明日ビアンカちゃんがお家に帰るんだっていうことをサンチョが教えてくれた。ちょっと寂しい。
3■アルカパの町 (ビアンカ視点)
アルカパに戻る時に、おじさまが「女二人は危ないから」っていって、私とお母さんを送ってくれるって言ってくれたの。おじさま、つよいから安心なんだけど、なんでテスもついてくるのかしら? 見かけによらず強いのかしら?
 
アルカパはサンタローズより活気があって、私はこの町のほうが好き。テスは不思議そうな顔をしてそこらじゅうを調べて回ってる。「ビアンカちゃんのお家は3階もあって、広くて大きくて格好イイねー」だって。格好いい、の基準が良くわからない子だわ。
しばらく町を案内して歩いていたら、あいかわらずいじめっ子の兄弟が、ネコさんをいじめてたの。ほんと進歩がない二人だわ。
「ちょっと、かわいそうじゃない! やめなさいよ!」
「うるさいなあ、これは俺たちが拾ったんだから、なにやってもいいだろー!」
「よくないわよー! よくないわよね! テス!」
「うん、よくないよー」
って、全く緊張感のない声で、ニコニコした顔で言うんだもん、ちょっと気が抜けちゃったわよ。
色々言い合ってるうちに、私とテスがレヌール城のお化けを退治したらネコさんをもらえることになった。
「ビアンカちゃん、ボク思ったんだけど」
家に帰るときにテスが私に話しかけてくる。
「何?」
「……あのさ、ボクたち、損してない?」
テスのクセに鋭いわね!

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