テス、若手に相談される

少し前の僕って…なんだったんだろう
今とっても平和だ
だっておやつも取られないし苛められもしない

あ…そういえば、最近おやつというものを貰ってないや…どおりでとられないはずだ…

そうそう、こないだBHCへ行ったら、ミンチョルさんの映像が流れてた
すごく…すごくすごくすごーく…カッチョワリぃ
あんな前髪してるから余計にカッチョワリかった
チョンエにそういうと「『カッチョワリィ』って死語よ」と一言言われた
チョンエったらちょっと冷たい…
あ、今ちょっとだけミンチョルさんの気持ちが解ったぞ。ヨンスさんにこんな風にされてるのかな?優しそうな奥さんなのにな

僕が帰るとき、ミンチョルさんは「降ろされた」だか「落とされた」だかで、イナさんが血相かえて飛び出していった

イナさんってかっこいいな、やっぱし…
僕も本格的にテコンドーを習いたくなった

チョンエにミンチョルさんが子ギツネ踊りをやってたことをいうと

「見たいっ見た〜い見たいっ」

とはしゃいだ。ちょっとムカつく
でもそのすぐ後に

「私が見たいのはミンチョルさんじゃなくて子ギツネダンスよ」

と言った

それがムカつく
だってチョンエったら旅行から帰ってきてからずーっと

「携帯耳切りキツネが欲しい〜」

って言ってるんだもの…
拗ねていたら

「ああ〜ん、テス君もカワイイ小犬ちゃんよぅ」

なんて言ったけど、言ったはしから

「でもあの携帯耳切りキツネちゃんは最高なのよね〜。カワイイくせにクールで…」

って言うんだ…
それってミンチョルさんのことじゃないの?
フンっ

ミンチョルさんがいなくなった…いや、いたんだっけ…ことは教えてあげない!
ミンチョルさんがいないから僕またヘルプ頼まれちゃった。ふう…

           ####

チョンエったらまた今日もキツネの事ばっかり言う
まさかチョンエったら、ミンチョルさんの事を?

「ねえ、チョンエ〜、まさかとは思うけどさ…チョンエって…キツネみたいな顔の人って好き?」
「そうねえ〜、目が細いのはイヤよ。大きなお目め。テス君みたいに〜」

えへっそう?

「大きな目のキツネ顔って好き?」
「そうねぇ…でも…それだけじゃ物足りないわ。やっぱり口も大きくないと…ケモノとしての迫力がないわねぇ」
「ケモノって…僕が聞いてるのは、『人』なんだけど」
「でもキツネ顔でしょ?口は、そうねぇ。普段は普通だけど、何かあったらカアーッて大きくなるようなオモシロイ口がいいわ
テス君は…。…」

なんだよっ口がオモシロイ人なんているもんか!あの場所を除いては…

「んー、それとぉ、キツネっていうからには、やっぱり、ふさっとしてないと…」

ふさっ?何が?

「人…だから…やっぱり前髪が、ふさっとしてた方がキツネらしくていいわね」

ま、前髪?!

「あの…あのさ、チョンエは昔、イナさんのこと好きだったんだよね?」
「そうよ」
「…そういう系統の顔が…好き?」
「え?」
「今でもそういう系統の顔が…好き?」
「イナ?キライじゃないわよ。でも私、振られたからちょっとねぇ…イナは…」
「イナさんじゃなくて、そういう系統の顔が好」
「そういう系統そういう系統って何言ってるの?私が好きなのはテス君よ!」

あ…。でへぇ〜

「そ…そう…ならいいんだ…。このごろチョンエったらキツネキツネって…キツネの事ばかり言うから
…もしかしてミンチョルさんのことが好きになったのかと思ってさ…」
「ミンチョルさん?ああ、あの人はいいセンいくわ
キツネ顔としてはダントツ一位ね。放っておけないイメージがあるわねぇ」

なんだって?!

「ちょっと沈んでると、カワイイカワイイってしてあげたくなるかなぁ。ねぇ、テス君もなんない?」
「なんないっ!」

僕は腹が立ったので散歩してくると言って外に出た!
ドアを閉めると部屋の中からチョンエの笑い声がした

…からかってた?…いや…もしかすると本気かもしれないもん…(;_;)

散歩してたら、向こうからスッゴク若い、似た二人がやってきた

「こんにちはテスさんでしょ?僕パク・チョンマンです
実は相談があるんですけど
店に行っても『チーフもチーフ代理もいないし落ち込んでるしまた今度にしてくれ』って相手にしてくれなくて
それでテスさんはチーフとすっごく親しいって聞いたんでお話聞いて貰おうと思って。実はですね」
「ちょっと…ちょっと待って…」

なんだこいつ。ペラペラペラペラよっく喋るなぁ…
で、もう一人の男は…偉く静かだな

「あの、君はパク・チョンマンさんだね?」
「そうです。アメリカ風に言うとミスターパークです。それで」
「ストーップ!こちらの人の名前聞いてないから…。あなたは?」
「カン・ドンジュンです」
「(かっこいいな…)で?」
「僕たち新人ホストなんですけど、全然仕事させてもらえなくて、毎日毎日他の店でビール運んだりモノマネしたりして
食いつないでるんですけどいつ店に出してもらえるんですかねぇ
僕イベントのときかなり頑張ってたのにぜんっぜん声がかかんない、ぜんっぜんですよっ」
「…ああ…だから今チーフもチーフ代理も忙しいんじゃ…」
「そんな時こそ新人を起用すべきでしょ?僕、モノマネも歌も得意ですし、人を励ますのだって得意です
サルになれって言われたらなります
でも高い所から飛び降りるのだけはイヤです!」

あー…うるさい奴…

「それにほら、僕話術得意だから、どなたにでもあわせてお話できますし、屋上とかでセッ$%しろっていわれたら応じますし
もちろん僕の部屋ででも構いませんしビデオ撮りながらやるっていうのも」
「何言ってんの?セッ%%?」
「え?『お持ち帰り』とかないんですか?」
「…ない…と思うよ…結構健全だからBHCも『オールイン』も…」

あったんだろうか、『お持ち帰り』制度…。いや、無いはずだ。あったらタイヘンなことになるもん…
「なあんだ、ないんだ…よかった…ちっちょっと残念…でも…よかった…
あっセッ%&で思い出したけどなんで僕らと同期のラブだけ店にでてるんですかっ?不公平ですよ!」
「あーだって僕に言われても…。まあ、伝えてあげるけどさぁ…オーナーに言えば?」
「オーナーに言ったら全部ミンチョルさんに任せてあるって言って…どこかへ出かけましたよ」

ちっ、また遊びに行くつもりだな…

「だから、ラブなんか僕よりずっとセッ$#してるから、それで先に『お持ち帰り要員』として選ばれたのかと思ってたんですよ
アイツより僕のが芸がありますっ。キーボードもひけますっ」
「あの…ちょっと待って。だからそういう事は僕に言われても…ね」
「ピールジョッキ6つ持てますか?僕は持てますそれに英語だって達者」
「ストーップ。そーゆーこと、僕に言わないで!そんで君、チョンマンさん?ちょっと黙って。静かに
で、あのあなた…なんでしたっけ名前…ごめんなさい、この人が喋り続けてるから忘れちゃった」
「カン・ドンジュンです」
「こいつ控えめにしてるから腕引っ張ってつれてきたんですよ。こいつはく」
「口チャーック!!もうっ!この人から直接聞くからアンタ黙って!…で。カン・ドンジュンさん?」
「はい。よろしくお願い致します」
「あなたも店に出たいの?」
「はい。そろそろお金を稼がないと、父や姉や弟に送金しないと…」
「ねっこいつ苦労してんだよ、だから」
「口チャーック!もうっ。で?ドンジュンさん、言いたいことは?」
「お金を稼ぎたいんです。でも僕は、チョンマンのように特技も芸もない
あ…いや、あります。車です。車に関しては僕は誰にも負けません
車のデザインなら任せてください」
「…車のデザイン…って…あんまりホ○トクラブには…関係ないと…思うよ…残念だけど…」
「…う…運転はどうでしょう…。砂漠の運転もできます。あとシベリアを14日間横断し続けました」
「だから…『移動ホ○トクラブ』だったら運転も関係あるだろうけど…砂漠って…ないし…ね
…せいぜい雪の日の運転ぐらいかなぁ…けど、みんなお酒飲むから車では来ないしね」
「…あ…で…では…あのっ…その…うーん…あっ僕、焼酎の一気のみし続けられますっどうでしょう」
「…多分〜、焼酎じゃあ商売にならないと思うよ〜。ドンペリが飛び交う店だからなぁ…」
「ドンペリ…ドンペリとはなんですか?」
「…」
「知らないのか?カン・ドンジュン。ドンペリってのは…どんなのかしらないけど酒だ」
「酒なのかチョンマン…。僕は、ホンダとかフェラーリとかには強いけど、お酒は焼酎しかよくしらないんだ
いや、パーティーにも出てたけど、僕は車の事ばかり考えていて、お酒だとかその他の事は秘書に任せてたから…」
「秘書?」
「はい」

なにこの人、若いのに何者?

「カン・ドンジュンは社長だったんだよ、テスさん」
「しゃちょー?」

社長なのにドンペリをしらない?…
そしてお父さんや兄弟に仕送り?

「なんでホ○トになったの?社長だったんでしょ?」
「…昔好きだった女性に会社を譲りました。その会社は合併し、大きな自動車会社になりました…」
「は?なんでそこに残らなかったの?」
「彼女は…結婚していました。僕はそんな彼女を見るのがつらいので…また一からやり直そうと思い…」
「ホ○トになったっての?」
「いえ…歩いていたら突然声をかけられて…。あれは砂漠のレースの時です
突然食料係の女性が声をかけてきて『うちの店にこない?』と言われまして」
「は?…あ…もしかして…」
「その時はお断りしたんですが、シベリアにまでいらして、その前から君を見ていたなんていわれて…
で。彼女が結婚していたことを知り、絶望してたとき、ポケットのすみにBHCの名刺があって…それで…」
「…はあ〜…でもまだ店に出してもらえないと…で今何してるの?」
「この人はね、自動車の整備とかガソリンスタンドとかいろいろ掛け持ち」
「ええっ社長にまで上り詰めた車のデザイナーが?」
「ええ、デザインをやっている限り彼女と関わらなくてはならない。それは辛いので…」
「ちょっと聞くけどあなたいったい幾つ?」
「えーっと…ここでは25〜28歳ぐらいにしておいてください」

…ややこしいなぁ…mayoさん、なんでこんなややこしい人をスカウトしたんだよ…
確かに精悍でかっこいいけど…。それに比べるとこのチョンマンって人は…うーん…

「ウキッ」

猿だ…

「ねえテスさん、先輩方に掛け合ってくださいよう」
「…あの…なんで僕に?直接店に行ってみんなに言えば?そうだ、ウシクさんなんか優しくていい人だぞ
あとよく知らないけどイヌさんとか…。スハさんは…まだ店にでてないかな…」
「ああ、スハさんなら僕らと一緒に共同生活してますよ
奥さんとお子さんを田舎に置いてきて、ヤッパリお金送らないといけないって…
スハさんも連れて来ればよかったなぁ」
「チョンマンはお人好しだなぁ、まず自分の仕事を確保しなきゃいけないだろ?」
「あ、そうか。ついつい困ってそうな人を見るとほっとけなくてさ、俺、うひゃひゃひゃひゃ
あ、俺、尻を出せって言われたら出します!」
「…」
「チョンマン、ちょっと悪乗りし過ぎだぞ」
「あ、ごめんドンジュン」
「すみません」
「…あ…いや」

ドンジュンは礼儀正しそうだな。チョンマンは、お喋りだけど人は良さそうだ
…って、僕、そんな偉そうな事言える立場じゃないし!

「おーい、おめぇらあっ」
「あっシチュンさん」
「ずるいぞ。二人だけで仕事もらおうだなんて」

また似たようなのが来た…

「あ、こんにちは。火を貸してくれませんか?」
「僕、吸わないので…」
「ちっ…そうですか…せっかく芸を見せようと思ったのに」
「シチュンさんずるいですよ、自分だけアピールしようとして!」
「いや、チョンマンもさっきからすっごくアピールしてるじゃないか!」
「ドンジュンだってしてたじゃん」
「でも僕のアピールは…ホ○トとしては…零点だよ…」
「暗くなるなよぉ、ドンジュンは体力が自慢だろ?」
「そうだ、徹夜しても丈夫だし砂漠でもシベリアでも死なないでとっても元気だったんだ、僕!」

…このドンジュンって人、カッコイイし礼儀正しいし、人気は出そうだけど…ホ○トとしての才能は…どうなんだろう…
それと、後から来たこのシチュンって人は?どう見ても遊び人みたいだけど…

「俺、ホストに向いてるってスカウトのmayoさんに言われたんだ。自分でもそう思う」
「シチュンさん、さっき言ってたの、ガセネタじゃないですか!」
「なんだよチョンマン、何がガセなの?」
「ほらぁ、『お持ち帰り』の話。僕『屋上』とか『ビデオ撮影』とかオッケーですって言っちゃったよう」
「何っ?お前、屋上って…そんなとこでヤッたのか?」
「僕は未経験ですから」
「嘘つけよ!」
「シチュンさんが『それもアピールポイントだ』って言うから聞かれる前に喋っちゃったよう」
「へへへっ。いいじゃないか。ホ○トってのはそーゆー能力も必要だよ、な、テスさん」
「あ…僕たちの店は健全だから…」
「ええっ健全なのかぁ?…ちいっ…俺には向いてないかなぁ…」

なんなの?この人たちは…
そしてどーして僕のところへ?

「だってテスさんはNo,1ヘルプだって聞きましたよ」
「…」
「だから僕たちの悩みもヘルプしてくれるって…」
「…あのさー。ヘルプって…そういう意味じゃない」
「だってミンチョルさんの相談相手はテスさんだって噂だし」
「そうですよ、チョンウォンさんって人も相談に行くって聞いたし」
「そうそう、テプンのアニキも小腹がすいたらテスさんに会いにいくんだって」
「それに、ミンチョルさんを動かせるのはテスさんしかいないとか」
「噂になってますよ。エンジンはテスさんなんだって」

…。ヤダ…やだやだやだやだっ!

「あのねっ。僕今ねっ。大きな目のキツネ顔の男って見たくないの!あっち行って!」
「え?俺は馬づらだろ?」
「うん、シチュンさんは馬づらだよ」
「僕、キツネですか?」
「いや、お前は…お前は…なんだか車の顔にみえるぞドンジュン」
「うわあウレシイ。最高の誉め言葉です。ありがとうございます」
「僕はサルでしょ?」
「そうだな、サルだ」
「サルにしか見えないよな、チョンマンは」
「「「誰もキツネ顔じゃないですよ」」」
「とーにーかーくー。僕、今、人の相談になんてのってられないのっばいばいっ」
「あっテスさ〜ん…」

なんなんだよっ。もう
はやくミンチョルさん帰ってきてよっ!

あっでも…チョンエったら…

くうううっミンチョルさんが奥さんと仲良くしないからいけないんだっ!
ミンチョルさんの馬鹿っ!

もうっ!ゾロゾロゾロゾロっ!あいつら似たような顔してついてくるんだもんっ!
僕は散歩してるだけだったのにっ

仕方ないからBHCに連れてった

「なんだテスか。ヘルプに来てくれたのか?それにしても早くないか?」
「ウシクさんこそ、こんな時間から…早いですね」
「チーフがいないからさ…イナさんも…だから残りのメンバーで、どう対処しようかって相談してんだよぉ」
「大変なんですね」
「全く猫の手でいいから借りたいよ」
「あのっ馬の手ではだめですか?」
「猿の手もあります」
「…車の手は…」

まったくぅ。まだ紹介もしてないのにうるさい三人!

「…何?新人たち連れてきたの?」
「すみません、散歩してたら掴まっちゃって…」
「ウシクさん、僕たちに何かやらせてくださいっ
僕はモノマネ、猿のまね、お喋り、歌、ウェイター、んと、それから…英語も少し喋れますし
んと、人を励ますこともできるし、んと、映画にはとっても詳しいですからお客様に映画についてお話できますしんと」
「口チャーック!!!もうっ」
「…何この子…」
「…猿です!」
「ウキッ」
「…こんなに喋る子だったっけ?イベントの時はあまり顔をあわせてなかったっけ?」
「ウキッ」
「…ウシクさん…ずーっとこの調子で喋るんですよ…はぁっ」
「あのぉ〜、俺、ここの厨房のmayoさんって人に『ホ○ト向き』ってお墨付きいただいてるんですけどぉ」
「…あ、ああ…イベントのときはバザー会場で頑張ってくれてたねぇ。その割には売上少なかったみたいだけど」
「あ…や…あの…電話番号聞くのに必死で〜へへ」
「あっちこっちの女の子に手を振っていたね。不誠実だなぁ」
「あ…いや…でもあの、将来俺が店に出たら、みんな来てくれるって言ってましたからぁ」
「ふーん。…何人ぐらいに声かけてたっけ」
「…そんな…何人だなんて…数え切れないっすよ…」
「で、何人に絞ってんの?」
「えっ?な、なんの事ですか?」
「ウキッ、シチュンはねぇ、今ざっと5股ぐらいしてると思う」
「バカッチョンマン!何言ってんだ!5股ってなんだよ!」
「そうだよチョンマン、シチュンさんに失礼だろ?…最低7人はいます。一日一人みたいです」
「ドンジュン!」
「…ふーん。…じゃ、その娘たち、切って」
「えっ?!」
「それか特定の人1人…無理なら2人ぐらいにして」
「…な、なんで?」
「君、口軽そうだもんなぁ…秘密を守れるかなぁ」
「守れますよっ!」
「うーん、複数の女性とお付き合いするってのをね、止めるわけじゃないんだけどさ
やっぱ商売柄、お付き合いしてる女の子が店にくると…やりにくくない?
それに…知らないんでしょ?その7人もしくは7人以上の女の子たち…7股もかけられてるって…」
「…は…はい…うまく…ごまかしてますし…」
「そのこと、バレないって自信ある?」
「…あ…い…いや…」
「もしバレてね、店で揉め事とか起こると困るんだよね」
「は…はい…」
「だから切るか1人にするか…」
「…はい…」
「それからだね、店に出られるのは」

ウシクさん、かっこいー。いつも控えめだけど、決めるときは決めるんだな
柔らかい口調だけどウシクさんに言われると嫌な感じがしないな(^o^)

「それで、君は?この中で一番真面目そうだけど」
「はい。カン・ドンジュンと申します」
「…君、ホ○トできるのかなぁ…」
「…そ…そんなこと言わないでください。頑張ります。体力には自信があります。英語も喋れますよっ
それに努力は惜しみませんし、カーデザインもできます!砂漠の話やシベリアの話、貧乏の話なら得意です!」
「…うーん…。今人が足らないからなぁ…君は礼儀正しそうだし、かっこいいし、いいかもしれないなぁ」
「本当ですか?お願いします!頑張りますからお願いしますっ店に出してくださいっ!」
「僕だって頑張りますからっ。尻を出せと言われたら尻を出します!」
「…いや、出さなくていいよ…テス、ちょっと」
「はい…」

ウシクさんは困った顔をしていた。ごめんなさーい。でも僕BHCの人間じゃないのにこいつら勝手に相談にきてさ、いい迷惑だよなー

「どうですか?ウシクさん。うるさいから店に出しちゃえば」
「うーん、あのチョンマンとドンジュンは、まあ、あまり問題ないだろうけどさ、シチュンはどーも女性関係ルーズそうだろ?」

ウシクさんと僕はシチュンの方に目をやった。シチュンはどこかに電話してる。不真面目なヤツ〜

「二人だけ店に出すってのも…なあ…」
「シチュンが可哀相ですかねぇ」
「うーん…」

「ウシクさん!切りましたっすっぱりきっぱり切りました!」
「?何を?」
「オンナです。10人全部切りました!」

10人もいたのか…

「…ほんとに切れたのか?」
「はい。『俺は今までの自分を反省して修行の旅にでる。いままで10股かけてて悪かった』って言ったら
みーんな、みーーんな、『うすうす感づいてたわ』って…へへへ…へ…ぐすっ…」
「…そうか、切れたか…でも言っとくけど、店のお客様に手をだしたり、お持ち帰りされたりはナシだぞ!」
「…えっ…だ…だめなんですかぁっ?」
「…ちょっと考えたらわかるでしょーが。問題が起こるでしょーが!」
「…そ…そうですね…ちい!」
「それがイヤなら辞めてもらってもいいんだよ」
「えっや…辞めるなんてそんな。今10人全部切っちゃったのに…そんな…」
「じゃあどうする?お客様に誠意を持って接することができる?」
「…はあ…やったことありませんが、やってみます…」
「…わかった、じゃ三人とも今日から店にでて、詳しいことは中で説明するから入って
中にいる奴等に挨拶しておいて」
「「「はーい」」」

「ウシクさん、すみませんねぇ。じゃお願いしまーす」

僕はホッとして帰ろうとした

腕を掴まれた。ウシクさんに…
そしてぐるんと振り向かされた。ウシクさんに…

「え?な、何か?」
「無責任だなぁ。君が連れてきたんだろ?あいつらの見張りを頼むよ」
「み…みはりぃ?」
「うん。当分の間、あいつらセットで席に付かせるからさ、テス君、三人のヘルプについてよ」
「へっ?新人三人のヘルプ?」

どーしてっ?僕のがホ○ト歴ながいよっ?なんで?なんでヘルプなのっ?

「頼んだよ。頼りにしてる。君がいないとBHCは回らないんだ。チーフだって君に一目置いてるしね」

ウシクさんは爽やかに微笑んだ
どーして?僕はいつからBHCの従業員になったの?

「あのっウシクさんっ!一つ聞いていいですか?」
「なあに?」
「ぼっぼっ僕は…僕は…BHCの従業員なんでしょうか?」
「違うよぉ。テス君は『オールイン』のホ○トじゃんか」
「ですよねっですよねっでもなんで僕がBHCの新人ホ○トのヘルプにつかなきゃいけないんですかっ?」
「それはね…テス君、僕たちが君を信頼してるからだよ。ああごめん、中の掃除があるんだ
じゃあまた5時になったら来てね。信じてるよ!」



わからない

どーして僕はまともに『オールイン』で働けないのだろう…
ぐすっ…


完璧な人

僕は気落ちして、散歩を続けていた
ふうっ…。ちょっと上向きになってきたと思ってた僕の人生なのに…なんだかまた下がりそう…

僕の人生は、ジェットコースターかな…

そんな事を思いつつ俯いてトボトボ歩いてたら、人にぶつかっちゃった

「あたっ…すみません」
「ぐすっ…うっ…うっ…」

あれ…泣いてる

「どこか打ちましたか?痛いんですか?」『そんなドッスンってぶつかってないぞ』
「いや…ちょっと悲しくなって…」

ん?この、甘く囁くような声は…

「ス・スヒョンさんっ」
「…ぐすっ…テス君だね…」
「どどどうしたんですか?なんで泣いてるんですか?」
「…父の事を思い出してね…」

…。確か…映画で見たぞ
この涙でソニョンさんをぐっと惹きつけたんだったよな
ん?まさかボク、狙われてる?

「それに…君の辛そうな様子が…見ていられなくて…」

へっ?
あそうか、スヒョンさんはなんでもお見通しなんだっけ…
「んと…じゃあ、あの新人三人のこともご存知ですか?」
「…」
「僕があの三人のヘルプにつかされるっていう事」
「…。ウシクは君を信頼してるんだよ」
「…そ…それはちょっとウレシイけど…でも…なんで僕ばっかりややこしいことを押し付けられるのかって…」
「君は自分をわかってないね」
「え?」
「君の長所は、他人の長所を伸ばしてやれる才能があるところだよ」
「へっ?」
「そして、他人を和ませる」
「…はあ…」
「ミンチョルだってチョンウォンだって、みんな君のおかげで和んでるだろ?」

そうかぁ?ミンチョルさんなんか、変になっちゃったし、チョンウォンさんは…もともと変だったのが、どんどんその道を極めていってるみたいだし…
とても長所を伸ばしているように思えないけどなぁ…

「長所は、伸びる前に苦しむものだよ」
「は?」
「成長する前に葛藤があるんだ…僕だって…」

え?スヒョンさんでも苦しいことがあったのかな?

「僕は…父に…遊びが過ぎると言われて…うっうううっ…人助けをしたつもりなのに『もっと他の方法もあったろう!』って言われて…うううっ」

スヒョンさんは辛そうに、悲しそうに泣いている

「な…泣かないでくださいよぅ」

ああ映画といっしょだ…僕まで泣けてくるよう(;_;)

「そ…それで…『そんなにやりたいなら下界へ行ってしまえ』って…突き落とされてうううっ」

下界?突き落とされた?

「ミンチョルさんといっしょですねぇ、ある意味」
「…うううっ…。でも女性を幸せにしてあげる他の方法なんて、あるのかい?君なら解りそうだね
教えておくれよ、僕は何でもお見通し…だと思ってるのかい?映画とは違うよ
僕は今はもう…生身の人間だよ…父に見放されたんだものうううっ」

父って?見放されたって?生身の人間って???

あああっめんどくさいっ…なんで僕のところにはこうややこしい人ばっかり寄ってくるの?
この人ホ○トとしては超一流なんだから泣いてないで仕事すればいいんだよ!
なんも悩むことないじゃんか!

「僕はどうすれば父に認めてもらえるんだろう。どうすれば帰れるんだろう…」

どこへ?大体ほんとは何者なのさ!
わかんないっ

「テス君…。僕は…今は生身の人間だけど…君の考えていることはズバズバ僕の心に入ってくるんだよ…」

てことは聞こえてるってこと?

僕はスヒョンさんの顔を見た
スヒョンさんは寂しそうに笑って頷いた

「…あなたでも悩むんですねえ」
「たまにね」

そういうと急にニッコリ可愛らしく笑った

演技?何?この人なに?
僕は混乱してしまった

「まあ、君も今夜からあの新人三人を教育しなくちゃなんないから、大変だけど、頑張ってね」
「あのっスヒョンさんっ」
「僕は教えるのは不得意なんだ。…あまりにも困った時には何かアドバイスしてあげられるかもしれない
あくまでも『かも』だけど…。じゃ、夜、店でね」

そういってニッコリ微笑んで行ってしまった
…。僕…一体どうすればいいのさ…もうっ!
ミンチョルさんっ早く帰ってきてよう〜!

僕はまた歩きだした。するとポンと肩を叩かれた

もしかしてミンチョルさん?いや、あの人はもっと強引に肩を掴んで引っ張るしな…

そうっと顔をあげて振り向くと…

「…スヒョンさん…なんですか?何か言い忘れたんですか?」
「いや、僕どこへ行こうと思ってたのかわかんなくなって」
「…は?」
「ただなんとなく歩いてたら君の姿が目に入ったんで、君を見ていたんだ
そうしたら急に悲しくなって、父を思い出してさっき泣いてたんだけど…」
「はあ」『何?この人…』
「君…なにか悩んでる?」
「…」

だからさっき言ったじゃな!なんで僕が関係ない店の新人ホ○トのヘルプにつかなきゃいけないのか!それが!な!や!み!だよっ!!

「そんなコワイ顔しなくても、その悩みはさっき聞いたからわかってるよ。そうじゃなくて、もっと違う事で何か悩んでない?」
「違うこと?」
「…女性のことで…」
「女性?」

…。チョンエの事かな?

「それだ。チョ…チョンエさん?」

…げっ。読まれてる…やりにくいなぁ…。別に悩みってほどの事でもないけどなあ…

「悩みってほどのことでもない?そうかなぁ」
「そうですよ。チョンエがキツネの話ばかりするってだけですから」
「キツネ…ああ、あの縫いぐるみね…」
「はい。あれがいたく気に入ったらしくって…」
「…とり憑かれてたりして…」
「えっ?」

キツネツキ?

「ふははは。冗談だよ。うーん…そうだねぇ。そのチョンエさんは、何か君にうっすらと不満を持っているんじゃないか?」
「ふ…不満?どーして?」
「…例えば…君は優しいし一緒にいると気持ちが安らぐ。…けれど、スリルというものを味あわせてはくれない…とか…例えば…だよ」
「スリル?」
「そう。穏やかな毎日は平和だし幸せだ。けれど、毎日ずーっと穏やかだと、それに慣れてしまって、幸せだという実感が薄れてしまう」
「…そうですかぁ?」
「たいていそういうモンだろ?特に女性はそんなモンだろ?」
「しらないっ。僕そんなに女性のことわからないっ」
「…だから、君といると平穏無事で幸せなんだけど、彼女はスリルと秘密を求めているんだよ」
「…」
「それがキツネへの慕情となって溢れてきている…」
「キ…キツネへの慕情?」
「そう。僕はそう感じる。ま、実際会ってみないとハッキリわかんないけどね。一度BHCにつれておいでよ。僕が見てあげるよ」
「は…は…い…いいえっ結構です!」
「え?どうして?」
「…」

そんな、スヒョンさんに会って、チョンエのハートがドロドロになったら…
そしたらスヒョンさんは絶対…禁止のお持ち帰り行為をチョンエに働くに違いないじゃんか!
そんな物騒なとこにチョンエを連れて行くなんて!映画で見てるんだからなっ!スヒョンさんは絶対危険なんだからなっ!

「…テス君…」

あ、また悲しそうな顔して…フンっ騙されないからなっ!

「そ…そんな風に僕のことを思っていたなんて…寂しいよ…悲しいよ…」

フ…フンっ騙されないったら騙されないぞっ!

「映画と現実は違うんだよ、テス君。僕はいま、ホ○トとして頑張っているんだ…。そんな、人のオクサンを盗ろうなんて…」

盗らなくてもやることはやるんじゃん!知ってるもん!

「…テス君…下品な考えはしないでくれる?」
「だってそうでしょ?スヒョンさんはオトコにとっては敵みたいなモンですよ!」
「テス君…」

あ…泣いちゃった…。でもホントの事だもん。冗談じゃない、なんでチョンエを連れてこなきゃいけないのさ!ふんっ

「君を助けてあげたかったのに…僕は君に嫌われているんだね…悲しいよ…」

スヒョンさんはそういって今度こそ本当に立ち去った
…よくは知らないけど、悪い人じゃないと思うけど…でも信用はできないもん!

ふんっ


その夜、BHCであったことを思い出して…

みた

僕は、新人三人をコントロールできず、とっても困った

チョンマンは、やたらとジョッキを持ってくるし、うるさいし、すぐに歌真似とかモノマネとかして目立ちたがるし…
シチュンは、ちょっと油断してると、お客様の耳元に口をよせて何か囁いて電話番号交換しようとするし(新人なのに生意気な事すんなっ!)
ドンジュンはドンジュンで、マジメなんだけど、話題が…固くって…

それはそれなりに喜ばれてはいるけど、誰も車体を強化する方法だとか、エンジンの回転数だとか
氷道の早い走りかただとかには本気で興味持たないよ…女の人だしさぁ…

ドンジュンがのめり込んで車の話を熱く語れば語るほど、お客様の笑顔は、凍り付いてくる…
辞めさせようと声をかけても
「今大事なところなんです!」
って精悍な顔で睨まれるし…

チョンマンに
「うるさいから静かにしろ」
って言ったら
「サンキューサー!」
と言って今度はパントマイム始めるし、音楽がかかると踊り出すし(うまいけど…)
そして、かつて屋上でセッ&%$した話や、彼女とビデオを撮りながらセッ%$&した話や…そういうことをベラベラベラベラ喋るんだ…

たまりかねて
「ちょっと飲み物取ってきて」
と声をかけると、ビールジョッキを片手に三つずつ持ってくるし…
誰もビール頼んでないのに…

まあ、お客様は
「猿やって」
とか
「ロッキーやって」
とかリクエストして楽しんでるみたいだけど…。落ち着きがないんだもん…

あとはシチュンだよ…

なんだかお客様にくっつきすぎてる
知らない間に腰に手を回してたり、こっそりホッペにチュウしてたりして…
それも僕の目を盗んでさ
そんなのホ○トじゃないんだぞ(ここではそんなことしないんだ!)って言ってやったら

「ハイハイ…フフン」

って鼻で笑ったんだアイツ!くそう!

イライラしてると、隣のテーブルからお客様の笑い声が聞こえてきた
盛り上がってるな、あっちのテーブル

ふと見るとスヒョンさんと目が合った
スヒョンさんは、シチュンと同じように鼻で笑った!プンっなんだよっ

僕は悔しくて睨み付けてやった
するとスヒョンさんはすっと立ち上がってこっちにやってきた

「少しお邪魔します。スヒョンです。よろしく」

途端にお客様の目の色が変わった。モテモテ…
シチュンにベッタリしてたお客様も、姿勢を正してにっことりと上品な笑顔になる

「ここの三人は、今日初めて店に出たんです。何かと失礼な事をしでかすかもしれません。どうぞ、遠慮なく叱ってやってくださいね」
「あら〜」
「まあ〜叱ってもいいの?」
「ええ。お客様のお言葉が、僕らホ○トの質を高めてくださいますからね」

ふむ。一理ある

「本当はこのテス君が叱らなきゃいけないんだけどなぁ。テス君って優しいから…」

ん?んん?…意地悪な目の光…イヤミ?

「シチュン。君はお客様に対するサービスというものをよく判ってないみたい。後で僕のところに来るように」
「は…はい…」
「それからドンジュン、車の話はさわりだけでいいよ。そんなに詳しい話は誰も聞きたくないよ
詳しい話をしたいなら、話し方を考えてね、お客様に興味を持ってもらえるようにしなくてはね」
「…は…はい…」
「それと…猿君」
「ウキッ」
「あのね。君、芸達者なのはわかったけど、『やってくれ』って言われてないのにやり続けても誰も見てくれないよ
芸は見せかたが大切。もう少し落ち着いて、お客様が何を求めているのか勉強しなくちゃ…ね?」
「…はい…」

スヒョンさんは三人の行き過ぎたところを指摘し、その後お客様の心をくすぐるリツプサービスをし
僕の方をチラッと見てフフっと笑って担当テーブルに戻っていった

三人は一様にシュンとしてしまった
なにもお客様の前で言わなくってもいいじゃん。どうやって盛り返せばいいのさ!

「テス君、それはきみが考えることでしょ?」

スヒョンさんは僕にだけ判るようにそう言った
くそっ。からかわれているような気がする


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