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スヒョンの悩み

僕の悩み…解るだろ?
え?ドンジュンの事だろうって?
それはそうだよ。みんな知ってるんだろ?あのドライブの事…
その後ジュンホ君に癒されてドンジュンはなんとかピーピーに戻った『よう』だけど…

本当に戻ったんだろうか…

時々電話がある
誰とも告げずに

「今夜ならいい?」

とか

「ドンペリある?」

とか

「チーフとモンゴル行っちゃおうかな」

とか…

誰と告げなくてもアイツだって判る…
治ってないじゃん・・。みんな判ってないな…

ジュンホ君に癒されたドンジュンと、何にも癒されてない僕は、あの日のメインだとかで『ボタン外しショー』をさせられた…
解るだろ?僕がどんなに惨めだったか…
アイツは、普段通り真面目そうなふりをしてた…
みんなは気づかないんだ。鈍感!なぜ演技だと解らないんだ!

僕は、最初、ショーをぶち壊す気でいた
だから、音楽が始まっても動かなかった
ミンチョルがキツネ目で睨んでいたが、そんな事より僕は僕の身の安全を確保したかった
だが、あいつは・・少し離れたテーブルから、僕の方に向かって何かを転がしたんだ…

僕の靴に当たった何かを拾い上げてみた
ミニカーだ…

く…車…

僕は、一瞬にして凍り付いた
事もあろうに、そのミニカーは「アクター」だったのだ…

恐る恐るドンジュンの方を見ると、他の人には判らないように僕を恐ろしい目で睨み付けている…
僕は身動きできなかった

昔、まだ幼かった頃、お父さんにこんな話を聞いたことがある

堕ちた天使が悪魔に出会うと、一瞬で魅入られてしまって、骨の髄までむさぼり食われる…

僕はまだ何も知らない子供だったから、その話が怖くて怖くて、「おちたてんし」にはならないでおこう、と思ったんだ。それが…
まさか…あいつが悪魔だったなんて…

僕の脳は既に蝕まれているみたいだ…
怖いなら離れればいいのに、離れることができない…
だからといって、飛び込んでいくこともできない
傍からみれば、きっと僕がドンジュンを弄んでいるように見えるだろう
いや、実際少し前までは、そうだったんだ
でも、今は…

ドンジュンは、鋭い目で僕の目を見つめながら、けれど他の人たちにはまるで純朴な青年が爽やかに歩いているように思わせながら、僕の方へ近づいてきた
そしてはにかみながら

「ごめんなさい、足、大丈夫でしたか?」

と言った

僕は、手に持っていたミニカーを無言でドンジュンに差し出した。目を見ないように…

「靴、傷つきませんでした?」

わざと僕の顔を覗き込むドンジュン

「んあ…大丈夫だよ」
「ショーだよ、スヒョンさん、やらなきゃ」

小声で告げる悪魔

「やらないの?…無責任だよ…」

呟く悪魔
僕は…それでも動けなかった
そんな…こんな奴のボタンを外すなんて…正気の沙汰じゃない!
今の僕に出来るわけがない!

ドンジュンは、ミニカーごと僕の手を取り、自分のシャツの胸元に寄せてこう言った

「あっ…ちぎらないで!」

千切る?何を?お前が僕の手を自分のシャツに持っていったんだろう!
僕はキッと彼の目を見た・・見てしまった…
なんて目だ…なんて表情だ…
きっと…周りからは、ドンジュンの唇の震えと早くなった息遣いとしか見えてないはずだ
だが、その目は、僕を思いのままに動かす力を持っていた
まるで僕の腕を留めるかのように握られたドンジュンの手で、僕は彼のボタンを外し始めていた…
僕の意志ではない!

「あっ…乱暴にしないで!」

涙が溢れそうになった…僕の意志ではない!少し動かせばすぐに外れるように細工された奴のボタン…
なぜ僕は、操られているんだろう…
ドンジュンの目と、口元の表情は正反対だった
観客はドンジュンが嫌がっているように思うだろう
本当は僕が嫌がっているというのに・・。誰もそうは思わないだろう…

4つめのボタンが外れ、僕はほっとした
これで…終りだ…と…

だがドンジュンは手を離さない。僕にボタンをあと二つ外させた…

きゃ〜。わぁっ。おいっやりすぎやりすぎ

周りが騒いでいる
僕の心も叫んでいる

なんで?なんで?なんでえええっ?
そして…ドンジュンは自分の肌に僕の手を当てたんだ… 僕は、ありったけの勇気と力を振り絞ってそこから手を離した
その反動でドンジュンに向かって倒れ込んだ

はあはあはあ…

口が利けない
なんでこんな事するんだ…

「ど…どうしてこんなっこんなっううっううっ…」

…悪魔は先手を取った…
僕はどうしていいのか解らなくなり、控え室に駆け込んだ

大丈夫か?ドンジュン…
大丈夫です、すみません、打ち合わせがうまくできてなくて…
僕、泣けてきちゃって…
そうか、まだ気分が不安定なんだな、いいよ、お客様皆さん、固唾を飲んでそれなりに楽しんでらしたようだから…ちょっとあっちで休んでなさい
はい、チーフ

はあはあはあ…

「スヒョンさん、なにびくついてんのさ。ちゃんとやってよね」

悪魔だ…

「…まあいいや、今度はもう少しショーとして見せなきゃ。同じやり方じゃ受けないし…」



「あ、そーだ。僕のアクター、スヒョンさんちの駐車場にとめたまんまだった。今日行ってい〜い?」
「だっだめだっ」
「なんで〜?」

ドンジュンが首に巻き付いてきた
誰かに見られたらどうする!

「ジ・ジュンホくんっジュンホく〜ん」
「ちっ!僕はアイツが苦手なんだ!調子が狂う。アイツこそ本物の天使だからな!…なぁんちゃってぇ…」
「?」
「僕のこと悪魔みたいだって思ってるんでしょ…」
「う…」
「違います〜。僕はただ…スヒョンさんがその…へへっ」

「ドンジュン大丈夫だったか?」
「あっ、ミンチョルさぁん」


なんだ…やけにミンチョルになついてる…

僕はまた新しい悩みに翻弄されるような気がした…


気晴らし

少しドンジュンから離れる必要性がある
だが、誰もわかってくれない
僕はそんなにも信用されてなかったの?(元)天使なのに?

僕はBHCに出勤する前に、街を歩いてみようと思った

「あれ?スヒョンさん、どうしたんですか?ドンジュンは?」

だからなぜ僕とドンジュンがいつも一緒だと思う!
僕は少し怒った顔をして声の方に振り向いた
テス君がいた

「テス…君…」

ミンチョルは以前、悩み事をテス君に相談していたらしい
僕もテス君に相談してみようか…

「君、今暇あるかい?」
「え?20分ぐらいなら…」
「じゃあお茶飲みにいこう」
「えっ!!ぼぼ僕ですか?」
「他にいないでしょ?」
「ドドドドンジュンがまた怒ります!困ります!それでなくても僕とドンジュンはミンチョルさんをめぐって恋のライバ…あわわ…」
「恋?…テス君、ミンチョルに恋してるの?!」
「いっいっいえっ!」
「ドンジュンもミンチョルに?」
「あうっいえ…ドンジュンは…その…スヒョンさんが掴まえておいてくれれば…」

掴まえておく?僕が?

僕は複雑な気持ちになった
ドンジュンとテス君がミンチョルを取り合っている…

そうしてくれればいいじゃないか
僕は以前の僕に戻れて…そして…女性相手にあんな事やこんな事…

ああ…僕の思考は本当に地に堕ちてしまったのか…

「あの…スヒョンさん?ひっ」

僕はテス君の腕を強引に引っ張って、喫茶店に連れていった

「あのあのあのっ引っ張らないでくださいっ誰かに見られたらっ」
「見られたら何なの?」
「ごごご誤解され…ます…」

誤解か…僕はずうっと誤解されたままだよ、テス君
僕がフッと笑うと、テス君は余計に表情を固くした

「コーヒーでいいかい?」
「あのっぼくっ…コ…ココア…」
「フフ…かわいいね。じゃコーヒーとココアを」
「かっかわいいなんて言わないでくださいっ!」
「…ごめん…嫌だった?」
「…」
「君の嫌がることはしないよ…」
「へっ?」
「君も僕がドンジュンにちょっかいかけてるって思ってる?」
「え?」
「昨日の…ボタン外し…」
「ああ…あれね。あれは、ドンジュンが仕掛けたんでしょ?」
「え?」
「違うんですか?」
「…ほ…本当にそう思ってる?」
「ええ…いくらジュンホ君が純粋だからって、そんなすぐにドンジュンのスヒョコマシ…あうっいえっスススケベが治るとは…」
「…ほんと?…」
「ええ。僕の直感では、アイツは相当やり手です!純朴そうなフリして人を惑わせる!」『ミンチョルさんだってコマされそうになってたもん。許せない!』
「…少し前までは…本当に純朴だったんだ…やはり僕がいけないのかな…」
「違いますよ!元々アイツはスヒョ…いえ…コマシの才能があったんです!あいつこそホ○ト向きだと僕は感じました!フンっ」
「…テス君はドンジュンがキライなのか?」
「き…キライってわけじゃないけど…でも…ミンチョルさんにまでちょっかいかけるなんて…」『許せない!』
「…僕の事も、いやらしい奴だと思ってる?」
「え?スヒョンさんの事?なんで?スヒョンさんはそういうキャラなんだからいいんじゃないですか?
でも今はなんだか沈んでてスヒョンさんらしくないけど」
「テスく…」
「スっスヒョンさんっ泣かないでくださいっどどどどうしたんですか?」
「み…みんな…きのっきのうのっぼたんはずししょーのっときのっ…」
「ス…スヒョンさん、喋りがひらがなになってますよ」
「そのっときのっぼくっぼくっううっぼくのっあのっぼたん6つもっはずしたのっひっくひっく」
「スヒョンさん…」『ピーピースヒョンさんだ…えへへ。いいもの見ちゃった…』
「ぼくがっやったってっひくっおもおもおもってるのかなっひくっ」
「ボタン6つ外したやつ?その後、ドンジュンの胸に手を入れたってやつ?」
「うっううひくっ」
「ドンジュンの仕業なんでしょ?」
「テ…」
「あーあ、涙あふれちゃってぇ」『えーっと。ミンチョルさんの技を試してみようかな』

テス君は、親指で不器用に僕の涙を拭いてくれた
爪が引っかかって少し痛かったが、彼は彼なりに一生懸命技を習得しようとしているようで、微笑ましく思えた
だが、この技は元々ミンチョルの技…やはりテス君はミンチョルにイカレているんだな…

「上手だね、『親指ハンカチ』」
「『親指ハンカチ?』そういう名前なんですか?この技は」
「いや…僕が勝手にそう呼んでる」
「えへっ初めてやってみたんです〜」
「そう…頑張ってね…」
「…スヒョンさんって…優しいですね。僕ちょっと爪が引っかかったなって思ったのに上手だなんて言ってくれて…」
「…」
「それで何か話があるんですか?」
「あ…いや…いいんだ。昨日のショーを一体どんな風に見てたのか…知りたかっただけだよ…」
「…スヒョンさん、疲れてるみたい」
「疲れるよ…ドンジュンがハンドルを握るとあんな風になるなんて思いもしなかった…」
「でも?ホ○トには適度なお色気が必要なんでしょ?」
「…そうだなぁ…」
「スヒョコマ…シ…みたいに暴走しない程度にお色気が出せたら、ドンジュンも安全ですね」
「…」
「それから、スヒョンさんのリハビリも必要かな」
「リハビリ?」
「っていうか…何かに没頭してみて、一度自分を清算するような…」
「…没頭?」
「例えば〜盆栽に打ち込むとかぁ」
「ぼ…ぼんさい?」
「チョンエは、イライラする時に編み物してます。僕からみると編み物なんて余計イライラしそうなのに、『編んでいる最中は何もかも忘れられるの』って言ってました」
「…そう…ありがとう…」
「あ…スヒョンさん。どこ行くんですか?」
「ちょっと買い物してくるよ。ありがとう。なんだか道が開けたみたいだ」
「スヒョンさん?」

テス君のアドバイスは的確だな
僕は爽やかな気持ちになって買い物に行った

僕自身を立て直すために…毛糸と編み棒と本を…
盆栽は持ち運びできないだろうし…
編み物なら、好きなところでできる…

そして、ドンジュンのために…ハンドルのおもちゃを…

いろいろあるんだなぁ。なに?おでかけアンパンマン?
アンパンマンとブッブッブー
キティちゃんのドライブ大作戦?
目玉親父の霊界大冒険?
ノンタンのブーブーハンドル?

どれがいいだろう…ドンジュンに似合うのは…ウプっ…似合わないっククク
どれもカッコ悪いぞ
ミニカーなんてのはカッコイイからだめなんだ!このかわいらしいおもちゃのハンドルなら…ドンジュンの色気もきっと…半減するぞ!

僕はハンドルと名のつくもの全てを買いあさってBHCに向かった

以下「ある日のBHC?バージョンアップ」に続く


謎の男

僕が誰もいないBHCで、ドライブ・シュミレーション装置を動かそうとしていた時のことだ

動かない
何度キーを回してもだめだ

故障の修理をしたいけど、これは車のようで車ではない
ボンネットもない
だから修理できない

コンピューターが壊れているのか?
動かない装置に座ってハンドルを握っていても、なんの気力(人はそれを『お色気』というが)も湧いてこない
スヒョンさんが来る前に気力を高めておこうと思ったのに…

そして今日もちょっと意地悪したかったのにな…

僕が悪魔だと思ってる人っていっぱいいるんだろうな…
なんでこんなになっちゃったんだろう…

ジュンホ君に慰められて僕はこのままでもいいんだと思った時、はっとした
僕をこんな風にしたのは、スヒョンさんじゃないか!
こんな風にしておきながらおじけづくなんて…
それにアクターもスヒョンさんちに置いたまんま

ふふ
取りに行く時にどんな事してやろうかな…へへへ

はっ…いけない。また悪いこと考えてた…

僕がそんなことを考えている間に誰かが入ってきた

「ほぉ、シュミレーション装置か…」
「だっ誰だよアンタ」
「ちょっと操縦させてくれないか。久しぶりだなぁ」
「操縦?」
「ん」
「動かないんだ。壊れてて」
「…残念だ…」
「あの、アンタ何者?」 「ああ…ここへ来るようにって黒ずくめの男だか女だかわからない人に言われたんだ」
「?mayoさんかな?新しいホ○ト?」
「…失礼」

その男は、突然鋭い目付きになって、壁に隠れて廊下の方を窺った

「どうしたの?アンタ、名前は?」
「シッ」
「シッて…何さ、泥棒も強盗もこないよここには…アンタ何あうううっ」

僕が喋り続けていると、その男は音を立てずに素早く僕の背中にまわり、僕の口を黒い革手袋をした左手でふさいだ

『スパイ?』
「聞こえるか…かすかに音がするだろ?」
「え?」
「これは…きっと…あそこだ!」

バキューンパーンパーン

「わああっ店を壊すなよっ!」
「大丈夫だ。盗撮カメラと盗聴マイクだけ壊した」
「…盗撮…ああ…」
「ああ?」
「ここにはそういうのいっぱい仕掛けてあるよ。壊したの?!…テソンさん怒るぞ〜…いや、mayoさん、もっと怒るぞ…どうすんだよアンタ、弁償だぞ弁償」
「盗撮されていると知っているのか?」
「知ってる」
「…」
「アンタ、銃はダメだよ。お客さんが怖がるから…」
「…僕は君たちの安全を守るために配属されたのでは…」
「ああ、違うと思うよ。多分…」
「…出直してくる」
「ちょっと待ってよ、あんた新人ホ○トじゃないの?」
「…いや、まだ別の仕事が残っているので、仕事が終ったら…もしかしたら顔を出すかもしれない…」
「ちょっと待ってよ、アンタ、名前は?」
「…ミン・ギョンビン。君は?」
「僕はカン・ドンジュン。ギョンビン、君のその…羽交い締め…ちょっキュンとしちゃった…えへっ」
「…君、なにシナを作っている?とにかく僕は行く…」
「あっ待ってよ。絶対来てね。仕事終ったら絶対…僕待ってるからさぁねえって〜あーあ、行っちゃった
かっこいいな。ピシッとしてて、ストイックで…」

謎の男は去っていった
また来るかもしれないって?
mayoさんに聞いてみなくちゃ…かっこいいもん
ドライブしたいな〜彼と…てへへへっ…

ストイックな男の魅力って…たまらないなあ。そう言えばスヒョンさんも、最初僕のことを『ストイックな男』だと思ってたらしいし…

あっ、もし彼がここで働く事になったら…スヒョンさん、いの一番に目をつけるんじゃないだろうか…
いけない!そんな事させないぞ!
やっぱりスヒョンさんをドロドロに溶かして、彼に目がいかないようにした方がいいかな?えへへへっ


うまくいかない

むずかしい…
編み物って難しい
テンシなんだからなんだってできて当然だと、自分でも思うのに、編み物ってのは難しい
難しいというか…イライラする

テス君の的確なアドバイスをもらって購入したのはいいけど、やり方も知らないのにいきなりセーターは編めないものだろうか…
あとでテス君に電話してみよう

それだけではない。難しいのは…
僕が買ってきたハンドルのおもちゃ…
ドンジュンは一つ一つ手にとって眺め、フッ…と言ったっきり黙ってしまった…

「それ、使わないの?」
「…」

黙って『おでかけハンドル』をテーブルに乗せ、残りのハンドルは袋に詰めるとジュンホ君に渡した

「ドンジュン、ジュンホ君にあげるの?」
「ジュンホ君ちのお子さんに…」
「なんで?気に入らない?」
「…」

ドンジュンは僕を色っぽい目で見つめ、こう言った

「子供レベルにしたいわけね?」

こ・子供レベル?

「な…何を?」
「僕のフェロモンを…」
「こっ…子供はフェロモンなんて持ってないでしょ?」
「…」
「あのっドンジュン、そんな目で僕を…みな…いで…」
「僕は前に、スヒョンさんに『へんなことしないで』ってさんざん頼んだのに…したよね?」
「へっ…変なこと?」
「そのせいで僕、こぉんなになっちゃったぁ〜」

ドンジュンの腕が僕の肩にかかる!顔が近すぎるっ!だめだっ誰かに見られたらっ!

「今夜、スヒョンさんちに泊まる」
「えええっ?」
「僕の車、置きっぱなしだもん…邪魔でしょ?」
「じじゃあっ、取りに来てそのまままかかか帰ればっぼぼぼ僕は用事があるしっ」
「なんの用事?」
「あ…み…」
「あみ?」
「あ…いや…」
「ねぇ…誰もいないよ…」
「はい?」
「キスでもしよっかぁ」
「げえええっ嫌だっだめっお願いっうわああああ」ゴツン☆

僕は…頭を柱の角にぶっつけた…
だからその後の記憶が…途切れている

僕のクチビルは…無事だったのか…

目を覚ますとドンジュンとウシクが仲良く『おでかけハンドル』で遊んでいる
それは無邪気に遊んでいる

「結構おもしろいねえ」
「童心に帰るなぁ」

そんなに面白いんだろうか?
それより、ハンドルを握っていてもウシクには被害が出てないようだ…
僕は、自分のクチビルの無事よりも頭のコブよりも、ドンジュンの様子が気になって、二人の後に行ってみた

「これってさぁ、おでかけする時に使う物なんだよねぇ」
「わかんない。こんなの初めてみたもん。でもドンジュンがそれやってると、なんかカワイイね」
「そ?」
「うん、安心するよ、あのシュミレーションのハンドルは危険だけど…」
「…」
「ん?…ひいっ」
「ふはははは。罠にかかったな!」
「ぎゃああっドンジュンっ抱き付くなっ!やめろぉっそんな、僕を騙すなんてっ!騙すのはスヒョンさんだけにしてくれえええっ」
「なんで僕だけを!」
「あっスヒョンさん」
「…なにじゃれあってんの?」
「あはは、ふざけてただけだよ、ね?ウシクさん」
「うん。そうそう」
「…無事なのか?ウシク」
「うん」
「抱き付くな、やめろぉって言わなかった?」
「言ったけど、大丈夫です。今度こういうショーやろうかって打ち合わせしてただけです」
『ほんとか?…なんだかウシクの目の色がいつもと違うような気がするけど…』
「スヒョンさぁん、このハンドル、つまんなぁぃ!」
「え?今面白いって言ってたじゃんか」
「だからぁそれはぁウシクさんとのショーの予行演習であってぇ…つまんないよ、僕子供じゃないんだからさ」
「…」
「でもドンジュン、新しいショーができるんだからさ、いいじゃん」
「…ウシク……ちょっと来てくれる?」

「なんですかスヒョンさん」
「あの…さっきのショー、なんて言うの?」
「『ジャガー・チェンジ・ショー』って名前にしようかなって」
「…危なくないのか?つまりその、抱き付くってだけで終るのか?」
「ええ、今のところ」
「今のところ?!君、君、危険だと感じないのか?」
「別に…」
「…まさか…こないだのシュミレーション装置の時、ドンジュンのフェロモンにヤられちゃった?」
「何言ってるんですか。ドンジュンはあれからジュンホ君に癒されて、落ち着いてきたんじゃないですか!酷い事言うと僕が許しませんよ!」
「…ウシク君、君は真面目な男だから…僕は心配なんだよ…ドンジュンというヤツは…」
「ドンジュンと言う奴は?なあに?」
「…」

ドンジュンは、僕の後ろから僕の首に巻き付いて、僕の肩に顎を乗せた
ウシクの目に、嫉妬の色が浮かぶ

「ねぇ、ドンジュンという奴は…どういう奴なの?人んちにやってきてぇ、お酒飲んだくれてぇ、シャワーあびてぇ、パンツ借りてぇ、それから…んふふ…」
「うっうなじに喋るなっ」

ウシクの嫉妬の色はますます濃くなる

「なんでぇ?力が抜けるからあ?」
「そっそうだっ…あひっ…」
「んふふ」
「ドンジュン!あっちへいこ!」
「あん…」

ついにウシクがぶちきれた
しなだれかかっていたドンジュンの腕を引っ張って店の方に連れていった
助かった…

助かったけど…ウシク?ドンジュンにラブ?!

いや、ウシク、君にはもうすぐ結婚する奥さんと、お義父さんが…ウシク…

心配だ
なんでこう、うまくいかないのだっ!テス君!もう一度アドバイスしてくれっ!


マフラー

ウシクの変化は一瞬だった
多分、ご飯時のお祈りで目が覚めたのだろう…あれからドンジュンに対しては、一定の距離をおいて付き合っているようだ

彼は頭がいい…

それに比べて僕は…

「初めてでセーターって無謀です」

テス君の奥方からの伝言を聞き、納得した
だからマフラーを編む事にした
まっすぐだからいい

まっすぐ…

ドンジュンもまっすぐだったのに…
やはり僕のせいなのかな…ふうっ

「スヒョン、早いな」
「あ、ミンチョル、おはよう、君も早いじゃないか」
「ああ、祭の事でいろいろ考えなきゃならないから」
「大変だな…」
「君が本調子なら手伝ってもらえるんだけどな。早く感覚が戻るといいな」
「うん…けど、以前の僕に戻るのは・・怖いな。人を傷つけそうで…」
「ハハハ、何言ってるんだ。元に戻ればうまくやれるさ」
「…そう…かな?」
「ところで…何編んでるんだ?」
「マフラー」
「ドンジュンに?」
「ん」
「…派手じゃないか?黄色と黄緑のシマシマなんて」
「そう?」
「僕だったら受け取らない」
「君には似合わないな、確かに」
「ドンジュンにも似合わないと思うけどな」
「う…」

「おはようございますチーフ!」
「噂をすれぱなんとやらだ…おはようドンジュン」
「…」
「ん?どうした?」
「…チーフ、今日なんだか…」
「ん?」
「前髪越しの瞳の色がいつもより深くって…僕…溺れそうです…」

何言ってんだこのコマシ野郎!

僕は編み針をイライラと動かしたので編み目がポロリと外れてしまった…

「ドンジュン、僕を惑わす気ならばそんなセリフは不適切だ」
「…」
「君は僕を知らなさ過ぎる」
「それはチーフも同じでしょう?僕のこと何も知らない」
「知ってるさ。もうハンドルに頼らなくても『自由自在』だってことぐらいね」
「くっ」

ドンジュンは俯いて下唇を噛んでいた
僕は、ドンジュンの方を盗み見ながら編み針を動かしていたので、表編みと裏編みとを間違えてしまった…

「あまり人を手玉に取ろうとしてると、酷い目にあうよ…$%&$」

ん?!ミンチョルのやつ、ドンジュンの耳元で何か囁いた!
ドンジュン!何故そんな恍惚の表情を浮かべる!

ああ、集中できない
目が横目になる!

「クフ、嫌だ…くすぐったいよチーフ…」
「フフ…○▲◇」

聞こえない!ミンチョルめ!ただでさえ低いボソボソ声なんだ!もっとはっきり喋れ!

「あ…ん」

何してる!なんだその声は!

「フフフ…ね?」
「あ…こんな…」 「うまい?」
「すごく」

何がうまいんだっ!なにがすごくうまいんだっ!

「あ。口の中でうぐっ」

うぐ?!くそっ

僕の横目を察知したのかこいつらは僕の背中にまわって何事か行っているのだっ!くうっあっ!

バラバラバラ…

編み目が…全部外れた…

ツロツロツロツロロロロ…

ほどけていく毛糸…

やっと30センチ編んだのに…

「あ…またん、ん、あまい」
「噛んでごらん」
「そんな…」
「そうっと…」
「あ…」

くちゅとかぺちゃとかいう小さい音が僕の頭の後から聞こえている
僕は編み棒を編みかけのマフラーから引き抜くと、一気に毛糸をほどいた

「ん…ん…」
はむはむはむ

くうううっ!何故僕の真後ろでこんな事を!

僕の頭の中では、ドンジュンとミンチョルの、それはもうとんでもないキスシーンが展開していた

見たい、見たくない、見たら僕はどうなるんだ?
ドンジュン、ドンジュンは僕に気があるんじゃないのか?

僕たちは…僕たちはまだキスもしてないというのに何故ミンチョルと?!

「ドンジュン!」

我慢の限界に達した僕は、思い切って後ろを振り返った

「なに?」
「何だスヒョン、せっかく編んでたの解いちゃったのか?」
「お前達が気になって編めなくなった!」
「なんで?何が気になったの?」
「人の真後ろで・・ラブシーンするな!」
「ラブシーン?」
「ああ!噛むだの噛まないだのっ!」
「スヒョン、顔が赤いぞ」
「ミンチョル!いやらしい!」
「…お前に言われたくないけどなぁ…何がいやらしいんだ?」
「僕のドンジュンとキスキスきすをっ」
「僕の?」
「あういやそのっ」
「スヒョンさんちは今夜行くって言ったろ。何が悪いのさ、ミンチョルさんと」
「目の前で堂々と二股かけるのはやめてくれ!」
「は?二股?」
「ドンジュン、スヒョンは何か勘違いしてるようだ。お前から説明してくれないか?ほら、コレ」
「あ、はい」

ミンチョルはドンジュンに何か渡すと、素知らぬ顔で行ってしまった

「スヒョンさぁん…」

僕はドンジュンの顔が見れなかった

「スヒョンさぁんってぇ」

甘えた声をだしてドンジュンは僕の首に巻き付いてきた
さっきミンチョルとハムハムだのくちゅぺちゃだのしていたその、舌の根も乾かぬうちに、僕にモーションかけるなんて…

この子は本当に悪魔になってしまったのか?

「なんで怒ってるの?…いいものあげるよ。目をつぶって」

つぶるものか!

僕はドンジュンを睨み付けた

「もう、ゆうこと聞かないんだから!いいや、僕が目隠ししよっと」

ドンジュンの柔らかい手が僕の両目をふさぐ

いやだ。こんな風にドンジュンとキスをするなんて…
もっとムードのあるところで、しかも僕がリードしてやりたい!
でも今の僕にその力はない!だから…いやだ
 
そう言おうとした時、何かが僕の唇に触れた
冷たくて堅い…

「何これあ…ん」

僕の口にほおり込まれた何か…

「フフフ…ね?」
「あ…こんな…」
「うまい?」
「すごく…あ。口の中で…うぐ。あ、また、ん、ん…あまい」
「噛んでごらん」
「そんな」
「そうっと…」
「あ…ん…ん…」

はむはむはむぺちゃくちゅ

これは…

「うまいでしょ?七色キャンディ。チーフに貰ったんだぁ」
「…」

これかよ
最初口に入れられたとき、一瞬苦いんだ。「あ…こんな」
そしてそのあと、ミルクの味が広がる
苦みはコーヒーの苦みで、ミルク味と溶け合うとめちゃくちゃうまい「うまい?」「すごく…あ」
そして今度は一瞬パチパチと口の中で弾け、ストロベリー味に変わる「口の中で…うぐ。あ、また、ん、ん、…あまい」
噛むと中からとろーりとしたブランデーがでてくる「噛んでごらん」「そうっと」「あ…ん…ん…」
それとストロベリー味をミックスすると、また別の味が味わえる…「はむはむはむくちゅぺちゃ」

「どわりゃあっ!」バシイイン

僕は肩で息をしながら編み棒と毛糸を床に叩き付けた!
もう嫌だ!飴ごときとキスとの判別もつかなくなったなんて!

「スヒョンさん、か〜わい〜い」

ちょんと唇を触るドンジュンの指
元の僕ならためらいも無く、優しくそれに噛み付いていたろう

でも僕の唇は動かない

僕は叩き付けた編み棒と毛糸を拾って、また椅子に座り、編み物をやり直す事にした


没頭

ふふ。かなりうまく編めるようになったぞふふ
それに…ドンジュンが他の奴に絡んでいても…気持ちを編み物に集中させる事ができるようになったふふ

僕は今、マフラー制作に夢中だ
最初に作ったマフラーは『メリヤス編み』だった
白いマフラーで、それはドンジュンにあげようと思ってた

あの、真っ白でまっすぐだったドンジュンに戻ってほしくて…

けど、白いマフラーは、出来上がってみると、少し薄汚れていた
何度もほどいたから…

次に作ったマフラーは、『ゴム編み』
編んでみるとこちらの方がリズムよく編めるとわかった
色違いで2本編んでみた
グレーとベージュ。落ち着いた雰囲気なので、イヌ先生とテジンにあげようと思った

その次はシマシマ模様にしてみた
前作が暗い色調だったので、思いっきり派手なボーダーにした
一つはピンクと黄色
もう一つは赤と青
編み終わって改めて眺めると目がチカチカした
これは、アレだな
チョンマンとシチュンに…

あまりに派手な色を使いすぎたので、こんどは同系色の縞柄にした
こげ茶とオレンジ。それからモスグリーンと少し明るいリーフグリーン。それにダークブルーとくすんだ水色
こげ茶はテソンに。モスグリーンのはウシクに。ダークブルーのはジュンホ君にあげよう
そうだmayoさんにも…あの人は黒が好きだからな。黒と濃いグレーのシマシマで編んでみよう

縞柄にも飽きてきたので今度は模様編みに挑戦してみた
縄編みのステキなマフラーだ
僕用にオフホワイトのものを作ってみた
編みなれたせいか、とてもうまくできた
これならドンジュンも気に入るかな?
僕とお揃いにしよう…
オフホワイトでもう一つ、もっと手の込んだ模様を入れてみた
手が込みすぎて、やはり少し薄汚れてしまった
渡す前に洗わなくては…

その後、ミンチョルに黒い縄編みのを作った

そして、編み込みにも挑戦してみた
ラブ君にあげるマフラーだ
勿論「牛柄」
きっと喜ぶぞ!

ああ、忘れるところだった。イナの分
イナは怒涛の人生を歩んできた人だ
だからその人生を編み込んでみた
アメリカの国旗、韓国の国旗、ソプチコジの風景、水仙の花、花札の月、スペードのエース、それとワイングラス…
喜ぶだろうか?僕だったらいらないな…

頑張りすぎて疲れ果てた
明日からいよいよホ○ト祭にでかけるっていうのに…

ああ、皆の分編んじゃったよ…
だめだ。バスの中でドンジュンが何かしでかしたら、僕はまた…
あ、そうだ。もう少し余分に編んでおいて、向こうでお世話になった人にあげよう!
できるだけたくさんの毛糸を持って行こう…バスの中で編めるように…

「また編み物してる〜ねえ、いつなら家に行っていいの?」

ドンジュンがまとわりついてくる
高鳴る胸。だが僕は編み棒を持つ。心拍数が落ち着く

「今夜は?僕のアクター、まだおいてあるしぃ〜ドンペリもそろそろ飲みたいなっ」

可愛らしく微笑むドンジュン
惑わされないぞ
精神を統一すると、僕は編みはじめた

「もう、スヒョンさんの意地悪!」

拗ねるドンジュンの様子を、僕は僕の後頭部の頭髪で感じる
だが僕は動じない

「おはようドンジュン」
「ミンチョルさぁん…」

はぐっ

そんな様子まで、僕は僕の背骨で捉えられる
研ぎ澄まされた感覚

「まだ…編み物?」
「くすん、そうなんだ。見向きもしてくれない…」
「ふぅん。大した集中力だな…けど、あれじゃ商売にならない」
「…お坊さんにでもなるつもりかな?」
「クフ、天使なのに?」
「あは。そうだった…」

随分と仲がよさそうだな
いつもの事だ
何故僕の背後でこの二人はこんな会話をするのか…神経を疑う
だが僕はもう、惑わされたりしない!

「あ、ドンジュン、こんなになってる…」
「え?」
「待って。僕がしてあげる…」

ミンチョルの低い声が響く。そろそろお決まりの事が始まる

「…あン…あ…」
「だめだよ、声をあげちゃ…スヒョンが集中できないだろ?」

僕をからかうための罠

「ん…でも…声がでちゃうあっ」
「感じやすいな、ドンジュンは」

…今日こそはこの黄色と黄緑の縞柄マフラーを…

「あっ痛くしないで」
「わかってるよ」

…黄色で表表、裏裏、表表、裏裏…

「もどかしいな。直接、いいだろう?」
「…ダメだよ…あっ…そんな」

ピンピンピン

「ああっ…」
「かたくならないで、そう、僕にあわせて」
「あうん」

…表表、裏裏、表表

「あっくっ」



「あはぁっ」

おもてっ!

「あうっいいっ」

うらああああっ!

「あっだめっやめないで!」

うらあっ!

「まだ…やってほしいの?」
「だって…あっああっ」

うらあっ!

「きもちいいっきもちいい〜っ」

うぎゃあああああっ裏をっ裏をつづけて3目編んでしまったああっ!それに表が一目しか編んでないいいっ

「もう、だめだっもういいだろうドンジュン?」
「だめぇっいやぁっくうん」
「行くよ」
「いやっまだっ」

なおさなくてはっなおさ…あぎゃああっ!編み棒が抜けてしまったあああ!

「それ!おわり!」
「はああん…」
「よかった?」
「もっとぉ〜」

「ちくしょぉばかやろぉ!」
「あれ?またほどいちゃうの?」
「貴様等!ヤるならどっか他のところでヤってくれ!毎度毎度なぜ僕の背後でそーゆー事をするのかあああっ!」

クフフ、クスクス

「なぁに熱くなってんの?スヒョンさぁん」
「そうだよ、なんでいつもいつもそこで反応するんだよ」
「ミンチョル…お前の弟の気持ちが、僕は今、よおくわかった!そしてドンジュン!おめでとう!君は本物の悪魔だ!」
「あ、スヒョンさん、涙目だ…」
「なんで慣れない?」
「くそう!ちきしょおっ!」

僕は黄色と黄緑の毛糸と、それから編み棒を床に叩き付けた
解っているのに…
ミンチョルはただ、ドンジュンの凝った肩を揉んでいるだけだと…

「まだまだだね」
「ドンジュン、テニスの王子様じゃないんだから…」
「クフフだって、毎回さぁ…」
「君の声がカワイイからだよ」
「ミンチョルさんうまいんだもの、肩揉むの」
「ああ、お喋りしてる暇はない。行くよ」
「あぁん、もうちょっとぉ〜」

クフフ、クスクス

僕は、投げつけた毛糸と編み棒を拾うと、『あみもの袋』と書かれた紙袋にそれを仕舞い、深呼吸をした…


バスの中で・・・

惑わされないように僕は編み棒を持った

「スヒョンさん、危ないんだけど…」

隣の席にすわったウシクが申し訳なさそうに僕に言う
僕はウシクをじっと見つめた
するとウシクは…いいです…お好きなようにしていてください…
同情のまなざしを向けながらそう僕に言った
そして後ろの方の席に移って行った

これで没頭できる
僕は、いつもいつもミンチョルとドンジュンに邪魔されて編めなかった黄色と黄緑色のマフラーを、バスの中で絶対に完成させることを誓った。そう、自分に…

編み目を作っていると後ろの方からボソボソ声が聞こえてきた

「うん…言ったけどさ…すごい目で見られて何も言えなくなったんだ…」
「すごい目って…睨まれたの?」
「ううん…あの…あのね…」
「…そりゃあ…何も言えないよね…」

ウシクとラブの声だ
ふん。何とでも言えばいいんだ。裏裏表表…

「ここでさぁ」
「ん?」
「んふ…」
「ドンジュン、やめないか。皆が見てるぞ」
「そこでやるのが…ンフ…いいんじゃないかぁ〜」
「さすがにここでは…」
「ケチィ〜チーフのケチィ」
「いい加減にしろ!お前の肩だけ揉むわけにはいかんだろう」
「だぁってチーフ、うまいんだもぉん…あっ何する…あっん…」
「静かにしろ…」
「あ…」

また…邪魔しにきやがった!何故僕の真後ろに座る?!
ミンチョルの奴、さっき誰かに『ドンジュンはジュンホ君の隣に座らせた』とかなんとか報告してたじゃないか!
おのれが率先してドンジュンの色気を引き出してどないすんねん!

はっイカン、カンサイベンになってしまった
ふーっ

表表裏裏表表裏裏…

「ン…ヤ…だ…ミンチョルさん…チーフ…」
「こら!変な声出すな!皆に聞こえるだろ!」
「だ…ってあ…」

一度振り返って睨んでやればいいんだ!何をやっているのかも解るし、いたずらを辞めさせる事もできる

「こんなとこでこんな…」
「我慢しろ。罰だ」

罰?罰か。罰ならどんどん与えてやれ!フンっ

「ィタっ」
「我慢しろって言ってるだろ?」
「だぁってこんなかっこう…はじめてなんだもン…ふっ…」

声が小さくて聞き取りにくい
いや、聞こえなくて幸いだ

表表裏裏表表裏裏

「ねぇひざの上にのってもいい?」
「殺されたいのか?!」
「こんなかっこうで…んん…いるより…あっくっ…コロサレる方がまし…ァアン…」

こんなかっこう?ひざのうえにのる?

ああか?こうか?向かい合わせか?それとも椅子のようにか?
い、いまどんなかっこうなんだ?

はっ、イカン!これではいつもと一緒だ!

表表裏裏表表裏裏表表裏裏表表裏裏表表裏裏表表裏裏……

はあっ没頭できるが目がチカチカする

「ん…あ…ヤダ…お願い…もう…許してよ…ミンチョルさん」
「ダメだ。お前は度が過ぎる。おしおきだ。我慢しろ」
「あ…あ…あ…酷いよ、こんなの。酷い…くっううっうっ」
「ほぉ〜泣いてるのか?…ふっ…お前でも泣くことがあるんだな…可愛い…」
「…ぉねがい…許し…て…んっ…んっ…」
「もっと泣け!」
「ああっ痛いっ」
「フフン。もうちょっと我慢しろ…」

なんだなんだなんだ

おしおきとはどんなおしおきなんだ!

そして何故僕にだけ聞こえるような声で話す!

ドンジュン、泣いているのか?

ふ…ふん…いい気味だ!僕をもてあそんだ罰だ!ふんっ

「お願い…足を…あ…あ…アアン…ゆ、揺らさないっでっ声がっ声がでちゃうよミンチョル…さ…」
「僕は揺れてない。お前が自分で揺れてるんじゃないか」
「もう…もういいでしょ?ねえっねえっお願いっあっあっ」

(@_@;)
心頭滅却すれば火もまたすずむしっ!
石の上にも三年生っ!
赤ミンチョル青ミンチョル黄ミンチョル、合わせてチョルチョルイ・ミンチョル!

はーふーはーふー

落ち着け
落ち着け
罠に決まってる・・

振り向けばいいんだ

大丈夫
編み目は間違えてない
このまま、このまま

「うっうぁあん…感覚がおかしい…揺れちゃう…ヘンだ…あ、あそこが…」
「そろそろいいか…行くぞ」
「やだっ自分だけっずるい…んあっずるあっあっあああっああんああんあああ〜」

びくうううっ

大丈夫っ編み目は間違えてない!
振り向くんだ!そして言ってやる
僕をからかうと編み棒を突き刺すぞ!と!

「ン…あっもうっおね…が…ひいいっああっやめっアアンアアン」
「ほらっほらっどうだっくふふっそれっ」

「きええええっ!貴様らあっ!罠だって事はお見通しだあっ!今後僕の背後でっそーゆー声を出すとっこのっ編み棒を貴様らの目ン玉に、ぶち刺すからなあああっ!」

「ん?どうしたスヒョン」
「あひいいん…助けてぇン」
「…何してんの?」
「おしおきだ」
「?」
「お前をからかってばかりいるこの悪魔の申し子を正座させていた」
「…」
「ひいいん、ああんスヒョンさぁん」
「…我慢しろというのは?」
「すぐにしびれを切らしたようでな、本当に『我慢』というものを知らない男だ」
「でも我慢したじゃんかぁ」
「黙って我慢しろ!ひいひいうるさいんだから」

「正座…しびれ…ああ、痺れのきれた足を…ツンツン攻撃してた?ねえ。してた?」
「ああ。そうだが」
「…ふうーん…あああああっ!」
「どうしたスヒョン!」
「…」
「くすっスヒョンさん、また編みなおすの?」
「…」

僕が悪いんだ

振り向く前に横の座席に編みかけのまんま、編み棒もついたまんま、置いておけばよかったのに…
勢いあまって振り向いて、編み棒をかざしたから、編みかけだったのに…

引き抜いちゃった…

「くすくす、とちゅうで引き抜いちゃったら・・イケないねぇフフフ」

ドンジュンは妖しい目で自分の唇を舐めると、僕に悪魔の微笑みを向けた…


無我

何度トライしても出来ないのは何故だ…
それはミンチョルとドンジュンが僕の邪魔をするから

今度こそ

バスに乗っている時間は後僅かだ・・その間に、たとえ30センチでも…

「ねぇミンチョルさん、そろそろ着くの?」
「ああ」
「温泉とかあるの?」
「…確か…大浴場だとか露天風呂だとか…あったような…」
「一緒にはいろおねぇ〜」
「皆でな」
「いやだ。二人で!そんでぇ〜洗いっこしようねぇン」

馬鹿か!ミンチョル!そんな奴あかすりで擦りたくってやれ!

「洗いっこ…恥ずかしいな」

やる気なのかミンチョル!(@_@;)

いかん、聞いてちゃいかん!裏裏表表裏裏表表

「ねぇ…ここでさぁ」

始まった!今はトイレ休憩中だ!さっきイナがなんだかんだ喚いて飛び出してってみんなも降りてった…
僕も降りるべきだったか?
こいつらが残るとは

「やってよ」
「なんで僕が?」
「上手そうだもん」
「妹にはよくしてやったけど」

いかん変なことを考えるな!いつもの罠だ!
わかっている
どんでん返しを受けることぐらい!
だがこいつらの会話を聞いていると…どうしても…

妹には、よくしてやった…

…肩モミだな?うん
まさか…妹相手に…そんな…ことは…

「じゃしてよねっ」
「あ・・ばか・・もう・・そんなに動くな!変な気持ちになる!」
「変な気持ちにさせてんだもぉん」
「しないぞ!」
「…」
「…こらって!フフ、くすぐったい!コロスぞ!」
「ゥフン」
「わかった。コロシてやる!」
「ウフッ♪」

コロス?どうやって?
ミンチョルの目力でか?!
イチコロだな…

はっいかん、手が止まっていた!

「…あ…こわい…」
「痛かったら言え」
「…ウフ…くすぐったい…あ…ン」
「きれいだな、お前のココ」
「やだ・・見ないで」
「見なきゃできないだろ?フーッ」
「キャン、ゾクゾクしちゃうじゃんかぁ息吹きかけないでよアァン」
「喋るな!気が散る」
「…はぁい…ん…んあ…あ。そこ、もっと…もっと」
「動くな!」
「ああん、ずれた!もうっ!」
「怒るなよ、やりにくいんだから」

だから何がずれて何がもっとで何がやりにくい!

「…ふふ…ぁっぁぁっあ…」
「当たってた?」
「ん…」
「うまいだろ?」
「ん…上手…こんな細いのに気持ちいい…」
「こっち向いて」
「あん…」
「微妙なとこにお前の顔がくるな…」
「んふ」
「妙なことしたら、傷つくぞ」
「ん、解ってる、おとなしくして…アンあああん」
「なんだ、こっちのが感じやすいのか?」
「ぁふん…」
「おもしろーいそれ」
「んぁっ…」
「これは?」
「…くっ…」
「かき混ぜてやろうか!」
「くぁっやだ。動いちゃうよ…死んじゃう…」
「死なないよ、でも傷つくぞ…」
「あ、やっそっとして…お願い」
「痛い?」
「痛くないけど…怖いよ」

「解ったああああっ!」

「びっくりするじゃないかスヒョン!」
「怖いなぁもう!傷ついたらどうしてくれるんだよ!」
「ふふふ、お前らが今している事、この僕にはお見通しだ!」
「え?能力戻ったの?」
「違あう!だが、お前らのしている事はお見通しなんだ!会話から推測するに…お前らは今!耳かきをしているだろう!どうだっはっはっはっは」
「ん、あっああんミンチョルさん、そんなにかき回さないで…あはぁん…」
「ドンジュン」
「あんっあんっ」
「…み…耳かきじゃない?」
「ああっあっいやっ出ちゃうっ」
「…出る…」
「あああ〜ああっあああん…ぁ…ぁぁン」
「ドンジュン!」
「…まさか…ほんとにえっちしてたなんて…」

「何言ってるの?耳かき正解だよ」
「え?だってさっきのドンジュンの悶え声は…」
「最後の仕上げのフワフワでお掃除」
「え?出ちゃうってのは?」
「フワフワが耳から出ちゃう…」
「…」
「ドンジュンは耳が弱いんだな。よく覚えておくよ」
「いやだ、ミンチョルさんったら…」

ハハハフフフハハハ

…紛らわしい

悪魔の悶え声は
紛らわしい

一センチも編めなかった…
悔しい…

無我なんて程遠い…


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