Tea-House Moon 終



 ガラガラガラ……。
 大陽が沈みかけた夕方、車を引くような音が聞こえます。イエ、決して同人民族大移動の音ではありません。
「螢子〜!早く用意しろよー。」
 タヌキの幽助が、道端から雪村食堂二階に向かって叫びます。その後には、何というコトでありましょーか、ピカピカの新車……もとい、見慣れぬ屋台の車が……。
「ちょっと待ってよ幽助!一体何があるっていうの?」
 自分の部屋から顔を出して、幽助に負けない大声を張り上げている、タヌキの蛍子ちゃん。
「丘の上で、お祭りをやるんだ!」
 幽助の顔が輝いています。
「丘の上って……それって蔵馬さんのお店のコト?」
「そう!そんじゃ行くぞ〜!」
「待ちなさいよ、幽助―!」
 二人は一緒に車を引いて、丘に向かって行きました。

 今夜は、ガーデンハウスを囲んでの初めてお祭りです。空には星と月が輝き、気持ちよい風がサワサワと流れています。
 言い出しっぺはお祭り好きな幽助。一度みんなで、時間を気にせずにパアーっと騒ごう、と言い出したのです。
「とうとう、商売敵ができちゃいましたね……。」
 そういって苦笑するのは、このお店の主人、ウサギの蔵馬。もちろん今晩のお祭りについては、それとなーく満月の夜を避けるようにしました。
「見たか、オレの実力をな。」
「修行ってこのことだったのか、浦飯!心配して損したぜ。」
 キリンの桑原は呆れ顔です。
「和真さん、私、ラーメンって食べてみたかったんです。」
 初めて見る屋台に感動している、白猫の雪菜ちゃん。
 実は、今日はラーメン屋台を出す幽助のデビューなのです。
「これで稼いで稼ぎまくってよ、ガラス5枚分くらいはパーッと返してやらあ!」
 自信マンマンで、幽助はさっそくみんなに、自慢のラーメンを振舞っています。
「大体みんな集まったことだし……オレも、みんなに言いたいことがあるんですよ。」
 蔵馬はみんなの前でお話を始めました。
「この度、ティーハウスでは店員を一名増やすことにしました。ペンギンの飛影です。みんな仲良くしてあげて下さいね。ホラ、飛影もあいさつあいさつ!」
 ペンギンの飛影は、蔵馬の横に出てきました。実は飛影、蔵馬のおうちに住み込みするコトになったのです。
「……フン。」
 これが飛影流のアイサツ……のようです。こんな無愛想で店員が務まるのでしょーか。
 しかしこれにはもう、みんなはビックリ仰天です。
「おお、あれはこないだの〇ーパーハード少年だな!オレといっちょ飲み較べやろうじゃねーか、ヒック……。」
「オレとケンカどっちが強いかな〜。」
 純粋に友達が増えて喜んでいる連中もいれば、逆にショックを受けてる者も発生したもよーです。特に某凍矢さんトカ……。
「く、蔵馬……臨時奉公(アルバイト)なら、オレだって喜んでやるのに……。」
 ホラ、夏なら自らかき氷製造機にだってなれるし。ガックリ肩を落としたオオカミ凍矢を、イタチの陣が『まーしょうがないべ〜』と慰めます。
「蔵馬、くらま〜!」
 楽しそうに、蔵馬の服を掴んで遊ぼうとしている子供がいます。小牛の修羅くんです。
「あれ、修羅も来てたの?子供がこんな時間まで外にいたら、親が心配しますよ?」
「大丈夫だよ、蔵馬!今日はパパも一緒に来ているんだもん。」
「……え……?」
 蔵馬の顔が一瞬白目になりました。いわゆる驚愕ってヤツです。顔がみるみる青ざめていきます。
 すると、一人のやや大柄な男性がこちらにやってきました。
「あ、パパだー!」
 その姿は何を隠そう、猛牛の黄泉さまです。
「蔵馬……もう新しい環境にも慣れたそうだし、そろそろ癌陀羅で挙式を挙げ、修羅の母親となり、そしてこの私と寝食を共に……!」
 黄泉は、目が不自由なクセに一発で蔵馬の匂いを嗅ぎ分け、強引に近寄って意味不明で自己中で気持ち悪いセリフを叫びました。
 奴は、蔵馬の苦手な人物ナンバー1の座に見事輝いておりました。彼は猛牛界では『邪なる王』ほどの実力の持ち主なんだそーですが、蔵馬にとってはもはや、残念ながらりょーせーるいの類にしか見えません……。
 蔵馬は毎度の如く目標物を蹴り飛ばそうとすると、そこにすっと飛影が出てきました。
「じゃおーえんさつこくりゅーはーッ!」
「あ、ダメ飛影……!」
 どーーーん!
 蔵馬の叫びむなしく、飛影は超必殺技を黄泉に向かって放ちました。
 これには『邪なる王』黄泉さまであっても、ひとたまりもありません(あれ、黄泉ってこんなに弱かったっけ?まいっか)。
 しかし、輝ける栄光の勝利(?)を得た引き換え……その名は睡魔。
 ずるずると眠りに落ちていこうとする飛影を、蔵馬は慌てて抱きかかえます。
「もう、だからダメって言ったじゃない……!」
 全く、飛影って慎重派なのか大胆なのかサッパリ分からないんだから……。その時蔵馬はあることを思い出して、飛影がまだなんとか意識があるうちにと、雪菜ちゃんのいるところに彼をズリズリ引きずって向かいました。
「……どうかしましたか、蔵馬さん……?」
「雪菜ちゃん、前から聞きたいことがあったんですよ……。もし、お兄さんと再会できたとしたら、何を一番言いたい……?」
 すると、雪菜ちゃんは迷うことなくハッキリとした口調で答えました。
「もちろん、私は今ここで元気に幸せに暮しています、って伝えますわ。」
「……ありがとう。いつか伝わるといいね。」
「はい……!」
 そう言って雪菜ちゃんは微笑みました。蔵馬の背後でフラフラ状態のペンギンさんが、そのお兄さんだったりするんですけど……。
「……だって。」
 蔵馬は、飛影にだけ聞こえるくらいで、声をかけました。飛影のまぶたは、既に95%が閉じられています。
「……フン、おせっかいめ……。」
「ふふ。おせっかいは貴方といい勝負ですよ。」
 その言葉が飛影の耳に届いたかどうか、彼は間もなく爆睡モードに突入してしまいました。
 しかたなく蔵馬は、飛影の眠る隣に腰を下ろしました。向こうでは、相変わらず幽助たちが歌って踊って飲んで大騒ぎです。何だかミッ〇ーのパラパラまで聞こえてきます。
 すると、みんながこちらに向かって叫んでいるのに気付きました。
「蔵馬、そっちで何やってんだよ〜!蔵馬がこっちにいないと、何も始まらないじゃないか!」
「え……ああ、はーい!」
 みんなに呼ばれて、蔵馬は反射的に返事をしてしまいましたが、どうしましょう。飛影を放っておく訳には……あ……。
 みんな……?
 蔵馬はやっと気付きました。お昼も夜も、本当は何でもなかったコト。あれは、自分が勝手に決め付けていたちっぽけな被害妄想だった。
「飛影……。」
 隣で眠ってる飛影を見下ろすと、まるで『オレのことなんか気にせずにさっさと行け。』と言っているような気がしました。
「飛影、ごめんね。ありがとう。お詫びに後でゆっくり相手してあげるから。」
 飛影の身体を抱えると、蔵馬は急いで彼を寝室に運んで行きました。
 今日も満天の星空、みんなと過ごす楽しい時間と共に、夜がふけていきます……。

 ここはティーハウス。ウサギな蔵馬と、そしてペンギンな飛影が仲良くやっている小さなお店。どんどんお客さんはやってくるばかりで、みんななかなか帰ろうとはしません。それは、みんなが蔵馬のことが好きだから。蔵馬も、そんなみんなが大好きだから。
 だけど、飛影のことが一番好き。オレをぎゅっと優しく抱きしめてくれる、飛影のことが一番大好き。
 飛影を一人占めできる夜の間が、ホントは待ち遠しくて仕方がない、というのはここだけの秘密です。
END




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あとがき

大変お疲れ様でした。元ネタ紹介。

>蹴り飛ばされる鴉
らんまとかその辺。

>天沼くんとデュエル
そうだこの頃、遊戯王が流行ってたんだっけ。今なら何だろう…ムシキング?

>モモンガ
エニックス刊「ハイパーレストラン」より。主人公の真の姿(?)。
『勇者in大地!!』にはやられました…。

>IC・6006トーン
いわゆるキラキラトーン。キタキタオヤジのバックに最適。

>金のかかった印刷物
そういや去年のインテパンフには銀インクが使われてたな…どこまで進化してるの?

>ペンギンのCM
当時「♪スーパーハード、ラララララーン」という整髪剤のCMがあったことをようやく思い出しました。
好きだったんだよ…!(笑)

>コスモレンジャー
いつか描きたいと思い続けていた楯天主演のオリジナル戦隊…(遠い目)。いつか描きます。

>タヌキの幽助「丘の上で、お祭りをやるんだ!」
第14帝國「8時だよ!全員元帥」より(ミッキーのパラパラもだ)。
このセリフの為だけに、幽助をタヌキにし、舞台を丘の上にしました…(苦笑)。
色んな意味で、涙なしでは語れないストーリーでした。

>臨時奉公(アルバイト)
あれですよ、「こいつら100%伝説」……。

>邪なる王
ガオレンジャーですね(笑)。狼鬼サマだったっけか…。




素材はフリーソフト卓上の樹を使用しました。

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