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■ The Durutti Column / The Retun of The Durutti Column
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ザ・ドュルッティ・コラム/
ザ・リターン・オブ・ザ・ドュルッティ・コラム
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冒頭「SKECH FOR SUMMER」の小鳥のさえずりとともに、朝靄からゆっくりと広がっていく澄んだ空、それはまさに永遠の夏の日。パンク、ニューウェーブシーンのイギリスの最中、このアルバムがもたらした静かな衝撃は今でも忘れられない。しかし、そんな時代のエポックとして聞き次がれているわけでなない。VINI REILYがつま弾くギターのヴァイブには、普遍的に刻印される青春のきらめきと戸惑いが交叉している。ドラムマシーンとギターのみというシンプルな音世界、言葉少なにあくまでも端麗に導きだされる繊細なリフ。時折、憂鬱な顔色をのぞかせながらも決して安易な心情吐露でなく、何処か遠くを透徹さをもって見つめているような静かな気迫が漂う。ドュルッティ・コラムのひと粒ひと粒のゆらめく音は、まだ開けたばかりにのバーの新鮮な空気をより清浄化してくれる。次作「LC」と並び、きらめきはいつまでも変わらない。
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■ DJ.CAM / Mad Blunted Jazz
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DJ.CAMの音は冷たく美しい。アブストラクト・ヒップホップの旗手としてデビュー以来、一貫して独自の美意識で音を構築し続けてきた。1996 年発表 のこのアルバムは全編、ピアノループがフィーチャーされこのジャンルにありがちなダークなトーンな色合いを、透明で澄んだ緊張感へと高めている。緩やかに刻まれるビートにはジャズの香りがたなびく。ゆっくり紫煙が立ち上る向こうに、フランス人らしい彼のセンスが垣間見える。
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■ David Bowie / Heroes
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デビット・ボウイ/ヒーローズ
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1977年、パンクロックが台頭始めた頃。ボウイは前作「ロウ」に続きベルリンで、ブライアン・イーノ、ロバート・フリップ参加のもと、きわめて時代性と対峙したこのアルバムを発表した。非ロック的なアプローチは更に深まり、「苔の庭」あたりに聞かれる、終末思想は当時のシーンにかなりの影響をあたえた。ミディアムなビートがリフレインされるタイトル曲「ヒーローズ」は素晴らしいの一語につき、まさに彼の代表ナンバーである。それにしてもモノクロームで撮られた、このアルバムジャケットの何とかっこいいこと。撮影はのちにボウイの写真集を出す鋤田正義。ラストでの「アラビアの神秘」の水際立った効果は、来るべき未来への切なる希望の光明のように我々をリアルな日常へと引き戻してくれるかのよう。
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■ 武満徹 / November Steps, Requiem For Strings
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武満徹の音楽をBGMとして聞き流すことは出来ない。その極度にはりつめた氷りのような緊縛感は、一瞬にして空間を変貌させてしまう力を秘めている。ノヴェンバーステップスは1967年、ニューヨークフィルハーモニー交響楽団の創立125周年の委嘱作品として作曲された。オーケストラに和楽器である尺八と琵琶をフィーチュアーし、異空間ともいうべき場を創作している。小林正樹、大島渚、黒沢明といった、一流の映像作家らに数多くの映画音楽を提供しているが、武満の海外での評価は日本よりも高い。「間」という概念を効果的に配し、1音1音が拮抗しあう独特の方法論は孤高の気高さに満ちている。もし酒場で武満徹にふれたとしたら、表情から笑みは消え深く内省へと向って降りていくだろう。だが決して不快な心持ちではなく、崇高な芸術を前にした時のような異化作用さえ生じる深遠な内宇宙への旅立ちでもある。1996年永眠。後にNHKで特番が放送された折り、案内役の立花隆氏が番組最後に思わずむせび泣きしたシーンが忘れられない。手掛けた映画音楽に興味ある方はこちらを参照。
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■A Tribe Called Quest / The Low End Theory
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ア・トライブ・コールド・クエスト/ロウ・エンド・セオリー
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おそらくこれを聞かなかったならヒップホップに傾倒することもなかったであろう。出だしの骨太なベースラインからしてまずヤラレル。ジャズ、レアーグルーヴ満載のサウンドプロダクションのセンスは超一流であり、多くのエピゴーネンを輩出した。各曲は単独でありながら切れ目はなく、圧倒的な爽快感をあたえながら除々に高まっていき最高にグルーヴしていく。Q-ティップの鼻にかかった一聴したら忘れられない個性的なラップも特筆にあたいする。又、ジャズ・ベーシスト、ロン・カーターも参加、ヒップホップという枠から頭ひとつ先に抜きん出て、来るべき新たなジャズの進化論を予感させた。このアルバムは90年代のヒップホップ・シーンに君臨したATCQの、まちがいなく最高傑作である。そして十数年を経た現在においても、そのかがやきと独創性はまったく色褪せてはいない。
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■Kraftwerk / Man Machine
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クラフトワーク/人間解体
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「Trans Europe Express 」もいいがこのアルバムに収められた「Neon Lights」この曲に尽きる。特に夜、車を走らせながらのBGMにはうってつけである。例え田舎道だろうが田園風景であろうが、やがてその先に開けてくる都市のまばゆい気配が、えもいわれぬ甘酸っぱさで胸にせまってくるのだ。暗い夜景から想う、きらびやかな街並みへの淡い憧憬。ほのかな期待感は思春期の恋情にも似て、いつまでも新鮮だ。この時期のクラフトワークの作品はテクノ〜ハウスの基本となり、「人間解体」が発表された1978年にはその音楽方法論はもちろんジャケットに見られるようなメンバーの服装や髪型に影響を受けて、YMOがデビューしている。
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■Wanda De Sah / Softly !
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ワンダ・サー/ソフトリー!
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セルジオ・メンデス&ブラジル'65に参加後、製作されたワンダのソロアルバム。
ボサ・ノヴァ女性シンガーの中でも優しくささやくような、彼女のウィスパー・ヴォイスの歌声はそよ風のように涼しい。一度耳にすれば想い起こすたびに、澄んだ青空が心にいっぱい広がっていく。ストリングスをバックに「おいしい水」など有名曲をリズムにのって軽やかに歌っている。
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■ Jerry Goldsmith / Chinatown
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ジェリー・ゴールドスミス/チャイナタウン
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ロマン・ポランスキー監督、ジャック・ニコルソン主演、フェイ・ダナウェイ共演の映画のサウンドトラック。
音楽は「猿の惑星」や「パピヨン」のジェリー・ゴールドスミス。トランペットの音がせつなくたゆたうテーマ曲には真夜中のバーがよく似合う。無口なままにウィスキーを傾けたい。けだるい雰囲気はやがてハードボイルドな局面へと場面転換し緊張が走る。挿入される1930年代の流行歌に気分は増々探偵物語。夜はさらに更けてゆく。
フランスの煙草「ジタン」を思わせるアートデザインも洒脱だ。
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■Miles Davis / Ascenseur Pour L'echafaud
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マイルス・デイヴィス / 死刑台のエレベーター
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この作品もまた深夜の帳に格好のサウンドだ。若干25歳のルイ・マルはデビュー作に、その音楽をマイルス・デイヴィスに依頼した。フィルムのラッシュを見ながらの即興演奏による録音はあまりに有名である。
渇ききったマイルスの音は見事に映像にからみ合い、サスペンス映画としても一級の作品に仕上がった。全編、凍てつくような緊張感がみなぎり、即興音楽としてのジャズがもつスリリングさは感情のおもむくままに適切にストーリーに重ねあわさる。マイルス自身も初のサウンドトラックであった。主演のモーリス・ロネの陰のある横顔、気品あるがけだるい雰囲気のジャンヌ・モロー 、ヌーヴェルヴァーグの代表作でもあり、今、見直してもみても古さを感じない。まさにクールの極み。
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■Harold Budd & Brian Eno / The Plateaux of Mirror
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ハロルド・バッド&ブライアン・イーノ / 鏡面界
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ここで聴くことのできる、静謐で宝石のかけらのように美しい音の戯れは無造作に見えて、実は多彩な音響加工が施されている。深いエコーやこおろぎの音ななどが、バッドの単調だがきめの細かいピアノの残像をより繊細なものへと昇華し、まるでピアノ全体が風景の中にとけ込んでしまうように感じてしまう。「環境」としての音像を提示することによって聴くものは耳を傾けることも無視することも可能になり、余白をも一音として紡ぎだす希薄なまでの肌触りは、情念や高揚する気分を排し静かな諦観にも似た安堵を与えてくれる。昨今の安易なヒーリングミュージックにはあり得ない、極上の美術品を想起させる佇まい。時間の流れはそこでは意味を失い、静寂で均質な空間が周囲に広がっていく。時折、メランコリックな表情を見せたりもするが全編に横溢する気配はとても透明で乾いていて、どこか東洋的なイメージさえ喚起してしまう。この手にしっかりと抱きたいと願った瞬間に、その姿が消えてしまう、叶わぬ夢のような音の水晶。
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■ Fripp & Eno / Evening Star
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フリップ&イーノ / イブニングスター
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例えば、ある深き山々の寺院で迎える明星とでも言えばよいのだろうか。世俗の塵芥をふりはらって、いつになく殊勝な心持ちで欲深き苦悩が濯われていくような、透きとおった眼差しで見上げる薄明の空。生まれてくるずっと以前から静かに聴こえているような、神秘な風の声。ランボーが見た「永遠」のイメージ。
東洋的な禅の思想にインスパイアされたと思われる、このはかなくも無限に輪廻していく旋律の瞬きは、普段忘れてしまっている深い精神世界へと導いてくれる。彼岸の調べを奏でるごとくに単調なギターがループする「Evensong」そして遥か遠くの星々が神々しく語りかけてくれるような「Evening star」宵闇せまるひととき、家路を急ぐ足音にはない悠久の音の風景がここにある。
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■ Somei Satoh / Toward the Night
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佐藤聡明 / 夜へ
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ショスターコーヴィッチ以上に峻厳で澄んでいる。タイトルにあるように暗黒のイメージだが、絶望ではない。月夜でもなければ闇夜でもない。限りなく黒に近い白である。佐藤聡明は海外でもポスト・ミリマリズムの作曲家として評価は高い。しかしここでは憂いに包まれた長い旋律がゆったりと、そして消えいるように間をとりながら流れゆき過剰な反復はみせない。一曲目「RUIKA」は死者の魂を悼む歌である。作者によると「幽冥の香りを聴く」とある。死そのものに限らず、我々は日々の中で多くの哀しみに遭遇し胸を痛めている。過ぎ去りし時も又、決して帰らぬものであり二度とはない。佐藤聡明の屹立した険しさの裏には、限りない慈しみの音色が共鳴している。悲哀に徹することによりやがては浄化されよう、彷徨する魂への船渡し。そして作者は「今生に渡せずんば、さらに何れの生に向って此の身を渡せんや」と古代中国の箴言を引用している。夜の向こうには希望があるのだ。
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■ Nino Rota / Giulietta Degli Spiriti
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ニーノ・ロータ / 魂のジュリエッタ
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「私にとって天使のように見えるニーノが作った音楽は・・・」そう語るフェリーニ監督と、ニーノ・ロータの関係は切り離せないものであった。華麗で装飾的な映像の魔術師の絵には、どこか浮き世離れしたニーノの独特な曲調が欠かせない。バカラックがそうであるように、彼のつんのめりに刻まれるリズムは非常に小気味よく、多様されるオルガンの響きにはいつも切ない郷愁をおぼえる。この「魂のジュリエッタ」はフェリーニの初カラー作品であり、音作りの多様さも増々カラフルで絢爛だ。テーマ曲では明るくメロディアスながらも不思議な浮遊感が漂い、リズムの隙間からはほのかな狂気が顔をのぞかせ、おなじみのサーカスのジンタ風のサウンドも所々、飛び出しては楽天的な哀愁をかもし出す。それにしても耳に残るこの妙な新鮮さはなんだろう。全編を通してあくまでポップで軽やかな色彩で表現しているようだが、それがかえって無気味でもある。
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■ Alan White / Ramshackled
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アラン・ホワイト / ラムシャックル
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一曲目からアコースティックな響きで丹念に刻まれるギターと、ムーグがリズムにのり軽やかにそよいでいく「Ooooh Baby」。きらきらとときめきながらグルーヴするそのニューソウルな香りに思わず、イエス在籍時代のソロアルバムであることを忘れてしまう。中程の転調などまるでマーヴィン・ゲイのよう。プログレのイメージからは乖離してしまった。大胆なストリングスをバックにムーグとカーティス・メィフィールドばりのファルセット・ボイスが疾走する「Giddy」、レゲエナンバーの「Silly Woman」、そしてドゥービー.ブラザースを思わす「One Way Rag」など次々とくり出される曲には息もつかせない。アラン・ホワイトはイエス参加前、プラスティック.オノバンドなどのセッション・ドラマーであった。数多くの経験に裏打ちされた、懐の深さがひしひしと伝わってくる隠れた名盤である。
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■ Lonnie Liston Smith / Expansions
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ロニー・リストン・スミス / エクスパンションズ
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静かにカウントをとりながら、次第にせり上がってくる心地よいリズム隊、抑揚のあるのびやかなボーカルと、風のようなフルートが青く澄みきった空へと高く駆けていくような「Expansions 」。感情はデリケートなままに、それでも思いっきり躍動していく姿に心がおどる、1974年のロニー・リストン・スミス屈指の傑作。ジャズとソウルの蜜月からフュージョンというスタイルが産み落とされていったこの時代、このアルバムもどこか希望に夢見るような楽園の息吹を感じてしまう。真夏の陽射しをいっぱいに浴びながら、渚を裸足で走りだしたくなる「Summer Days 」、同時代のハービー・ハンコックのサウンドにも共通する「Shadows」など全曲、気品に満ちた心地よい風を運んでくれる。
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■ 大野雄二 / 組曲「小さな旅」音楽集2 〜忘れ得ぬ山河〜
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歩きゆく日本の町並み、薪で風呂を炊く煙が夕暮れに立ちのぼり、そっと鼻をつく懐かしい情景。忘れかけていた自然と町とが織りなすおだやかな映像、「NHK 小さな旅」の為に大野雄二が書き下ろした、安らぎと郷愁の叙情詩。大野といえば「ルパン3世」のスタイリッシュなジャズを思いうかべるだろうが、角川映画「犬神家の一族」でもみせた、ディスカバージャパンに彩られた情緒豊かなたおやかさも又、彼の音楽性の中にあった。そんな持ち味の原風景が満開にあふれている、いつまでも心に残しておきたくなるような曲の数々。小曲だけれど牧歌的な出だしから始まり、胸がせつなくなるほどこみ上げてくる憂愁のメロディのオープニングテーマ。そして「光り漂うように」はまるで「タクシードライバーのテーマ」を連想させるかのよう、都会の夜景を背景に交差する人々の情感をサックスが切なく歌いあげる。
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■ Franco MIicalizzi / Chi Sei
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フランコ・ミカリッツィ/ デアボリカ
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1974年イタリア製のホラー映画のサウンドトラック。当時、シングル盤で購入して大事に聞いていたところ、最近アルバムが始めてCD化されその全貌がついにあらわになった。全編、およそホラーとは無縁のフージョン・ジャズの肌ざわりのサウンドであり、ここ数年の間、DJらがこぞってプレイしてたようである。奥行きのある透明感あふれる瀟酒な感覚は大野雄二にきわめて近く、その華やかさも又、時代を越えて新鮮に映る。メインタイトルの「Bargain With The Devil」など当時のブラックムービーの主題歌かと思えてしまくらい黒い。スキャットの後を追うようにして、高音域までしぼりだすムーグがうねる「Jessica's Theme」、空風に誘われてサックスとエレピが跳ねる、ファンクチューン「Dimitry's Theme」などクールでモダンなグルーヴに酔いしれる。
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■ Char (竹中尚人) / Char
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'76年、時代の空気をいっぱいに吸い込み、弾けるようなしなやかさの Char のソロデビューアルバム。若さに満ちた鮮やかなアレンジは、今も変わらず光彩を放っている。爽快なギターカッティングと共に、軽やかなステップで青空を雲の上まで昇ってしまいそうな「Shinin' You Shinin'Day」。ジャズロックで疾走する「It's Up To You」、ヘヴィーにスピーディーに、ギターとキーボードが絡まりあい展開していく名曲「Smoky」のダイナミズム。そして何よりも最高が、さわやかな朝日の前で両手を高く上げて、じっと目を閉じたくなるようなラストの「朝」。コーラスとキーボード、リズムセクションが一体となって生命の躍動を謳歌する。水際に立つジャケット写真のように、みずみずしさにあふれた余韻を残すフュージョンロックの金字塔。
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■ Ben Watt / North Marine Drive
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ベン・ワット/ノース・マリン・ドライヴ
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静かだが激しい波しぶき。写真に映る情景のように全身にそして心の奥にまで、響きわたる限りないアコースティックなバイブレーション。フォークソングと呼ぶにはどこか荒涼としていて、ボサノヴァというには冷たい憂いに翳る。83年チェリー・レッドよりひっそりと世に出たこの感覚は当時の先鋭的なロックの過激さより、ずっと鋭く新鮮に耳にこだました。感情を吐き出そうと精一杯のどをしぼるが、持ち前の自然な姿のままにかすれ、決して遠くまでは達しない。ここではもう代弁やメッセージもいらない。ただ、ひたすら自分がまわりの風景の中へと埋没していき、心模様を見つめているだけ。ギターを繊細なピッチングでミュートしながらソフトに歌い上あげる「some things don't matter」、寂し気な口調だが時に力強くのびやかにサックスと交歓していく「waiting like mad」そして小刻みなカッティングギターに蝶が舞い、ひっそりと歓びが訪れる「on box hill」など、まばゆいまでの青春の夕陽。
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■ James Mason / Rhythm of Life
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ジェームス・メイスン/リズム・オブ・ライフ
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ネオンライトに映る夜の街、都会の夜風に包みこまれていくセンシティブな感触。ナラダ・マイケル・ウォルデンのはね上がるドラムスやベースのリズムも颯爽に、流れいく疾走感に彩られたフリーソウルの名盤。クールにシンセが響きのだし、張りつめた高音域の女性ボーカルが冴えわたる「Good Thing」。バタバタとビートが駆け足で目の前を走り去るようにせわしなく鼓動する「Free」、街から街へと夜の高速を窓全開にして駆け抜けてゆき、心地よさ満点のテンポで風を切るタイトルナンバー「Rhythm Of Life」。そしてきわめつけにグルーヴィーな「I've Got My Eyes On You」。細やかに飛びはねるベースラインとギターカッティングが絡まりあい、前へ前へと迫り出してくるような勢いに、思わず身体が動きだしてしまう。
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■ David Bowie / Young Americans
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デビット・ボウイ/ヤングアメリカン
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ソウルでアメリカンなボウイ。これまでのグラムなイメージを払拭し、シンプルにそしてしなやかにディスコティークのきらびやかな照明の下で、ステップを踏んでいる姿が浮かんでくる、ボウイの作品中でも異色の佇まい。発表は75年、ブラックミュージックへのオマージュともいえる、サウンドに徹底している。スライあたりの影響か、ジョン・レノンとの共作「 Fame」はファンキーに弾ける屈託のなさ、後に白人初のソウルトレインへの出演の快挙を果たすことになった。ビートルズのカヴァー「Across The Universe 」では原曲のイメージから自由に飛翔して、よりドラマティックに歌声を響きわたらせる。そして、たおやかに夜が深まっていく「Light 」。豪華な女性バックボーカル陣を配して、ゆっくりとミラーボールが回り続けていくような陶酔感のある声が、ダンスフロアーに浸透していく。
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■ Steve Hillage / Green
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スティーヴ・ヒレッジ/グリーン
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夜空を突き抜ぬけ無限の宇宙の彼方へと、とけこんでいくようなロマンチシズムにあふれた傑作。プロデュースはピンクフロイドのニック・メイソンが担当。ヒレッジのどこか頼りなげのボーカルと、宙に舞い上がっていく浮遊感のあるギターエフェクトを駆使した独自の音響は、めくるめく時空への旅立ちであり、星間をひたすらに漂よい続けてしまいそうな、夢から覚めやまない壮大なスペースファンタジーに満ちている。圧巻は「Unidentified」 から「U.F.O. Over Paris」への流れ。ベースが躍るファンキーな曲調を序章に、永遠に瞬く星のきらめきの中へと深く深く吸い込まれてしまう、とてもミラクルなビジョン。やがて光の樹氷は次第に私たちを、大宇宙の果てへと誘ってくれる。そこはまるで万物がひとつに収斂していく圧倒的な桃源郷。78年、ゴング脱退後、ソロ4作目にして奇跡の一枚。
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■ King Crimson / Red
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キングクリムゾン/レッド
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1969年、衝撃のデビューから一貫して一切の妥協を許さない、テンションの高さを保ち続けたクリムゾンの到達点にして最高作。アルバム発表ごとのメンバーチェンジの末、実質のトリオ編成となりソリッドでありながら、とてつもないスケールで聴くものを圧倒する。ビル・ブラッフォードの硬質できめ細やかなドラミングと、フリップの闇を切り裂く緊縛のギターが迫りくる「Red」。金属音のごとくはね返るリズムにジョン・ウエットンの甘口ながら攻撃的なボイスが突き抜けていく「One More Red Nightmare」。そして迎える終曲「Starless」、世界の終焉をメロトロンが悲哀の響きでつむぎ始める、地の果てへの道行き。憂愁をたたえた旋律から一転、静かに緊張が高まって、闇に閃光するようにインプロビセーションが凄まじいまでにくりひろげられていき、演奏は更に加速し空中分解寸前まで沸点へと昇りつめていく。やがて全てが終結した後、鬼火がゆらめいていた。身震いするほどのカタルシス、暗黒世界への巡礼。
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■ Silvetti / Spring Rain
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シルベッティ/スプリング・レイン
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窓を開けると外は雨模様、それでも木々の緑は雨のしずくに濡れてしっとりと、目に映る街並はとても鮮やか。少し物憂げな情景を、繊細なメロディを優美なストリングスで描くパステル画。このレコードに針を落とせば移りゆく時の色彩と、暖かな陽射しが淡いグラデーションで優しく包みこんでくれる。ちょっとお茶目な女の子が雨の中、傘をクルクルとまわしながら歩いているような「A Smile a Tuawn」。メランコリーな面影を宿しながらも健気に鼻歌を吹きたくなる「Two Cups Of Cofee」。過ぎゆく青春の一ページが葉緑の向こうに透かして見えて、ふと足を止めてしまう「Voyag Of No Return」など、そよ風のようなスキャットと流れいく雲のみたいな旋律が織りなすタペストリーに、いつしか心も浮きたってきて、雨ももうすぐ上がりそう。
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■ Jeff Mills / Purpose Maker Compilation
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ミニマル・テクノの雄、あるいはターンテーブルの魔術師、ジェフ・ミルズ。そのくり出され反復するの連続音は、最新鋭の工場から響きだす鉄随の機能美にも似て無気質な感触に支配されている。それでいて脳の中枢神経にまで達する、繊細で鮮烈な開放感。感情移入や思い入れは拒み続けるが、根源的で呪術的な鼓動を浴びているうちには、いつしか別空間に投げ出されたようなトリップ感覚に落ち入ってしまう。ターンテーブル3台とイコライジングを自在に操る、彼の超絶DJプレイはまさに神業であると聞く。ぜい肉を見事にそぎ落とし、シンプルでソリッドな反復音が脳内に残響していていく様は、旋回する渦潮の眼にのみ込まれていくかのごとく、危うさを禁じえない。
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■ AZ / Doe Or Die
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AZ / ドゥ・オア・ダイ
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NASの「Life s A Bitch」(94年)でのフィーチャーでは、主役を食ってしまいそうなくらいの高いスキルのフロウをひろうしたAZ。翌年に発表されたソロデビュー作である。メロウなトラックにハイトーンの持ち味を活かし、高密度に凝縮したライムが絶妙の鼓舞しでまわされる様は、実に爽快この上ない。時折、鼻にかかり気味になる高音もご愛嬌で、息つぎもせわしないまま一気にまくしたてる勢いの「Ho Happy Jackie」。夕闇がすぐそこに来ている気配があたり漂い、ひんやりとした空気でつつまれるメロウなトラックに寄り添うようにライムがたゆたう「Mo Money Mo Murder」。熱くたぎらないAZのラップはせせらぎの流れにも似て、清涼感をあたえてくれる。
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■ Organized Konfusion / The Equinox
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真夜中のHip Hop、オーガナイズド・コンフュージョン。クイーンズ出身のプリンス・ポエトリーとファロア・モンチの二人組みからなる、ストイックなループと重低音のドープなビートにのる早口なフロウには、熱さとうらはらに醒めた落ち着きが感じられる。97年のこの作品は限りなく黒に近い鉛色の重厚さと、一貫した美意識で覆われていて、ひとことで言うならば渋さにあふれているのだ。まるで鋭利なナイフでもって、切りとられたビブラフォンの音像の一こまが、月光に照り返しをみせてきらきらと光りかがやく中、ゆったりと夜の奥へと急いでいく「Invetro 」。闇の住人からの魔法のエッセンスが透けて見える。
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■ Mobb Deep / Hell on Earth
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モブ・ディープ/ヘル・オン・アース
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凍てついたアスファルトに響く靴音、そこにうごめく人間たちの渇ききった精神、それら暗く垂れこめる陰惨なイメージを極限にまでに押し広げ、スタイリッシュなまでに映像的に提示した、モブ・ディープの3作目にして最高傑作。神経質に高揚した小刻みに打たれるハイハットが全面に横溢し、血の気の失せたピアノループや寒々としたシンセをバックに、張りつめた緊張感を持ったライムが深く突き刺っていく。全てがダークなトーンで展開されるのだが、不思議な中毒症状ともいえる呪術のような麻痺感覚にとらわれて、増々その深みへと引きずりこまれてしまう、負の引力を秘めた説得力のある音世界。来るべき近未来に一抹の光明を見い出すかのごとくバロック風のギターがくり返される「Front Lines (Hell On Earth)」や、荘厳なパイプオルガンが響きわたるような「GOD Part 3」には切実な祈りさえ垣間見える。
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■ Graciela Susana / Ador. La Reine De Saba
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グラシェラ・スサーナ/アドロ・サバの女王
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「死んでもいいわ、あなた胸に抱かれてー」この世の果てへとつらぬいていく、切なくも情熱の炎がいっぱいにあふれ出す哀愁の旋律には、生のはかなさと愛の深遠が同居している。グラシェラ・スサーナがこの「アドロ」を録音したのは73年の来日時であった。10才の頃より歌いはじめ、17才の時には、アルゼンチンのタンゴ・フェスティバルで優勝するという実力派で、歌手の菅原洋一氏が当地でいたく感激し、日本に招聘された。このアルバムには「雪が降る」「サン・トワ・マミー」といったシャンソンのスタンダードと共に「遠くへ行きたい」「竹田の子守唄」など日本の佳曲が多数、収録されている。おぼつかないままの日本語にもかかわらず、精一杯の歌唱で綴る詩情には激しく胸を打たれ、そして心が洗われていくよう。
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■ Os Tres Brasileiros / Brazil Lxix
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オス・トレス・ブラジレロス/真夏の夜のスキャット
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潮風もさわやかに月の光が、浜辺の恋人たちを優しく照らし出す。ハモンドオルガンの音も涼しげに、つま弾くギターがテンポよく踊りだすと、透きとおるように上品でチャーミングなスキャットとコーラスがすべりだしていく。「いそしぎ」のテーマ、「酒とバラの日々」「ムーンリバー」などのおなじみ映画主題歌が、ボサノヴァの軽やかなリズムにのって華やいでいき、その奏でられるエレガントでモダンな楽曲にすっかり魅了されてしまう。細やかな情感を色鮮やかに表現している、めくるめくスキャットに包まれていると遠い夏の夜の想い出が、窓の外にふと現れては消えゆくような淡い幻影にとらわれてしまいそう。サウダージにゆれてはかえす、ブラジリアン・スキャットの名盤。
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