「三振っ!!試合終了!阪神タイガース、18年ぶり4度目のセリーグ制覇ですっ!!」

とアナウンサーが言ったかどうかは知らないけど、阪神タイガースは優勝した。

言ったかどうか分からないというのは、自分がそのグラウンドに立っているからである。

マウンド上にはストッパーの木田さんがガッツポーズをしてホームベース方向に走ってきている。

そして、俺も被っていたキャッチャーマスクを投げ出すと木田さんの方に走っていった。

走っていく途中で高田さんや環ちゃん、西原さんたちもマウンドに走っていくのが見えた。

バッターボックスには横浜の背番号8の選手−−「NODA」と書いてある人がその場にうずくまっていた。

今年のセリーグが終戦したのである………。


2003年2月 高知県安芸市 阪神タイガース春季キャンプ地

「ふぅ…、ここが阪神のキャンプ地か…。今回はテストしてもらえるかなぁ…」

俺は、横浜・日本ハム・中日といった球団のテストを受けるために各キャンプ地を転々としていた。

この時期、各球団は練習に忙しい。そのため、球団関係者にテストのことを話しても門前払いの連続だった。いや、全部門前払いだった。

「阪神がダメになると…、来年新規参入される予定の球団まで行ってみるかな…?」

とマイナス思考を持ちながらも安芸市営球場の阪神球団の関係者事務所を訪ねた。


「この時期のテストとなるとねぇ…、悪いけど他あたってくれないか?」

案の定、思ったとおりの反応が返ってきた。やはり、時期が時期だけに無理だったのか…。

しかし、俺にも生活がある。しつこく食い下がっていると後ろの方から声がした。

「別にええんとちゃう?テストしたっても。」

そこには背の小さな阪神のユニフォームを着ている人がいた。

「見た感じ野球の道具も持ってるしな。テストしないで帰したりして、もし凄いヤツだったら損やしな。」

「う、上田くんがそういうのなら…。」

上田−−阪神の正遊撃手で好守の要。現役時代はこいつに何度ヒットをアウトにさせられたことか…。

「よっしゃ、ならこの兄ちゃん借りますわ。兄ちゃん行こかー。」

そして、俺は上田選手に連れられてロッカールームに着いた。


「兄ちゃん、ユニフォーム持ってるんか?なかったら貸すけど。」

俺が着替えていると上田選手がそう尋ねてきた。

上田選手の手には阪神のユニフォームがあった。

「あ、大丈夫です。ユニフォーム持ってきるので。」

「そかそか、それなら大丈夫やなー。」

そう言うと上田選手は俺をジロジロとなめるように見てきた。

「う〜ん、兄ちゃん、どっかであったことない?どっかで見たことある気がするんやけどなぁ。」

そりゃそうだ。去年、対阪神戦で戦ったことあるんだし。

ただ、今はあまり言葉を話さず、ユニフォームに着替えていた。

ユニフォームというのは去年まで在籍していた球団…「ヤクルトスワローズ」の物である。

「ほぉ〜、元ヤクルトの選手かいな。「Kato」「27」って…へっ!?」

ヤクルトの帽子を被ろうとしたとき、上田選手は俺の肩を付かんで…

「兄ちゃん、去年までヤクルトにいた加藤かいなっ!いや加藤選手かいなっ!!」

と驚いたように話していた。その驚きように俺も驚いた。

「いやぁ〜、加藤選手ならそう言ってぇな!しかし…。」

上田選手がまだ何か話そうとしている…。よく喋る男だ…。

「髭ぐらい剃った方がいいなぁ〜。ほれ、髭剃り貸すから剃ってきぃな。」

そういえば1月から髭剃ってなかったなぁ…。俺は上田選手に髭剃りを借りて髭を剃るために洗面所に行った。

………。こんなに髭生えてたのか…。こりゃ、球団の人は相手にしてくれない訳だ…。

こんな髭モジャモジャなやつが「テストお願いします。」と言って来ても「何だ、この風来者は。」と思ったことだろう。

これからは髭はなるべく剃ることにしよう…。

「そういや、何でヤクルト解雇になったんやったっけ?あれだけの成績残してれば解雇になる理由なんてないはずやし…。」

髭を剃ってる途中で上田選手が話を切り出してきた。

ついにその話が出たか…。しかし、話さないとダメだよなぁ…やっぱり。

「多分、話が長くなると思いますけどいいですか…?」

「ああ、ええよ。かまわへんから。」

というか解雇理由は新聞に載ってたはずなんだけどなぁ…。まぁいいか。

俺は髭を剃り終えると上田選手に解雇された理由を話し始めた−−。

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