ねずみのチューザー63 デジタル表示の数字が止まったとき、天井から激しい揺れが伝わり、また左右の側面からも何かを連射している小刻みな振動で車内は一気に工場のようなけたたましさに包まれた。夜空に花が咲いたか、朱や黄の火炎が窓ガラスに反映する。花火でも打ち上げているのだろうか。苦笑いの瞳の奥にも火花は飛びこみ、こめかみのあたりから脳天にかけて心地よい痺れをもたらした。 このバスの造りは気密性が高く外部からの匂いを一切寄せつけない。火薬特有の臭気もなく、爆撃はあっという間に終わってしまった。別段反撃を被った形勢はなかったし、夜の山に墜落した飛行物体の気配もなくて、あたりは太古の昔から連綿と続いている山深い静けさに立ち返っていた。外に出てみる気力もなく、ただじっとして運転席に座っていると、振動の余韻みたいなものが背筋までじりじりと這い上がってくる気がした。 照明が順序よく消えていくのが分かり、指先を折り曲げながら数えるようにして闇の沈黙を迎え入れたんだ。デジタル表示も谷底に落ちてゆく蛍となって消滅した。バスの中には漆黒の絹の肌触りをもった空気が張りつめている。頬をなでる微風などないはずなのに、落とした視線を持ち上げるように闇が少し流れだす。そのまま眠りにつければと思ったりしたが、ふと懐にあったマッチが念頭をかすめ、ゆったりとした仕草を慈しむよう一本に火を灯した。硫黄の香りが鼻をつく。中心はぼんやり、楕円に広がった明るみの輪郭が人気のない座席を照らしだした。すぐに火は消える。もう一本マッチをすったとき、同じ場所に淡い人影が居座っている幻が見えた。面立ちまでは判別できない、だが、幽霊にしては物足りない幻影だった。パソコンの電源も切れてしまったから、君にこの続きは話すことは無理だ。 S市から山中に向かう農道で一台の無人バスが数日放置されていたと、地元新聞の片隅に報道されていた。バスの形態から市が関知する車種ではなく、固有のものとしても訝しくナンバープレートは外されており、現在捜査中と記されている。それから最初の発見者は近所の子供で、不審に思い近づいてみると一匹のねずみがバスの屋根から飛び降りてきて驚いたとも書かれていた。 完 |
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