ねずみのチューザー26 苔子の唇を吸いながら背中にまわしていた腕を離し、次には両手で彼女の頬をなでるように包み込んだ。頬といっても細面の小作りな顔立ちだったから、すっぽり掌におさまってしまって、なおも執拗に口づけを続けたいが為の固定ともいえた。苔子は嫌がる素振りなど微塵もなく、相変わらず目は閉じたままだったけど、眉間に苦悶のしわを寄せるどころか、まぶたの中には眼球がきょろきょろと快く動いている。 それほど長くはないが洋花を想起させる可憐なまつげにも波動が見てとれ、口中の運動から転じるよう、唾液にまみれた滴りをぬぐうよう、その諦観と喜悦が交差しているまぶたへかわるがわる軽く唇をのせた。 僕の胸に不意に突き上がってくるものがあった。情念には違いないだろうが、肉欲だけに支配されてはいない何かが憐れみにも似た失意となってよぎったんだ。それから我武者らになって首すじに舌を這わせていき、掌を頬から乳房に移そうと考えていた矢先、苔子は薄目を開け、愛撫を優先させず素早く睦びに臨んで欲しいことを、あごをのけぞるようにして無言で訴えてきた。 僕の憐れみなど彼女にとってみれば、却って仇となってしまうというのか。今度は苔子の舌さきが僕の口中へなめらかに侵入してきた。それまで特に気にしてなかった男茎の怒張もせわしさに押されるまま、全身女体にかぶさりながら、わずかに腰を浮かした際にほどよく茂った苔子の恥毛をよく眺める間もないうち、開脚されていない股間に割り込んでいくよう勃起の頂点になったものを押し込んだ。茂りの奥には早くも湿地帯が待ち受けており、僕はそんなに無理せずともぬるぬると濡れたところに入りこめた。それでも、苔子は脚を上げようとはしない。反対に両脚をきつく伸ばし、秘所を閉じきることによって接合をせばめるつもりなのか、いや、もうすでに僕の男茎はその窮屈な姿態とみるみる間にあふれてきた愛液の加減で、名状しがたい快感をあたえられてしまっている。最初ひかえめな腰つきだった苔子の下半身も一気に絶頂を極める勢いで、激しい連動となって股間同士がこすれあう。乳房をまさぐろうと時宜にかなったふうであった両手はそこまで順序を運ぶことは許されず、苔子の顔やら頭をなでつけながら、更に吸引を増した唇を密着させ、それが契りの掟なのだと悟らされながら、僕はもう抑止が利かないのを知った。 「いいのよ、安全な日でございます。そのまま放って下さいまし、、、」 苔子のもの言いには明白な快楽が宿っているし、僕は精通をこらえきれない少年のように無垢なまま、締めつけられた体内のなかに脈打ちながら放出してしまった。夕暮れからどれくらい時間が経過したのか、そんな思惑の端緒も吹き飛ばす馬力で、今日三度目の精を噴出したんだ。しかも回数には関係なくかなりの量が体内に注入された。 苔子の腰は最後の一滴まで搾り取ってくれる調子で、果てたあとも微弱な上下作用を怠らなかった。僕は身震いしながら快楽の潮が引いていくのが鮮明に分かり、いくら「夜伽」の名分に準じたとはいえ、疑似恋愛の心情さえ不可分に植えつけられているような気がして、切れ長の目でじっと見られたときには、まったく単純ながらこっちのほうが愛しさを芽生えさせてしまったかもなどと、憐憫をいともたやすく情愛にすげ替えてしまったんだ。自分でも顔つきが変貌しているのは他人の面でも借りてきたみたいに実感できたよ。前戯によって裸体を味わうことはなかったけど、こんなにこらえきれない享楽をもたらしてくれた苔子に好意を抱くのは誤りではあるまい、僕は思慕の念を伝えたく、あれほど強引に吸った唇へ意味あいの異なる敬意のような口づけを新たに施したくて、堅くなったまま股間にはさまっていたものを抜きかけた途端、「まだよろしいではございませぬか。それともお疲れでございましょうか」と、かつてない陽気な口調で問いかけてきた。 不思議なものだね、あんなに精を吐いたというのに苔子のそんな一言で僕の萎えかけていたものが一度に充電され、応えはさっき断念しかけた乳もみへと速やかに従事していた。はち切れんばかりの乳房は弾力を持ち、さするもよし、もみあげるもよし、指のはざまに乳首をはさみ柔らかさを堪能するもよし、そして舌を乳輪に沿って転がしながら、再度腰を降り始めたのさ。苔子は自分から延長を申し出た合図を送るがごとく、「あっ」と、切なくも甘いため息をもらして下半身を横へずらし、それは恥じらいに身をくねらす動作を見せながら、その実かたひざを立ておもむろに股をひろげる受け手へと淫奔さを充たしているようだった。 僕は立てられたひざをすかさず自分の足で更に開かせ、乳もみに専念していた片方の手も瞬時に動員して、苔子の尻を浮かせるよう努め、それまでの下つきの感からいっぺんに女陰を開示させた。いわゆる正常位にもちこんだことで性器の挿入度は深まり、根元まで液体を帯びた人肌が取得されて、苔子の奥まで達している実感が押し寄せてくる。恥毛の下方に見え隠れする女陰を垣間みながら、腰を小刻みに突き動かせば、ため息とは別の音色が飛び出して、僕はまたもや頂上へと登りつめている歓びで胸がいっぱいになった。ほとんど不動の体位を持続させつつ、すべてを下半身に集中してあとは発射にいたるだけだったが、苔子はなにを案じたのか、「わたくしのほうが好きものかも知れませぬ」と発するやいなや、まるで寝技が反転したかの俊敏さで体位は崩れ女体は離れ、僕は仰向けになってしまったと思ったら、いきなり男茎を頬張られて目がくらむ思いがした。 秘所のぬかるみとは異質の生温かさが局部を襲撃してくる。口内に含まれた感触には舌による高速回転も付随しており、棒先あたりに接する気持ちよさと吸引を絶妙に駆使した反復、そして低音を奏でる弦楽器のような手先の連動によって、僕は脳天まで痺れる快感を付与させたんだよ。「効きすぎる、なんてことだ」そう言おうとして、股間に顔を埋めている苔子を見遣り手をのばしたところ、それも性戯のひとつなのか、僕の左手は濡れた女陰にそっと導かれてた。まるで手すりに触れる案配で。 |
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