ダーツの王子様・2



仁王の部屋では決まり事のように、ダーツ勝負が行われていた。ミニダーツ購入後、腕を上げつつあっただが、望んだこととは言え、仁王に必要以上の褒め行為をされるため一時、嫌厭していたが、全戦全敗のままでは悔しくて、再度ダーツを始めた。



「雅治先輩。もう一回だけ」
「またか・・・」



何度目のお願いだろうか、どうせお願いされるなら別なことがいいなどと、今度は仁王がダーツを倦厭したくなるほど、一日に何回もしていた。袖をちょんと掴み、の無自覚に大きな瞳を潤ませ首を傾げる様は、もはや技。しかも、日に日に磨きが掛かっていて、嬉しくも悲しい妥協を強いられる仁王であった。



「何回目じゃ?」
「じゅうぅにぃかい、かな」
「17回じゃ。はぁ・・・これが最後な」



はぐらかすような答えを返すだったが、嫌な顔をしても折れてくれる仁王を見て、嬉しそうにダーツの矢の準備に取り掛かる。いろんなの表情を見てきたが、嬉しい顔を見たときが1番好きだと思う辺り、惚れた弱みと、自分の甘さに溜め息が洩れた。何度やっても、結果は変わらないと断言出来る。なぜなら、仁王にとっての勝利の女神は、でしかない。



「はい。雅治先輩の分」
「おぅ。・・・ところで、これが最後じゃろ」
「そうです!」



からダーツの矢を渡され、暫し見つめた。軽く手を握り、意味ありげにに瞳を移すと、気合の入っているその耳元へ顔を近付ける。付き合いは、付き合いで返して貰わないと、割に合わない。



「俺、ずっと勝つちょるき。勝ったら抱いていいか」
「っ、えぇ!」



おふざけもからかいもなし。普段のトーンなのに、サラッと疑問符を消して告げられたことで、の鼓動は速まり、思わず1歩後退る。見慣れたはずの瞳が見れず、仁王は至って普通なのに、それが反対にを動揺させていた。



「散々付き合ったんじゃし、次は俺が楽しむ番じゃろ」
「そ、それは、その・・せ、せせ先輩が!勝、ったらの話ですから、ね」
「勝つさ」



詰まりながらも言いきったのおでこを、仁王は鼻で笑いながら軽くコツいた。勝利を確信している余裕な態度はの更なる焦りとなったが、なんとしても勝たねばならない状況下で、頭をフル回転させ知恵を絞る。






「よっ」



ダーツの矢は狙ったように、意地悪にもシングルエリアに刺さった。



「同点じゃ」




の先攻で始まったこの戦い。大混戦と言いたいところだが、の投げた位置に仁王も投げるという、同点でも面白みのない結果になったいた。仁王に操作されるまま、残すは一投のみ。始めから、の完全不利で幕引きは見えていた。



「お願い」



最後の一投に願いを込め、震えを堪えた手から放たれた矢はダブルエリアに刺さった。その瞬間、仁王は勝利を手にしたように口の端を上げた。狙うは中心。邪なものがあっても、今の集中力は途切れない自信があった。と立ち位置を交替し、左手をスッと構えると狙いを定める。



「勝たせてもらうぜよ」



静かに時が動く。肘が伸び、手から矢が離れる瞬間。



「先輩!」
「な、あぁ〜」



勢いなく放たれた矢は、シングルエリアになんとか刺さった。それを見て、仁王とは顔を合わせる。




「えへっ」
「どこでそんな技を」
「雅治先輩・・かな」



投げる瞬間、背中に飛び付いてきたに驚き、不覚にも集中力が途切れてしまった。後ろから覗き込むように見上げているが、可愛くも小悪魔に見え、完敗と肩を落とす。でも、こういった負けならば悪い気はしなかった。



「勝ちは、勝ちですからね」
「わかっとるよ」

続き


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