「後編」
その一室は、異様な緊張感に包まれていた。
ジョウイは迫りくる身の危険をひしひしと感じながらも、その場から動けずにいる。
いや、動けないのではない。
逃げたくても逃げれない。
それが言葉として一番正しい。
なぜならば。
ジョウイの首にはしっかりと銀の首輪が嵌められ、なおかつ、そこから伸びるこれまた銀の鎖が、ベッドの端にしっかりと括りつけられているのだから。
泣きたい。
ジョウイはかなり本気で思った。
今更だが。
そしてそれとは全く対照的に、目の前には御機嫌な幼馴染み・・・元敵リーダー、今は御主人様(?)のワンのスケが椅子に腰掛けてにこにことしていた。
「いいものが貰えて良かったね〜ジョウイ♪」
手に持ったタマゴのような怪し気な物体を掲げ見せて、ワンのスケは今にも頬擦りせんばかりの嬉しがり様だ。
この手の中にあるたまごもどき。
実は新エルフの村の名産品・たまごアイスなどとゆー代物らしい。
「さ、ジョウイ。早速いただこうよ」
「でもワンのスケ・・・これ一つしかないけど・・・」
「大丈夫。半分こしたらイイじゃン。いつもそうしてたじゃないか?」
無邪気な笑顔に気押されて、どーやって?という基本的な事さえ問えないジョウイ。
第一、ゴムの中にアイスを詰めた代物を半分にわるわけにもいくまい。
「あ、あのさ・・・ワンのスケ。僕はイイから・・・君が」
「駄目。ジョウイが先に食べるんだよ」
ワンのスケはぷちりとハサミで吸い口を切り取り、素早くジョウイの目の前に差し出した。
「ほら、早く。早くしないとこぼれるよ!!!!」
「ああ、うん」
急かされて、逆らう事もできずにジョウイはたまごアイスの口を銜えた。
ちうちうちう。
吸おうという努力をしなくても、溶けたアイスがゴムの伸縮に押されて口に運ばれてくる。
なるほど、これは無口になるなあ。
ジョウイはさきほどこの物体を譲り受けた部屋の光景を思い出しながら、独り納得する。
ちうちうとアイスを吸いながらちらとワンのスケを見ると、頬杖をついて幸せそうにジョウイの姿を眺めている。
少し、胸が熱くなった。
この状況、考え様によっては幸せなのかもしれない。・・・自分の気の持ち様次第で。
そんなことをつらつら考えていると、手の中のアイスがそろそろ半分くらいの大きさになったようだった。
ジョウイは吸い口を指で挟み込んで流れを止めると、
「半分食べたよ」
そう言ってワンのスケにアイスを差し出した。
「うん、ありがとう。ジョウイ」
それを素直に受け取って、アイスを食べ出すワンのスケ。
そんなワンのスケの姿を、さきほどのワンのスケのように黙って見つめて、ジョウイはほんのりと、今が幸せかもしれないな、と思った。
「結構美味しいよね」
話し掛けると、うんと頷いてくる。
その子供くさい仕種に、思わずジョウイは微笑んだ。
「ジョウイの笑顔、久しぶりにみたなあ」
アイスを食べ終わって、ワンのスケは開口一番、そう言った。
「やっぱり、美味しいもの食べると幸せになれるよね♪」
「あ、うん」
それだけじゃないんだけど。
ジョウイは思ったが、口には出さなかった。
まあいいか、と思う。
この幼馴染みが、こんなに嬉しそうにしているのならば。
「今度はハイ・ヨーの作ったプリン食べようか?」
問われて、
「うん。それは楽しみだね」
ジョウイはそう言って、もう一度微笑んだ。
後日。
「ジョウイ〜〜〜!!!!!」
息せき切って走り込んできたワンのスケに、本を呼んでいたジョウイは驚いて顔を上げた。
「どうしたんだい?ワンのスケ。そんなに慌てて」
「これ。ルビィさんがジョウイにって!!!!」
嬉しそうに笑うワンのスケが持っているものは・・・。
プラチナの首輪。
「ルビィさんが銀の首輪じゃあんまりだからって、わざわざ特注で作ってくれたんだって!!!!!!良かったねジョウ・・・あれ?ジョウイ?」
だくだくと涙を流すジョウイを首を傾げて見つめ、ワンのスケはぽんと手を打った。
「泣くほど嬉しいんだ〜〜〜良かったね。ジョウイ♪」
ジョウイの受難はまだまだ続く・・・。
おわり。
*多輝節巳嬢コメント*
全然ラブじゃないけど。
まあワンのスケだからね。こんなもんではないかと。
できれば笑って許してください・・・。えへ♪←逃げた。
*コメント返し*
ありがちょう!主ジョウね!これは間違いなく!
大丈夫。あなたにラブは求めてないから(笑)
しかし‥ホントにプラチナの首輪になってる‥。ありがとう。
だって銀じゃあまりに安いじゃないですか!ねぇ?(誰に聞いてる)
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