「たまごアイス」


 
「じゃあ、確かに渡したからな」
「・・・ああ」
 ルビィは怪訝に頷きながら、今し方手渡された小箱を見やった。
 聞くべきか聞かざるべきか暫し考え、取り合えず聞いてみる方を選んでみる。
「なあスタリオン・・・この中身は一体なんだ?」
 随分重いが・・・。
 そう付け足して同族の青年を伺うと、輝くような笑顔が帰ってきた。
「キルキスがルビィに渡してくれってさ〜。中身はなんでも新エルフの村特産品だそうだぞ?」
 戦争が終わった事で一時里帰りしてきたというスタリオンの言葉に、ルビィは懐かし気に目を細めた。
「キルキスたちは元気だったのか?」
「ああ、相変わらず元気だった。シルビナも」
「そうか」
「そんじゃ俺はこれから逃げ足の特訓に出かけるからな!!!!」
「ああ、すま・・・・」
 顔を上げて言いかけた言葉は、走り去っていくスタリオンの背を見て最後まで紡がれる事はなかった。
「やれやれ・・・相変わらずだ」
 はあ、とルビィは溜息をついた。
 疲れた表情のまま、手にした箱を軽く揺すってみる。
「で・・・キルキスは一体何を送ってきたんだ?」
  
 
 
 
 
「・・・・なにこれ?」
 かぽり、と小箱の蓋を開けての第一声がこれだった。
 勿論、発言したのはルビィではない。
 ここはルビィたちがあてがわれている部屋。
 ここで彼はチャレンジャーにも『元トラン解放軍伝説の英雄で現・ソールイータ−所持者』ニャンタ・マクドールと『ニャンタの親友であり元ソールイーターの持ち主で実年齢は300才でも見た目は青少年』なテッドと三人で暮らしているのである。
 ・・・・本気でチャレンジャーだ・・・。
 まあ、それはおいといて。
 先ほどの第一声は、小箱を開けたニャンタが発したものである。
「なんかの卵・・・かな?」
「氷詰めにされてる卵・・・?」
 箱の中身を覗き込みながら、ニャンタとテッドが首を捻った。
 箱の中には、薄黄色の、まさしく大きさも色も卵っぽいものが3つ、形よく並べられていた。
 そしてその周りには、クッション材の代わりか、砕いた氷がぎっしりと敷き詰められている。
 どうやら箱自体が独特の構造らしく、氷も解けることなく、そのままの形状を保っていた。
「・・・これが、新しいエルフの村の特産品・・・・」
「ただの卵・・・じゃないのかな。やっぱり」
「そうらしいな。どうやら『たまごアイス』というらしい」
 顔を見合わせて考え込んでいたニャンタとテッドは、脇からいきなり答えを振られて、慌ててそちらを見やった。
 椅子に腰掛けたルビィが、なにやら手紙を読んでいる。
 どうやらキルキスからの手紙らしい。
「たまごアイス?」
「そう書いてあるな」
「エルフの村って卵、特産品でしたっけ?」
「いや、聞いた事無いが」
 あっさりと言い捨てて、ルビィは手紙を折り畳んだ。
「でもまあ、新しい特産品としてキルキスが試作してみたものらしい。食べてみて、良かったら感想を聞かせてほしいと書いてある」
「ふ〜ん、味見ねえ・・・。僕の舌はちょっと煩いよ?」
「あ、俺わりとなんでも平気♪」
 初めて食べるものに好奇心が湧いたのか、ニャンタもテッドもなんだか愉しそうに『たまごアイス』へと手を伸ばす。
「うわ、つめた〜」
「ほら、この布巻いて持て」
「あ、ありがと。ルビィ」
「テッドも」
「へへへ。ありがと、ルビィさん」
 そして二人ははたと気付く。
「・・・これ、どうやって食べるんだろ・・・・?」
 ハモった声に、ルビィはやれやれと立ち上がった。
 引き出しからハサミを取り出すと、
「ほら、ここの細い管みたいなところを切って、そこを銜えて吸うんだそうだ」
「・・・変な食べ方」
「そうだな」
 あっさり肯定して、ルビィはさっさと二人の手にするアイスの口を切った。
「あ、そういやルビィは食べないの?」
「俺は甘いものは好きじゃない」
「あ〜っ!!ニャンタ、溢れるぞ」
「わわっ?」
 テッドに指摘されて、ニャンタは慌てて溢れてきたアイスを口にした。
 ちぅちぅちぅ。
 吸う音だけが部屋に響く。
 なんだかとても間抜けである。
「・・・なんかさぁ・・・」
「喋るなニャンタ。アイス、溢れてきてるぞ」
「あぅ・・・」
 眉を寄せてニャンタが呻いた。
 どうやらこのアイス、食べ始めたが最後、食べ切るまで口から離せない代物らしい。
 仕方なく、そのまま吸い込み続行。
 しかしその表情は『なんかいろいろなことが納得出来ない・・・』と如実に語っていた。
 だが、テッドはと言えばアイスの味が気に入ったのか、幸せそうにちうちうとアイスをいただいている。
 さすが300年生きていただけあって、多少の理不尽はあまり気にならないらしい。
 二人がひたすらアイスを食すに至って、それをずっと眺めていても仕方ないかとルビィが本を手に取った時だった。
「ニャンタさ〜〜〜ん♪見てください〜〜〜!!!!」
 ばたん、と勢い良く扉が開いて、この城のリーダー・ワンのスケが意気揚々と現われた。
 ずかずかと遠慮なく入ってくるその後ろに、ワンのスケよりやや背の高い華奢な少年が続く。
 ルビィは「おや?」と目を眇めた。
 それは、その少年が余りに綺麗だったからでも、実は元・敵王キングだったからでもなく。 
 その白く細い首に輝く、銀の・・・・。
「銀の首輪・・・・?」
 思わず、ぽつりと呟く。と、
「あ、やっぱりわかりますか?ルビィさん!!!!」
 きらりん☆と目を輝かせて、ワンのスケが自信ありげにガッツポーズを取った。
「実はニャンタさんから、ジョウイに銀の首輪つけたらどうかって御意見をいただいたんですよ!!! 銀の首輪ならジョウイのハニーブロンドにも良く合うからって。僕もそう思ったから、早速銀の首輪買いに行ってきたんですよ〜〜〜!!!! どうです?すごく似合うでしょう?!」
 ワンのスケの言葉に、しくしくと涙するジョウイ。
 よくよく見れば、お揃いの銀の鎖までついていて、その端はワンのスケの手に握られている。
「・・・・・ニャンタ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 思わずテッドとルビィがニャンタを見つめると、ニャンタはアイスを口にしたままあさってを向いた。
 また面白半分に、ワンのスケに変な入れ知恵したな・・・・。
 そう思いつつ、それを間に受けるワンのスケもどうかと思うが。
 こんな二人が真の紋章持ちで英雄ってンだから世も末である。
 別にいいけどさ。
「もう僕、いてもたってもいられなくなって。ぜひニャンタさんたちにもジョウイのこの、犯罪的な可愛らしさを見てもらおうと思って連れてきたんですよ〜〜〜♪」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 沈黙。
 あれ?とワンのスケが首を傾げた。
「ニャンタさん・・・?」
「・・・・・・」
 さらに沈黙。
「・・・・・・・・・・て、テッドさん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 どこまでも沈黙。
「どうして誰も、なんにも言ってくれないんですか〜?!」
 ワンのスケがショックを受けたようによろめくが。
 理由は簡単。ニャンタもテッドもアイスから口を離せないし、この場で口を聞けるルビィとジョウイは、なんだかとても投げやりな気持ちで口を閉ざしているからである。
 しかし。
「ひ・・・ひどいや。ニャンタさんたち、僕たちが邪魔なんですね?!」
 などと勝手に被害妄想モードに入ったワンのスケがべそをかき出すに至って、ルビィはやれやれと頭を掻いた。
 このままほっとくと輝く盾の犠牲になりそうな予感がするので、状況説明をしてやる事にする。
「・・・・・(説明中)というわけで、ニャンタたちはアイスを食べ切るまで、しゃべれないと思うぞ?」
「はあ・・・そうなんですか?」
「ああ」
「そして、これがその元凶の元・・・」
 箱に残っていた『たまごアイス』を手に取って、ワンのスケが興味津々に呟いた。
「元凶の元ってのは随分だが・・・それ、欲しいのならやるぞ?」
「え?いいんですか?」
「俺は甘いものが苦手でな・・・。一つしかないが、良ければ持っていくといい」
「うわ、ありがとうございます♪」
 自分で元凶の元とか言ったものを貰って喜ぶのはどうかと思うが、とにかくワンのスケは無邪気に喜んだ。
 その笑顔に邪気は全く無いのだが。
「じゃあ部屋でゆっくりいただいてきますね〜。いくよ、ジョウイ」
 哀れ、鎖をぐい、と引っ張られながらとぼとぼとワンのスケの後をついていくジョウイを見るにつけ、なんとなくワンのスケに指導入れようか、と無謀な事を思うルビィだった・・・・。
 


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多輝節巳嬢からの頂き物です〜♪
あははははは(笑)ワンのスケ相変わらずねえ…。ニャンタ様もね(笑)
でも銀の首輪は安いからせめてプラチナにして下さい(謎)

たまごアイスは実在しますが〜食べたことある人いるかな?
うちにあったのを多輝サンに食べさせたらこんなSSになって返ってきました。
う〜ん、素敵v

風邪ひいてる時にすまなかったねえ…。
でも、後半を心待ちにしてるから!ね!(鬼)

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