「お前は無謀すぎる」
痛みのためか涙目になった自分に投げかけられた第一声が、それだった。
見上げると、背の高いがっしりした銀髪の男が自分を無表情に見下ろしている。
「何時来たんだよ・・・クルガン」
「お前が隊を離れた時からだ。勝手に抜け出すな」
「だからっつーて、殴る必要無かったろうがよ?」
睨み付けると、冷ややかな視線にぶつかった。
「お前が命知らずなことをしているからだ」
「ああ?」
「・・・申し訳ない。こいつの非礼は俺が詫びよう。許してくれ」
クルガンはシードをあっさりと無視して、ニャンタたちへと丁寧に礼をとった。
「なっ?なに頭下げてンだよ、クルガン!!!!」
「お前の尻拭いだ」
「だ〜か〜ら!!!!なんでだよっ?俺はそいつの怪我治してやって・・・!!!!」
バコ!
再び勢い良く殴られた。
「いって〜〜〜(泣)」
「お前が、詫びるのが気に喰わんというのなら、言い直そう」
クルガンは面白くもなさそうに呟いて、
「この馬鹿を見逃してくださって、ありがとうございます」
じたばたするシードの頭を片手で押さえ付けながら、二人揃って頭を下げる。
「だあああああ〜?!」
「騒ぐなシード。彼は『真の紋章』を持っている」
喚くシードの耳にクルガンの囁きが届いた。
ぴた、とシードの動きが止まる。
「・・・マジ?」
「ああ。まず間違いなかろう。ハルモニアのササライ殿と同じ空気を纏っているからな」
「・・・ふーん・・・。クルガンがそーいうんなら、そうなんだ」
小声で話し合いながら、あっさりと納得したシードは顔をあげるなり、きらきらと輝く瞳でニャンタを見つめた。
「悪かったな。あんたらが真の紋章もちとは知らなかったんだ」
子供のように無邪気に謝るシードに、べしん!
三度、クルガンの拳が飛んだ・・・。
「へえ〜〜〜。魚釣りの旅とは優雅だな」
「ああ。今度はバナーの村に行くんだよ。なんでもそこにでっかい『ぬし』がいるって話で・・・」
水浴びをしているシードに、テッドがにこにこと話し掛けている。
それを憮然とした面持ちで見つめ、岩場に座り込んだニャンタは、片足を立てた膝の上に頬杖をついた。
「・・・本気でなにがしたかったんだか・・・」
「多分、シードには特に何かをしようと言う気はなかったと思います」
何時の間にやら和んでいるテッドとシードを後に、クルガンはニャンタの独り言に答えを返した。
怪訝な表情も露に、ニャンタは脇に立つクルガンを見上げる。
「なにも考えてない・・・か。なるほど」
「・・・納得されますか?」
「いきあたりばったりっぽいもんな。いきなり人に『母なる海』をかけてくるぐらいだから」
「はは。あいつは勢いで生きてますから」
「ルビィだったら絶対しないことだよなぁ・・・」
「?」
肩を竦めるニャンタに、クルガンが僅かに首を傾げると、くすりとニャンタは笑った。
「僕たちの連れだよ。彼と同じ流水の紋章を持ってる。今は別々に行動してるけど、明日にはバナーの村で落ち合う約束になってるんだ」
「そうですか・・・。ではシードと一緒にお二人をバナーの村までお送りしましょう」
「いらないよ」
ひらひらと手を振って、ニャンタは立ち上がった。
「これ以上、恩を着たくないんだ。・・・僕は君たちの力になれないから」
「・・・今のハイランドでは・・・まあ、貴殿を迎えるのは無理だと承知していますが」
「うん、そうだね。そういってもらうと助かる。僕は・・・余り危ないことはしたくないんだ」
小さく笑って、ニャンタは目を細めてテッドを見つめた。
「でも、機会があれば・・・また会うことになるかもね」
その言葉の意味は、どこまで考えればいいものか。
知将と呼ばれる自分にも計りしれないけれど。
「そうならないことを望みますよ」
クルガンは半ば本気で呟いた。
味方なら、いい。
だが。
「貴殿が戦いと無縁でいることを、切に望みます」
シードのためにも。
心の中で続ける。
真の紋章を持ったが故の彼に、その選択は厳しいであろうことは容易に想像出来るけれど。
それでも、そう願いたい。
「・・・善処するよ」
ニャンタがにっと笑った。
「意外に過保護なんだね。あなたは」
クルガンの心の裏を読んだかのような、ニャンタの言葉。
クルガンは苦笑した。
「・・・自覚はありますが、面目ありません」
「いいんじゃない?一つぐらい、そーゆーのがあったって」
僕にもあるしね。
呟きが風に乗る。
「じゃあ、僕たちはもう行くよ」
「はい」
「ああ、それと」
ハイランド、いい方向に動かすのはあなたたちの役目だと思うよ。
ニャンタは通り様、クルガンの肩を根で軽く叩いた。
振り返ったクルガンは、黙ってその背に礼をとる。「テッド、そろそろ出発しようか?」
「うん。わかった」
「あ?もう行くのか?おれたちとこないのか?」
ざばざばと湖から上がってきたシードが問いかけるが、ニャンタは軽く頭を振った。
「好意は嬉しいが遠慮しておく。あなたの相棒には理由を説明しておいた」
「・・・ふーん、そっか」
「足、治してくれてありがとう。礼が遅くなってすまなかった」
「え?あ、ああ。別にいいって・・・」
ニャンタが丁寧に頭を下げると、シードがきょとんと目を開いて慌てて手を振った。
「なんつーか、当たり前の事しただけだしよ・・・」
鼻の頭を掻いて照れるシードに、ニャンタはその人柄の良さを感じた。
本当は、猛将と恐れられる彼の名を知っていた。
しかし彼とて、けして好きで人を切っているわけではないのだろう。
愛する自国のため。
その思いが純粋すぎて、彼の心を却って傷つけているような気がした。
まるで昔の自分のように。
「ありがとう」
ニャンタは繰り返した。
「いいって・・・。じゃあテッドも元気でな」
「ああ、シードさんも元気で。それとニャンタの足、治してくれてありがとな」
「ハイランドが平和になったら、きっと遊びに来いよ」
「うん」
にっこりとシードとテッドが笑いあう。
何時の間にそんな約束をしたのかとニャンタは多少面白くなかったが、言わないでおいた。
「じゃあ、さよなら」
「ああ」
ニャンタとテッドが並んで林を抜けていくのをクルガンと共に見送ると、シードは手早く、水洗いして血を流した服を着込んだ。
絞っただけの服は水分を含んで重かったが、シードの心は随分と軽くなっていた。
「おれたちも急ぐぞ、シード。将が二人とも隊を離れていたとソロン様に知れたら減棒ものだ」
「あ〜〜〜。そりゃまずいな。さっさと帰ろうぜ」
他人事のようにのんびりと笑い、シードは主人を待っているであろう馬の元へと歩き出す。
横にクルガンの並ぶ気配がするが、敢えて目は向けなかった。
「なあ、クルガン・・・」
言葉だけを、相棒へと向ける。
「なんだ?」
「ハイランド、おれたちで変えなきゃ・・・な」
「シード・・・?」
よもや先ほどのニャンタの言葉が聞こえていたとも思えないが、シードは何処か思い詰めたような顔をしていた。
クルガンはふっと溜息をつく。
「ああ、そうだな。そうすればいい」
「うん、そうだろ?」
「しかし、取り合えずは減棒を防がんとな」
「ははは、違いね〜〜〜」
後日、彼らの前に『始まりの真の紋章』の片割れを持った少年が現れ、彼らの心を動かすこととなる。
おわり
>多輝サンコメント
あああ、やっと終わったけど〜〜〜(泣)
無駄に長い上に意味がわからないのは何故?!
シードメインにしたつもりなんだけど・・・。やはりニャンタさまが絡むのがマズイのか・・・・?あう。
でも、努力だけは認めてください〜〜〜!!!!!
そんなわけで誕生日おめでとう!!!!!←どんなわけだ?>佑野コメント返し
ふらぁぁぁぁぁり…(目眩)
シードさんが素敵だ…どうしよう…ツボだ。
もーまさに!こんな感じで!そう、こんな感じ!!シードさんステキ!(落ち着け)
ニャンタ様も相変わらず(笑)格好イイしさv
はー、良い相方もったよ、私。
ありがとうね!多輝さん!貴方の誕生日にはきっと御恩返しをするからね!■BACK■