ひとりごと13  2001ねん 4がつ        

  御在所(藤内沢)
初めての雪山山行(アルパイン部に参加して)

 前日に急遽、ハーネス、アイゼン、ピッケルを買っての準備。
本当のところ、山歩きを始めた頃には絶対やるとは思っていなかったアルパイン部の山行。
人一倍恐がりの慎重派、おまけに人のことは信用しない、このまた悪い性格。

なのに、なぜ危険な白い山にひかれてしまうのだろう。
雪の山は、ごちゃごちゃしたものが全く無くって、モノトーンの世界。
花も緑も何も無い山なのに・・・

ただひたすら、前を向いて、よじ登るだけの山に行こうとするのだろう?
不思議な魅力を持ったのが、雪山である。
 とうてい一人では、絶対に踏み込めない山に出かけることになったのだ。

 御在所の藤内沢というところだ。
ここは、剣岳や穂高などの標高の高い山に向かう前に、練習を重ねるためにちょうどいいと
いわれている、地元では有名な山だ。

鈴鹿スカイラインのゲート前に駐車して、車道を歩いていく姿が、私だけやけにへっぴり
腰なのである。みんなの足元を見ると、そのままの足である。つまり、登山靴のみ。
雪、イコールアイゼンが必要だと思っていた初心者の私は、ちょっと面食らった。

藤内小屋までは、積雪があってもそれなりにアイゼン無しでの歩行で、
どうにかみんなの後について行くことが出来た。
ところ、どころアイスバーンになっている所を踏んでは、もうココで骨折か?

などと自分で感じながら、歩いていった。
藤内小屋の前まで来ると、少し休憩することになった。
以前、表道〜頂上〜裏道というルートを経験していたので、この小屋は初めてではなかった.

ここで、休憩だな!小屋を見るとほっとした。
どのくらい休憩するのか分からず、とりあえず立ったまま、コンビニのおにぎりを1こパクついた。
しゃりバテになってはいけないな!と、こんな緊張を強いられる時でも、神経が図太いのか、

人よりちょっとデカイ体が欲しがるのか、毎度の事ながら腹ごしらえだけはしっかり出来る性格である。
この先、行動食を取っているヒマも余裕も無いだろうから・・・それほど、私にとっては、藤内沢には覚悟が要った。
小屋で休憩をした後は、藤内沢分岐を目指すことになる。

藤内小屋から藤内沢分岐までは、すぐ着いた気がした。
その日のリーダーY氏に、ここでアイゼンを付けていこう。
そういわれて、初めて10本のアイゼンを付けた。昨日買ったものである。

ここからが、藤内沢の本番なんだな・・・
歩き始めは、よじ登るように立木につかまっての登りが、思ったより簡単だった。
そうしているうちに、つかまるものは無くなり、本格的な白一色の世界になってきた。

どうやら、初めてのピッケルの使い心地が試されるときだ。
雪の斜面にピッケルを刺しても、ふかふかで、想像していたような「刺さる」といった感触は、無い。
55cmの買ったばかりのピッケルは、ズボズボとどこまでも雪の斜面に刺さってしまう。

もう少し長いのがいるのか?なんて、心のどこかでバカな事を思いながら、せいぜい
60cm前後のピッケルは、今日の雪の斜面では、体を止めてくれるものには、とうてい思えなかった。
こんなものに命を託せるもんか!と心の中でつぶやきながら、前を行くM氏のツボ足をたどることになるが、

それでも、私の体重が重いのか、ズボズボと足をとられ、おまけに体ごと後ろに下がってしまう。
このまま、背中を反らしたらきっと滑落するな。なんて思った。
そんなことは許されない。私のすぐ後をH女史がいるのだ。

ほんの50pくらい後ろにいる。そう、勝手に思っていた。
本当はどうなのか、怖くて後ろを見ることが出来ない私は、たぶんそのくらいにH女史がいるとおもっていた。
こんな、急な登りのしかも、ラッセル同然の積雪だ。もう、腰くらいの深さはある。

前を行くM氏が、ルートを見つけてくれるので、その後をたどればいいのだが、人を信用しない私の性格、
本当にここでいいのだろうか?などと、不信感を抱きながら、足跡をたどった。
積雪の一番下の堅いところに足が届かず、次の足を踏み出さなければならない。

ふわふわとした感触の中で、片足に体重をかけるようにして、次の足を踏み出さなければならない。
まるで雪と足のだまし合いのようだ。
どのくらい登ってきたか、全然わからないままここまで来てしまった。というのが実感だ。

リーダーから、このあたりから危険なので、ハーネスを付けよう。といわれた。
ああ、いよいよ、アレか・・・
生まれて初めてのハーネスを腰に付けた。これを付けたからって、落っこちないという保証は、全然ない。

このまま、ザイルを付けて行くのだろうと思いきや、まだである。
本当に、危険なところ以外は付けないのだという。
本当にとは、今までは何だったの?今までのところも、危険がいっぱいだったじゃあないの?そう、心で叫んでいた。

いよいよその時が来た。ザイルの必要なところだ。
案の定ザイルに引っ張られる感じで上に持ち上げられた感じがした。びしびし2回3回とザイルがピンと引っ張られ、私の筋肉は
ほとんど使わないうちに、上へと引きずりあげられたのである。なんと、情けない。

この時はもう、すっかりふくらはぎがパンパンだった。
3ルンゼで休憩をした時は、みんな立って休憩をしているのだが、私だけ寝そべるように地球にしがみついていた。
だって、下を見たら、今まで自分の歩いてきたところがめちゃくちゃ遠く、今いる自分がなんと高く思えるのだ。

そう、私は高度に弱いのである。
でも、ホント嬉しかった。一人ではけっしてここまで来ることは出来ない。
あの「藤内沢」に来られるなんて・・・

ベテランの三人がいてくれたからこそ、来ることが出来た。そんな気持ちだった。
「あと、ちょっとで頂上だよ。」
と教えてもらった時、そこには樹氷がいっぱいの登山道があった。

頂上での記念写真は、絶対に今日のメンバー四人で撮っておこう。そう思った。
こんなにも、無心で歩くことが、よじ登ることが楽しいなんて、今まで無かった感覚に酔いしれてしまいそうだった。