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近所の父と娘の会話_2
著者:ぶるくな10番!

父 : ちょっとだけ長くなるが付き合うか、娘よ。

娘 : あたた、お腹がいたくなって・・・。え、なに・・・?

父 : 正露丸。

娘 : ・・・・いらない。聞けばいいんでしょ、もう。

父 : 音楽は音が鳴らなければ音楽ではない。しかし音が鳴っている
    だけでは音楽とはいえない。

娘 : たとえば、冷え切った関係の夫婦からはもう絶妙なハーモニー
    を聴くことはできないとか。

父 : ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

娘 : ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

父 : 中々鋭いやつだなお前は。父さんびっくりして心臓が停まりそ
    うになったぞ。

娘 : そんなに核心をついているとは思わなかったから・・・はは。

父 : ところでお前は何故人は音楽を聴くのかを考えたことがあるか?

娘 : それはもちろん楽しいからよ。楽しむために決まってるじゃな
    い。

父 : それから?

娘 : それから・・・・ハイな気分になってKenちゃんサイコーっ
    て上海まで行っちゃったり。

父 : それから?

娘 : それからって・・・・そういうお父さんはどうなのよ。

父 : 父さんは楽しい気分になるためだけに音楽を聴くのではないぞ。
    悲しい気分になりたい時や辛い気分になりたい時もある。怖い
    気分になりたい時や怒りの気持を代弁してもらいたい時、瞑想
    的な気分にひたりたい時や癒されたい時もある。天国的な至福
    の喜びを感じたい時や生きる幸せを感じたい時、明日を生きる
    勇気を与えてもらいたい時もある。

娘 : 何だか一杯でてきたけれど、つまりどういうこと?

父 : 音楽を聴く行為はもう一つの人生を経験していることに等しい
    ということだ。

娘 : へぇー。80へぇくらいの説得力ね。でもいい音楽といい音の関
    係がわからないよ。

父 : お前の目の前にあるオーディオ機器は電子技術を利用した再生
    装置なんだよ。
    つまりプレイヤーやアンプ、スピーカーを含むすべての装置が
    一つになって一種の電子楽器を形成している。つまり生演奏の
    音ではないわけだ。それをもっともらしく、あたかも今生まれ
    たばかりの音が鳴っているかのように聴かせるのがオーディオ
    の魅力なのだ。

娘 : ふーん、でも出てくる音はニセモノと。

父 : まぁその通りなんだが・・・・・・・お前はオーディオマニア
    の前に出たらきっと袋叩きだな。

娘 : だって本当のことだよ。レコードやCD作ってる人達だって録
    音された音を加工して音楽を作ってるって聞いたことあるし。

父 : お前の言いたいことはわかる。録音された音のもとの音はそれ
    を聴いているエンジニアにしか分からんし、それをヘッドホン
    やらモニタースピーカーやらで確認して音づくりされていては、
    それ以外の装置では正確に再生できないということだろう。

娘 : そこまで言ってないけど、まぁ大体そんなところ。

父 : それを指摘してなおかつまだ唯一無二の音を目指しているオー
    ディオマニアは確かに多いが、高忠実度再生というのは実に滑
    稽で不毛な考え方だ。まるで一つの楽譜からはたった一つの演
    奏しか生まれ得ないと言っているようなもの。
    ストラディバリウスとグァルネリを使って同じプレイヤーが同
    じ譜面の同じ曲を演奏したときにどっちかがニセモノだと思う
    だろうか。

娘 : でもそれが『はいふぁいって』っていうものなのよね?

父 : 『ハイ フィデリティ = 高忠実度』という意味からすると
    そうなのだが、それは無理なんだよ。
    何にせよハイフィデリティかどうか誰にも確認できん。そして
    高忠実度再生はメディアに記録されている音ではなくて原音だ
    という人もいるが、わずか2本のスピーカーで原音も何もない。
    しかし父さんは「だからニセモノ」というふうには思っておら
    んぞ。本物のニセモノは時に本物を超えて全く新しい世界を見
    せてくれると信じているからな。
    このGRFの音を聴いてみなさい。そんじょそこらの正確な音
    を気取っているエセスピーカーとは出てくる音の格が違う。懐
    の深さがまるで違う。英国の英知の結晶、いや人類の宝なのだ!

娘 : ふふ。

父 : 何がおかしい?

娘 : お父さん可愛いなぁ。

父 : ・・・・・・・・・・・。

また盗み聞きできたら..... つづく