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Kitagawaさんの音


レポーター:kks(2006.7.17更新)

2006/07/15、縁あってKitawagaさん・田舎GRFさんのお宅にお邪魔いたしました。

10:36東京発の岡山行「ひだま369号」に乗車。新横浜・小田原に停車し、名古屋から は各駅にとまるので超特急の名前ははずして欲しいですねえ。

東京駅のホームを離れると、雲一つない青空。5月のゴールデンウィークから東京で は曇り空か雨ばっかり。

途中、夏で黒膚の富士山山頂の西側だけが雲を下にして見えました。三連休初日で指 定席は売り切れ、自由席は新横浜〜名古屋は満席です。

定刻12:50米原着。米原駅改修工事のために、改札口はラッシュ状態。加えて、切符 2枚重ねのウナギのように長い自動改札機は数人ごとに不機嫌にピーピーと文句を 言っています。改札機3台に2人の駅員さんがつきっきり(+_+)

暑いけれど風が爽やかです。緑の上を渡ってくる懐かしい優しさがあります。普段の コンクリートに囲まれた谷間であたるむき出しの熱風とはぜーんぜん違う。

本来なら、米原で在来線に乗り換えです。でも、GRFさんがわざわざ車でピックアッ プしてくださいました。いつも顔を会わせているような錯覚を抱いていますが、実は 初対面。

琵琶湖湾岸を走ると鳥人間コンテストのスタート地点の脇や彦根城の説明をしていた だいたりしているうちにKitawagaさんの風情あるお宅に着きました。

前の小川には琵琶湖からの魚が沢山集まっているのが橋の上から見えます。木の香り が漂っているみたい。
ちょっと町屋を思い出すような黒光りのする階段をあがるとKitagawaさんのお城。入 り口の狭さはヨークミンスター君がドアを途中までしか開けさせないから。

# 私の大学生時代の下宿はもっとドアが狭くしか開かなかった# から驚かない。す # ぐ、体を横にする癖はまだ残っています。

挨拶もそこそこにベストポジションに座らせていただいて音だし。当然、アナログ 「だけ」です。CDプレーヤーのP0君に一月ぶりに電源をいれたもののノイズ源になっ ているとまもなくP0君は再びの夏眠状態でお休みに。

Kitagawaさんが、「P0本当に欲しい人がいるなら、譲っちゃうよ。今は、アナログを 大切にしておかないと無くなっちゃうから。ソースとしてはCDの方がまだ続くで しょ。今しかないからアナログは」とご自分の意思を確認するようにおっしゃると、 GRFさんが「でも、ここにあるCD聞けなくなっちゃよ、どうするの??」と止めに入 る。GRFさんご自身はSACDにいたく興味をお持ちでアンテナを張り巡らせているみた い(^^/

今回の主目的であるLINN LP12+SME3010R+MC20での音だし。ヨークミンスターからは 普通のTannoyの音が出ています。新しいスピーカーなのにタンノイがガンとして譲ら ない独特の、ジョンブル的な頑なさには懐かしささえ感じてしまいます。紳士という 外面ではなく、職人的な気質かなあ。

続いてトーレンスプレステージの黄金色SME-3012R+AC-03。機器の接続と切替を説明 していただいてもよく分からない。特にフォノイコとトランスは覚えられませんでし た。ルミエールのフォノイコが生きているらしいことは微妙にイコライジングカーブ を選択しているので分かりました。このフォノイコはコンパクトかつ上品な外観で す。小さいと予想していたものの、写真などで見て(勝手に決めていた印象から描い ていた)大きさの2/3位。とても上品です。イコライジングカーブは高音というより も、音のボディを大きく変えます。ホールが変わってしまうみたい。トーンコント ロールとは違います。

モノ、1950年代の録音なのに違和感なく音楽に入っていけます。レコードは最近入手 されたものばかりをチェックされることもあり、ワクワク。ジャケットも盤面も綺 麗。オイロディスクのジャケットは歌手かモデルかという議論に3人の下した結論は 「モデル」、美人すぎます。デビュー当時のフリッカでも敵わない美人歌手だったら 絶対話題になっていますよね。

サエクについたEMTも聴かせていただきましたが、印象に一番残っているのがルミ エールオリジナルMCカートリッジ。左右の音像はスピーカーの間の2/3位にとどまり ます。しかし、音の立ち上がりと立ち下がりが破綻するギリギリ半歩手前でまとまる からとてもスリリング。ダイレクトな音とも言えるでしょう。ワガママをいってカー トリッジを外していただき、拝見。カンチレバーは中庸の太さであるのに通常の3〜4 倍の長さ。それをガチッと根元で止めています。極細の銅線がカンチレバーにそって 走っています。針の左右は磁極になっいてダイヤモンド針のすぐ上か若干アーム側に コイルがあるみたいです。磁極がカンチレバー程のスリットになって磁力を確保して いるようで発電部がコイルなのかエッチングパターンなのかは分かりません。巻線数 も見えません。Kitagawさんがルミエールご亭主に「針の上に名刺かなんか入れて調 整してもいいかね」と訊ねたら「とんでもない!!絶対ダメ!!!」と即いわれた逸話も 納得できます。発電部がむき出しになっているのです。
ルミエールの反応の早さはビクターMC-1や1000Lに通じるものがあります。しかし、 音色・音場は別物。調整が上手にできた時のDECCAのカートリッジみたい。とにかく 新鮮。1950年初頭の録音でも、極々新鮮。Kitagawaさんがこれに嵌まり込んでほれ込 んでいる様子が見えて来ます。
ここで、ご自分に語りかけるように「CDプレーヤーと同じように音が出る最初の部分 だから15万、20万ってカートリッジだけしても、し・か・た・な・い・ん・だ・よ・ ね。」 GRFさんと私は黙って曖昧に頷くだけ。

すぐに、同じLPをLINN + MC20でなぞってくれました。こちらは、ホールトーンが綺 麗ににるお馴染のオルトフォンいや、MC20の世界。だから、カートリッジは面白い。

ぢゃあ、ルミエールは万人向きか? 答えは明らかにNOです。盤面とのクリアランス が極小。少し気を抜けば間違いなくボディいや、配線がすります。それと、とても長 いカンチレバーは自由には動かないように見えるから、アームの高さ調節・針圧そし て使用温度にも注意が要求されるのではないでしょうか。カンチレバーが撓まないよ うにするのが通常の発想。それだから、ボロンの棒のように軽くて硬く音速が速いも のを素材として求めてきたのがカートリッジの歴史。ひょっとすると撓みの世界で音 を創ろうという逆の発想でその他の部分の曖昧さを取り除いたのがルミエールに思え ました(この部分は妄想かもしれません。なにしろじーっと観察しただけですから。) そして、それがかなり上手に纏まっているのです。今回はクラシックのみでしたが、 ジャズでも十二分にハマりそう。そうそう、アルティックA-7の香りがヨークミンス ターから漂ったと書くとKitagawaさんから「そうぢゃないよ〜」とコメントがつくか もしれません。でも、面白い。

面白いって書き込むと「興味深い」というニュアンスが消えてしまいます。Kitagawa さんのお部屋はいくら眺めていても興味が尽きません。後ろを見るとカートリッジコ レクションの森。ブライヤー、DL-103、シュアーV-15、サテン、グランツ近づかなく ても特徴のある歴史に名を残すカートリッジが分かります。前のタンスの上には初代 の3012、マイクロMA-505X、陰に隠れているけどFR。使える・使えない、9inchか 10inchか12inchかを無視して指を折って数えるとSMEが4本。でも、オーディオクラフ トはご存知なかった(というのも興味深い。) 入り口脇には新品の秋葉ガード下メイ ドのフォノケーブル。レコード棚のすき間には昭和31年の教科書版のレコ芸(私は初 見。噂に聞いていただけ)や西ドイツのレコードカタログ、ビーレフェルダーが目立 たぬように立ててあります。「眼福」という辞書の中にあっただけの言葉が現実の世 界に現れて身の回りに転がっています。お宝ですよ!!!
目立つのは電源。余ったら一つ下さいと言いたくなるほど転がっています。いや、丁 寧に丈夫な木の柱やマウント用の厚い板の上にセッティングされています。木造の二 階に一体何トンの荷物が載っているのでしょうか、すごい。

4時間を超えるあっという間に過ぎゆく中で1階のトイレをお借りしました。驟雨が あったのか地面が濡れています。打ち水をしたような風が網戸から入ってきます。灯 明のたえないご仏壇の脇には猫ちゃんが静かに座っています。いつもとは違う時間と 空気を味わうことができました。

GRFさんと一緒においとまする時は瀧のような豪雨。濡れるのも構わず傘を差してく ださったKitagawaさんの優しさが忘れられません。ちょっとやんちゃなヨークミンス ター君の性格をしりつつ、上手に育てていくことを始めたばかりの、時間が止まった ような特別な二階の部屋でした。特別の中には下宿していた頃の自分の生活やその時 にやりたかったことを実現していることへの僕の羨ましさがあります。そして、ホー ルの1階前席で聞いている意気のよさ。怖いものなしの中学生、ヨークミンスター君 が大学に入る頃になったらまた会いたいですねえ。

続きGRFさんの音をお読みください。