大いなる正午2


夜のしじまを襲った銃撃音の響き。けたたましいサイレン、近くの民家の窓から恐る恐るの顔が覗く。興味本位で次第に人だかりが出来きはじめた頃、現場近くで物々しい事態を伺い知ろうとする木梨銀路の姿があった。
すでに負傷者は運び出され、複数の警官による検証が行なわれている。先ほどから隣で怪訝な表情をつき合わすようにして喋っていた中年の女の会話が思わず耳に入ってきた。
「あたしが来た時にはもう飛び立っていった後だったけど、えらい早いスピードだったのよ。大型のヘリコプター、自衛隊じゃないのって誰か言ってたわよ」
「さっきね、聞いたんだけど何人か銃で射たれっていうじゃない、恐いはねえ、明日の新聞のトップ記事で出るから事情はわかるんじゃないの」
「ここに来るときにも息子に、テレビでニュース速報でたらすぐに携帯に知らせてって言ってきたのよ。母ちゃん危ないからやめとけって怒るんだけけどさあ、あたしは野次馬精神旺盛なもんだから、ははは、、、」
人だかりの思惑は、十人十色、ここにいる者全員にインタビューしてみれば、それだけでも想像力ゆたかな資料が集まるだろう、最も本心で答えればの話しだが。
中年女の下卑た哄笑が始まってすぐ後のことであった。突然に拡声器の音声らしき言葉が辺りに巡った。
「えー、皆さん、非常事態発生により緊急指令を発します。これは勧告ではありません。非常時における強制指令です。ただちにこの場を離れて下さい。すみやかに行動して下さい」
まわりからは驚嘆のどよめきと共に罵声が上がる。
「何だって、ちゃんと説明してみろよ」「そうだ、理由を言え」
銀路も眉間にしわをよせ、歩をひるがえそうとはしない。自衛隊まで出動した様子じゃないか、そんなに緊急なら納得のいくように話すべきだ。地震や津波警報だって詳細を報道する、危険な情況だとでもいうのか。そんな歯がゆい思いに即答するように当局の人間らしき男が、はっきりとした声を張り上げた。
「放射能汚染の疑いがあります。ただいま、検査中ですが、ただちにここから立ち去って下さい。半径50メートル内、近所の人家の方は窓を閉めて外出はしないように。追って指令を出すまでここには近づかないで下さい」
これには群がった人々も仰天して、一気に駆け出す者、金縛りあったように立ちすくんでしまう者などがあったが、しばらくすると蜘蛛の子が散ったように人気がなくなった。銀路も人の波に流されるようにして現場から遠のいた。

歩いて数分のところに千打食堂の看板を掲げている店舗はあった。まあ50メートル以上は離れているな、銀路は距離感も銭勘定するような思いで帰途についた。店の中には従業員の鈴子がひとりテレビをみている。あるじの顔を気がつくと「おかえりない」と消え入るように言った。まだ20代半ばの年頃で控えめなくらい大人しいのが銀路の目にかなったのだった。自分は大物風に振舞っていたい方だから、こういう静かな性格が相性がいい。
「おう鈴子、駅前公園の騒動どうや、テレビに出とらんか」
「はい旦那さん、チャンネルもかえてみましたけどどこもやってません」
「そうかあ、聞いてびっくりすんなよ、放射能だとよ。ドンパチやって核兵器かあ、ふざけよってからに。ありゃ、ガセに決まっとるわい。でもまあ、わりかし気のきいたおどし文句やった」鈴子は不安げに目を泳がせているが、自分からは質問を投げかけようとはしない。
「だがな、変なんや、自衛隊のヘリが飛んで来たって言うとった。兵器じゃないけど、ウランとかそんな物質の取引とかで、殺りおうたんやったら、、、そや、そりゃ大事になるわ。まあ、明日にでもなったら報道されるやろ。さあ、今日は早仕舞いや、看板消して片付けしといてな。おう、はよせんかい、終わったらな鍵しめて二階に来るんや。えへ、危険とやらで刺激になったんか、あっちの方がうずきよる、風呂はええさかいな」
鈴子は夜の奉公も兼ねていた。実際には求人面接に来た直後、採用祝いにと冷や酒を無理やり飲ませて押し倒したのだった。事の成り行きをつかめず抵抗らしい態度も見せない鈴子に「ええんやで、これも仕事やさかい、ボーナスはずむさかいな」と含めるように言い聞かせ、手早くスカートをめくり白いパンティをむしりとると、まだ閉じたままの秘所に思いっきり顔を埋めた。それからは週の半分は相手を努めている。鈴子は処女であった。