れいめい塾のホームページ 三重県津市久居 学習塾 れいめい塾
Gazing At " Promised Land "

200年度3月第二週


3月10日

依然として体調は冷帯の浜辺にうち上げられたダボハゼのよう、ここ最近で冗談ではなくスラム街と化したベッドで横たわっていた。期末試験真っ最中の東の中学生が勉強している。身体を起こすものの、吐き気と立ちくらみが襲いかかる。かなりの睡眠を取っているにもかかわらず、俺の身体はエンストぎみでトロトロ進む。古西(名古屋大学経済学部2年)がバスマットで寝ている。3枚も敷いているなんて贅沢やな・・・。この光景、塾としてはかなり異常な空間ではある。一応怪訝な顔でもして体裁をとろうとするとウチの中学生、もう慣れてしまったのだろう、笑顔で俺に頷き返す。く。

山本愛(津高1年)が登場、「先生、今夜の送り出しは何時から始めますか」「午後7時くらいでどう」「分かりました、実はそのことでお願いが・・・」「なんや」「送り出しのジュースや、明日の朝のうどんの買出しに行きたいんですが」「じゃあ、行こか」

千紗(津東1年)と愛を、俺同様に廃車寸前のおんぼろエスティマに乗せF1マートへ。灯油を18リットル買い込み、俺はタバコを吸いながらマクドの前で待つ。千紗と愛はジュースやうどんの材料を買い込み戻って来る。俺は一番重たそうな袋、1.8リットルのジュースが何本も詰まった今にも破れそうな袋を持たされてはエスティマへと戻る。「先生、すいません」と軽い調子の千紗。塾に帰ると送り出しの開始、午後7時が迫っている。

中3は入試5日前から1階に降りている。ちょうど高1と高2が教室を変更したことから混乱。今は1階の教室を中3と高2が混ざり合った状態である。

送り出しの場所は3階の高1の部屋。部屋を覗くと高1が準備に忙しい。俺は反対側の中学生がたむろする部屋に行き、探し物を探す。探し物・・・中3が中1の時に書いた決意文である。確か古市から貰ってどこかへ置いておいたっけ。スラム街はいっそうスラム化し、収拾がつかなくなる。試験勉強の手を止め、何事かと見つめる中学生たち。俺は照れ隠しで叫ぶ、「今から中3の先輩の送り出しや。中1と中2は代表者を各2名ずつ出せ!」 

午後7時からだと聞いた中3が3階に上がってくる。俺の探し物はまだ見つからない。クソ!

「先生、そろそろ始めたいのですが」と愛が囁(ささや)く。「まだ見つからないんだ」「何を探しているんですか」「あいつらが中1の時に書いた志望高校の決意書・・・あ!あった」

30分遅れで18期生高校入試の送り出しが始まる。総合司会は愛、「それでは今から18期生の送り出しを始めます。まずは中3から受験校と抱負を話してもらいます」

今年、公立入試に臨むのは8名。内訳は津高を“約束の地”に選んだのが陵・竜太・れい・悠志・紗耶加・絵梨香の6人。そして津東を“約束の地”に選んだのが那理とめい。3年間の巡礼が明日で終わろうとしていた。

「続いて中1から明日受験する先輩へ、何かひと事お願いします」 愛の紹介で挨拶したのは代表に選ばれた瞭と壮司。瞭は小学校の時に生徒会長を経験しているだけあって慣れている。そつなくこなして、次は壮司。これが真面目に言ったつもりが笑いを誘う。「では中2からもお願いします」 中2の代表は加央里と碧。ともに明日は試験、他の者に配慮がなかったのだろうか。しかし共に気分屋めいた雰囲気もあり、今日の雰囲気を体感し、これからの1年間で勉強したくなくなった時には思い起こせるような一瞬になってほしいと願う。ともにバスケ部、勢い勝負で「頑張ってください!」のシュプレヒコールで終了。

そして高1からの激励、愛が「兄が言ったように高校に格はない!と思います。後は自分次第で、勉強も中学3年と同じかそれ以上が要求されます」からスタート。さらに高2、終わると年齢が若い順に大学生から社会人へと連なる。大学生は古西からスタートし、アキラ(関西大学経済学部3年)、山岸(三重大学医学部3年)、古市(三重大学教育学部3年)、そして4期生の征希(カイロプラクティク自営)がトリを務める。

傾向的に見ると高校生は自分の体験談を中心に話を進め、なんとか高校に合格して欲しいと話している。それに対し社会人は当然として大学生にもなると、ある意味で高校入試を達観しているのが興味深い。つまり、合格するにこしたことはないが、高校がゴールではないのだから高校入試の合否にそれほどこだわる必要はないとなる。後はゴールを大学入試に設定する者や、就職試験に設定する者、そして依然として今も何がしかの試験が続いていると言う者まで十人十色である。

「30分ほどで終わって寝ながらチャイムが鳴るのを待つのもカッコイイし、試験の時間ギリギリまでのた打ち回るのもカッコイイと俺は思うけど・・・」とは古西。「中3は僕が寝る時間もまだ勉強していて頑張っているし・・・」までは聞こえたが、いつしかフェイドアウトしちまったアキラ。「今まで塾で勉強していた自分を思い出せば試験にアガラないと思います」とは山岸。「私が塾のバイトを始め、アルファベットの小文字と大文字を教えた最初の学年で・・・」と泣きそうな声で話したのは古市。「俺は高校入試で失敗したけど、そのことが大学受験でこれ以上はない!と思えるほどの大噴火のバネになったし・・・。今までこの年齢になりまでいろんな試験をしているけど、失敗して悪かったことはないな。どんなに失敗しようとも、それはいつか生きるんや・・・」と熱く語ったのは征希だった。

そして最後は俺・・・今年は私立高校入試の送り出しを欠席したこともあり、俺のスピーチは中3にとって初遭遇。といってもいつもの浪花節的な流れで緊張を煽(あお)り、最後はギャグで落とすという定番。しかし最後に苦労して探し出した逸品を披露。「内申があったら絶対に津高を受ける! と書いた中山れい! あの時から志望校を変えずによく頑張った。はい・・・、この大事な宝物をとりにおいで」 俺は娘のれいに、れいが2年前に計算用紙に書いた決意表明を渡す。そして同じように陵にもセピア色の思い出を手渡す・・・。

送り出しが終わると、中3は1階に戻り帰る準備に入る。そして俺のリクエストで、俺の浪花節よりは明日の役に立つだろうと去年のリアルな経験を津高1年の沙耶加と有加里から中3に語ってもらうことにする。いかに最後の教科まで自分を律するか、これがテーマだった。

俺は塾のドアの前で中3がお迎えの車に乗るのを眺めている。征希がサンクスの深夜のバイトに出向く。「忙しいのにすまんかったな」「いえいえ先生、ところで発表の18日。俺は津東に行くつもりなんですが」「そりゃありがたい、他に津東へは里恵に俺の奥さん乗せて行ってもらうつもりや」「分かりました。俺は去年、那理を連れて由子と千紗の晴れ姿を見に行ったからな。那理のこの1年間を見てきたつもりや、あいつはよくやった。那理の最後は是非とも見届けたい」 俺の横には古市と遅れてやって来た佳子(星城大学理学療法1年)。そこへ仕事帰りの里恵(7期生)が姿を見せる。「先生、明日の朝は何時から?」「いつもの通りなら6時くらいに塾にやって来て8時くらいに俺が高校まで送るんやけどな」「じゃあ、7時半くらいに来るわ」と言って自動車に乗り込む。

中3の姿は午後10時には霧散、あとは高校生が落ち着かない夜を過ごす。1階では高2の小林(久居高)と松原(津高)が徹夜覚悟で勉強している。3階では高1中心にモノポリーというゲームが始まる。俺と同世代にはバンカースまがいと言ったら分かるかな。メンバーはモノポリーの所有者の竜神(津高)に愛と有加里に沙耶加に岡(三重6年制)。そこへ精神年齢で高1と十分にタイマンはれる古西がリーダーシップを発揮する。唯一、荒井(津高)が山岸相手に数学を解いている。ここだけが塾のよう・・・。

ふと気づけば、今年の中3は公立入試前日恒例、コンピューターの部屋の壁への落書きをしないで帰ってしまった。アキラがいたから遠慮したのか?そんな気配りができる学年でもない・・・単に忘れただけだろう。

午後11時になるとアキラの公務員試験講座が開講。生徒は立命館大学に合格した拓也ひとり。アキラはここひと月を3年ぶりにウチの塾で過ごす。最近までの怠惰な生活を、大学受験の折に武者修行よろしく福井から密航してきた空間で鍛え直す! 目指すは6月下旬に実施される地方公務員上級試験・・・。しかし、その日の授業内容の確認のために誰かに授業をしろと言ったのは俺だ。最初こそ生徒は盛況、たまたま塾に姿を見せた甚ちゃんに、古西と俺。ところが俺の身体が集中力の磨耗をきたし、いつしか宙ブラリンの状態に。そこへ将来公務員試験を受けるつもりの卓也が大学に合格。これで年間予約席を1ボックス買う奴が出たわけだ。

俺はアキラの授業を受けに姿を見せた拓也に叫ぶ。「オマエはもう!明日は何の日や!」「はあ・・・」「アホッ! 公立入試の試験日やわ! 自分の試験が終わって浮かれてしもて、ウチの中3の送り出しやったん忘れたやろ!」「ウワッ・・・すいません。中学生は・・・」「もう帰ったに決まってるだろ!」

俺はパソコンで『れいめい塾戦記 その六』を叩くものの、今いち乗れないでいる。考えてみれば塾を始めて5年目から、公立入試の前夜は徹夜でマージャンをして受験生が朝やって来るのを待つという風潮が定着した。それが14年目の今年、マージャンする面子がいない。これまた考えられないような年だった。つまりは手持ち無沙汰で朝を待つことになるだろう。教室の中は静寂が支配している。コンピューターの部屋からは、送り出しの時とは打って変わったアキラの声が聞こえてくる。でも面接はマンツーマンじゃないからね・・・そう一人ごちながら、ふと時計を眺める。時刻は午後1時をまわった・・・。いつしか試験当日になっちまった。隣の教室からは、モノポリーの嬌声が2枚のドア越しに聞こえてくる。古西が強権を発動して理不尽を通したのか、口だけ番長の竜神がまたもやドツボにはまってるのか・・・少なくともそのどちらかであることは間違いない。

3月11日

金属が触れ合う音、嬌声をあげる女の子、そんなBGMにつられて身体を起こす。立ちくらみはするものの、なんとか踏ん張る。中3の悠志が立っている。流しの所で愛(津高)や千紗(津東)や沙耶加(津高)が喧喧諤諤(けんけんがくがく)言い合っている。包丁がどうの、ダシがこうの・・・包丁?ダシ? そうか、うどんを作ってるんだ・・・白濁した思考のなか、やっと今日が公立入試の日だと気づく自分がいる。「他の中3は来てるんか」 かすれた声で悠志にたずねてる。「うん、れいとめいと陵がいます」 時計を見ると午前7時前、試験会場に出向く時間が近づいている。愛が叫ぶ。「やっとできたよ! 悠志君、下から中3を呼んできて!」 有加里(津高)が俺のほうにうどんを持ってくる。「先生、食べてください」「徹夜か?」「ええ」「そりゃすまんこって。ところで男子の連中は?」「竜神君(津高)は風呂に入ってくると言って帰っていきましたが、まだ帰ってきません。荒井君(津高)は隣の教室で寝ています。岡君(三重6年制)は明け方にお母さんから電話があって喧嘩してたみたい、結局帰っていきました」

ダシは少しぬるめだ。意図的なものか、しくじったのかは知らない。昨夜からの空腹もあり、瞬く間にたいらげる。れいやめいは朝食を食べてきたらしく、「残したらどうしよう」なんぞとほざいている。しかし案の定、見事にたいらげては一息ついている。陵と悠志もそそくさと食べ終え、チラチラと時計を見ている。今日一番に塾を出るのは津東を受験するめい、7時10分に久居駅の改札で那理と待ち合わせだとか・・・。高1はほぼ全員が徹夜で古西のモノポリーに付き合ったようだ。高2は深夜3時頃にクッションを求めて3階に上がってきた小林(久居高)と松原(津高)が1階で仮眠を取ったようだが、あとの面々は自宅へ帰ったとか・・・。その面々が顔を揃える。愛矢歌(松阪高)・慎太郎(津高)・真歩(津高)・雄介(津東)は公立高校ゆえに今日は休み、この時間に塾にやって来ても余裕だ。その意味では私立がきつい。三重高の香と隼人と佐藤は、中3の見送りの後で自分たちも高校へ行くことになる。

出勤前の里恵も姿を見せ、中3の一人一人に餞(はなむけ)の言葉を投げかけている。確か里恵の今日の勤務は正午からだったはず・・・となると昨夜はあまり眠っていない。決して強靭とは言えないスラリとした肢体に無言で感謝する。

午前7時8分、めいを助手席に乗せておんぼろエスティマのエンジンをかけた。車を取り巻くように、眠そうな顔がずらりと並ぶ。ウチの塾に巣食う高校生や大学生たちだ。手を振ったり、激励の言葉をかけてくれたり・・・各々表現は違うものの、昨夜「内申はないけど津東を受けます!」と抱負を語っためいの旅立ちを見守ってくれている。

徹マンはなくとも、受験生を試験当日に見送る・・・そんな伝統は塾を始めた翌年から始まっている。あの頃、俺は独身。当然にして、れいとめいはまだ生まれてなかい。しかし、いつか自分に子供ができて、その子供が受験生となったとき、やはりこんな光景のなかで試験会場に送ってやりたい・・・そんなことを思っては、結婚もしていないのにと面映い気持ちを抱いたものだった。それが今日、現実となった。俺の娘のめいは、今まさに20名以上の先輩に見送られ試験会場に向かおうとしている。雨も降っていないのにワイパーを作動させた。それでも前方が曇って見えなかった。それが窓ガラスの汚れではないことは分かっていた・・・。

久居駅から塾に戻ると陵と悠志が自転車に乗って出ていくところ。友達との待ち合わせだとかで、多少時間が早い。高校生が見守るなか、二人は自転車を漕ぎ始めた。最後に残ったれいは、電車の到着時間までのラグタイム10分ほどを1週間弱過ごした1階の教室で最後のチェックに勤(いそ)しむ。そんなれいの背中を、俺は里恵と二人で眺めている・・・。

大阪の美容室で働いていたマッツン(7期生)が、帰省して久居で店を開くという計画を俺に打ち明けたのは去年の秋。それから話はとんとん拍子に進み、この3月をめどに開店の準備に奔走する。市内の空き店舗を探し回ったあげく、マッツンが“約束の地”と定めた場所が、なんと新しい塾の1階! 

水道・ガス・電気や電話の設置、美容室に設置する器材の選択と注文、広告チラシや店に置くリーフレットの準備など、開店準備に追われる日々の狭間にマッツンは塾に顔を出す。「先生はさあ、塾を始めた頃に何を考えて毎日を過ごしていたん?」 マッツンのこの質問に俺は思わず目頭が熱くなる。

あの頃、何を考えていたのだろう・・・今となっては覚えていない。それまでの社会人生活で残ったなけなしの貯金から30万で三菱ラムダを購入、そして空き店舗を借りた。金があったら喫茶店でもして、好きなロックをかけて本を読みながら死んでいくつもりだった。しかしそれだけの蓄えはなく、コンテンポラリージャブのノリで塾をしてみた。コピー機のリースが5年だと聞き、5年も塾が続くんだろうかと不安に苛まれた。自覚はないくせに臆病だった。所詮は、なるようになれ!なんぞと開き直り、危険牌を通す緊張感に麻痺していたのだろう。

しかし、何より俺の感情を刺激したのは、かつて見果てぬ海に漕ぎ出した頃の俺とうりふたつの俺がいるということ。さして勉強ができたわけでもなく、しかし愛嬌だけはあったあの頃のマッツン・・・。今、開店準備に駆け回っているマッツンを眺めながら、期待と不安で身体を動かないではいられないマッツンから、俺は若かった頃の自分を透かし見る。

開店の広告にはウチの塾の広告を手がけてくれた飯田印刷を紹介してあった。そして出来上がった広告を嬉しそうに俺に渡したのは昨日のこと。その折込広告は今日の中日新聞に入ることになっていた。

里恵と二人でれいを見送った後の教室、昨日までの喧騒が嘘のように姿を消した教室のなかで、俺はウチの塾の生徒が世間に見得を切った広告を眺めていた。いくつになろうと、俺が育てた塾生の「旅立ち」に立ち会えたことに、俺の血はたぎる。この上なくたぎる。

久しぶりに奥さんを連れて銀行をまわる。大学生のバイト料の支払いがたまっている。そして久しぶりに外食。店は前から行こう行こうと思っていた邦博お勧めの鰻屋。看板も剥げ落ち、人生を達観したようなじいちゃんとばあちゃんがやっている。征希に言わせると「鰻を斜めに切るなんて信じられへん!」となるわけだが、おいしかった。

昼過ぎから期末試験がまだ終わっていない中学生が姿を現す。受験生では悠志が一番乗りで姿を見せる。「数学が意外と・・・」「それ以上言うな、聞きたくない!」 悠志はこの1年間過ごしたプリントの散乱した机の上を片付けている。

早朝に高1が作ったうどんを食べてはまた寝た古西があくびをしながら登場、「受験生は帰ってきた?」「さっき悠志がおったけどな」「ほかは?」「来てへんよ」「何から何まで・・・壁に落書きは書かへんし、試験が終わっても姿も見せへんし、変わった学年やな」

絵梨香から電話、「先生、今夜は塾に行くんですか」「来る必要ないわい! とっとと遊んどれ!」

那理が姿を見せる。「先生、国語の作文、去年の他県の入試問題と全くいっしょ!」「やっぱ北海道から沖縄までやっといて良かっただろ」「うん」「で、何しにきた」「掃除をせんと、中2の子たち座れへん。それと下の美容室、明日予約取れるかな」 俺は明日に開店を控えた1階の『シックス・ディグリーズ』のドアを開ける。マッツンのお母さんが掃除している。「マッツン、ウチの生徒が明日予約取れるかって聞いてるけどどないや」「先生、あかんねん。明日は一杯や」 予約表を見ると午前9時から7時までびっしり。「なんや、これ。同級生ばっかやん、午後2時から臼井(弟)が来るんか。臼井に言うとけよ!たまには塾に顔を出せって。あれ、あすかちゃん(星城大学1年)も予約入れてるんか」「あっ、午後4時の宮口さんて塾の生徒さん?」「ああ・・・」 予約表には『3月11日・金よう日』となっている。次のページをめくると『3月12日・土よう日』 「あのなマッツン」「なに、先生」「この予約表さ、日時はええけど曜日! 曜日の曜くらい漢字で書けよ! オマエは俺の生徒やで。情けないわ!」 マッツン、爆笑。

午後10時、仕事を終えた里恵が顔を出す。「先生、体調は」「今日は少しは楽やな、今までの体調の悪さはやっぱし俺の娘たちが諸悪の根源やで」「ははは、れいちゃんとめいちゃんはどやったん?」「怖くて聞けるわけないだろ」 俺たちが話す視界のなか、れいとめいと那理はこの1年間暮らした自分の机を掃除するのに忙しい。膨大な量のプリントをA4とB4とB5に分別する作業、明日からこの机で新しい学年がスタートする。

俺がダイアリーを打ち込んでいると古西がコンビニの袋持参でやって来る。袋からビールとおつまみを取り出し「先生、ご苦労さんでした」と照れくさそうに俺の机の上に置く。

そして午前3時、ベッドにもぐり込み寝る体勢を整えた古西に、春休みの宿題を春休みまでに終わらせる!と大言壮語を吐いた竜神と荒井が勉強している。そんなところへ甚ちゃん登場。「先生、入試問題見ましたか!」 まだまだ夜は長くなりそうだった。

3月12日

この日、菊山の大阪大学後期試験が実施されている。そして明日は綾奈の千葉大学と健太の三重大学が続く。8日に拓也の高崎経済大学が終了しているので、今日と明日がウチの高3の最後の試験となる。

俺は奥さんと娘たちを車に乗せ大阪へと走る。大阪の義父と義母が試験が終わった孫に会うことを楽しみにしていた。末娘のあいは学校を休ませた。途中、梅林で有名な月ヶ瀬に遊んだ。初めて訪れたわけだが、一点集中で梅林が謳歌しているのではなく、村中に点在していた。スリッパの俺は気が進まなかったが、奥さんに引きずられるように散策に勤しんだ。毎年来ているおじいちゃんに聞くとまだまだ七分咲きだと言う。それでも山頂から眺めると、水墨画のような景色のなかに淡い白と赤が浮かんでいた。

大阪へ送り届け、俺はトンボ帰り。塾に電話するとあてどなく塾に巣食っている古西が出る。
「名古屋大学で放送用の原稿を受験生に配って全員がリスニング満点になったやん。あんなんが大阪大学でも起こらへんかな」と古西が言う。「そんな僥倖、滅多にないやろ」と俺。

菊山から大阪大学の後期試験にリスニングがあったと聞いたのは数日前。東京の森下とも相談したが、付け刃でどうなることでもなく大問4問の1問、サラッと無視することに決めた。100点中25点を捨てることになるが、ボーダーは60〜65点。ここは残る75点で勝負するのが賢明だと思った。森下もこの意見には賛成で結局、菊山は1番のリスニングを飛ばして2番から解くことになった。読解は京都大学に比べれば雲泥の差、菊山ならボーダー以上は叩けると踏んでいた。

菊山に電話したのは松原インターを超えたあたり。試験が終わったばかりでモノレールのプラットホームにいるとのことだった。詳しいことは話さなかった。「やっと終わったな・・・ご苦労さん」 これだけが言いたくて電話した。

中学入学をひと月後に控えた頃、菊山は母親に連れられてウチの塾にやって来た。他の塾の選択肢もあったかとは思うが、兄貴を育てた実績を買ってくれたのだろうか・・・母親は中学になったらウチの塾に預けると決めていた。兄貴については仕事をしたとは思っていなかった。津高に落としていた。内申に難があったとはいえ、津高に目標を設定したのは俺。責められるべきは俺だった。しかしそんな俺に弟も預ける・・・絶対に負けられない勝負が始まった。

あの日から6年経っていた。師弟という特権を振りかざし何度も殴り、師弟ではあったが何度もお互い同士が無視しあった。菊山と過ごした6年間をかみ締めながら西名阪を走る。

夜となり森下から電話が入る。「先生、聞いた! キクの件」「一応電話したで、試験が終わった頃に」「ちゃうちゃう! リスニングのこと」「なんや、それ」「あのな、大阪大学の英語の試験でスピーカーが作動しなかったらしいねん!」「えっ! となると・・・」「ああ、全員が満点か、75点満点にして4/3を掛けて傾斜配点を取るか・・・」

深夜、菊山が姿を見せた。大阪から帰ってさっそく古い塾に行って掃除してきたと言う。「ところでリスニングの話、ホンマか」 菊山、ニヤニヤしながら頷く。「みんなはリスニング問題を聞きながら問題を解いてたけど僕は2番の読解をやってた」「リスニングうるさいな! 消してくれよってか」と古西。「そうそう、それでかなり早く解き終わったけど、なんや試験中に教室に人が出たり入ってきたりして試験官に何か言ったりして・・・それで試験終了後にどこかの教室でスピーカーが鳴らなかった教室があるとかで、受験生全員に不利がないような措置を取るからと・・・」

大阪大学の後期試験のセンターのビハインドは20点。物理や数学は心配なかった、ネックはリスニングだった。僥倖・・・これで菊山の結果はどうなるか分からなくなった。発表は23日・・・。

前のページに戻る

 トップページに戻る

れいめい塾のホームページ 三重県津市久居 学習塾れいめい塾のホームページ 三重県津市久居 学習塾リンク集 れいめい塾 三重県津市久居 学習塾一覧表:れいめい塾発『25時』 三重県津市久居 学習・進学塾『 HARD & LOOSE 』 れいめい塾 津市久居れいめい塾の日記(関係者ブログ集) 三重県津市久居広告一覧 れいめい塾 三重県津市久居 学習塾 進学塾サイトマップ|れいめい塾 三重県津市久居 進学塾&学習塾
当ホームページに掲載されているあらゆる内容の無許可転載・転用を禁止します。
れいめい塾のホームページ 三重県津市久居 学習塾Copyright(c) 2000-2009.reimei-juku. All rights reserved. Never reproduce or republicate without permission
ホームページ管理:橋本康志橋本クリニック|皮膚科(皮ふ科)|広島県呉市の皮膚科(皮ふ科) 日曜診療 ゆめタウン呉