れいめい塾
ＤＥＡＤ　ＥＮＤ　

２００２年１２月第二週

１２月８日

昼過ぎ、大阪の実家に奥さんを残し俺は単身で塾に戻った。大西君がコンビニで買った弁当を食っていた。昨夜の高３の国語の様子を聞く。祐輔が仕上がってきているとのこと。もっと詳しくと思っていたら携帯が鳴る。公衆電話から、誰かと思えば娘のれいから。「お父さん、めいが自転車でこけて目の上を切ったんさ」「ケガの程度は？」「かなり血が出たみたい」「今どこや！」「ミスタージョンの近くのガソリンスタンド」　

救急なら大門病院か橋南病院だったが、無理を言って近くの三重中央へ。縫合手術に立ち会い、ガソリンスタンドへお菓子を持ってお礼に行ったら夕刻。あわてて塾に戻り千尋に数学を教える。

森下が祐輔相手に早稲田と慶応を見据えた英語の授業をしに古い塾へ。

大西君は三重大学へ資料調査に出向く。

やっと大森が原稿を持ってきた。俺は何でもいいから論説文形式にしてほしかったのだが伝わっていなかったようだ。愛と同じように日記形式の文章。まあいいか、と思いつつ読む。さすが大森、何の変哲もない文章。三重大学から帰ってきた大西君に手渡す。苦笑がもれる。

高橋君が先週で終了したセンター数学対策10本勝負の結果を、森下に教わったとかで折れ線グラフにしている。そして冷蔵庫からビールを持ちだしては二人して高３一人一人の戦略分析が始まる。

深夜３時からマージャン開始。

１２月９日

由子のテンションが一挙に落ちた。昨日の帰り際、挨拶する表情が壊れていた。高田高校の過去問、食塩水濃度の問題が何度やっても解けない。中間期末レベルと私立高校入試問題の大いなるギャップ。原因はそのあたりだろう。とりあえずイジリンマにでも連れて行って超特大のパフェでも食べさせ、俺はソルティドッグを飲んで、いつものように笑えないギャグでも・・・と考えた。しかし由子はセーラー服姿、セーラー服では飲み屋はきつい。「仕方ねえや、スカイラークで我慢しとこか」と一人ごち、廊下で勉強している愛に言った。「おい、由子に駐車場の俺の車に乗れって伝えてくれよ」

沙耶加の話をした。

沙耶加は中間期末の成績は良かった。しかし実力がなかった。今年の夏休みから入試問題に突入、中学の定期テストと入試問題のギャップに苦しんだ。津高を狙う以上、この苦しみは必然。あとは本人がどこまで立ち向かえるか。誰も助けてはくれない。ことウチの塾では俺は一切サポートしない。俺がすることといえば、ウチの塾で暮らし、沙耶加と同じように実力の乖離に苦しみ続けた先輩たちの話だ。志望校で突っ張り見事合格した先輩、落ちた先輩。また安全策を取って第二志望の高校へ進学した先輩。そんな先輩たちの話をだらだら続ける。沙耶加は突っ張った、津高勝負の覚悟で全国の入試問題を解きまくった。英語は俺がマンツーマンで教えた。泣いてばかりいた。ティッシュがいくつも空になった。しかし逃げなかった。自分の現在の実力、それも残酷な実力から目をそらさなかった。そして三進連４回で東中順位１位になった。

由子は数ヶ月のタイムラグで、沙耶加と同じ状況に置かれていた。自分の正真正銘の実力を見た。中間や期末からは想像できないほどの点数、しかしそれが現在の実力だった。逃げ出したくなったはず。逃げても正解、踏みとどまっても正解。所詮は由子の人生、俺が口をはさむ余地はなかった。俺はいつものように幾多の先輩の話をし、エンディングは同級生の沙耶加で締めた。あとは由子次第だった。

徹マンが効いたのか、はたまたスカイラークのうすいチューハイが効いたのか、疲労困憊でなんとか愛の家まで辿りつく。時刻は午前４時。愛の家はばあちゃんが田舎特有の何でも置いているような店をやってる。前の駐車場に車を止めてシートを倒した。サンルーフ越しに冬の空を眺めた。嫌になるくらい星がきれいだった。

１２月１０日

めいがケガをして縫ったばかりだというのに、今度はれいがお腹の調子が悪いとかで学校を休んでいる。身体の丈夫なことにかけては自信のある親父、ダーウィンの進化論に異議申立てしたい気分。

長島回生病院で勤務する田丸ドクターに遅まきながら連絡。携帯にではない、携帯は職業が職業ゆえ恐縮しちまう。メールででもない、自慢じゃないがメールの打ち方なんぞ知らない。ウチのＨＰのＢＢＳに載っけた次第。業務連絡・・・２２名ですってね。

１２月１２日

中２の数学も三平方の定理の基礎が終了。三角定規を利用しての相似の問題に入る。小学校の時に縮小拡大図をやってこなかった学年である。なかなか理解できないようだ、しかしここをしのがないと五角形作図のカギを握る黄金比に持ち込めない。強引に押す。

１２月１４日

田丸ドクター、頭之宮のお守りとお水持参で塾に来てくれた。さっそく塾にいた中３と古い塾にいる高３が駆けつける。とりあえずは記念撮影、もしかしたら年賀状にするつもり。

田丸ドクター、ウチの高３に言ったそうな。「１月12日は結婚式でね、すまないけど塾先をお借りしますよ」　それに対して高３、その日のうちにＢＢＳへお守りのお礼ともども書きやがった。「先生は、のしを付けてお貸しします」

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