みかん大好き宣言
マルチみかんは

なぜ甘い?

 最近よく聞く「マルチみかん」
 いったいどんなみかんなのでしょう?

秘密は白いシート

 マルチみかんを栽培している園地を見てみると白いシートが木の下に一面に敷き詰められています。このシートは透湿性のシートで地中の水分を外に逃がして、雨を遮断する機能を持っています。また、太陽の光を効率よく反射できるように白い色をしています。

水分をカットする

 果物や野菜は、水分をあまり与えずに栽培すると、甘くなることが知られています。ハウス栽培では、ビニールやガラスで外界と遮断されているので比較的環境をコントロールしやすく、ぎりぎりまで水を与えないで作るメロンやトマトなどが消費者のみなさんにうけているようです。マルチみかんも、透湿性のシートで水分をカットすることで甘いみかんになるわけです。

なぜ甘くなる

 それでは、水分をカットするとなぜ甘くなるのでしょう?
濃 縮 効 果
ひとつの理由は濃縮効果です。みかんの糖度はだいたい11%前後ですが、これは果汁に占める糖分の割合です。1個の実に含まれる糖分が同じ量だったとしたら、水分が少ないほうが糖度が高くなり、当然甘くなります。
ホメオスタシス
 でもそんなに単純な理由で甘くなるわけでもないようです。そこで言われているのがホメオスタシスです。医学などで用いられる言葉で、ちょっと聞きなれませんが、簡単に訳すると「恒常性」というコトだそうです。環境の変化に対して形態的・生理的性質を一定に保とうとする性質の事で、意思とは関係なく自律的に行われています。人の体温などが外気によって変化しないのもその働きのひとつだそうです。
 さてこのことをマルチみかんに置き換えてみましょう。透湿性シートで水分を遮断されたみかんは、水を吸おうと努力します。水を吸う手段として、細胞内の成分を濃くして、浸透圧を高めます。濃度の違う液体を透水性のある仕切りで区切ると、薄いほうから濃いほうに水分が移動する、お風呂で指がシワシワになる原理と同じです。それで、糖分などが細胞内で増えるというわけです。
さらに、糖分を増やして浸透圧を高めるだけでなく、糖分の質も変えています。みかんの糖分にはショ糖、ブドウ糖、果糖などがありますが、普通はショ糖が多く含まれています。ところが水分ストレスがかかると、2つの糖分子が結合したショ糖が分解して、1つの糖分子でできているブドウ糖、果糖に変化します。つまり二糖類が割れて単糖類になることで、糖の濃度が高まり、浸透圧が高まるのです。また、甘さについても果糖はショ糖より甘いことが知られています。

他にもあるぞマルチの効果

色づきがいい
光をよく反射するので、ムラ無く色づきます。また、木全体の成熟期も揃って、収穫作業もしやすいようです。
草が生えない
光を通すので、生えないわけではないようですが、除草剤散布を何回かは省くことができるようです。

欠点?

敷くのが大変
 
園地の条件によっては、敷くのが大変です。これからはマルチ栽培用に園地づくりをしていかなくてはいけませんね。
全部が甘くなるとは限らない
 マルチ栽培は、みかんの甘さに直接影響を与えるわけではありません。水分をカットすることによって間接的に働きます。ですから、シートを敷いても水分がカットできなければ、効果はありません。また、みかんには糖分だけでなく、すっぱさのもとになる酸が含まれています。水分をカットすると、糖分だけでなく酸も増えますから、そのへんが生産者のウデの見せどころです。
ストレスを与えすぎると
 なんでもそうですが、やりすぎはいけません。人間も適度なストレスは緊張感を産み、仕事も効率よくこなせますが、過度のストレスは体を壊してしまいます。それと同じでみかんも枯れるほど水分をカットしてしまうとダメみたいです。そのへんも生産者のウデの見せどころです。

とりあえず食べて

 まあ、なんだかんだ言ったって食べてみないとわかりません。コントロールされてつくったモノより、自然に育ったモノがイイ人もいるでしょうし、甘さもあんまり甘いものより、適度な甘さでバクバク食べるほうが好きな人もいると思います。
 「果物は皮をむくのが面倒」という人が増えて、どんどん消費量が減っています。でも、じっくり皮をむいて、香りと味を楽しめる果物こそ「スローライフ」、「スローフード」というストレス社会を生き抜くキーワードにかなうモノのような気がします。

さ、みかんに親指の爪を立てましょう。その瞬間、うすく潮風の入った癒しの香りが広がるはずです。


参考文献:日本農業新聞(2002.12.11付「食と農のかけ橋」