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患者A(テス氏)との面談記録

○月○日

医者:テスさん、日記は読ませてもらいました。どうですか?
   その後嫌な夢は続いてますか?
テス:ええ、馬に追いかけられる夢です
   最近仕事にいくと誰かに睨まれているようだし
医:仕事上で相当ストレスがあるようですね
テ:そりゃ…辛いもんです。最近派遣先の店が揉め事多くて
   はぁ…前髪に触れただけで叱る人もいるし、ろくに給金ももらえず
   せっかく貰ったおやつまで取り上げるボクサーあがりとか…
   中には家具直してくれるいい人もいるんですが。その人くらいかな、友達になれそうなのは
医:まぁ、精神的に問題があるわけではないでしょう。まともな反応ですよ、大丈夫
   多少疲れと混乱があるかな…安定剤出しときましょう
   ここにもいろんな人来るんですよ。自分が兄さんだっていう人とかね
テ:…え…
医:そういう人と関わると周りの人も大変ですよ、ほんと
テ:…    


○月○日

医者:なんだか前より目が落ち着かないね。出向はまだ続いてるの?
テス:はい。本店のチンピラ従業員にまで自分の替わりに行けと脅されて…
   出向先はチーフはまぁいいんですが、先日は厨房にまで僕の苦手な人がいたりして…
   何やっても怒られてばっかでどこにも身の置き場がないんですよ
   先生、僕、最近めちゃくちゃなことしたくなるんです
医:めちゃくちゃ?

テ:本店に大先輩でひよこみたいな頭のおじさんがいるんですが、その頭をさわぁっとなでたいとか
   やっぱり大先輩で目尻が整形っぽいおじさんがいるんですが、その目にピンクのメイクしたくなったり
   御曹司きどりの気取った奴がいて、そいつのズボンをパンツごと脱がしてやりたくなったり
医:あまりの抑圧のために何かをぶち壊したくさせてるんだよ。相談できる様な彼女とかいないの?

テ:…
医:ま、安定剤続けてみて。あ、君が好きなドーナツ、貰いもんだけど。持って行きなよ
テ:せ、先生…、先生…
医:ほら、泣かないで。取られちゃだめだよ。いいね
テ:はい…。ご恩は忘れません
    

○月×日
医者:あれ?ちょっと、なんだかやつれてない?
テス:先生、もう僕最近自分が自分じゃないみたいで
   仕事やめようかと思ってるんですが、そんなこと誰かに相談する暇もなくコキ使われて…
医:ご飯はちゃんと食べてるの?ほら、泣かないで答えてごらん
テ:一応まかないの残りと…時々イナさんにハンバーガーのピクルスとかもらったり
   お客様についた時はスティックにんじんとかポッキーとかもらってます
   あとあ、あん…ぱんとか…いか…いか…
医:ほら、泣かないの!指名もあるんだ?
テ:いや、みんな自分が指名されると僕を引き立て役に呼ぶんですよ
   BHCには座るとけっこう背が高く見える人ばかりで、横に座ってちょっと猫背になってろって
   で、顔を前に突き出せって。遠近法でなんとか顔を小さくしたいらしいんです。はぁ…
先:ヘルプってそれなんだ…
   今日はね、私の先輩が偶然来てるんだけど、君もたまには違うドクターに話聞いてもらったらどう?
先生2:こんにちはぁ
テ:ひぃ!
先:あ、ヤン先生、急に出て来たら驚いちゃいますよ!
   テス君、こちらヤン先生。専門は催眠療法。昔は歌手やってた異色の経歴
先2:ごめんなさい、ちょっと気分優れないの。だから今日は帰ろうかと思って…あぁら、かわいい子じゃない
   よろしくねぇ。ちょっとだけ手見せてぇ
テ:う、い、いや、あの
先2:あぁこの手…誰かに似てるわ…あぁ…ピアノ弾いたことある?
テ:はい、い、いや、ないです、あの
先2:私にもね、辛い過去があるの。思い出すだけでもうハルクのように胸が張り裂けそう、あぁ…
先:ヤン先生いいですよ、今日は、ええ、すみませんでした。またあらためて、よろしくお願いします
テ:…
医:テス君ごめんね。残念だけど次の機会にね
テ:…
医:精神科医っていったって、個人的にはいろいろあるってこと
   ね?そう聞くとほっとするでしょ?
   そう、お店に鏡って一杯あるでしょ?それじっと見て言い聞かせてごらん、俺はテスだ!って
テ:俺はテスだ、ですか
先:そう、君に必要なのは自信だよ。ね?じゃぁ、お薬と、あとビタミン剤処方するね
   それからこれ、甘納豆。ポケットに入れて少しずつ。これなら小さいから見つからないでしょ
テ:いつも…すみません…こんどこそいただきます
医:だから泣かない!


○月×日

テス、同僚を連れて 

先生:どうしたの?なにきょろきょろしてるの?
テス:今日は…他の先生はきてませんか?
先:あー、ごめん。今日はいらしてないんだけど、会いたかった?
テ:い、い、いえ!!!!! いいんです!あの、今日は本店の一人が先生に相談があるって…
チョンウォン(以下チョ):失礼します!
テ:チョンウォンさん、まだお話してませんよ、ちょっと待っ…
チョ:テスがいつもお世話になっております。今、僕の中ではとうてい理解できないことがあって
   是非専門家のご意見をお聞きしたいとお伺いいたしました
先:いいけど…どんな内容?

     *

先:汚い、ドンペリ2本分食べるナンバーワンねぇ
チョ:おかしいですよね!まったく馬鹿げている。で、ミンチョルっていう人は数字の裏を読め
   とくるんです。裏ですよ。…僕ははっきり言って学はあります
   経営学も統計学も心理学だって全てマスターしました。でもわからないんです
   なぜそんな男がナンバーワンなのか。ユーザーは何を求めているのか。全くを持って理解不能だ
テ:正直にミンチョルさんに聞いてみたらどうですか、土下座でもすればたぶん…
チョ:なに?なんて言ったんだ
テ:え、いや、あの正直に…
チョ:その後だよ。土下座という言葉を僕の前で…使うなと言わなかったか…
テ:ひぃ…あ、すみませ…
チョ:僕は嫌いなんだよ!たとえそれがどんなに戦略上必要であっても!心の身売りだ!
テ:ぐぇ
先:チョンウォンさん興奮しないで。離して。テス君も苦しがってるし
チョ:はぁはぁ…失礼いたしました
テ:チョンウォンさんすみません、僕うっかり…
チョ:もういい。すまない
先:チョンウォンさん、さっきの汚いドンペリ男の件だけど、君も一度同じことしてみたら?
チョ:ええ!?なんですって!?同じことをですか!?
先:そう、そうやってきちんとスーツを着てて机に向かってても答えは出ないよ
テ:ぷっ…
チョ:テス、今笑ったか?そういう僕を想像したんじゃないか?
テ:あ、いぃ、いえ!まさか!
先:まあまあ、そのプライドが邪魔してるんだよ
チョ:お言葉を返すようですが、プライドなくてこの仕事は勤まりませんよ
先:でもそのドンペリナンバーワン男にも、それを許す店長にもプライドを感じられずに混乱してるでしょ
チョ:確かに…あの男にプライドなどみじんも感じられない
テ:ぷっ…
チョ:わかりました先生。考慮してみます。その姿をお客様に見せるわけにはいかないが
   一度そういった人間の心理を自ら感じてみるのも、帝王学には必要かもしれません
医:テス君はそういえば鏡の訓練してみた?
テ:あ、いえ、鏡が…なかなか使わせてもらえなくって…
チョ:鏡?いくらでもあるだろう。変なやつだな
医:今日はテス君にチョコ持って来た。ひとくちでもエネルギーになるからね
チョ:なんだ、テス。エネルギー補給が必要なのか?
先:ごめん、 チョンウォンさんのは用意してなかった
チョ:いえ、僕はティータイムのチョコレートはオーストリアのデメルと決めているので
先:OK。じゃテス君、ちゃんと食べるようにね
テ:はい先生、今日はありが…
チョ:今日は突然の訪問失礼いたしました。感謝いたします


テス、チョンウォンに発言する

先生:おおー、久しぶり、テス君。あれ?なんかいつもと違うじゃない。髪もびしっとキメてて
   それに…ピンクのタートルなんて持ってたんだ
テス:これ、出向先のチーフがくれたんです。お前に似合うよって。嬉しかったです
   それから他の人も、かっこいいテコンドーの道着とか、なんだかわかんないけど子供のよだれかけ
   みたいのとか、素敵な魔法瓶とか、ライターとかたくさんくれたんです。夢みたいだ
先:そうか。けっこう大事にされてるじゃない
テ:はい、今回仕事頑張ったからだと思います。達成感っていうか、認めてくれたんだなって
先:うん、それが自信につながるんだよ。いい傾向だ
テ:はい!頑張れそうな気が…
   ーノックされたドアが開く
テ:チョンウォンさん!
先:あれ?どうしたの?今テス君のカウンセリング中なんだけど
チョ:テス、先生の所に行く時は声を掛けろと言っただろう
   先生、すみません。ぜひ聞いていただきたいことがあって…
テ:でもチョンウォンさん、今は僕の時間なんですよ。先生にも失礼じゃないですか!
チョ:テス…今日はどうしたんだ、ずいぶん生意気な口をきくんだな
テ:生意気なんかじゃない!ぼくは自分の思ったことをちゃんと言うようにするんだ!
先:まぁまぁ、喧嘩になっちゃこまるな。チョンウォン君もいいよ、座って
チョ:では失礼します。それにしてもテス、なんだ、そのタートルは。よけい首が短く見えるぞ
テ:チョンウォンさんにそんなこと言われたくないですよ!僕のシャツダメにしたくせに
   これは仕事頑張ったからってミンチョルチーフにいただいたんです。大事なものです
チョ:ミ、ミンチョ、チョル…?
先:どうしたの?チョンウォン君、いきなりすごい汗だよ
チョ:あ、いや。先日ちょっとまた解決できないことがおこりまして…
テ:チョンウォンさん、もしかしてまたやってみたんで…
チョ:先生、自分に不可能なことを認めるっていうことはどういうことですか?挫折ということですよね?
先:理解すれば挫折とは違うよ
テ:ねぇ、チョンウォンさん、ミンチョルさんに会っ…
チョ:うるさいぞ!テス!なんだか知らないが調子に乗るんじゃないぞ!
   それからいいか!ミンチョルという名前を僕の前で言うんじゃない!
テ:そんな…親父さんだってお世話になるんじゃないですか。そんなこと言っていいんですか
チョ:はぁ…そう…なんだ…父が…こともあろうに…ヘルプに…
テ:チョンウォンさん、少し肩の力を抜いたらいいんじゃないですか?(あ、言っちゃったぞ!)
チョ:お前にそんなことを言われるなんて僕も堕ちたものだ…頭に空手チョップをくらったようだ
テ:ぷっ(死語だ)
先:まぁ、そういうことだよ、自分にあった表現方法を考えてごらんよ
チョ:あのタカビーなミンチョルのやつにも同じことを言われた…
テ:ぷっ(すごい、死語の嵐だ)
チョ:さっきから笑ってないか?テス
テ:さあ、チョンウォンさん、お店に戻りましょう!元気を出して下さい!(あぁ!言ったぞ!)
チョ:…そうだな。人に話して少し気が楽になった。先生、突然の訪問、失礼いたしました
先:うん、今度は予約入れてね
   あ、テス君、今日はミニドーナツ用意したんだ。ここで食べてく?チョンウォン君もどお?
テ:いえ!もう取られませんから、帰ってからいただきます!
先:うん、そうか
テ:ではまた遊びに来ます!
先:今日は薬は出さないよ
テ:…
チョ:なに嬉しそうに泣いてるんだ。薬をくれないって言われたのに。変な奴だ


ついにミンチョル

先生:はーい。急患だって?
テス:どうも。あの…
先:テス君!どうしたの?最近調子いいって言ってたじゃない
テ:いや、今日は急遽ご相談を…ミンチョルさん、ミンチョルさんてば!
ミンチョル(以下ミン):狭い空間は苦手だ
先:あ?そちらさん?どうしたのドア枠によりかかって
テ:ミンチョルさん!かっこつけてる場合じゃないですよ!早く座って下さい!
先:あ、ごめん、椅子高かったら調節して。前の人が長身だったから
テ:ミ、ミンチョルさん、ま、まぁそんな顔しないで座って(先生キツゥ〜)
先:ミンチョルさん?ああ、テス君の出向先の方ね
ミ:いや先生、ミソチョルと憶えておいてほしい。ここにいる僕は僕であって僕でない
先:ありゃ、こりゃカウンセリングしがいがありそうだ
テ:先生、すみません。ちょっと仕事で行き詰まってて、僕相談されっぱなしでどうにも疲れちゃって
ミ:先生、いつもテスがお世話になっていると聞いています。弱き者には救いの手が必要です
先:で?ご相談て?
ミ:そう、僕の口から言えとおっしゃるんですね?それは自分を自分で切り裂けと言われているに等しい…
テ:ミンチョルさん、ここではそんなこと言ってちゃ意味ナイんですよ!(もぉ!)
先生、ミンチョルさんはオーナーの無理矢理な仕事の企画や、それからお客様に対する本音とタテマエの
   使い分けに疲れてるみたいなんです
ミ:疲れている…そうかもしれないな。自分を解放できる空間がない
先:ご家族は?いたわってくれる方いないの?
ミ:先生、痛い所をお突きになる。その家族にも今は疎外感を感じているんです
テ:ソンジェさん優しいじゃないですか!この間お店までバイクで送ってくれたんですよ!
ミ:テス。優しさは時として刃にもなりうる
テ:ヨンスさんだって綺麗でいい人じゃないですか!
ミ:テス。愛は時として鉛のような足かせにもなるんだ
テ:ミンチョルさん…(なに言ってんだかサッパリわかんない)
先:重症だね。ちょっと詳しく聞こうかな
   ***
先:明日のイベントに焦りと不安があるわけね。で、日々のお客さんに言っている心にもない言葉が
   最近むなしいと。それと家族の疎外感を感じると
ミ:ふっ。先生にかかると僕の苦悩もなんでもない箇条書きに姿を変えてしまう
先:箇条書き、大事だよ。要点を見つけるの
テ:で、で、フクスケ人形割ってすっきりするんですよね!
ミ:テス。お前楽しそうじゃないか
テ:すみません。そんなんじゃないですけど…でもあのミンチョルさんがこんなに悩んでるなんて
   …なんだか申し訳ないけど少し嬉しいです。相談もしてくれて(ちょっとめんどくさいけど)
ミ:なぜかな。なぜかお前には話せる気がした
テ:チョンウォンさんもそう言ってくれ…(おっと)
ミ:ん?あいつにも声を掛けられているのか?そういえばお前を引っ張って行こうとしていたな
テ:あ、あぁ、まぁ、あの人もいろいろ大変みたいで…
ミ:はっ。あいつの悩みなど取るに足りない。人にはそれぞれ器というものがあるんだ
   あいつはそれがなかなか理解できない。そのくせこの僕に正面から聞き出そうとする
   どうせ影ではタカビーミンチョルなどと古い言葉で僕をあざけっているに違いない
テ:ぷっ(ひゃぁ、チーフってエスパーかも〜)
先:大体ここに来る人はストレス持ちなんだ。なんかパァっとやりたいことあるでしょ
テ:巨大フクスケぶっ壊したいんですよね!どっかーんと!ね!
ミ:ふん、しかしそんな状態の自分を他人に見られることにも抵抗を感じる
テ:やっちゃえばいいんですよ!イベントなんですから!
先:壊すことばかりじゃなくて、こうしてみたかったっていうことでもいいんだよ
テ:おもしろそう!なんかないですか!
ミ:こうしてみたい…そう…僕のイメージでは…おかまのフクス…いやソンジェ…唇はピンクだ
テ:ぷっ!(出た〜!)
ミ:そう…それから…ステテコのトファン……カトちゃんのヅラをつけたマイケル!
テ:ぶはっ!
ミ:あぁ…それから…ひよこの着ぐるみのスンドン!白タイツのチョンウォン!
   シンクロナイズドスイミングのヤン・ミミ!間寛平の真似するサンドゥ!あぁ、それから!
テ:ミ、ミンチョルさん!
ミ:それから!
テ:ミンチョルさんってば!しっかりして下さいよ!(やべぇ〜)
ミ:はぁ、はぁ……済まない。ちょっと興奮して…自分を見失ってしまった
先:でもすっきりしたって顔してる
テ:すごいですよ!すごい想像力です!(とりあえず持ち上げよう)
ミ:恥ずかしいところを見られてしまった
先:いやいや、今あなたは一つ飛び越えたよ
テ:すごいな、さすがチーフだ!
ミ:そう言われれば少し心が軽くなったかな。ふん、テス、たいした想像ではないがな
テ:いやいや、サンドゥさんのとこなんかぐっと来ました!
ミ:まぁ、長年アーティストを発掘してきた僕だからな。イマジネーションなしではやっては行けない
テ:そう!その調子ですよ!あぁ、いいです!その前髪の間からきらりとのぞく自信に満ちた目!
   久しぶりじゃないですか!(見えにくそうだけど)
ミ:こうか?
テ:そうです!そう、くちをニィーっと横に…そう、それでこそチーフですよ!
先:あまり同じ方向に顔をかしげてると肩こるよ
テ:先生!もう、いい感じなんですから!
先:ごめん、ごめん。ミンチョル君、話したらすっきりした?
ミ:ええ、ひととき羞恥心を忘れるという貴重な経験でした。少し力が抜けたような気がしています
先:そりゃよかった
テ:よかったですね!(これでもうつきまとわれないぞ)
ミ:イベントにも身が入りそうです
テ:今夜は歌の練習ですね!
ミ:…
テ:あ、いや、頑張って下…さい…(睨んでる。な、なんだまだダメじゃん)
先:じゃ、お二人とも頑張って
ミ:先生、薔薇はお好きですか?
テ:ここはいっさいの心付け禁止なんですよ!
ミ:テス、僕のプレゼントは断れないことになっ…
テ:先生!ではまた!また電話します!じゃ!はい、ミンチョルさん髪はあとで直して下さい!

先:おぉ、テス君があんなふうに人を誘導するとは…テス君も変わったな…


3人、現わる

先生:はじめまして。でしょうか?
トファン:うわははは、息子がお世話になっとるそうで。チョンウォンの父です
先生:ああ、チョンウォン君のお父様。彼、お元気ですか?
トフ:いや、それで来たんだが…息子の様子が最近どうも変でな
仕事が手につかないようなんだが
   勝負、勝負とうわごとのように言って。先生何かご存知ありませんかな
先生:今日は?ご本人は?
トフ:仕事仲間にどうしてもと誘われたとかで、旅行に行っとるんだが…
先生:で、誰と勝負したいっていってるんです?
トフ:それがどうもはっきりはしないんだが…最初はイナ君かと思っとったんだが
   イナ君のことはどこかナメておるようだから違うようだな
   毎夜「巨人の星完全版」というビデオと「パーフェクトバンジージャンプ」というビデオを見とる
   前は「月刊男のパーフェクト」なんぞ読まないやつだったが
先生:パーフェクトがお好きなんですね
トフ:うわっはっは、先生、息子がパーフェクトですと?いやいや、まだまだですわ!
先生:…最近変わったことは?
トフ:いや…他店のイベントで楽しくやっていたように見えたんだが…その夜家政婦に沢山のクマの形の
   パンを買わせにやって、それを持って部屋に閉じこもった
   そのパンを三角に切って、口いっぱいに押し込んで苦しんでいる所をわしの秘書が見たというんだ
先生:三角に?きつねパンになっちゃう
トフ:何かのナウいまじないかも知れんがな。いずれにしろ心配なんだが
先生:で…
 ーノックとともに開くドアー
先生:あれ?先生!どうしたんですか!急に!
トフ:おぉ!あなたは!

ミミ:トファンさぁん!やっぱりいらしてたのねぇ〜!
マイケル:失礼いたします
トフ:これはこれは、私たちの女神ミミさんではありませんか!なんとマイケル君まで!
   いったいどうしたと言うんだね
ミミ:マイケルさんとは毛皮のショウでお会いしましたのよ
   お店の方であなたがこちらにいらしてると聞いたんですの
先生:ヤン先生、トファンさんとお知り合い?
ミミ:あら、先生、お仕事中にごめんなさいね。急用だったもので
   この殿方たちとは先日素敵な思い出をつくったの
マイ:そう、非常にエクサイティングな思い出です。はじめまして。私マイケル・チャンと申します
   すぐにでもトファン会長にお会いしたくて。ご無礼お許し下さい。…素敵なロッキングチェアだ…
先生:ヤン先生、最近ちっとも診療室に顔出さないって先生達が言ってましたよ
ミミ:いいのよ、カウンセリングはもともとお遊びなんだから
   あんまり儲からないし、閉めちゃってもいいと思ってるのよ
トフ:さすがにいろいろな顔をお持ちだ。謎の女ですな。うわっはっは
ミミ:ねぇ、トファンさん、ミンチョル君たちが社員旅行に行ったってご存知?
トフ:ああ、うちのチョンウォンも無理矢理誘われたそうだ
ミミ:ねぇ、私たちも追いかけませんこと?自家用ジェットお出しするわ
  こんな楽しそうな企画を知らせて下さらないなんて、ミンチョル君も意地悪ね
トフ:まぁ、それも面白いかもしれんな。先生、中座してもかまわんですかな
先生:かまいませんが…お話のつづきはどうします?
ミミ:チョンウォン君のことでしょう?大丈夫よ!つづきはあたくしが聞いて差し上げるわ!
マイ:チョンウォン君もミミさんにカウンセリングを受けるといい
トフ:おぉ、よいアイデアかもしれんな
ミミ:まぁ嬉しい!あたくしサプラィズだぁい好き!
マイ:しかしトファン会長、チョンウォン君がミミさんの魅力に負けてしまったら
   ちょっと我々は複雑な心境ではありませんか?
トフ:うわっはっはっは!そうだな、ミミさんの少女のような輝きは若い者には眩しすぎるやもしれんな!
ミミ:あら、あたくし悪女ではなくてよ
   さ、では急ぎましょう、最終日には間に合うかしら
先生:お気をつけて…
トフ:いや、済みませんな。では失礼しますよ。今後とも息子をよろしくお願いします
マイ:失礼いたしました
ミミ:じゃ、また顔出すわね
先生:…

カウンセリング in LBGH

先生:あー!緊急の呼び出しで来てみたらやっぱりミンチョル君じゃない!どうしちゃったの!
ミンチョル:先生は僕をご存知なんですか?
先生:ご存知ご存知!テス君に連れられて診療所にきて腰に手してかっこつけてたじゃない!
   太い縦縞のワイシャツ着てさ
ミン:済みません。憶えてないんです
先生:墜落の衝撃ですっかり忘れちゃったんだって?なにしてたんだろうね上で
  最近車の事故による記憶障害ばかりだったから新鮮だな
イナ:先生、どうでしょう、元に戻りますか?
先生:わかんない。もう一回落ちてみる?2度目の事故ってけっこう効くみたい
イナ:ここの医者はみんな乱暴だな
ミン:長い辛い旅に出ていたようです。そしてなにかふっきれかけた…そんな感じがするんです
先生:最後に見たものは?聞いたものは?感じたことは?
ミン:太陽のような笑顔…笑い声…箱の閉まる音…暗闇…
イナ:ちくしょう、デラルスの奴らめ!
先生:で?夢を見たって?北海道で?ふむふむ、なんかドラマティックな夢だね
   ここに付き添いと同じ夢をみたって書いてあるけど?
イナ:あ、ちょっと待って下さい。テジュンさん、入ってくれますか
ハン・テジュン:失礼します。はじめまして
先生:お、どうも
ハン:わたしと同時に同じ内容の夢をご覧になったようです
イナ:テジュンさん、もうその敬語はやめましょうよ、客じゃないんだから
ハン:あ、はい、ではそうさせていただきます
イナ:なんで同じ夢みたんでしょう?
先生:前世で親友だったとか?
イナ:先生!ふざけないでくれよ!
先生:半分本気。脳医学の研究は始まったばかりだからね
   オカルトちっくと思われることも真面目に研究されてるんだよ
ミン:別にもとに戻らなくてもいい気がするんです
イナ:なに言ってんだよ!お前がよくたってまわりがよくないんだよ!まあ戻りたくない気持ちもわかるが…
ハン:ミンチョルさん、わたしもお手伝いしますから
先生:ご家族は本当に呼ばなくていいの?
イナ:いいんです。最近は決していい家族関係じゃなかったみたいだし
先生:ああー!忘れてた!そういえばミンチョル君が運ばれてきた後に、チョンウォン君が運び込まれたよ!
行き倒れだって。一緒じゃなかったの?
イナ:チョンウォン?あのばか、あとをつけて来てたのか!
先生:家族に連絡したからチョンウォン君の関係者が来ると思うよ
イナ:家族?関係者?まさかデラルスじゃないだろうな
   ちっ!今頃ミンチョルの件は筒抜けだな、あのmayoさんがいるしな
先生:じゃぁ、病室でもう少し休んでってよ、テス君も来るでしょ?
ミン:テ…ス…?
イナ:そうだよ、お前がかわいがってたテスだよ
ハン:先生、記憶回復のきめてはなんでしょう
先生:記憶を辿ることかな
イナ:たどる…
先生:うん、それと同じシチュエーションの展開

ー病室にてー
ミン:すまない、皆さん
ハン:ミンチョルさん、あなたとはもっといろいろな話しがしたい
イナ:テジュンさん、あんたホントにいい人だな、モテるだろうな
ハン:…いや、女性には…縁がないんですよ。辛い思い出しかありません
イナ:テジュンさんも?
ハン:それはもう、思い出しただけでもう、もう、もう、もう…
イナ:ちょっと…大丈夫?背中がなんか言いたそうだけど…
ハン:う、あ…失礼しました。仕事以外のことはうまく表現できなくて
イナ:職業病だな。あんたも女との辛い思い出があるのか、親しみがわくな
ハン:慕ってくれる女性もいますが、今は仕事に全てをかけています
イナ:へぇ、そんな人もいるんだ
ハン:そう、先日もこんな絵はがきを…ここに写っているのがその子です。今は留学中で…
イナ:え、うわぁぁー!スヨン!
ミン:え?ヨンス?知っている名前だ
イナ:スヨンだ!
ハン:あ、いえ、この子はユンヒという子ですが
ミン:おい、イナ君、大丈夫か?具合悪いのか?
イナ:だ、大丈夫だ。はぁはぁ…
ミン:若い子ですね、テジュンさんとは随分年が離れているようだ
イナ:ミ、ミンチョル、頼む。年の差のことは口にするな
ハン:どなたかと似ていらっしゃるんですね

ーノックの音ー
チョンウォン:失礼します
イナ:チョンウォン!おっまえ!つけて来たのか!行き倒れたって?ばかか!
チョ:誰が行き倒れだ。少し道に迷ってしまいガス欠も起こしたので、しばし車中で瞑想していただけだ
   ミンチョル…本当に記憶をなくしたのか?
ミン:?どちらさまだったかな
チョ:あぁ…なんてことだ。僕との勝負に勝てずに自分の殻に閉じこもるなど負け犬だ
ハン:勝負?
イナ:気にしないで。あいつちょっとイカレてるんだ
チョ:もうひとり有望な人材がいるんだ。彼と話したんだが3人で 
   優良御曹司協会「YOK」をつくるナイスな企画を思いついた!だから元気になってくれ!
イナ:な?変わってるだろ?悪い奴じゃないんだけどな
チョ:そうだ!君の義弟から伝言があった。ええと「ヨンスとソンジェはもう一度愛し合う」だ
イナ:なんだとー!?あのふくすけ野郎がそんなばかなこと言ったのか!?
チョ:手を離せ。僕は伝言を頼まれただけだ
ミン:ヨンス…ヨンス…ふくすけ…みみ…
イナ:ミンチョル、俺が話つけるから心配するな
ハン:みみ?あ、そうでした!ミンチョルさんにお渡しするものがあったんです
ミン:あ!み…み…
イナ:ミソチョルだよ!お前のミソチョルだ!なに泣いてんだよ!わかるのか?
ミン:ああ、ミソチョル、わかる、わかるよ。落としたんだ
イナ:俺たちより先にキツネを思い出したか。まぁよかった
ハン:心の支えだったんですね

その後ミンチョルは安心したのか、ミソチョルを抱いて枕に顔をうずめて眠った
俺に似た横顔のその寝顔。どうしたわけか「オトメ」や「リシリ」という言葉が浮かぶ
やはり放ってはおけない。必ずもとに戻してやらなくては

以下「偽装」につづく


テスとチョンウォン

テス:はい、もしもし、チョンウォンさんですか?はい、今からビクトリーっていうとこに行くんですけど
   ポケベル鳴ったんですが何かご用ですか?
チョ:出先から電話させて悪い。今控え室で例のやつやってみてるんだが…
テス:例って…
チョ:わからないのか!先生に言われたやつだよ!汚い格好して、口一杯にものを入れてしゃべり続けるってやつだ!
テス:やって…みてるんですか?
チョ:自分で納得してみたいんだ。人に見られちゃまずいから、鍵をかけてたくさんの食物を並べてみた
   汚い服など持っていないからテス、お前のロッカーからシャツを借用した
テス:え、ぼくのロッカーを勝手に開け…
チョ:そこで口にものを詰め込んでみたんだが、どうしてもきちんと噛んで飲み込んでしまうんだ
   どうやったら大量の食物を口に入れ続け、飲み込みながらまた入れ続けられるんだ?
テス:いや…僕にはそういうテクニックについてはさっぱりわか…
チョ:お前はいつもヘルプで隣で見ているんだろう!なんのためのヘルプなんだ!
テス:いや、あの、いつも顔つきだしたり下向かせられたりして、まともに皆さんの顔なんて見…
チョ:まったく!役に立たないとはこのことだな!
テス:沢山食べこぼしてるのは知ってるんですが、きっと口の…
チョ:食べこぼし!食べこぼすと言ったな?食べこぼすんだな!そうか、ちょっとそのまま待ってろ!
テス:あ、チョンウォンさん?
   …あの…チョンウォンさん…あの…僕時間が…
なんか…聞こえる…ぷっ…もしかして食べこぼしてみてるのかな…ぷっ…
チョ:今笑ったんじゃないか?
テス:ひぃ!い、いえ!まさか!(すごい…笑われるのに敏感な人だ)
チョ:だめだ!うまくできない!食べこぼすことなど生まれてこのかた経験したことがない
   口の周りをつい拭いてしまうしな。ああ…こんなに食物が散乱してしまった…不愉快だ
テス:あの…僕のシャツは大丈夫でしょ…
チョ:心配するな。胸のヤシの木の絵が少々派手なイメージになっただけだ
テス:派手なって…
チョ:もういい。こんなことをしても無意味だ。所詮持って生まれたものが違いすぎる
   それよりそういったやつに客は何を求めているのかを考察した方が良さそうだ。お前はどう思う?
テス:あ、ええ、まぁ…お客さんは、自然の姿っていうか…きどらない姿に魅力を感…
チョ:きどらない姿?そういったものがナウいのか?
テス:ぷっ!(死語だ)
チョ:なんだ、今笑ったんじゃないか?
テス:い、いえ、それがナウいんだと思いますが…
チョ:そうか…お客様の前で自分をさらけ出す…僕やマイケルさんには少し難しそうだな…
テス:オールインの皆さんお元気で…
チョ:わかった!またデータをひもといてみることにする。もう行ってくれ
テス:あの…この電話代はお店に請求していいんでしょ…
チョ:ツゥーー
テス:…ま…いいか…
VICTORY…ここだ…あれ?なんだか今ビルが歪んで見えたけど…涙のせいかな?…さ、行かなくちゃ…


チョンウォン(イベントの影で)

テス:もしもし?チョンウォンさんですか?なんですか?携帯に電話するようにってメモがあったんですが
チョ:ああ、悪いな。お前が捕まらないんでことづけを頼んだんだ
テス:あの、僕忙しいんですよ。イベント2日目を迎えてみんなめちゃくちゃハードなんですから
チョ:ああ、盛況のようだな。昨日ミンチョル君にはご挨拶した
   で、その、お前、高い所は怖くないか?
テス:え?ま、まぁ普通に怖いですけど
チョ:怖いんだな?それは普通のことなんだな?
テス:さぁ…イナさんは崖の上とか嫌がるけど…
チョ:だから、高い所を怖いと思うのは人間として恥ずかしいことではなのかと聞いてるんだ!
テス:恥ずかしいことなんかじゃないですよ
チョ:そうだよな!
テス:男としてはちょっと言いにくいことでしょうけどね
チョ:…
テス:…チョンウォンさん?
チョ:では、平気そうに高所からジャンプをする男はどうだ?イカすのか?
テス:あ!チョンウォンさん!もしや今日バンジージャンプやるんですか?
チョ:違う!そ、そうじゃない!これはビジネスの話だ!
   難題に挑戦するということに今後の経営者としての、その…
テス:(やるんだ〜)あ、仕事のことね
チョ:む、無論仕事の話だ。で、どうなんだ。挑戦するのは経営者として
   その…男性としてイカしてるんだな?
テス:(ぷっ)もぉ〜ちろんですよ!最高ですよ!
チョ:しかし失敗もあるだろう?…その、周りで支えるスタッフの
テス:まぁ、たまにはねぇ(怖がってんの〜)
チョ:そ…うか…
テス:あ、でもね!失敗を恐れてちゃ何もできませんよ!
   スタッフを信頼し自分は堂々と登りつめれば(ぷっ)いいんですよ!
チョ:そ…うだよな。ああ…そうだ。それがイケてるってことだな?
テス:男チョンウォンですよ!
チョ:そうか、わかった。で、自分を支えてるものがぶちっと切れたりした場合…
   その、じょ、情熱がぶちっと…
テス:ぷっ(はいはい、ロープがね?)
チョ:さっきから笑ってないか?
テス:飛ぶんです!そういう時は!
チョ:と、飛ぶ!?死ぬだろう!
テス:情熱の話でしょ?
チョ:そう!そうだ!情熱だ!
テス:そういうときこそ思いっきり飛ぶんです!
   周りがあっと驚く結果が引き出せますよ(そりゃ驚くよね)
チョ:わ、わかった…しかし…
テス:あのぉ、僕もう行かなくちゃいけないんですけど
チョ:ああ…その…最初は乗り気だったそのビジネスを中断というか…
   キャンセルしたら僕の立場は客観的にどうなるかな
テス:地に堕ちるでしょうね
チョ:地に…堕ちるか?
テス:笑い者っていうかぁ(我ながらキツぅ〜)
チョ:笑い!?…くぅ…
テス:そうですねぇ〜ミンチョルさんなんか自分に厳しい人だから、なんて言うかなぁ〜
チョ:ミ…く…わかった、もういい
テス:じゃ、もう行きますんで〜!
チョ:ああ…テス…あの…
テス:まぁどんなにツヨイ情熱も、いずれはヨワルでしょうから… 
   ぶちぃっ!!
チョ:ひぇ!?
テス:と行く前にさっさと実行した方がいいんじゃないすか!じゃ!
ツーツー
チョ:…


チョンウォン、裏工作

テス:もしもしチョンウォンさん?さっきはどうしたんです?急に飛び出して…
   で、なんですか?まだ片付けが残ってるんですけど
チョ:すぐ済む!テス、なんでみんな僕のバンジーの件を知ってるんだ?
テス:えっ?気絶のことですか?
チョ:あれは、き、気絶ではない!!
テス:だって医務室に…
チョ:瞑想だ!
テス:め、めいそうって…
チョ:瞑想だ!高所で、人の上に立つ者とは何かを瞑想していたんだ!
テス:そう…なんすか…
チョ:あまりに深い境地に入り込んでしまったので気を失ったような状態になってしまったが
テス:それって気絶ですよね?
チョ:違う!全然違うだろう!深い瞑想、無我の状態だ!誰にでもできるものではない!
テス:そうなんすか、ま、いいですけど。じゃ、まだ片付けが残っ…
チョ:待て!そうだったとみんなに言うつもりか?
テス:いえ、べつに。じゃ僕片付け…
チョ:言うつもりなんだろう!
テス:え、いや、言いませ…
チョ:言ってもいいんだぞ!!
テス:あ?…はぁ…じゃ、言っときますけど…
チョ:そうか?まぁ仕方がないな。人の口に戸は立てられないからな
テス:(はぁ…)じゃ、僕片付けに行きますから
チョ:ああ、ご苦労だな。僕との野球対決で負けたことを認めようとしないミンチョル君にも
   よろしく言っておいてくれ
ツーツー
テス:…


チョンウォン新たなるライバル

旅行も終わりだ
バンジージャンプではまた記憶がとぎれた
おかげでミンチョルとの勝負はまたおあずけということだ。ふっ、ミンチョルも運のいい奴だ

僕は運転は普段しないが、イナが運転できないのかっていうからさっさと乗り込んで車を発進させた
イナの側に誰か女の人が見えたようだが、まぁいい。イナに僕のハンドルさばきをみせてやらなくては

ギアをローに入れアクセルを踏む、急発進だ
そう、少し乱暴な音を立てて走り出す様は男っぽいものだ
さあどうだ、イナ。ん?ん?見てない!
…イナの奴、あまりのパーフェクトドライブテクニックに見ていられなくなったのか。ふん
しかしこのまま帰りはひとりか。僕のナイス運転を誰にも見せることができないなんて

ん?あれは誰だ。追いかけて…追いかけて来る!すごいスピードだ。車を止めろって?

チョンウォン:君は…
ソンジュ:はぁはぁ、チョンソ!
チョ:ミンチョル君の奥さんにまとわりついていた…
ソン:え?チョンソはいないの?
チョ:もうとっくに別の車で帰った。失敬だな君は
ソン:しまった。車違いか。チャン理事め
チョ:もういいだろう、どいてくれ
ソン:チョンソはどこに行ったか知らないか?
チョ:チョンソなんて知らない!警察でも呼ばないとどかないつもりか!
ソン:警察?そんなものすぐ買収するよ、ンフ
チョ:そういうことなら僕は裁判所だって手に入れるぞ!
ソン:じゃあ政治家をまるごと買収して裁判所など潰してもいい
   ンフフ、なんでもいいさ、チョンソさえ見つかれば
チョ:ふん、頭がピーマンだな。あの人は別人だと言っただろう
ソン:そんなはずはない。僕がチョンソを見間違えたりするものか。チョンソとはまた必ず会えるんだ
   あぁ、どうにかなってしまいそうなんだよ、僕は
チョ:とっくにどうにかなっているように見えるがね
   しかし、そんなにヨンスさんにクリソツなのか?
ソン:僕が間違えるものか。君は人を愛したことがあるのか?ん?
チョ:愛…?
ソン:愛っていうのはね…ンフ、これだよ
チョ:なんでブーメランなんだ

シュン!シュリリリィ!シュタッ!

チョ:返って来るのか?
ソン:え!わかってくれた?嬉しいな!たいがいみんな黙っちゃうんだけど!
チョ:当たり前だ。僕は海外で高度教育を受けている
   どうでもいいがどうやってそれを持ち歩いているんだ?
ソン:教えてあげようか。ほら
チョ:!!背広の内ポケットがブーメラン型になってるのか!?
ソン:特注なんだ。さっと取り出せるよう工夫させたんだ。他の人には見せないんだけどね
   愛の定義をわかってくれたお礼さ、ンフ
チョ:それにしても完璧な曲線だ
ソン:君とは気が合いそうだ。また会おう
チョ:あ?ああ…

その男は来た方向に疾風のごとく走り去った。この僕が初めてスーパー感心した男だった


チョンウォン盗み聞き

BHCのドアをちょっとだけ開けてみる
堂々と入ってもいいのだが、みんなが僕の存在に気圧されては悪いからな
みんななにかの映像に見入っている。衛星中継か?
あれはミンチョル?
真ん中は間違いなくミンチョルだ
あ、あぅ、あ、あ?うぅ!そんな…あ、あ、あぁ…
なんということだ。あのミンチョルが…
なぜあんなひどい姿をさらしているんだ…
優秀な御曹司同士としてお互いを高め合ってきたミンチョルのあんな姿を、どう受け止めたらいいのだ
それにしてもあの周りの3つの光っているものは…なんだろう、眩しくてよくは見えないが人間のようだ
曲芸師か?ふん、そんな奴らと何をしている?
もしかしたらミンチョルはこの僕に勝つための秘密の特訓をしているのか?

ヨンス:あの…
チョ:は!あ、え?ヨンスさん!なぜここに
ソンジェ:あなたこそ何をしているんですか?入っていいですか?
チョ:あ、いや、きょーぅはぁーあ、休みです!
ヨン:休み?そんな…うちの人が帰って来ないんです。お店じゃありませんか?
チョ:いえ!ここにはいらっしゃいませんよ!それに店中は今大掃除でひどい様子です
   奥さんの体に障りますから、入店はおやめ下さい
ソン:大掃除?こんな時間に?
チョ:ミンチョルさんは旅行先からまた仕事に回っているようですよ
ヨン:え…私に連絡もなしにですか、誰かと一緒なんですか?
チョ:え…あ、いえ、よくはわからないんですが
ソン:兄さんってば、どこまでヨンスさんを困らせたら気がすむんだ!
   まさか女性と一緒じゃないでしょうね!
チョ:あ、いや、光り輝く人と…
ソン:輝くような人と一緒なんですか!?ひどい!僕からヨンスさんを取り上げておいて他の女性と!?
   …大丈夫?ヨンスさん顔色が悪いよ
ヨン:ソンジェさん帰りましょう
ソン:兄さんと連絡ついたら伝えて下さい。もう一度話し合う必要があると

ヨンスさんとソンジェ君は行ってしまった。よかった。いくら僕でもあんなミンチョルの姿を病弱な奥さんに見せるわけにはいかない
ライバルに花。完璧な男性像だ
ソンジェ君達が去った方角からオーンオーンオンという声がする。なんの鳴き声だろうか?

ん?ソンジェ君になんと伝えるように言われたかな?もう一度愛し合うだったかな
まあいい。ソンジェ君、ヨンスさん、もう一度愛し合う、でインプットだ

?あそこにやってくる華やかな人たちは…
ミミさんとマイケルさんと…お父さん!!まずい、隠れよう

ー3人でBHCに入ったと思ったらすぐに出てきた。何をしに来たんだ?

ミミ:ねぇ、イナ君ったらマジで怒ってたわよぉ、かわいいじゃない〜
トファン:友情とは素晴らしいものですな!男と男の友情は実に美しい
ミミ:あらーん!男と男ですって?ちょっといじけてしまおうかしら!
マイケル:ははは、ミミさん、友情は男同士、男女は香り立つ愛情ですよ
トフ:そうじゃ、わしらのこの気持ちをどうしてくれますかな?お美しい友人よ
ミミ:あぁーん!あたくしお二人には心からの熱い友情を感じてますのよ!
トフ:わっはっは!かわいらしい方だ
マイ:ミミさん、私たちの新しい形の友情に乾杯しませんか?
トフ:おお、では久しぶりに「ポラリス」にでも繰りだそうかのう
ミミ:まぁ!うれしいわぁ!あそこのミニョン君、最近いい身体になったって評判よぉ!
トフ:これはまたライバル現わるですな、わっはっは!

3人は楽しそうに行ってしまった。それにしても最近の父はなんて楽しそうなんだ

?中がまた騒がしい…ん?ミンチョルが?見つかった?どういうことだ?
そうか!秘密の訓練所のことと推察したぞ
イナがひとりで迎えに行くらしい。後をつけなくては!

チョンウォン、新たなる敵

店に入るとテスとBHCのテプンと新人ーチョンマンとか言ったかなーがいた
なんであいつらがここの店にいるんだ?
直接聞いてもいいがいきなり僕が声をかけると気圧されてはかわいそうだからな、影から様子をうかがおう
話しがよく聴こえないが…よく喋る2人だな
テスがうんざりしている
おやつも食べられている。バナナだ
またあの食べ方だ。あんなにほおばって喋り続けている
週1回月曜の夜に訓練を続けているが、なかなか上達できない。どこかでマイスターでも捜してこなければならないな
新人の方は猿の真似をしてバナナを食べている。異様な光景だな

テス:あれ?チョンウォンさん、何してるんですか?そんなすみっこで
チョ:いや、今後の事業展開を考察していたんだ
テス:じゃ奥のデスクでどうぞ、ここ掃除しますから
チョ:あの2人なんの用だ?
テス:ああ、なんだか打ち合わせですって
  もう聞いてるとどっちが何喋ってるんだかわかんないくらいうるさい打ち合わせですよ
チョ:なぜBHCでやらないんだ。話しも終わったようだ、ちょっと注意してくる
テス:あ、やめたほうがいいですよ!
***
チョ:君たち僕はここの取締役だが無断でここ…
テプン:ああチョンウォンさんすみません、ちょっと静かに打ち合わせしたかったんで
   もう隣はめちゃくちゃ人の出入りが多くて、もう厨房の方からもなんやかんや言ってくるもんで
チョンマン:どうも!はじめまして!お噂は聞いてます。仕事熱心で研究熱心で
   超真面目な御曹司の方ですよね!どうも!まだ右も左もなんだかよくわかんなくて困ってて
テプン・チョンマン:もうチョンマンとの打ち合わせは済んで・今タイミングっていうことについてテプンさ
   んに・無断で入ったことは申し訳ないです・いやぁ芸を見せるっていうことは本当に難しいことだと・
   そういえばうちのチーフにはもう会いましたか?奥さんと一緒に車で・僕が悪いんですよ出しゃばるよ
   うなことしちゃって・まぁ3人も新入りが来て賑やかになったんですが・これから気をつけてテプンさ
   んに迷惑かけないようにします・え?うんもうわかったよまぁこれからはうまくやって行こう・はい
   今日お話できてよかったですよろしくお願いします・お前には負けられねえからな・僕もまけませんよ!
テプ:あ、チョンウォンさん、それでなんでしたっけ?
ウォ:あ?…いや…いい…ちょっと仕事があるので失礼する
テプン・チョンマン:じゃどうも!
テス:だからやめた方がいいって言ったのに…

なんということだ。言葉の洪水だ。言葉の2重螺旋階段だ!BHCの新企画かもしれない。これは挑発だ
ミンチョルめ、どこまで僕に対抗しようというんだ。よし、すぐに研究開始しなくてはならないな


BHCの(限りなく)すみにて

チョンウォン:さっきのスヒョンの接吻を見たか?
ソンジュ:見た。すごいな。あの人はなんであんなに自然にできるんだろうね
チョ:タイミングと角度の問題か?
ソン:僕はもう少し浪漫チックなシチュエーションを大切にしたいな
チョ:王子様か?あれはもうやめた方がいい。不評だぞ
ソン:そう?けっこうかわいいって言われたんだけど。んふ!
チョ:とにかくタイミングと角度、それと意外性だな。レポート用紙没収されたから記憶して…
ソン:あ、スヒョンさんがこっちに来る!ちょっと、スヒョンさん!
スヒ:質問なら後にして。今忙しいから
ソン:ちょっとだけ教えてくださいよ!
スヒ:キスくらいあなたたちできるでしょう
チョ:なんでそのことだって…
ソン:できるけどちょっと教えて下さいよ、なんであんなに相手が言うこときいちゃうのか、んふ!
スヒ:あのね
チョ:うわ!な、なに!そんな顔くっつけな…
スヒ:そう、まず相手に考えさせないの。自分のペースに巻き込むの
ソン:ちょっとえろちっくだな、こうして見てると
スヒ:まっすぐ相手を見る。目を離さない。相手の目線をとらえる
チョ:わ、わかったから!ちょっと離れ…
スヒ:そして大事なこと。その一瞬一瞬目の前の相手を愛するんだ
ソン:その愛って…
スヒ:返って来るかどうかは問題じゃない
チョ:わ、脇腹をさわるな!
スヒ:チョンウォン、君は相手を計算しているだろう?
チョ:お客様をビジネスの目で見るのは当たり前じゃな…
スヒ:計算したっていいんだって。でも相手に計算させちゃいけない
チョ:うぁ…
スヒ:もし相手が計算をはじめようとしたら、離れるんだ。すぅっ…とね
チョ:…ぁ…ぅ…
スヒ:おっと!お客様がお待ちかねだった。ではまた!
チョ:…
ソン:行っちゃった…なんの話しだ今の?…おい?大丈夫?おいったら!
チョ:接吻されるかと思った…
ソン:君、ちょっと目が潤んでるよ
チョ:いや、たちまち心拍数が上がったんだ
   僕は男色家などでは断じてないのに顔まで熱くなってしまった
ソン:あれがスヒョンさんのテクニックだね!んふ!間近でチェックできた!すぐやってみよー!
チョ:角度はどうだった?
ソン:こんな。こんなくらいかな
チョ:目線はどうだった?
ソン:こういう感じかな。こうね。こう
チョ:…まるで別ものだな。それで心拍数上昇はありえないな
ソン:チスはうっとりしてたけどな
チョ:ん?チョンソじゃなかったのか?
ソン:今はどっちでもいいんだ。どっちかで
チョ:両方の愛が一度に返ってきたらどうするんだ?
ソン:ポケットふたつ作らなくちゃね。ブーメランの。んふ!

テス:あれ?チョンウォンさん、ソンジュさん、なにしてるんですか、こんなすみっこで
チョ:接客の研究だ
ソン:今スヒョンさんに手ほどきしてもらって練習してたんだ
テス:スヒョンさんですか…気をつけた方がいいと思うけど…
チョ:どうしたんだ?薬箱なんか持って
テス:厨房でmayoさんが鼻血出しちゃったとかで…
チョ:厨房?最近聞いた話しでは、どうもその辺りに全ての情報が集まってるってことなんだな
   スタッフの行動全てお見通しだということだが
ソン:あ!じゃぁ、いまさっきの僕たちも見られてたんじゃない?僕が悩殺ポーズとか練習してたのも!
チョ:ん?刺激が強くて鼻血が出たのか?
ソン:きっとそうだよ!最近僕ってかわいいとか言われちゃって株上がってきてるからな!んふ!
テス:そ、そうですかねぇ…
チョ:すみにおけないな、君も
ソン:こんなにすみっこにいるのにね!
チョ:うまいこと言うな、君!
テス:はは…(なんだかこの2人の会話って会長とマイケルさんを思い出すな)
ソン:ぴくん!
テス:目どうかしましたか?
ソン:厨房方面に僕のとっておきのウインクしちゃった! 
テス:あ、ウインクね(え、今の目の痙攣じゃないんだ…)
チョ:君にはスヒョンの講習なんて必要なかったな!
ソン:そお?んふ!んふふ!
テス:あ、あの…僕失礼します
ソン:mayoくんによろしくね!んふ!


素晴らしき…友人

チョンウォン:ミンチョル、忙しいところ電話などして悪いな
ミンチョル:なんだ、いったい。(チョンウォン、またあのうるさい奴だな)
チョ:君、日本のコウハクという番組に出たか?
ミン:いや。あれは理事だ
チョ:そうか。いや、すまない。服の趣味は少し違うと思ったんだが
   君が僕に黙って日本のショウビズに進出したのかと思った。特訓もしてたしな
ミン:いずれにしろ君に許可をとる義務はない
チョ:いや、君。僕はうちのスーパーな衛星受信でコウハクを見たんだが
   なかなか素晴らしいショウだったよ
ミン:用件が済んだなら切るぞ
チョ:そういえば、キシダンというロックグループの場面でポラリスのミニョン君が
   沢山歩いていたようだが、目の錯覚だったかな
ミン:見ていない。切るぞ
チョ:ポラリス関係ではリュウくんも歌ってたな。彼は日本に行ったきりなのか?
   そういえばセナ君は君の関係者ではなかったか?パフォーマンスではアユに
   負けていたがな
ミン:悪いが今忙しい
チョ:ミカワとかいうエイリアンのような歌い手を見たか?
   今後は我々の店でもあれくらい思い切った演出が必要なのかもしれないな
ミン:切、る、ぞ
チョ:アヤヤちゃんとゴマキちゃんはちょっと良かったかもな
ミン:いきなり「ちゃん」付けか
チョ:そう!君のところのイベントにも来ていたマツケンが凄かったぞ
   大噴火のようなパフォーマンスだ。影響を受けた父がさっそくトレーニングに入った
ミン:それはよかった(トレーニング?)
チョ:ガクトという歌い手のムードで君もデビゥしたらどうかな
   僕?僕は悪いが表舞台に立つ気はないからな。お、時間だ、ではまた店で
ツーツー
ミン:なんて奴だ…(はぁ)…僕はいつもこんな目にあってたのか…

ミン:もしもし?なんだ、ソンジェか
ソン:なんだじゃないよ。兄さん、新年早々また店なの?なにやってるのさ、ヨンスさん放っておいて
ミン:忙しいんだ。悪いな(ここが楽なんだ)
ソン:そういえば兄さん、コウハクって見た?
ミン:いや…うっっぷ…
ソン:兄さんのところの理事が出てたでしょ、立派だったなぁ、ねぇ、あんな風に堂々としていられるなん
   て凄いよね。兄さん、聞いてる?
ミン:聞いてるよ。ぅうっぷ…
   すまないがmayo さん、お水下さい。…ありがとう
ソン:責任っていう言葉を感じるよね。責任て言うのは回りのためじゃない、自分のためのものだよね、聞い
   てる?兄さん
ミン:ああ(この声を聞くと頭痛がする)
ソン:クリスマスだって結局僕がフォローしたし。ヨンスさんのこともう少しちゃんと考えてあげないと、こ
   の先僕は黙ってないからね!
ミン:ああ(今まで黙ってたことがあるのか)
ソン:それからセナが頑張ってたから兄さんから花束を贈ってあげて
ミン:なんでお前が贈らない
ソン:そんなこと僕に言わせないで!いい?兄さんとヨンスさんの名前で贈っておいてね
ミン:ああ
ソン:それから前にチョンウォンさんから聞いたんだけど、密かに新しいパフォーマンスを練習してたらしい
   けど、それって本当?
ミン:いや、それは…
ソン:まさか「アミーゴ」とか「セニョリータ」とかいう類いじゃないよね?ヨンスさんに恥かかせるような
   ことはやめてよね
ミン:わかってる
ソン:じゃ、今晩家に寄るからね。また
ツーツー
ミン:はぁ…(力なく携帯を切る)


イナ、預かり物

ーオールインにてー
チョンウォン:おい、イナ、これmayoさんに渡しておいてくれないか
イナ:ん?なんだ、書類か?
チョ:僕とソンジュ君のプライベートな報告だ
イナ:なんだ、こりゃ。下着の種類?
チョ:勝手に読むな!
イナ:なんでこんなもの渡すんだ?
チョ:mayoさんはどうも上層部と繋がってるらしいが、最近ぱんつに至るまで綿密詳細な捜査を行っている
   そうだ。きっと何か巨大なプロジェクトが動いているんだ
イナ:で、なんでお前とソンジュの下着なんだ?
チョ:ふふ、僕たちは外部では一番の関係者だぞ、そのうちに探りを入れて来るに決まってる。そこで先手を
   打ってこちらから提示するのさ。こちらが一歩進んでるってことを印象づけるんだ
イナ:まぁ、どうでもいいが。そんなら自分で持って行けよ
チョ:なにを言ってるんだ、僕は御曹司だぞ。よろしくお願いしますなんて言って持って行けるか
   それに僕は少し忙しい
イナ:日本に出張だってな
チョ:ああ、しかし心配はいらない。空港での何千人のも出迎え対策にボディガードを10人ほど雇った
イナ:日本にあややとかごまきに会いに行くんじゃないだろうな
チョ:あややちゃん?ふふ。まぁ、向こうがどうしてもといえば会ってもいいけどな。その時はあのコウハ
   クの衣装で来いと言うかな
イナ:バカかお前
チョ:僕はエンターティナーとしてのあややちゃんに興味があるんだ!
イナ:顔赤くして何言ってんだよ。エンターティナーならまずマツケンでもスカウトして来るんだな
チョ:わかってる!
イナ:まぁ、そっちは父親の方の担当か
チョ:なんでもいいから!書類頼んだからな!
イナ:はいはい


テス、困惑

BHCとオールインの間にて

チョンウォン:テス?どうしたんだ、こんなところで
テス:え、あ、チョンウォンさん…いえ、ちょっと風にあたりに…
チョ:なんだ、元気が無いな。今日はヘルプに出ているんだろう?
テス:ええ…
チョ:イナは僕の書類をmayo さんに渡してくれたかな
テス:さぁ…
チョ:テス、お前様子がおかしいぞ。具合でも悪いんじゃないか?
テス:ねぇ、チョンウォンさん…ずぅっとあったものが急になくなる感じ、わかりますか?
チョ:ん?ミニョン君の作品のどこかで聞いたような言葉だな
テス:たとえば、ある人がずっと続けていたことを急にやめると、気になりますよね
チョ:ふふ、恋の常套手段というやつだな
テス:こ、恋?そうなんですか?
チョ:イナの奴も使っていた。毎日女のところに張って、ある日急にいなくなる
テス:どうなります?
チョ:気になって捜しに行くわけだよ。ミンチョルも似たようなことをしていたはずだ
テス:え!ミ…!
チョ:彼の場合はフェイント型に分類される。あらゆるシチュエーションで駆使していたように記憶している
   しかし逆にフェイントをかけられることには弱い
テス:あのミンチョルさんが…
チョ:ライバルとして徹底的に調査したからな

イナ:おい!テス!こんなとこにいたのか!なにやってんだ!チョンウォンも一緒か?
テス:すみません、ちょっと…
チョ:気分が悪いそうだ。イナ、例の書類渡してくれたか?
イナ:ああ、渡した
チョ:驚いていたか?
イナ:ん?ああ…まぁ狼狽していた
チョ:そうか!やはり先手を打って正解だったな。これで僕たちの先見の才能に大いに注目したことだろう
イナ:まぁそういうことだ。安心してさっさと日本に行け。さ、テス、行くぞ
テス:あ!あのイナさん…イナさんが毎日女の人のところに出向いて急に姿を隠した時の気持ちって…
イナ:なにいっ!?なんの話しだっ!?
チョ:昔の話だ。そうムキになるようなことではないだろう
イナ:お前なんの話をテスに吹き込んだんだ!えっ?
チョ:落ち着け。なにも吹き込んでなどいない。人間の正と負の感情について話していただけだ
イナ:正と負?バカか!俺の昔の古傷の話でもしてたんだろう!
テス:イナさん、チョンウォンさん喧嘩しないで下さい
   すみません、僕が余計なこと聞いたからいけないんです
チョ:そういうことだ。相変わらずだな
イナ:ふん!まぁいい。テス、相談なら俺のとこに来い。どうせミンチョル絡みだろう?
   チョンウォンに聞いたところで「素晴らしいデータの羅列と解析」だ
チョ:僕をスーパーコンピューターのように言うな
イナ:相変わらずイヤミも通じないな、まぁそれはそれでひとつの才能だな
テス:ミンチョルさん絡みって…イナさん…
イナ:ミンチョルは今まだ体調は完全じゃないし…そう…店のことも忙しいから気になることも多いと思うが
   あまり考えるな。だんだん元の奴に戻るから、な
テス:あ…はい…
チョ:では僕はこれで。また出張出発前に顔を出す
イナ:ああ、できるだけ長く行ってこい
テス:すみません…あの…
イナ:ふぅ…行ったか。あいつが出て来るとややこしいことになるんだ、昔から
テス:僕はどうしたら…
イナ:ミンチョルのために何かしてやりたいならやればいい
   お前、殴られても真っすぐに立ち上がってたろう、昔は
テス:はい…やってみます
イナ:そういえば…奥さん病弱で洗濯してくれる者がいないとか言ってたっけなぁ…
テス:え?…あ、イナさん、僕ヘルプに戻ります!じゃ!
イナ:ふぅ!どいつもこいつも手がかかるな


ミンチョル宅にて

テス:こんにちは!
ヨンス:あら?あなたはお店にいらしてた…
テス:あ、オールインのテスと申します。チーフはもうご出勤ですか?
ソンジェ:ヨンスさん、誰?
テス:あ、チーフの弟さん
ソン:兄さんなら今日は出張だって言ってましたよ
テス:えっ!出張?
ヨン:ええ、スヒョンさんとドンジュンさんという方となんだか山に
テス:ドンジュン!?
ソン:確か帰りは…あ、ちょと、大丈夫ですか!?
テス:あ…だ…だいじょ…
ヨン:顔色悪いですよ、ちょっと上がって下さい
テス:す…みません… ソン:はい、僕につかまって

ヨン:はい、お水
テス:すみません、ご迷惑をかけて
ソン:なにか急用だったんですか?
テス:え、いや…僕は…洗い物を…
ソン:どうしたんです?泣いたりして。兄さんとなにかあったんですか?
テス:奥さんがお体弱くて洗濯できないって…だからなにかお役に立てるかと…うっ…
ヨン:まぁ…
ソン:兄さんったらうちの話しをそんな風に言ってるの!?
テス:あ、いえ、チーフは奥さんを気遣われて…
ソン:いいんです、テスさん、兄さんは昔からそういう人なんです。あなたも兄さんの前では緊張するで
   しょう?お店の皆さんも気をつかうでしょう?
テス:あ、いえ、あの…
ソン:自分勝手は昔からだけどこんな風にヨンスさんを侮辱するなんて、いったい何を考えてるんだ!
ヨン:ソンジェさん私がいけないの。私が甘えてたのよ
ソン:いい?ヨンスさん、もう兄さんのために何かしようなんて考えないで
ヨン:最近考えてなかったけど…
ソン:そんなことないよ、今だってローヒールを履いてるし昔もらった服だって捨ててないじゃない
ヨン:どこにしまったかしら…
テス:あの…
ソン:僕がばかだったよ
   あの時ヨンスさんと兄さんを無理に引き合わせたりしなければよかったんだ
ヨン:どの時?
ソン:桜の夜だよ。わかるでしょ?
ヨン:え…と…あ、憶えてるわ、一緒にお食事した時ね
ソン:食事はしてないよ…桜の下で兄さんが突然現れた日のことわかる?
ヨン:あ…えぇ、なんとなく。ソンジェさんもいたの?
ソン:うん、僕が兄さんを呼んだんだ
ヨン:まあ、近くにいたのなら声を掛けてくれればよかったのに
テス:あ、あの、僕はこれで…チーフは何時頃お戻りでしょうか
ヨン:さあ。あ、室長の部屋のデスクのスケジュールに書いてあるかもしれないわ
   どうぞご覧になってみて
テス:よろしいんですか?
ソン:どうぞ。ねえ、ヨンスさん、あの時僕がいたらどうしたの?
ヨン:そうね…せっかくの桜ですもの、一緒にお食事してそれから…

僕はお言葉に甘えてミンチョルさんの部屋に向かった
ミンチョルさんの奥さんって…ちょっと変わってる。弟さんもちょっと変わってる
あの二人の方が似合ってるのに…はっ、僕は何を考えてるんだろう!
ミンチョルさんの部屋…清潔だ…おとなの部屋だ。チーフの香りがする
眼鏡…これかけて仕事してるんだ。向こうに向けてある写真立て…
なんだ奥さんの写真じゃないか
自分のはちゃんと置いてある。けっこう下からのショットだな
あんなすみっこにフクスケ人形がおいてある
マジックで鼻の穴が大きくしてある…。ふふ、いたずらっこなんだな

横の戸棚を少し開けると…パンツだ!沢山の新品の!
ああ、そうだった…僕は何かお手伝いしたいと来たのに…ミンチョルさんはドンジュンと…
また涙がこぼれた
社員旅行、楽しかったな
ミンチョルさんが僕のためにお弁当を作ってくれたんだった
ミソチョルの形の…う…くっ…僕はチョンエとぱくぱく食べちゃったんだ
…ごめんなさい…もう遅いんだね。もう…

もう…BHCのヘルプに行くのはやめよう


通常妄想 テスの涙

オールインにてー
イナ:おい、テスはどうした?
テジュン:おう!イナ、なんだよ、最近は隣にばかり張り付いて。おかげでこっちは閑古鳥だぜ
イナ:だからって漫画なんかよんでんじゃねぇぞ。隣は騒ぎが多過ぎてな
   チョンウォンが戻ったら立て直すから心配するな。で、テスはどこだ?
テジ:あぁ、さっき控え室の方に行ったぞ

イナ:テス?
テス:あ、おはようございます
イナ:なんだよ、ひでぇ顔だな。隣のヘルプ断ったって?どうしたんだ。ミンチョルの件か?お前、家まで行ったんだってな
テス:ええ
イナ:おかげで凄いことになってるらしいぞ。あそこ
テス:凄いこと?
イナ:例のうるさい弟に随分つっこまれて、ミンチョルのやつ、別れてもいいって奥さんに言ったそうだ
テス:僕には関係ない。チーフの問題でしょ
イナ:なんだ、お前、雪山出張の件でまだ怒ってるのか?
テス:なにが出張だ!スタッフも家族も知らない出張がありますか!
イナ:お前にいいもん見せてやるよ
テス:…テープ?
イナ:これ見て少し頭冷やせ(バタン!)

僕はおそるおそるそのビデオテープを見た

雪山出張。すごい…だれがこんなもの仕込んだんだ。なんだかまずいもの見てるみたいだ
でもあのスヒョンさんがなんだか変だ…ドンジュンが人が変わってる…いったいどうしちゃったんだ
ミンチョルさんドンジュンのことばかり見てる
僕に見せてた目に似てる
『仕方ないな、僕のインナーを貸してあげますよ』
『え?だってドンジュンは?』
『僕は少々の寒さは平気ですから』
『…かっこいい…』
なんてことだ!なんでこんなものを見なくちゃならないんだ!
あああぁ!ドンジュンの奴、チーフの脇腹をつかみやがった!なんて奴だ!
ぎゃあああ!抱きしめた!抱きしめた!チーフを!
…なんだか涙が出てくる…もう見てられない…切ろう…

「最後まで見ろ!」
「え!あ?ミンチョルさん!」

いつの間にかミンチョルさんがドアのところに腰に手を当てて立っていた
ミンチョルさんは僕が持っていたリモコンを取り上げて僕の隣に座った
ビデオをじっと見ている。どうしよう
うわ、お風呂のに入ってる!ど、どうしよう、見てていいのかな。だめだ、顔が熱くなる
ミンチョルさんはくつろいだ感じでビデオを見ている。まるで僕なんかいないみたいに
なんでこんな目に遭うんだろう。また涙が出てくる

帰りの車の中だ。ドンジュン、いったいどうしちゃったんだ。異常だ。こっちが恥ずかしくなる
それにスヒョンさん…完全にイカレてる

『ほら、あっちの方見て。街灯りがきれいでしょ?』
『うわああっきれぇぇ』
今時のギャルだってこんな会話しない
うしろのミンチョルさん、ちょっと呆れてる…あ、ばかばかしいって顔して目が彷徨ってる
あの目がいいんだよね!…はっ!なに考えてるんだ僕は…

ミンチョルさんは身じろぎもせず見続けている
げっ!スヒョンさんドンジュンの肩にもたれて泣いてる?
で…それなのにドンジュンの奴ミンチョルさんに合図送ってる
あぁ、なんて、なんて奴なんだ!スケコマシもいいとこだ!なに?なんて言ってんだ?

ぱちん!(ビデオが突然消える)

テス:はっ!
ミン:もんごるいついく
テス:え、あ、え?
ミン:って言ってるんだ

ミンチョルさんが僕を射抜くように見つめて視線をはずさない

ミン:この後僕は家まで送ってもらった。あとのことは知らない
テス:あ…あの…
ミン:僕のうちに行ったんだって?なぜ
テス:あ、なにかお役に立てればと…でも…よけい申し訳ないことになってしまったって…聞きまし…た
ミン:すぐに君の耳にも入ると思うから言うが、僕はあの事故以来記憶がない
テス:え!
ミン:イナがいろいろ画策してくれたがそんなものはマヤカシだ
  僕の人生に本当に必要なことなら何度でも同じ思い出が作れるはずだ。ただ未来に進めばいい
   だから今は何も困っていないし、何も恐れていない
テス:ミンチョルさん…

ミンチョルさんが僕にリモコンを渡し…僕の手に乗せて…その手がどかない!
う、あ、どうしよう。どうしよう

ミン:イナが言うには僕は記憶をなくす前、君のことを随分気に掛けていたらしい
テス:あ、あの…
ミン:きっと僕に安らぎを与えてくれる存在だったんだろう。君は優しい人なんだろうな
テス:ミンチョルさん…
ミン:またヘルプに来てくれるね?
テス:はい、あの…
ミン:じゃ

ミンチョルさんの手の甲が立ち上がる時にすっと僕の頬をかすった
僕は動くことも、まばたきさえすることもできなかった
ドアの閉まる音を聞きながら…僕はあたたかい気持ちにつつまれた



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