「伊勢人No.125」(2006/4/5)の三重の隠れブランドで紹介されました。

白塚のトリ貝 カネ半 辻井商店
厚い身肉とつややかな黒い表面。殻をむき、湯通ししたばかりのトリ貝は、柔らかく、しなやかな歯ごたえ。甘い。噛むほどに口の中に甘みが満ち、磯の香りが広がる。古い造りの水産加工場が浜辺に並ぶ津市白塚町。春にコウナゴ、秋はイワシ漁で知られる土地だが、ここから出荷されるトリ貝は、良質の伊勢湾産として漁業関係者の間で名が通る。
地元の漁師、伊藤吉晴さん(51)に話を聞いた。トリ貝は、5百メートルから1キロ沖の水深5〜12メートルの砂場に生息。歯のついた「まぐわ」という金属のカゴを底に沈め、ワイヤで引きながら掘り出していくという。「2月から5月までに採れるのが一番いい。それを越えると弱ってくる。このあたりでは河芸の沖が最高」トリ貝はとてもデリケート。真水に弱い。豊漁の年は「湧く」と表現するほどだが、好不漁の差が激しい。
真水は厳禁独白のノウハウ
表面の黒がとれやすく、通常は産地で加工し、出荷する。取り扱いに神経を使う。白塚でもメインで扱うのは数社。そのひとつが辻井商店だ。「加工のノウハウは自力で勉強しました」。辻井健二さん(54)は、20年以上にわたって経験を重ね、独自の技術を身につけた。「まだまだ勉強中。毎年が一年生ですね」加工の様子を見学した。拳ほどの大きさの貝殻をひねって開け、身をむき落とす、ざるに移し、目の前の浜から汲み取った海水で洗う。真水は厳禁、身を傷つけないようにガラス板に載せて作業する。包丁で裂いて“ひも”部分とわたを取り除き、足を切り開く。微妙な包丁使いが必要なので、作業は素手。妻の正美さん(50)は「手袋ではとてもじゃないけど……。ほかの貝と違って職人のような仕事」と言う。最後に湯に通し、トレーパツクに詰める。出荷先は東京・築地、大阪、京都、名古屋、金沢。ブランドとして認めてくれるところへ出す。
湯にさっと---香りのごちそう
すしだねとしてなじみ深いが、辻井さんはしゃぶしゃぶと石焼きをすすめる。凝縮された旨みと香りが楽しめるという。腕に定評のある津市乙部の料亭「はな房」のご主人、黒田克巳さん(48)に調理をお願いした。「地元では意外に手に入りにくいですよ」。小ぶりの鉄鍋と石のプレートを準備しながら、黒田さんが話す。貝は約10センチと大型。しゃぶしゃぶは、黒田さん特製のすだち醤油でいただく。「新鮮なので、さっと通すぐらいでいいですよ」石焼きは何も付けずに。これもまたよし。このぜいたくな味をどう言ったらいいか。「貝の王様ですね。だいご味がある」だいご味か。なるほど、ぴったりの表現だ。(林)