このページ では古今東西、銀幕の中より魅了してやまない様々なアクターを紹介しつつ独自のオマージュを捧げたいと思います。どちらかと言えば脇役、仇役的な個性派からカルト俳優まで百人を目指します。
記念すべき第一回はこの人、故、成田三樹夫氏であります。

成田三樹夫
 幼年時より名は知らねど何故か心に強く残る映画の中の登場人物がいる。子供なりにもそれがテレビドラマではなく映画番組であるとの認識があると同時にリアルタイムな映像ではなく、それなりに時代を経たものであるという印象は早熟なノスタルジーの萌芽でもあった。
大映の映画はそのオープニングシーンから音響が割れ重低音だった。その中にあって更に凄みを増す、低音の持ち主こそ成田三樹夫なのである。初見が「兵隊やくざ」であったか「座頭市地獄旅」なのだったのかは遠い記憶の彼方にあり定かではない。もちろん映画館ではなく家のテレビ放送である。上記の2作品とも勝新太郎との共演であったが、丸顔の勝新に対して成田のその日本人離れした彫りの深くシャープなマスクは、圧倒的にニヒルで幼心を魅了した。私は当時より正義の味方とかヒーローより悪役が好きであった、仮面ライダーよりはゾル大佐に、変身忍者嵐より骸骨丸に、そして赤影より甲賀玄妖斎に憧れたものだ。
そして今だかつて成田三樹夫以上のクールな俳優を私は知らない。後年、彼がテレビドラマの「探偵物語」の服部刑事役や「柳生一族の陰謀」での烏丸少将役で見せたユーモアの中でさえその眼光は時折鋭さを放っていた。彼の突出した敵役の存在感において最高作ともいえるのはやはり、70年の日活「新宿アウトローぶっ飛ばせ」であろう。タイトな黒のスーツに身を包んだ凄腕の殺し屋サソリこそ劇画から抜け出たような、負のヒーローであり、主演の渡哲也の影さえ薄くなるほどであった。72年の「影狩り」での剣客ぶりも又、ぞっとするほど素晴らしい。水戸黄門第三部でのレギュラー柘植の九郎太役にしろ「座頭市地獄旅」での浪人にせよ現代劇も時代劇もその存在感は同一である。ちなみに成田のあの刈り込まれたトレードマークともいえる短髪がロン毛姿へと変貌を見せる、市川雷蔵との共演「「眠狂四郎無頼控・魔性の肌」黒指党教祖とテレビ「江戸を斬る3」での由比正雪役はより端正な表情を垣間見せた。非現実な妄想が許されるならば、先だって公開された映画「あずみ」の美女丸などオダギリジョーよりも若き頃の成田に扮してもらいたかった。
70年大映を退社後、フリーになってからは東映の「仁義なき戦い」を始めとする実録やくざ路線の常連になり数多くの作品に出演する。彼が将棋の有段者である事は周知であったし、中々の読書家である事もテレビ「徹子の部屋」で始めてその素顔に触れた時から知っていた。しかし90年、55歳の若さで亡くなって後、「成田三樹夫遺稿句集/鯨の目」と言う本が出版されており、入手にして読んで見たのだが、とんでもないインテリであり、青年期より筋金入りの文学青年であったのには正直意外であった。句集の中にこんな句がある。(友逝きて幽明界の境も消ゆ)成田三樹夫の死は時代の終焉でもあった。少年もやがて大人になり黒いスーツやサングラスで夜の街を彷徨い歩くようになっていた。ありったけのクールさを全身に漂わせてみたところで、けっして彼には成れない。憧れが又一つ無くなった。

没後十数年の歳月が流れて時代も大きく変転した。成田三樹夫氏に一献、捧げよう。単なる悪役にとどまらずに底知れぬ美学に貫かれた氏にはやはり辛口が似合う。フレッシュなライムをしぼりこみ、ジンはゴードン、そしてあくまでクールにシェイク。ギムレットです。合掌。

 

 参考文献
「日本映画俳優全集・男優編」キネマ旬報社
「日本映画俳優全史 男優編」教養文庫
「ぴあCINEMA CLUB '91 邦画篇」ぴあ株式会社
「成田三樹夫遺稿句集/鯨の目」無明舎出版


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