今は幻
中学生の頃、津市の繁華街大門を通り抜け英語の塾に通っていた。
今は見る影もないが6時半頃にそこを通ると、繁華街特有の酒と生ゴミの混じったにおいが漂い猥褻な雰囲気が醸し出されていた。
今では飲み屋にもカラオケが普及してスナックなどからやたらエコーの聞いた音がこぼれてきているが、当時はまだカラオケそのものが珍しく、「ながし」と呼ばれる人々が酒宴に艶を添えていた。ちなみに渥美二郎なんかはながしの歌手である。
ある時いつものように大門にさしかかったとき、向こうからミニサイクル(今でいうママチャリ)にまたがりかごにギターを入れたながしのおじさんが5人ほど並列でやってきた。
観音さんの門の横に自転車をならべみんなが一斉にチューニングと指ならしを始めた。それが何ともすごいテクニックなのである。
厳密にいうと○○奏法といった類のものではないのだが、当時ギターを始めたばかりの私に与えた衝撃はその場に立ちすくんで動けなくするには十分だった。
フォークやロックがお茶の間に登場するようになり始めた頃でバンドの中でのギターばかりに気がいっていて、その他はせいぜいギター・マンドリンなどのアンサンブルかクロードチアリなんかのクラッシックギター系、またはフラメンコくらいで、初めてみた大人の夜のギタースタイルはかなりのショックだった。
自転車のかごに入る小さめのボディー、やたらきれいに響くスチール弦。フォークギターでもクラッシックギターでもないぎたー。
あのおぢさんたち、いやあのテクニシャン集団はどこに行ったのだろう?