リアルヒデヨシとの遭遇

   2006年9月9日午前9時9分、大阪心斎橋を目指して自宅を出発。
   R25から阪神高速を通り大阪湊町で降りて長堀通り地下駐車場に車を停めて
   いそいそと心斎橋ロフトに向かう。午前11時過ぎの開店直後に到着。
   1Fの入り口を入るとすぐにB0判のアタゴオルは猫の森・映画ポスターに目が留まる。
   そのそばの液晶ディスプレイでは映画の予告編をエンドレスで流している。

   ロフトのイメージカラーは黄色なのでヒデヨシにぴったりだなーと思いながら店内を眺めると、
   レジの脇にも映画のチラシが山積みされている。
   しかし1Fから5Fまで上りながら店内をくまなく見渡しても、
   今日リアルヒデヨシがここに登場するということが書いてない。
   店員に聞いてみてもそんなイベントがあることを知らない様子。
   こりゃいったいどーしたことだ、責任者出てこ〜い!!
   と言いたいところをぐっとがまんして、しつこく聞くと、
   まじめそうな店員さんが電話で誰かに確認してくれて、
   ようやくリアルヒデヨシ情報が判明した。
   ヒデヨシは、午後0時、2時、4時、6時に店内を練り歩くらしい。
   まーなんとリアルヒデヨシって働き者だこと。
   まだヒデヨシ登場までは間があるのでロフトの周りをぐるぐる回るが、
   登場の瞬間を見逃すと癪なので11時50分からは店内に待機し、
   エスカレーターで昇降を繰り返しつつその時を待つ。
   すると我がアタゴオル中年探偵団の団員であるパウパウさんから電話が入る。
   「今から、そっちに行きますよー。」
   パウパウさんは大阪在住で天王寺にある会社で土曜日も仕事をしていたのだが
   リアルヒデヨシが来るという私の情報に従って仕事を中断してやって来るのだ。

   パウパウさんの到着を待たず、館内放送でのお知らせなどもなく、12時5分を過ぎた頃、
   いきなり3Fの文具売り場あたりにヒデヨシとお付きの方々が登場した。
   おぉぉぉ、ヒデヨシだヒデヨシだヒデヨシだ。わははははは。
   うぅぅぅ、動いてる動いてる動いてるぞぉぉ。にゃははははは。
   でぶだでぶだふとっちょだ3Dだ。わははははははは。
   と、見ているだけで思わず笑ってしまう。
   さっそく背後から近づき、撮影開始。



   うーむ、尻尾がちゃんと上を向いているぞ。体のバランスもいいな。
   タコ模様のパンツだ。唐草模様のマントはちょっと小さめ、風呂敷サイズ。
   44年ほど前、私も風呂敷をヒデヨシのようにまとって外を走り回っていたのを久しぶりに思い出した。
   当時の漫画雑誌に出てくる少年ヒーローはみんなマントをしていたが、
   ヒデヨシはマントをしているのではなく、昔の子供達のように風呂敷を巻いていたんだった。
   この場面ではヒデヨシの向こうには子どもがいてヒデヨシが相手をしているのだが、
   ヒデヨシが大きすぎて子どもは全く隠れてしまっている。
   ワイヤレスマイクで説明をする人と、スピーカを持った人と、
   アタゴオルは猫の森の入門ガイドを配る人と、太刀持ちならぬ尻尾持ちの人がヒデヨシを取り巻いている。
   今度は前面に回り込んでみた。やー、本当にヒデヨシだ。



   ふてぶてしい細目は見紛うことないヒデヨシだ。
   ヒゲは曲がったり巻いたりしてないけどね。
   お子ちゃまの頭をナデナデしてやさしさをアピールしてるけど、やっぱフテブテしい。
   お子ちゃまはヒデヨシを見上げてなんと思っているんだろうか?
   こんな巨大なのに見下ろされているんだから「カワイイ」などとは思いにくいだろうが
   怖がっているふうでもない。「なんだー?こいつ」って思ってるのかも。
   あ、ヒデヨシの後ろに立っている尻尾持ちさんの顔はプライバシー保護のためぼかしてある。
   ので、けっしてストッキングをかぶっているのではない。
   あ、右後ろにいる坊やも、顔をぼかしたので座敷童になってしまった。
   黄色い服を着てヒデヨシとおそろでニクイね、この座敷童。
   と、次の瞬間、座敷童がヒデヨシの尻尾に抱きついた。



   尻尾を押さえられたヒデヨシは戸惑うふうでもなく、泰然自若。
   写真には撮らなかったが、抱きつかれて引っ張られて尻尾はまっすぐ水平になってしまったので、
   尻尾持ちさんが曲がりを直していた。
   このヒデヨシの立ちポーズ、決まってるなぁ。おなかの出具合も完璧だ。かっこいい!
   足の指は3本、手の指は4本で手のひらには肉球もついている。
   お付きの一人がマイク片手にヒデヨシや映画の紹介をし、ヒデヨシは軽快に踊ったり回ったりする。
   籠に「アタゴオルは猫の森・入門ガイド」という小さなパンフレットを入れて腕にかけ、
   あたりの人に配っている係りの女性に「この着ぐるみは何着作ったんですか?やっぱり1着だけですか?」
   と聞いてみた。すると、その籠係りさんは真顔で「いえ、ヒデヨシは一人だけです」ときっばり。
   そうか、映画スタッフのスタンスとしてはこのヒデヨシはけっして作り物なんかではなく、
   銀幕から飛び出てきた生身のヒデヨシなんだなぁ。
   って、ちびっ子たちにはそれでいいけど49歳のおじさんにまで同じ答えをする必要はないと思うぞ。



   さて文具売り場をあとにして、次は1Fに向かうため、ヒデヨシはエスカレーターに乗る。
   下を向くとかわいらしく見えるねー、ヒデヨシって。
   ヒデヨシのすぐあとから尻尾持ちさんがついていく。
   ヒデヨシは胴回りが大きく、しかも太い尻尾があるので、店内で踊ったり回ったりすると
   周りに陳列されている商品をナギ倒してブチ壊してしまうのだ。
   だから尻尾持ちさんはなくてはならない役なのだ。
   それにしてもこのヒデヨシ(の中に入っている角川の社員さん?)、ちゃんと足元は見えているんだろうか?
   顔全体は黄色いふさふさの毛ダラケなので、窓は目か鼻か口しかない。
   この三つはひょっとしたら全部スモークレンズになっていて、そこから外を見ているのかもしれない。



   1Fに降りてきたヒデヨシはそのまま店先に出ていく。そこは大阪の繁華街、御堂筋。
   土曜日の正午過ぎで人通りも多い。
   ヒデヨシに気付いた中年男性や大学生の一団やオバサマたちが近づいて携帯電話のカメラで撮影を始める。
   隣に並んで撮ってもらう人も何人もいた。
   人が離れていって暇になるとヒデヨシはいろんなポーズをしてみたり、なんと連続ジャンプまでする。
   3Fに出現してからもうかれこれ15分は経っているというのにヒデヨシ(の中の人)はタフだね。
   疲れも暑さも見せず「どーだい、うぇっへっへっへっ」って感じでエラそうにするヒデヨシ。
   背後には2種類の映画のポスターのパネルが並べてある。



   真正面から顔を撮影。ちょっとブレてしまったがしかたない。
   この顔、実にヒデヨシらしいねぇ。にこやかなんだけどなんか悪だくみしてる顔だよ。
   ところでこの着ぐるみの製作費は30万円ぐらいなんだそうだ。量産して売ってくれないかなぁ。
   家に飾ったり中に入ったりしてみたいもんだなぁ。



   おぉそうだ、正面だけじゃなくて横顔も撮っとかなきゃ、ってことで近づいて撮影。
   毛並みがふさふさして触り心地がよさそうだね。
   意外におでこが出っ張っているんだなぁ。
   これで口が動いて開いたり閉じたりしたら最高だね。
   やーそれにしても何度も言うけどこの着ぐるみはよくできてるよねぇ。

   こんな感じで20分以上ヒデヨシのあとを追いかけて写真を撮ったり眺めたり。
   では最後に私とヒデヨシのツーショット。
   尻尾持ちさんにカメラを渡して撮っていただいた。
   これ撮る前にヒデヨシが近づいて来て、デップリとしたおなかとはぐはぐしたのだった。



   ほんとはもっと大きな写真なのだが、うれしそうな中年男のアップを載せてみても見栄えしないので小さくした。
   あっ、そうそう、中年探偵団のパウパウさんは結局間に合わず、この日はヒデヨシと遭遇することはできなかった。
   パウパウさんはこの翌日再度来て、アタ者4人でめでたくヒデヨシと遭遇したとのこと。

   私が着ているTシャツは2000年夏に米沢で行われた原画展で購入したもの。
   あれからもう6年が過ぎたんだなぁ。
   原画展ではヒデヨシが登場するテレビコマーシャルのビデオを見て、動くヒデヨシにうっとりしたのだったが、
   6年の歳月を経てヒデヨシが主役の映画ができるとは、あの時には想像もしなかった。
   1976年の夏にマンガ少年の中でヒデヨシと出会ってからは、ちょうど30年。
   こんな立体のヒデヨシと出会って肩を組んだりはぐはぐしたりすることになろうとは空想もできなかった。
   リアルヒデヨシとの遭遇は本当に白昼夢を見ているようなひとときだった。

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