
2007年7月20日から9月17日に東京八王子で開催されるますむらひろし氏の原画展を記念して、
何かを製作しようと思い立ったのは新緑眩しい5月でした。
本題に入る前に話は遡りますが、2000年夏に米沢で開催された原画展の時、
私はアタマニヤキャップというシロモノを作ったのです。
「アタマニヤ」というのはアタゴオルマニヤのこと。それが転じて「頭に矢」になって、
じゃぁ帽子に矢を突き立てようということになり、下のようなデザインとなったのでした。
■序章・アタマニヤキャップ (2000年8月製作)■

黄色いフェルトで作ったヒデヨシは「タヌキが空から落ちて来た」の熱風ジャック投げ。
この写真ではわかりませんが、ヒゲも細いテグスで作ってあります。
帽子には銀色のサインペンで米沢で出会った人たちにサインをしていただき、
8月の猛暑の米沢市街をアタマニヤキャップをかぶったまま歩き回ったのでした。
この帽子は今も宝物として私の家に飾ってあります。
今回の「ますむらひろしの世界展」は米沢以来の大規模な原画展です。
この節目にまた帽子を作ってみようと考えたのです。
そこで帽子製作計画を「アタマニヤキャップ2号プロジェクト」と名付け、
構想を練りはじめました。コードネームはAC2P。時に5月20日。
■アイデアスケッチ■

一番最初に描いたのは左上。これだと口が不自然になるなぁ。
そこでもう少し顔を上にしたのが上の真ん中。唐草模様の風呂敷も必要だ。
そのあとふっと思い付いたのが真ん中の右。あごまで、顔の全体があるといい。
そうなると帽子をかぶった時に正面からは顔が見えず、上からしか見えない。
んん、でもこれはこれまでにないユニークな帽子になる予感。
ついでに風呂敷を大きくしたら日除けにもってこいだな−。
ついでのついでに腕なんかもつけるともっとリアルでおもしろいっ。
・・・でもなぁ、真夏にこの帽子だと暑苦しいぃぃぃ。
というわけで大風呂敷と付け腕は即却下。
おおそうだ、アタマニヤキャップなんだから頭に矢、頭に矢。
矢を付けましょ。
・・・・うーム、ヒデヨシに矢を突き刺すのはどーなんだ?
やっぱ似合わないから、頭に矢はやめとこう。
今回はリアルヒデヨシで勝負だッ!
リアルにするためには鼻とか口とかほっぺたの膨らみがあるといいなぁ。
よしよしこれで基本はいいだろー。

毛並みというか、毛の流れはいろんな作品を参考にして、と。

というわけで、構想は固まりました。次はどうやって作るか、です。
呆れたことに、私は今だ手芸で立体モノなど作った経験はないのでした。
そんな手芸初心者にこんなリアルヒデヨシが作れるのだろうか?
型紙ってどーやって作るんだべ?
とりあえず六分割ぐらいにするのかな?
黄色いヒデヨシを作るための布が必要だな−。
何年か前に名古屋で真ッ黄色で毛足の長い布を売ってるのを見たことがあるぞ。
布を縫うんだったら針と糸も必要だ。あ、指ぬきとかいうものもいるぞ。
なんかワクワクしてきたなー。
そのあと忙しい日々が続いたので1ヶ月以上も具体的には何も進まず、
早くもアタマニヤキャップ2号プロジェクトは頓挫しかけたのでありました。
けれど宣言してしまった以上はなんとしてでも実現するのだ。
有言実行が私の信条なのだっっ。
6月27日、名古屋に行く用事があった折、
帰りに寄り道をして服地の大塚屋に行きました。
店内を2周ぐらいしてようやく黄色い毛ダラケ布を発見、長さ2mほどを購入。
次に唐草模様の布を探し出し、緑のと赤のと青のを1mずつ購入。
とりあえず主な材料を確保できて満足してしまってまた製作は中断。
■原型■
7月8日、近くのサティでたくさんの帽子をかぶって吟味して帽子本体を購入。
頭頂部から前の部分がなだらかな曲面になっているものを選びました。
ここからいよいよ本格的に製作開始です。
まずは原型作りから。
封筒のハトロン紙をタテ5cm、ヨコ10cmぐらいに適当に切って
いちばん下は帽子に両面テープで固定し、あとはPPテープでつなぎ合わせていきます。
3段に分けて貼付けていって最後に頭頂部をだ円形の紙でふさいでドームが完成。

次に耳を作ります。
ヒデヨシの耳は、初期アタゴオルの大きめでリアル猫っぽいものか、
玉手箱の時期の丸くてかわいらしいタイプか、最近のトンガリ三角形か、
いろいろな形があるので悩んだ末に初期型と最新型の折衷的な形にしてみました。

そして最も造形的に難しい口まわりに取り掛かります。
目を描き入れてみながら耳とのバランスを考えます。
口を大きくするべきか、小さめにするべきか、うーん、難しいなー。
ひさしの部分にも紙を貼って、風呂敷マントを描くと・・・
なんとなくヒデヨシっぽくなってきましたねー。ふっふっふっ。

前から見るとこんな感じ。耳がなんだかイメージと違うなぁ。むむむ。

横から見ると・・・
口はもっと大きいほうがいいのかなぁ。

口周りの拡大図です。

■展開図■
さあ、原型はできました。
せっかく作ったけど、これを分解します。もったいないねぇぇ。
耳を取り外したらドラえもん状態。

耳の接合部分はこんな形です。耳の内側は凹んでいます。

耳の展開図はこんな感じ。耳は3枚の三角でできてます。

口を外して展開したところ。

最後にドームの展開です。帽子本体は6枚の布を合わせて作られていますが、
ヒデヨシキャップは毛並みが命。
目と目の間ぐらいを中心として放射状に毛が流れるようにしたいので8分割するのだ。

これをさらにバラバラに分解したのが次です。
左右対称に作るので展開図は5種類あればいい。


そして耳と口周りの展開図。


ひさしの部分は帽子によって形や大きさが違うので現場合わせ。

■型紙■
展開図ができたので、それをもとにしてしっかりした厚紙で型紙を作ります。
まだまだ先は長いのだ。
型紙には「のりしろ」が付きます。
糸で縫い合わせるにしてもボンドで貼り合わせるにしてものりしろは必要です。
のりしろの幅は5mmから1cm程度でいいんじゃないかなぁ。




あ、そうだ、鼻の型紙も必要だね。鼻にはのりしろは必要ありません。

■裁断■
ようやく地道な準備作業を終えて、とうとう毛ダラケ布の裁断に取り掛かります。
それぞれの型紙より少し大きめに布を切って、その上に型紙を置き、
おむすび形の「チャコ」で裁断線をつけます。そしてハサミでじょきじょき。
ドームの部分は8枚です。毛の流れは中心から外向きね。
布には一定の方向に毛が植えてありますので、逆に使うと毛が逆立ってしまいます。
のりしろの部分は毛をなるべく短くカットします。
布の裁断や毛のカットをする時には
掃除機の柄の部分を膝に挟んで、吸引口のそばでハサミを使わないと
あたり一面に細かな毛が散乱してしまい大変なことになります。(経験談)
製作作業の中でいちばん大変なのがこの、吸引しながらのカットなんですよー。

こんな調子で口周りも型紙を使って布を裁断。
東急ハンズの手芸コーナーで見つけてきたぬいぐるみ用のプラスチックの鼻に
穴を開けてリアルにしてみましたが、ヒデヨシの鼻としては小さすぎたので
あとでこの上に合成皮革を鼻の型紙にそって切って貼り付けました。

■貼り合わせ■
さぁて、とうとう全てのパーツを貼り合わせていく作業です。
この時使うボンドはコニシの「GPクリヤー」という合成ゴム系・溶剤形接着剤。
一般の接着剤にはたいてい「ポリプロピレンは接着しません」という注意書きがあります。
しかし「GPクリヤー」は珍しくポリプロピレンが接着できるのです。
しかも使ってみて分かったのは30秒ぐらい押さえているとくっつくし、
しばらく経ってからでもやりなおしたければ剥がすことができるので使いやすい。
接着中の写真は残念ながら撮れませんでした。というのは、
ボンドをたっぷりのりしろに垂らして、貼り合わせて指で押さえていると
どうしても少しは指にボンドが付いてしまい、それを取るのに指を水で洗ったりこすったり。
長い毛の部分にはボンドを付けないようにしなければならず、かなり神経を使う作業です。
張り付け作業中には写真など撮っている余裕はなかったのでした。
■耳・口・目・ヒゲ・唐草マント■
8枚のパーツを貼り合わせてドームができたら、耳の取り付け。
貼り付ける場所の毛を短くカットしてからボンドで接着。
そして口周りも接着面の毛をカットしてボンドで取り付けます。
鼻筋がぺしゃんとつぶれてしまわないように鼻の裏には、
百均で買ったクリアーブックの表紙(ポリプロピレン製)をハサミで切って貼ってあります。
そしてこれも百均の山吹色のフェルトを現場合わせでカットして、口の中に貼り込みます。
オレンジ色のフェルトを二重にして、舌の形にカットして貼り合わせ、
その中にもう一枚フェルトを入れて舌は完成。これを口の中に貼り付けます。
次は鼻や口とのバランスを考えながら、目を入れます。
ヒデヨシの特徴的な細ーい目は、百均の店で買った黒いししゅう糸(25番)を針で縫い付けました。
目ができたらドームを帽子の本体に貼り付けます。
そのあとは毛のトリミング。
口の周りと目の周りは短かめに切りそろえます。耳の内側の部分も短かめに。
唐草模様の風呂敷は角と角を縛って形を整えたら、首に巻いて不要な部分をカット。
うらにまわりこんでボンドで貼り付け。
すぁて、作業の最後はヒゲだっ!
最初は黒い針金で試してみたんですが、ちょっとキツイ感じになるし、ピンと張らない。
ピアノ線ならピンとなるけど、何年かすると錆びてしまうし、先端が鋭くて危険だ。
やはりこれはテグス糸しかないなぁ、ということで釣り具屋さんに行きました。
ガラスの引き戸を開けて入っていくと、
奥から店番のおばあちゃんが出てきて「何がいりますか?」と聞かれたので、
(私)「えーと、なーるべく太いテグスが欲しいんですけどォ」
(お)「何を釣りなさるの?」
(私)「え、えと、こ、こどもの工作で必要なんですよ」
(お)「あー、釣りやないの。ほーかね。夏休みの宿題?おとーさんは大変だねぇ」
(私)「えぇ、毎年毎年大変でねぇェ。」
とかなんとかごまかしながら品定めし、「銀鱗26号」を購入。
銀鱗ってネーミングがかっこいい。26号というのは店では2番目に太いサイズです。
さて、家に帰ってこのテグスを切って6本のヒゲを作り、
ほっぺたに突き立ててボンドで接着して、できたっ!
ぱちぱちぱちぱちぱち、ヒュゥヒュゥ、素晴らしィィ。自画自賛自画自賛。
完成は7月27日。作ろうと思い立ってから2ヶ月もかかりましたねー。
■ヒデヨシキャップ完成■
というわけで完成したのがコレだぁぁぁっっ!!↓
どーです、なかなかのもんでしょ?ね?ね?ね?




ちょっと上から見ると・・・

横から見ると帽子であることがわかります。

頭の上から見るとこんな感じ。毛がふさふさでナデナデすると気持ちいいよ−。

口の中はこんなふうになってます。歯は生えてません。

自宅の「緑のカーテン」の前でかぶってみました。緑の植物はゴーヤです。
蔓植物はなんとなくアタゴオルっぽいねぇ。
前を向いてお面のようにかぶるとヒデヨシ人間ができますが、前が見えません。
前が見えるように穴を開けようにも、ヒデヨシのこの細い目では加工のしようもありませんね。


ヒデヨシキャップをうしろ向きにかぶると首の長いヒデヨシになります。
うしろにいる人を威嚇するのに効果的です。
(子)「あそこにきいろいねこがいるよー」
(母)「あんな帽子をかぶっているおとなは普通じゃないから近寄るんじゃありませんっ!」

ヒデヨシキャップ、作りはじめる前には完成までいけるのかどうか全然自信がありませんでした。
けど根気さえあればなんとかなるもんですね。
「私も作ってみよう」と思った人、いませんかー?
手芸好きならチャレンジしてみてねー。おもしろいよー。
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