八王子・野田楽園記  by Taake


  2007年8月4日午前4時20分起床。寝ぼけながら準備してまだ暗い午前4時52分、
  三重県津市から八王子を目指して自宅を出発。
  たった一人で2400ccのワゴン車を走らせるなんてガソリンの無駄遣いでエコロジカルではないが
  荷物が多いので仕方がない。
  国道23号を北上し、四日市の川越インターチェンジ(5時32分)から伊勢湾岸道に入る。
  豊田インターから東名高速に入って一気に富士川サービスエリア(7時56分)までノンストップ。
  富士川ではおにぎりとパンを買って10分休憩してまた走り出す。
  厚木インター(9時00分)で高速を下りて国道129号を北上。橋本五差路から国道16号に。
  入っちゃいけないとわかっていた八王子バイパスに入ってしまい打越インターで下りて
  野猿街道を西進。国道16号に戻らねばと早くに左折してしまい道に迷う。
  しかし5分ほどのロスで甲州街道の八幡町に出て、めでたく八王子市夢美術館に到着。
  地下駐車場に止めていそいそと2階へ行く。10時ジャストに開館と同時に入館する予定だったが
  10時15分に「ますむらひろしの世界展」の会場に足を踏み入れた。
  400km近く走ってわずか15分の遅刻だからよしとしよう。

  あぁ、原画展だ。7年ぶりの原画展だ。うれしいなうれしいな。また本物に会えるのだ。
  チケットを買ってもすぐにツキミ姫の部分をちぎられてしまうというのはいかがなものか、
  などと思うがそんなことを言ってもしかたがないから、
  保存用の招待券はオークションで入手済み。
  私が着ていたTシャツは、2000年8月に山形県米沢市で開催された原画展の折に買った
  「酔いどれ鉄の肖像」柄のものだったので、会場に一歩足を踏み入れたとたん、
  話好きな警備員のおじさんが「おすきなんですね。今日初めてのお客さんですよ。」
  と声をかけてきた。「えぇ、まぁ」とかお茶を濁して深呼吸。
  気合いを入れて貸し切り状態の中、一枚一枚、ゆっくりと見ていく。

  初期の作品はなんて描線が細いんだっ。
  青猫島コスモス紀はいつ見てもいいなぁ。
  あ、「フランドウル嵐牙党」がまだ嵐牙堂と誤植のままだ。
  「再び大桑酒屋」いいねぇ。雪が暖かいよ。
  うぉぉぉ!「嗚呼鼠小僧次郎吉」のポスターは大きい!きれい!すごいっ。はじめて見た。
    74 5.11の消印(?)には「ATAGOAL」とあるぞ。
    既にその頃にATAGOALの表記もあったんだ。これは新発見。
    それから「YONEZAD」という文字もある。YONEZARDじゃないんだね。
  「影切り森の銀ハープ」の原稿は格別。素敵だ。最後のコマ、いいなぁ。
  うぁ、カラーがいっぱいあるっ。
    カラー原画の彩色は全て奥様が担当されているということは、
    私は7年前の原画展の折にお伺いして知っていたが、一般にはあまり知られていない。
    しかし今回図録の最後のページの「作家メッセージ」で初めて公にされたので、
    これからは憚ることなく彩色についても語ることができる。
    7年前の「ヨネザアド漫遊記」にも書いたことだが、
    ますむらさんのカラー原画はマンガとかイラストというカテゴリーに分類してはいけない。
    一枚一枚がそれこそ煌めく宝石のような芸術作品なのだ。
    全部額装して美術館に常設展示すべきものなのだ。
    もしも私がアラブの大富豪だったら、ポンと数百億円を寄付して
    タコ型の巨大な美術館を建造して完璧に温度や湿度をコントロールして全ての作品を
    未来永劫保存できるようにするだろう。
    それぐらいの価値があるのだ。
    奥様の彩色は、もう、文字どおり息を呑むほどに美しい。
    魔法のような色使いでアタゴオルをはじめとする空想の世界が実体化する。
    深みが、厚みが、熱が、うまれている。
  「物質早見店の午後」物質が分解していくイメージに改めて見入る。
  「かな氷滑り」バックのブルーグレーがとても美しい。
  「冬の旋律」氷のつるの色合いが、えも言われぬ素晴らしさだ。
  「神毛ケ原」火山の噴火が雲に赤々と反映している。熱を感じさせる色合いがすごい。
  「祈り」チケットにもなっているけど、この作品は悲しみの中で描かれたというのに
    それを感じさせない明るさがある。祈りの強さを感じる。
  「超印象派」立体感が素晴らしい。
  「呑み逃げ登山」すんごく高いところだ、という高所感がいい。
    奥行きのある雲の表現は見事としか言い様がない。
  「誕生日」原稿は大きくていいなぁ、臨場感がある。みんなの視線がいい。
  「月写の宴」雲の描写がすごい!うぁぁぁ。
  「ゴキゲン気流」浮遊感がたまらない。
  「夏のお出かけ」ヒデヨシガリバーのコマはいいなぁ。豆猫たちが楽しそう。
    ヒデヨシがペジナ様の催眠術にかかって「酢だこちゃん」とつぶやくシーンにも
    また出会えた。うれしい。
  「水いろの切符」テンプラに至る時間の創造力にうっとり。
  「貝殻風呂を乗り逃げする」なんて緑が鮮やかなんだ!そして深い。うぅぅ・・・欲しい・・・・
    でも作品を持ち逃げする男になるつもりはないので、その色彩を目に焼きつける。
  「丘で食い逃げ 水では呑み逃げ」いいねぇ、うん。
  「降る降る降る」ヒデヨシや唐あげ丸のなんて繊細な色使い!夜を感じさせる。
  「雪渡り」青い林の色が美しい。林の影を見下ろしているコマの透明感。
  「風の又三郎」の雨の線の細さと勢い。奥に行くほど霞んでいく。こどもの頃を思い出す。
    暑い夏の夕立ちの時に立ち上る土や草のにおい。雨音。雨つぶが腕に残す感触。
    それらがありありと浮かんでくるような素晴らしい絵だ。

  一時間以上かけて一通り見終えて振り出しに戻り、今度は心に余裕を持ってもう一度見始める。
  んんー、何度見ても凄い。素晴らしい。
  「ゴッホ型猫の目時計」にはもちろんはじめて対面。はね橋がやっぱり好き。

  私は近眼なのでメガネをはずすと15cmぐらいに近づいた時にジャストピントになる。
  それでメガネははずして手に持ったまま少し前屈みに原画にぐっと近づいて見つめていたら、
  背後から肩をトントン、とたたく人あり。
  ん?ん?と振り返るとそこには「ドコデモ」ポコさんが。
  やぁ、お久しぶりですー。
  野田の七夕の日にまで八王子に来るアタゴオリアンはいまいて、と高をくくっていた私は
  まだ不精ヒゲのままで、短パンで裸足にサンダル。
  いやー、ここで誰かに出会うと知っていたらヒゲぐらい剃っておいたのに。
  それはともかくさすがに「イツデモ」ポコさん。またお会いしましたねぇ。
  ポコさんは八王子は2度目とのことで余裕の観覧です。

  バルセロナでのスケッチに「昨日貝を食い過ぎて気持ちが悪い」というようなメモを
  見つけて、はははは。
  旅行用のトランクケースに「ATAGOWL」という綴りでシールが貼ってあるのを
  発見して、ふっふっふ。

  二度三度と原画を見て回って時計を見ると既に3時間が経過していた。
  いつの間にかお客さんも増えてきて、特に若い人が多い。
  夏休みの宿題の美術館鑑賞なのか、メモを取ったりヒデヨシの模写をしたりしている。
  もう充分に原画を目に焼きつけたので満足して会場を出て、
  図録と5枚セットの絵葉書を買う。
  ついでにふく福てぬぐいのまだ持っていなかったAタイプも購入。
  これははじめて公式にアタゴオルの表記が「ATAGOAL」に変わった記念すべき品。
  原画展とは関係ないが、ガウディのサグラダ・ファミリア聖堂のペーパークラフトも売っていたが、
  買うのは思いとどまった。

  ポコさんは二人のフットボール友だちと一緒に来られたのだが、ポコさんはこのあと一人で
  電車で野田に向かう予定だったというので、だったら私の車で一緒にということになり
  友だち二人を残してポコさんだけを車に案内して美術館をあとにする。

  外はものすごく暑い。八王子でも夏祭りをやっているようで道を山車がふさぐ。
  ファミレスに入って遅い昼食をとりながら、
    「図録は絵が小さくなってもいいから出品作品全部を掲載してほしかったですねぇ」
    「グッズがもっとほしいぃぃ」
    「鼠小僧のポスターを作ってほしい」
    「原寸大の原画複製がほしいっっ」
  などとほしいほしいトーク。

  ファミレスを出て中央高速道に入り、首都高速4号へ。そして渋滞にはまる。
  野田に向かう時はいつも首都高速で渋滞に出会うのだが、この日の渋滞は長かった。
  歩いたほうが速いぐらいのノロノロが延々続く。
  ポコさんのケイタイには野田のアタゴオリアンたちの動向の情報が届く。
  みんなは早くに集まってゴロスタ見学に行ったらしい。
  いくら渋滞していても、じゃぁ下におりて地道を行ったほうが速いかというとそうでもない。
  環8なども走ったことがあるけど、やたら信号が多くて止まってばかりだった。
  ここは慌てず騒がず、カーオーディオでますむらさんの「風の気分」などを聴きながら進む。
  そうこうするうち、ようやく箱崎を過ぎてスピードが上がりそこから流山インターまではすぐ。
  野田市に入ってまず私の宿である東武野田ホテルに向かい、午後5時過ぎに到着。
  荷物を整理してホワイト餃子に持っていくものをカートに載せてみた。
  古い本が20冊近く、重くて大きいカメラ、大きいストロボ、そしてヒデヨシキャップ。
  かなりの大荷物になった。
  ポコさんにここでヒデヨシキャップを初お披露目。

  ホテルのバスで野田市駅に行き、そこからタクシーでホワイト餃子に。
  いそいそと「紫の間」に上がっていくとすでに餃子の宴もたけなわ。
  ますむらさん、プフさん、蜘蛛爺さん、空猫さん、ゆっきんさん、サンチョウさん、
  Nowheremanさん、タチバナくん、ゆかりさん、サムディさん、ポコさん、と私た〜け。
  あいさつもそこそこにしてまずはヒデヨシキャップを取り出すと・・・
  これはかなり好評でした。ひとしきり撮影会。
  私がかぶって前向き後ろ向き。次はますむらさん本人にかぶってもらってパチリパチリ。
  あとはみんなの手もとへ。それぞれがかぶったりして遊んでもらう。
  それから古い本も広げてみんなに見てもらう。
  が、最近1年間はあまり収集に力を入れていなかったのでこれぞレアものという本が少ない。
  古い本たちが物置きのコヤシになっているだけでは意味がないので、
  来年までにはレアな物件のディジタルアーカイブを作ろうかと計画中。

  ビールを飲みながら1年ぶりのホワイト餃子を堪能する。去年より美味しいような気がした。
  サムディさんが紙粘土で作った手のひらサイズのヒデヨシ人形やカムパネルラ人形や
  ジョバンニ人形も披露される。細部まで丁寧に作られていてリアルで、色もきれいだ。
  ますむらさんがビールのグラスの縁にジョバンニとカムパネルラを乗せて遊ぶ。
  ジョバンニ、それ、絶対言わないよー、という台詞に一同爆笑。

  ライブの時間が近づいてきたので餃子の宴は終了して外に出た。
  私は遅れてきて一気にビールを飲んだので若干方向感覚が鈍っている。
  みんな、どーしてライブ会場とは逆の方向に行くんだ−?と思いながらも付いていくと、
  あらら、ちゃんと興風会館前に出た。

  けやきホール向かいのヒデヨシ壁画の前の広場には丸テーブルが並び、
  ぎっしりとお客さんが入っている。
  真ん中あたりのテーブルにゆかりさんの妹さんとチャオさんが陣取っていた。
  カメラとストロボを出して撮影の準備。
  あ、その前にビール。てっとりばやくテントで売っている生ビールを買って飲む。
  ヒデヨシキャップはいろんな人のところを回っているようだ。
  ハーツクラブバンドの演奏が始まった。
  いつもの会場より高い位置のステージでますむらさんが唄う。
  「返し」がないようで少しやりにくそう。
  ずかずかと前のほうに出ていって右や左や正面からゴツイカメラでばしばし撮る。
  最初入れていたフィルムは白黒フィルムだったので、はじめの5枚は白黒です。
  そのあとはカラーリバーサルフィルム。

 

 

 

 

 

 

 

  あ、また弦が切れてる。
  熱気のこもった演奏を聴いていると、「あぁ、今年も野田に来たのだ」としみじみ思う。
  夏はやっぱり野田なのだ。
  ビール2杯目を飲み終えたところで第1部も終了。
  さぁ次はいつもの場所へ移動だ。
  通りは人であふれている。

  いつもの会場は椅子がわりにビールケースがひっくり返して置いてあるだけ。
  でもそんなことは気にも留めずにまた撮影準備。
  ここでの演奏予定は30分間。演奏が始まると、なんだかさっきよりもノッている。
  パワフルで楽しげだ。
  「月を抱きしめたい」「夢のバルセロナ」、いい歌だなぁ。
  もっともっと歌ってほしかったけれど、でも充分楽しんだ。

 

 

  演奏が終わって出演者や裏方さんたちのミーティング。
  このあといつものようにアタゴオリアンたちの二次会があるのだろうと思っていたら、
  今年はみなさんお帰りになられるようで、あれ?あれ?という間にあたりは
  野田の人たちだけになってしまった。
  毎年飲みに行っていた場所が店を閉めてしまったようで、NMFの人たちは某駅の
  近くに行くらしい。ますむらさんは一旦自宅に戻ってからその打ち上げに
  向かわれるつもりで、野田に宿を取ってあって帰らなくてもいい私にも声をかけてくださった。
  後で考えるとすんなり宿に帰ればよかったと思うのだが、
  酔っていて神経も鈍麻しているので二つ返事で付いていくことに。

  とまぁそんなわけで、気が付けばますむらさんの御自宅にいる私であった。
  玄関に入ると「ATAGOWL」という金属プレートが飾られているのを見てふっふっふっ。
  これは以前の御自宅のドアに取り付けられていたアクリルプレートとは違う物。
  そして半地下のゴロスタに入れていただいた。
  おぉぉ、これが噂のゴロスタだぁ。なんと、ぶ厚い二重ドアだ。金庫室みたい。
  真夏というのに、エアコンも切ってあるというのに、中はひんやりしている。
  ますむらさんがウーロン茶を取りにいかれる間、一人でソファに座って待っていると
  防音壁はすべての音を遮断して、いくら耳を澄ましても全く音がしない!
  50年の人生の中で最も静かなひととき。こんな経験は今までしたことがない。
  すごいです。音のない空間を体験させていただいた貴重なひとときだった。
  ますむらさんが戻ってこられて、ケイタイでNMFの誰かに電話され、
  打ち上げの場所について連絡を待つ間、二人だけで完全無音空間で話をする。
  話す声だけしか聞こえないというのは非常に奇妙な感覚だった。
  私が作ってきたヒデヨシキャップのことや、原画展の話や、
  アタゴオルのアルファベット表記についてとか、
  映画化されたアタゴオルの話をしているうちに、ケイタイに連絡が入ってきたものの、
  ますむらさんは相当お疲れのようで打ち上げには行かれないことになった。
  それでは私もいつまでも居座っていてはいけないと、宿に帰ることにした。

  既に午後11時を過ぎており、野田市方面への電車がまだあるかどうかを調べていただき、
  途中の公園までますむらさんに夜道を一緒に歩いていただいた。
  何度も来た場所なので駅までの地理はわかっていたけれど、公園をつっきっていくと
  近道だというのを教えてもらった。
  ほんとうにますむらさん、何から何までどうもありがとうございました。
  楽しく、印象深い1日でした。

  紙袋に入れて持って歩くのも面倒になってきたのでヒデヨシキャップをかぶって駅まで歩いた。
  しかし暑苦しいのと変人に見られるとまずいのでやっぱり袋に戻してから改札口に近づく。
  ちょうど野田市方面へ行く電車がホームに滑り込んできた。
  駅員さんから後払い切符を手渡され、急いで電車に乗り込む。
  明るい列車内。外は闇。
  揺られながら今日の出来事を反芻する。
  野田市駅で降りてホテルまで歩く。
  部屋に入ってシャワーも使わずすぐに就寝。

  夜が明け、ゆっくりと朝食をとったりシャワーを浴びたりしてから帰る準備。
  午前9時50分、ホテルを出発。流山に向かう途中で給油。
  流山インターから常磐道に入り、東京を目指して車を走らせる。
  昨日に引き続きカーオーディオで「風の気分」を聴く。
  首都高速は一部渋滞していたので空いている南側のルートを行く。
  レインボーブリッジを渡り東京タワーをやり過ごす間ずうっと、
  私の車からアタゴオルの風が東京の街に降り注いでいるさまを幻想した。
  世の中の人が全部アタゴオルに親しめば、この世界はずっと住み良くなるだろう。
  アタゴオルはまさに楽園なのだ。

  首都高から東名へ。帰路は渋滞もなく、途中富士川と刈谷で休憩して走り続け、
  午後4時40分、津に到着。


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