恋愛問題
「ずっと好きだったよ。ほかの誰よりも。」
…聞いてしまった。聞くつもりなんか無かったのに。聞きたくなんか無かった。
「それだけは覚えておいてよ。俺、ずっと…」
控え室の中にいるのはジロとヒサシ。
俺は、ただ忘れ物を取りに来ただけ。なのに・…
「ジロ、俺は…」
ヒサシの答えを聞きたくなくて、その場から逃げ出した。
「ズット好キダッタヨ。他ノ誰ヨリモ・…。」
それは自分の思っていたこと。先にジロに言われてしまった。
きっとヒサシもジロが好きだから。きっと二人は幸せで、俺の好きな人も幸せで。
なのにどうしてこんなに苦しいんだろう。胸が、痛いよ…。
「テル」
「…タクロ」
「携帯、あった?」
「ううん、家に忘れてきたみたい。」
「そっか。じゃ、レコーディング始めようか。」
俺、嘘がうまくなった。いつも優しいタクローに嘘をつく。
タクローに泣き付いたらどんなに楽だろう。でも、それはしてはいけないこと。
俺は、タクローを拒んだんだから。
甘い、タクローお得意のラブソング。歌わなきゃいけない。
大丈夫、歌える。大丈夫…
「・…テル、調子悪い?」
「そ、んなことない」
声が少し裏返ってしまう。気がついたの?
「なんか、心がこもってないかんじ。なんかあった?」
言えない。言えるわけ無い。唇をかんで下を向く俺に、
タクローは優しい言葉をかけてくれる。
「少しやすもうか。気分変えておいで。」
「ごめんね、タクロ…」
少しだけ笑った。それが今の俺にできる精一杯の笑顔だから。
ごめんね、ごめん…。俺の我侭でみんなに迷惑かけて。でも俺は…
もう誰に向けて歌えば良いのか・…わからないよ……
何かあったらいつも行く屋上。俺の好きな場所。今日は雨が降っていた。
灰色のこの街を洗い流していくように。
「この気持ちも洗い流してくれれば良いのに、ね」
そんなことできるわけないけど。体が冷えていく。
ただ汚い俺を洗い流せるように、ずっとずっと雨をうけていた。
どれくらいそうしていただろう。遠慮がちにきしむドアの音が聞こえて、
閉じていた瞳をゆっくり開けた。目に映る、今一番会いたくない人。
「てっこ!!」
「ヒサ…」
たまったいた涙が溢れ出す。雨が涙を流してく。
「何してんだお前っ!」
「やっ…!!」
濡れるのもかまわずヒサシが俺の腕をつかむ。反射的にそれを払いのけてしまう。
気持ちのコントロールができなくなってきている。
「てっこ、このままじゃ風邪引くだろ?スタジオ戻ろう?」
「や…しく…なっ…」
声が震えてうまく出ない。
「優しくしないで よっ…」
「てっこ?」
「ヒサは…ジロが好きなんだろっ!!ジロにだけ優しくしてればいいじゃんか!!
俺のことなんか、ほっといてよぉ・…」
本当は優しくされて嬉しいけど…今はその優しさが痛い。
「何、で…」
「今日、控え室でっ…」
声が引きつる。頭のなかがぐちゃぐちゃで苦しいよぉ。
「違うよ、俺は・…」
「ヒサシは好きな人いるよねえ…」
二人きりの控え室でポツリと吐かれた言葉。
「あ…うん…」
「あーあ・…俺さ、ヒサシのことずっと好きだった。ほかの誰よりも。」
「ジロ…」
いきなりの告白に戸惑っているとジロウが軽く笑った。
「ごめんね、いきなり。どーせ叶わないんだからさっさと失恋しちゃおうと思って。
こっぴどく振っちゃってよ。未練もなにものこんないように。」
「ゴメン…」
謝ることしかできない。ジロの笑顔がいつもより傷ついてるのがわかるから。
「謝らないでよ。…その代わり幸せになってよね。」
「うん、ありがと…」
「テル君は鈍感だから大変だろうけど…」
「なっ!!なんで知ってんだよ!!」
またジロウが笑った。今度は声をあげて、楽しそうに。
「見てたらわかるよ。ヒサシ、テル君と一緒にいる時すごい優しい顔してるんだもん。
自覚はあった。でも、ばれてるとは思わなかった…。
「幸せになってよ…。」
「うん。」
二人で顔を見合わせ、笑った。
「俺が…俺の好きなのはジロじゃないよ…」
「え?」
冷え切ってるテルの体を抱きしめる。
「てっこが、好きなんだよ…」
「嘘、だぁ…っ」
涙声で、首を振る。同情で『好き』だなんて言われたくない。
「嘘じゃない。てっこだけ、愛してる…」
「ヒサぁ…」
きつく抱き返したら、口付けられた。冷えていたからだと心が暖かくなる。
「…っふ…ヒサ、やだぁ…」
綺麗な指がテルのシャツの中にもぐりこんできている。
「イヤ?」
「ここじゃ、やだ…」
ここは雨の振る屋上。このままじゃ二人確実に風邪を引くだろう。それに
「他の人に、見えるっ…」
ヒサシはテルを抱きかかえ濡れないようなかに入った。
「ここなら、いい?」
ここ、とは階段の踊り場。冷たいコンクリートの上にテルを降ろす。
小さく頷くテルが愛しくてヒサシは軽く口付けた。
「てっこ…愛してる…」
「俺も、ヒサシのこと大好きだよ…っ」
「おとなしくしてたら…天国につれてってやるよ…」
シャツの中に手を滑り込ませ、背中をなで上げる。
唇から首筋、鎖骨へと跡を残していく。
「…っ…」
必死で漏れる声を押し殺そうとするテル。
「声聞きたい。押さえないでよ…」
「ひゃっ!!」
胸の突起を押さえる。甘く高い声があたりに響き渡る。
「へえ、ここがいいの?」
「やぁ…ヒサぁ…」
耳元で囁いただけで反応する感度の良さ。
・・楽しくってたまんないね…
うっすら笑うとヒサシはテル自身に手をかけた。
「やあっ!!」
ひときわ高い声が上がる。ダイレクトに脳に響く甘い声。
「すごいね、テル。もうこんなになってるよ…」
「いやぁ…んっ」
羞恥心で顔を真っ赤にするテル。
「てっこのイク時の顔も見たいんだけど、先にこっち慣らしとかないとツライからね…」
「…?…」
テル自身から離れ、そっと手を移動させ、指を埋める。
「なっ!!やだっ!!」
「大人しくしてろって…よけー痛くなるよ?」
「や、気持ち悪いよぅ…!!」
「すぐ良くなるって・・」
ヒサシの言葉どうり、すぐにテルから甘い喘ぎ声が聞こえ出す。
「っテル・・俺、もう我慢できないかも…」
だいぶ濡れた場所に自身をあてがう。
「ごめん、テル…」
「あ、痛…っ…」
貫かれる感触に悲鳴を上げる。でもテルの体はゆっくりと、確実にヒサシを飲み込んで。
「肩でも背中でもとこでも引っかいてもかんでもいいから。
でも…、もう止まんない…」
「あ、はぁっ…」
テルを抱きかかえるようにして深くつらぬく。
甘い悲鳴と、濡れた音が響き渡る。
「っヒサぁ…俺、もうイクっ・・!!」
「俺も、もう・…」
「あ、ヒサっ あ…――――…っ!!」
「っつ…」
ヒサシにきつく抱きついたまま、テルは意識を手放した。
「ヒサシ!!テルは!?」
真っ青な顔をしているタクローに笑いかける。
「見つかったよ。…なあ、ここタオルね―の?」
「ある、けど…どうした?」
ばれないように、ポーカーフェイスを作る。
「テルな、屋上にいて…びしょ濡れなんだよ。だから…」
「ヒサシ!!テル君見つかったの!?」
「とりあえずタオルくれ。テルつれて帰るから。」
「…テル君は、どこにいるの?」
にっこりと笑いながらジロがタオルを渡す。
「…秘密。」
「…へー、そういうことね。」
ジロはまだ笑ったままだ。いやな予感がする…。
「お前、まさかっ…!!」
「ヒサシ、テル君連れて帰るのは良いけどあんまりむりさせないようにねv」
・…こいつ、知ってやがる・…。
「ジロ、何の話??」
「いやいや、独り言!!気にしないでよ。
ほら、さっさとテル君のとこいきなよ。まってるよ?」
ジロの言葉に固まっていた思考がまた動き出す。
「あ、ああ。悪いな。」
「風邪引かせんなよ。」
「大丈夫だって。じゃ!!」
逃げるようにその場を去った。でも心の中はひどく暖かくて。
幸せだと。思う。
「ヒサシ遅いっ!!」
「悪い。ほれ、タオル。」
車の助手席に座るテルに渡すと自分も車に乗り込んだ。
「ありがとう」
綺麗に笑う、愛しい人。
エンジンをかける前に軽くキスをし、囁いた。
「ずっと好きだったよ。他の誰よりも。
…貴方だけを愛してる――――…」