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「２５時」 ２００２年 ３月 ２日号 後半 新宿大高層ビル群の中に紛れ込んじまった。通りたくもない都庁の不気味なビルの前を何回も走っている。クソッ！ 携帯が鳴る。大西君からだ。「先生、あかんわ！片っ端からマンガ喫茶に電話したけどアキみたいな風体の奴いてへん！」 海津も頻繁に携帯を鳴らす。「先生、アキちゃんはとりあえず俺の下宿と携帯番号、それに今井とこ、前田さんとこはメモっているらしい。僕は連絡が入るかもしれへんので下宿で待機してます」 後ろから恵が口ごもりながら言う。「先生、実は昨日山本先輩からメールもらったんですけど」「え！なんやって」「今、池袋にいるって・・・」「何時頃や！」「夜中の３時頃」「バカ野郎！早く言えよ」「すいません、つい忘れてしまって・・・」 深夜３時に池袋・・・ってか？クソッ！ 新宿西口界隈をじたばたしてなんとかガード下をくぐり抜け新宿東口へ。ここから明治通りにでて北上したいところだが・・・助手席では平和な目覚めの大輔が俺の緊迫感ばりばりの運転に怯えをなして尋ねる。「どうかしたの」「アキちゃんがミッシングや！」「何、それ」「バカ野郎！英単語もうちっと勉強しろ！行方不明だ！」「道順、調べよか」「いらん！」 つんざくクラクション！隣をタクシーがおんぼろエスティマを睥睨しながら通りすぎる。いろんな車に頭を下げながら三重ナンバー、やっと明治通りを左折。北上しながら考える。アキちゃんが知っている東京と言や池袋と早稲田と馬場を結ぶトライアングル。夜を過ごしたとして果たしてどこに？ 後部座席の村瀬がバックミラーに映る。「村瀬！オマエやったらどこで夜を過ごす」「・・・さあ、どうかな」「金も持ってねえ、大西君はマンガ喫茶に当たりをつけた。しかし今は昼や。コンビニでマンガでも読んでるか・・・本屋！ 何と言ったっけ、池袋の本屋。海津が岩波の哲学思想辞典買って塾に送ってきたあの本屋！」 エスティマは高田馬場を抜けさらに北上する。目の前に池袋サンシャインビルが迫ってくる。後ろで健太が叫ぶ！「先生！山本先輩からメールです！」「何やって！」「今、池袋の・・・ジュンク堂という本屋にいるそうです！」「そやった！それそれ、そのジュンク堂や！」 池袋駅前の渋滞にエスティマ突入！ 携帯で海津に連絡、「圭亮！ジュンク堂や、ジュンク堂！ 今、健太にアキちゃんからメール入りよった」「あ！ジュンク堂か・・・わかりました、すぐに行きます」「ついでに大西君にも連絡してくれ」 渋滞でエスティマは動かない。俺は高２に怒鳴った。「すぐ降りろ！ そしてジュンク堂へ走れ！ アキちゃんを捕まえるんや」 あすかちゃんが言う、「先生、ジュンク堂ってどこにあるの」「知らんわい！ だれかに聞け！」 あすか・健太・大輔・恵が降りて通行人に尋ねている。俺は少し先にパーキングを見つけ停車。古西は眠っている。村瀬と二人、池袋の街に流れ込む。携帯が鳴る。あすかちゃんだ。「先生、ジュンク堂に着いたよ」 電話の向こうに誉めてほしそうなあすかの顔が浮かんだ。「バカ野郎、すぐにアキちゃんを探せ！」「探せって、この本屋さん８階まであって大きいよ」「当たり前だろ、東京や」「アキちゃん先輩、どこにいるのか分からない」「８階までの案内でアキちゃんがいそうなとこ当たりをつけろ！」 ジュンク堂はすぐに見つかり村瀬とドアをくぐる。案内板を見る。隣の村瀬に尋ねる。「アキちゃん、どこにおると思う」「３階か・・・な。アイドルの写真集」「じゃあ地下１階のゲーム攻略本がらみは？」「アキちゃん、そっちのほうは可能性ないでしょ」 ８階が学参・・・チラッと見やりながら村瀬とエスカレーターに。そして二人で１階ずつしらみつぶしに探していく。本命のはずの３階はハズレ・・・ふと、村瀬に質問する。「確か８階は学参コーナーだったよな」「ええ」「受験生がこんな状況のなかで学参コーナーで参考書なんぞと格闘するなんてことあるかな」 逡巡の後に村瀬は言った。「ありますね・・・多分そこかな」 しかし８階にアキちゃんの姿はなかった。健太がやって来た。「先生、全階探しましたがアキちゃん先輩はいません」「クソ！間一髪で逃げられたか」「どうしましょう」「仕方ねえや、全員を１階に下げろ。そのうちに海津や大西君も来るだろ」 １階のドアを抜けた。あすかと恵のハウリング激しい会話が耳に入った。「ごくろうさんやったな」と二人に話しかけると二人の隣に・・・・犯人はいた。「アキちゃん！」 少々疲れ気味のいでたちでアキちゃんはそこに立っていた。「先生、ご迷惑かけてすいません」 そこへ蹴りがアキちゃんのボディーに入る。海津だ。「アキちゃん、オマエはどこにおったんや！心配したんやぞ」 そして大西君もやって来る。「アキ！オマエ、俺はな、池袋のマンガ喫茶を一軒一軒・・・」 アキちゃんは先輩の下宿に泊まるのは迷惑だと考え、どこかで夜を過ごそうと池袋界隈を歩いたとか。そして結局は池袋の駅で浮浪者、ホームレスの方がいいか、ホームレスのおっチャン達が寄りそう場所を遠巻きにして地べたへゴロッと横に・・・。そこへホームレスのおっチャン、名前はヤスさんが「兄ちゃん、寒いやろ？ これ貸したげるよ」と貰ったダンボール１枚。ウチの塾のバスマットには劣るだろうが、充分寒さをしのげたとか・・・。そして明け方からコンビニをハシゴして時間を潰し、１０時の開店とともにジュンク堂にやって来たという。 俺はアキちゃんに一番聞きたかった質問をした。「アキちゃん、ジュンク堂のどこにおったんや？」「８階にいました・・・」 アキちゃんを捕縛？し、俺達のおんぼろエスティマはフルハウスで中央道を走る。いつしか車の中に広がる静寂・・・みんな寝やがって！ 目的地である塾のことを思った。中３は勉強していることだろう。なにしろ明日は＊＊塾との第４Ｒ（ラウンド）、つまりはラストマッチ。今しがた「今までの順位を絶対に下げるな！」と携帯越しに怒鳴った。中３・・・そして功樹。明日３日は功樹の私立大学後期日程のスタートだ。功樹の後期日程がひっそりと幕を開こうとしていた。ウチの生徒はアキちゃんだけじゃない。功樹が家に帰るまでに塾に着きたかった。アクセルを踏み続けた。闇の中、甲府盆地に広がる光の渦が瞬く間に過ぎ去った。 トップページに戻る |
れいめい塾
