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歌いながら夜を征け!

1992年度『25時』増刊号




前書きとして――。

2年前、俺は『25時』の増刊号を4部出した。1部と2部では大学に入学した頃の、あてどなく彷徨っていた日々を綴り、3部と4部では福井の市場に勤めていたときのことを綴っていた。
さて、この『25時』は、俺にとってそのはざまの時代を「ケーキ投げ大会」を縦軸に、そしてあの頃の“気分”を横軸にして綴ったものである。
誤解されるのを承知で言うならば、「ケーキ投げ大会」は俺のアイデンティでもある。もし、これができなくなったら、つまり「ケーキ投げ大会」をいっしょになってしたい!という生徒がいなくなったとしたら俺が塾を続ける理由はなくなってしまう。当然のごとく食べ物を粗末にするとかの非難はあまんじて受けるつもり――。
大家さんを始め付近のかたがたにも迷惑をかけている。しかし――、俺としては“ゴメンなさい”と下げれる頭は何度でも下げる。でも、困ったことにやりたいのだ。やりたい連中がいる限り――。

通常の『25時』にはチョクチョク登場する連中が、今回では大挙襲来。とりあえずは前回の増刊号と同じく登場人物を掲げておく。

登場人物

余頃哲秀
九州は小倉の米屋の三男。二浪して関西大学経済学部へ。高校時代、『世良まさのり&ツイスト』のリーダー、ふとがね金太とバンドを組んでいたという異色の経歴を持つ。大学入学当初より関大前の喫茶店『IVY』にバイトで入る。他人から何を言われようと自分のペースを崩さない強さを持つ。趣味は賭け事全般、ただ勝負強さに少々欠けるきらいがある。

星合信行
熱海出身。二浪して関西大学工学部へ。一留して5年で卒業する。俺は今までこの人ほど飲み屋の大将たちから気に入られる人物を見たことがない。豪放雷落、かつ細心。この性格で麻雀を打つので、こちとらたまったもんじゃない。あの時期、関大前周辺でこの人に勝つ者はいなかった。関大前麻雀新撰組初代局長。趣味は賭け事全般。

レイコ姉
プール女学院からプール短大へとお嬢様路線をひた走る。卒業後オンワード樫山に入社、2年後に退職して関大前に喫茶店『IVY』を開く。カウンターの中から人を、それも客をもぐら叩きのもぐらのように扱う。マシンガンのように大阪弁が雄叫びをあげ、その度に店内の壁がハウリングする。目の前にひれ伏す人を、客を、ののしる迫力、尋常でない。

デンちゃん
鳥取県出身、二浪して関西大学社会学部へ。高校時代よりバンドを組み、大学入学後もいろんなバンドを渡り歩く。日本人離れした容姿(黒人そのもの)と酒で鍛えたしゃがれた声を武器にするリズム&ブルースのボーカリスト。高校の社会の先生を目指す。


滋賀県出身。金遣いの荒さには定評がある。ひと月のマンガ代で悠に6万が飛ぶ。大学入学当初よりサンケイスポーツでバイトを始め、4回生で日本シリーズの署名記事を任されるまでになる。飲む打つ買うの三拍子揃った古き良き時代のスポーツライター。

シン
三重県伊勢高出身。二浪して関西大学経済学部へ。カントリーミュージックをこよなく愛し、チャーリーブラウンでバイトに勤しむ。性格は強引、座右の銘は『俺がルールブックだ』。しかし一旦気に入った相手に対しては過剰なほどの愛情を注ぐ。豊・余頃とは同じゼミ。

前田さん
九州は八代の出身、二浪して関西大学社会学部へ。酒と麻雀とカラオケが大好き。素面のときのしとやかさと酒を飲んだときの猛々しさは、変身の美学について考えさせられる。酒で潰れたハスキーな声で歌う八代あきは絶品。

ノッチン
大阪府出身。大阪大学工学部へ進学後、助手として大学に残り研究を続ける。毎晩のように『IVY』に出没して寝酒をあおる。

マチコさん
大阪府出身。現役で関西大学文学部に合格し4年で卒業、これだけの経歴で身内からは尊敬の眼差しで見られる。OL生活を3年ほど経験し、退職。関大前に喫茶店『ベン・シャーン』を開く。

伊庭
津高から現役で立命館工学部へ進学。卒業後、伊藤忠データシステムヘ就職。アントニオ猪木に傾倒し、常に男らしくありたいと願う。俺に麻雀を教えてくれた張本人でもある。俺と同様に小学校の頃よりプロレスに親しみ、それが嵩じて人生をプロレスで語ろうとする性癖がある。

松岡
中学時代に伊庭と卓球部でダブルスを組み活躍。津高から一浪して和歌山大学へ。性格はこの上なく軽い。「笑ってごまかせ!自分の失敗、しつこくののしれ!他人の失敗」が座右の銘。さわやかさが売りで、こと女の子には異常に優しい。

トネ
福井県の全国レベルの進学校・藤島高校の出身。浪人時代に松岡と同じ下宿に住んでいたことから知り合う。たたき上げで福井中央市場で商いをするまでになった両親に育てられただけあって、たっしゃ!の一言で人格が語り尽くせる。酸いも甘いも、俺の人生で最も心の襞を覗かれた人間。


尽きせぬ想い――というものが、人並みにこんな俺にもある。
だが、その熱き想い、いったい何に対して込み上げてくるものなのか――。
1992年10月27日、午前4時――。今、この一瞬を俺の目の前にあるワープロに叩き込まねば何かが移ろいゆく――。そんな今しか叩けないものとは何なのか――あてもないまま、俺は今のこの“気分”、この“リズム”をワープロの画面のなかの文字の羅列に見い出そうとしている。

そうなのだ――。もう18時間ほど時が経過すると2年振りの「ケーキ投げ大会」が始まる。
2年前、前田千佳子の顔に手の裏に隠してあったケーキを塗りつけて始まったケーキ投げ大会。菊山や小林や西井が教室内を疾走する、手に手にケーキを持って! 阿鼻叫喚の教室の外には4期生たち。聖ちゃんや横山、辻モンたちが中3が道路に飛び出さないようにガードしている。楽しむ側から楽しませる側への自然なシフト、さすがウチの生徒やん!
それから1年後、去年の6期生たちはテンションが低いということから中止となった。俺は苛立ちを隠そうともせずに35歳を迎えた・・・。



かつて・・・そう、大学時代のことだ。俺にはとても好きな奴らがいた。奴らと言えはあ奴らは怒るはず、なにしろ皆、揃いも揃って俺より年齢は上――。俺は一浪して大学に入ったクチだったが、あ奴らときたら二浪が普通、中には二浪したあげくに大学で一留という強者もいた。つまりは皆、俺と学年は同じだったものの、年齢は一つか二つ上だった。
しかしながら世の中うまくできているもので俺もまた一留、まあ大学入学後の1年間、たった3日しか大学の校内に足を踏み入れなかったのだから仕方ない――。
「オマエは先輩を先輩とも思てへんなあ――」 飲み屋や雀荘、ビリヤード屋や喫茶店などで幾度となく、そう言われては頭をこつかれた――。本当に楽しかった――。
大学3回生までは、梅田界隈で毎晩のように酔っばらい、あたり構わず寝ては始発を待つような暮らしだった。それが3回生から4回生にあがる頃、トネの紹介だったと思う、関大前の喫茶店『IVY』に入り浸るようになる。
そこで俺はあ奴らと知り合ったのだ。

余頃(よごろ)は九州は小倉の米屋の三男坊、二浪して関西大学へ。2回生より『IVY』にバイトとして入りこむ。趣味はギターと賭け事全般。
星合さん(この人だけには敬称をつけてしまう)は、育った場所が熱海ということに関係があるのか、とても粋な人だった。ただ粋だなと思うのは付き合い始めてしばらくして気づいたのであり、初対面の人からは「君、何学部?」と聞かれることは滅多になく、「君、土木でしょ?」と、一挙に核心を突かれるのが常だった。そうなのだ、見るからにして土木、そして困ったことに工学部土木学料であった。性格は豪放磊落、賭け事は趣味ではなく生活そのもの。二浪一留、ゆえに俺より2歳年上だった。
デンちゃんはBLUES一筋のボーカリスト、外見そのものがスティービー・ワンダー。大学時代、数々のライブをこなし、卒業後は歌って踊れる高校教師を目指していた。デンちゃんも2浪。
豊は大学入学時よりサンケイスポーツにバイトで入りこむ。飲む打つ買うの三拍子揃った鉄鋼所の道楽息子。「女は顔や。さすがの俺も、性格は直すことはできても、顔ともなると直す自信がない」というのが口癖。やはり二浪。
シンはNBAと大リーグをこよなく愛す男、「俺がルールだ」というのが口癖。やっぱり二浪。
1980年春、俺はこんな愛すべき奴ら、やっかいなことに先輩連中を見送ることになった――。

余頃はツルマルサッシへ就職。星合さんは地元の建築建設へ就職。デンちゃんは地元に残り、大阪府の教職試験を受けることになった。そしてシンは大阪に残りソニー製品の個別訪問の会社に就職した。豊はバイトからいつしかサンケイスポーツに就職していた。
取り残されたという感傷はこれっぽっちもなかった。ただ、それまでの2年間あまりの日々――毎日半荘10回は麻雀を打ち、酒を飲んでは千鳥足でここそこの下宿へ帰るという――そんな至福の時間が過ぎ去っていったあことが俺にとっては辛かったのだ。


星合さんが熱海に帰る夜、俺たちは根城にしていた大学前の喫茶『IVY』で、初のケーキ投げ大会をやらかした。
ケーキはすぐに底をつき、缶ジュースやバケツの水が飛び交う乱打戦となった。戦場は店の前の道路にまで広がった。水だらけの道路をクラクションがまくし立てて走り過ぎていく。しかし、車も、通行人も、へったくれもなかった。その一瞬を心ゆくままに楽しもうと俺たちは深夜まで狂ったように走りまわっていた。
疲れ果てた俺、そして俺たち・・・。
今では信じられないが、ウブだった俺たち・・・着替えもしないままで、つまり着替えもないままで、デンちゃんの下宿に転がりこんだ。水道の水を飲んで横になった途端、誰かの鼾が聞こえてきた。しかし俺は眠りたくなかった。今、この一瞬の全てを、汗を、ケーキの残り香を、酒臭い息を、ズブ濡れのGパンの重みを、今夜のあらゆる全てを、この漆黒の闇とともに抱きしめておきたかったのだ。
寝息が交錯する闇のなか、ふいに俺の顔に何かが触れた。そして戸惑うような声が闇の中で響いた――じゃあな、中山。俺は行くぞ――星合さんの声。手で、顔にかぶさっているものに触れると、それは星合さんがいつもかぶっていたサンバイザーだった。「オマエにやるよ、ありがたく思えよ」「星合さん、今から熱海まで・・・車大丈夫?」「心配するなって。明日・・・いや、もう今日か、今日の昼には会社に出向かなアカン。今から出たらなんとか間に合うだろう」
 しはらくゴソゴソした後、「俺、車まで送るよ」――シンのくぐもった声が聞こえ、ドアが開き、そして閉まった。


TO BE CONTINUED.

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