あぁ、いとしの・・・



いろいろゴタゴタしていたが、やっと落ち着いて小太郎と過ごせる日が訪れた。久しぶりに小太郎の家へと招かれ、前日から楽しみにしていたは足取りも軽やかに向った。



「小太郎が困るくらい、甘えるんだもんね」



自然と頬が弛み、これからの事を思い浮かべては、手で顔を覆った。周りの目も気になるが、それよりなにより、今のにとっては小太郎に会えることが最優先事項なのである。近付くにつれ、早まる鼓動を抑えられなくなったは小走りに、小太郎宅の玄関へと着く。



「小太ろぅ・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



満面の笑みで玄関を開ければ、そこには白い壁が出来ていた。無言のまま立ち尽くすをよそに、その白い壁がゆっくりと動く。



「これは・・・・・・なに」



向かい合った二人?白い壁だと思っていたそれには、三本睫毛付きのおっきな目と黄色い嘴が付いていた。一歩後ず去ったは、改めて全身に目を這わせ、その未知な物体に開いた口が塞がらない。小太郎の家になぜこんな者が、もしかして、攘夷志士の仲間なわけないかと、は一人葛藤していた。それだけ衝撃が大きく、なんにせよ、受け入れるには時間が掛かるだろう。



「どうした?エリザベス」
「え、えりざべす?」



奥から小太郎が出てきた。白い物体に対し『エリザベス』と、親しみを込めた呼び方に、呆気に取られたは間抜けな声を上げる。お互いに声だけでしか確認出来なかったが、エリザベスが小太郎の方に振り向き、やっと顔を合わす。



、来たのなら上げればいいだろ。どうかしたのか」
「こ、小太郎?エリザベスってこれのこと」
「これではない。エリザベスだ。可愛いだろう」



玄関先に来た小太郎は、エリザベスの頭を撫でながらに声を掛けた。ごく普通の仕草なのかもしれないが、同じように撫でられてることに落ち着いていられず、エリザベスを指差し問い掛ければ、真面目な顔で訂正された。+目でも悪いんじゃと思う発言に、は小太郎の基準に疑問を抱く。



「か、可愛い?」



立ち眩む頭に耐え、引き気味の感情を抑えつつ現実に目を向ける。付き合っていても、相手のことを全部理解しているかと言えばそうではない。可愛いの好みも人それぞれといいたいが、今回だけは素直に頷くことが出来なかった。エリザベスに対する可愛いと、自分への可愛いの違いは・・・。



「小太郎・・・・・・聞くけど、わたしとエリザベス、どっちが可愛い」
「どちらも」
「帰る!」



聞くんじゃなかったと、今更後悔しても遅い。真顔で、考えることもなく即座に出た言葉に、ショックは大きかった。未知の生物と同じなんて、小太郎の目を疑いたくもなるし、もっと言葉を付け加える位して欲しい。やり切れぬ思いが、安易な行動へと繋がる。一言に、一言で感情を返せば、踵は来た道を戻ろうと動き出す。



!待て、どうしたんだ」
「それは小太郎が一番分かってるでしょ!」
「わからん。なにを怒って・・・」
「っぅ!」



帰ろうとしたの腕を、草履も履かずに小太郎は掴まえた。払おうとした腕を強く引かれながらも、身体は逃げ、言葉をぶつける。しかし、男と女の力では、に逃げ場はない。揉み合いの中、小太郎の手は腕だけに留まらず、の腰に廻り、知らぬ顔で裏の感情を隠せば、容易に唇を塞いだのだった。始めから、小太郎の策に踊らされていたのかもしれない。



「エリザベスにヤキモチか、可愛いことを」
「小太郎!」
「エリザベスは可愛いペット。は愛しい恋人だ。不服なことでもあるか?」
・・・・・・ない



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