妖刀紅桜の前に、銀時は倒れた。深手を負い、万事屋の自室で痛々しい姿で寝ている。そこには、新八の姉”妙”が付き添っていて、起きることを許されない銀時は、大人しく言うことを聞くしかなかった。



ガラガラガラ・・・



戸の開く音にいち早く反応した妙は、銀時に鋭い視線を送るとすっと立ち上がり、部屋を出て行った。そこにいた相手を見て、お互いが戸惑った顔をしたのは言うまでもない。



「・・・お妙さん・・・」
ちゃん・・・」



襖を挟んで聞こえた声に、銀時は身体を強張らせた。この時、三人が三人とも、変な緊張に陥っている。



「あのっ、銀ちゃんは?」
「今ね!仕事で皆出払ってるのよ。泊まりになるかもしれないとか、言ってたかな・・ははっ」



暫しの沈黙後、胸の前でぎゅっと手を握ったが重い口を開いた。わかっていたこととは言え、妙の声は不自然に裏返り、歯切れの悪さを隠すために笑って誤魔化した。襖の向こうで銀時は手で顔を覆ったのだった。もっとまともな嘘があるだろうと、玄関の方を指の間から切なく見つめる。



「遠くに行くときは、いつも連絡してくれます。それに・・留守番だって、頼んでくれてるのに、なんでお妙さんが・・・」



握り締めた手に自然と力が入っていた。銀時とは恋人同士・・・それは皆知っていることなのに、どうして妙がここにいて、銀時はなにも知らせず仕事をしているのか・・・こんなことは今までになかった。なかったからこそ、の不安は大きくなる。



「それは、急いでたのよ!急な仕事だったから、私は新ちゃんに頼まれてきたんだから」
「じゃ、わたしが代わります」
「それは駄目よ!!」
「どう、して・・・」



苦し紛れに出た言葉は本当で、新八から銀時のことを頼まれたし、には知らせないでおこうと決めたのは二人だった。銀時もそうしたいだろうと思ったからである。強く拒否されたは、震える手を握り直して妙を見つめたが、強い眼差しにそれ以上言葉が出なかった。



「ごめんなさいね。でも、わかって・・・」



そっと瞼を伏せた妙に、これ以上話すことはないと言われてるようで怖かった。力が抜けそうな足で身体を支えるのが精一杯で、消え入りそうな声で わかりました と呟き、自分の意思かもわからぬまま外に出ていた。



「はぁー・・・、悪いことしちゃったわね」
「・・・今の俺を見て、泣かれる方がつれえ」
「泣きそうだったけど」
「・・・・・・」



襖越しに二人は話した。今までのやり取りは銀時にも聞こえていたし、の姿が見えなくとも、銀時には言葉からの表情が浮かび胸が締め付けられていた。何度出て行き、抱きしめたいと思ったことか、しかし、この姿を見たの悲しむ顔を見たくなかったし、今は気持ちが揺らぐのを避けたかった。






階段の前まで歩いたところでは、はっと我に返った。妙とのやり取りばかりに気を取られていたが、思い出したように口に手を当てる。



「・・・少しだけど、血の・・にお・ぃ
・・・!!」



戸を開けたときに違和感があった。でも、妙がいて、そのことで頭がいっぱいになって忘れていたけど、間違いなく血の匂いが微かに残っていた。踵を返し、力一杯に戸を開ける。



「お妙さん!!」



驚いて目を見開いているたえに構わず、はその向こうにいるであろう相手に伝わるように言った。


「無茶はしないでって伝えてください!私は信じて待ってるから、必ず帰ってきてほしいって・・・あと、隠し事はしないで・・その方が辛いから」



一粒の涙がの頬に流れた。襖の向こうに無理やり作った笑顔を向けると、妙に頭を下げ、その場を後にした。銀時、たえや新八の気持ちが痛いほどわかって、零れ落ちる涙を止めることは出来なかった。






「聞こえてた?」
「あぁ・・・」



襖を開けたたえは、くすくすと笑いながら布団を被り、顔を隠している銀時に問いかけた。



それから暫くして、銀時は決着を付けるために出て行ったのだった。



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