kiss
政宗が暇つぶしに甲斐を訪れ、幸村と激しく死合って帰っていった。たまにある恒例行事みたいなもので、勝負が付くでもなく、お互いスッキリして終わるのだが、この日はナニカが違っていた。
「幸村様、どうかされたんですか?」
政宗の見送りもせず、幸村は部屋に籠もっていた。どこか怪我でもしたのではと、心配になったは部屋の前で声を掛ける。しかし、返事はない。
「幸村様?」
どこかに行ったのかと、そっと襖を開けて中を覗く。そこに幸村の姿があり安堵するも、部屋の真ん中で立ち尽くしていたので、気になったは中へと入る。歩を進め、幸村の後ろで止まった。
「幸村様?大丈夫ですか?」
目の前にいるのに、どこか遠く感じる。気配などわからないが、そこにいるのが幸村なのかと、伸ばそうとした手を躊躇う。どうしたらいいのか迷ったは、ここは佐助に相談しようと踵を返そうとした。
「殿・・・」
普段の幸村からは想像も出来ないほど低い声で名の呼ばれ、はビクッと肩を震わせた。怖いのか、よくわからない感覚に胸がドキドキする。相変わらず、幸村は動こうとしないが静かに口を動かした。
「他の男のことなど、考えるな・・・」
「えっ」
「殿は・・・某だけの女子だ」
そう言うと、振り向きを抱きしめた。力強い腕に抱かれ、突然のことに、は大きく目を見開いて幸村を見上げる。今日はずっと幸村らしくない。政宗となにか合ったのではと、不安げに瞳を揺らした。
「幸むんんっ・・・」
話そうとした口を、幸村に塞がれた。触れたと思ったら離れ、また触れてを繰り返す。声を出そうとしているは何度も遮られ、息をすることもままならないでいた。幸村の上着の袖をギュッと握り、されるがまま・・・でも、嫌じゃない。
「は、ぁ・・・幸村様・・・」
「そんな顔を・・・抑えられなくなる」
「まっ・・・ん!っぅ・・・ぁ」
溶けてしまいそうな甘い口付けから解放され、息を整えようとは息を吐いた。今さっきまでのことに現実味がなくて、白昼夢でも見ていたのではないかと幸村を見上げる。潤んだ瞳に上気した頬、互いの唾液で湿った唇が艶やかに幸村を煽った。目を細め、再び近付こうとする幸村に気付き、胸に手を付いて押し返そうとするも力では敵わず、後頭部に添えられた手に頭を固定される。薄く開いた唇に、さっきより少し深く口付けられた。
今より数刻前のこと
一通り暴れ、身支度を整えていた政宗が
「幸村。とはどこまでいってんだ?」
「まだ、甲斐を出てことはありませぬ」
聞いたこととは、まったく違う答えが返ってきた。流石の政宗も呆気に取られ、開いた口が塞がらないようだ。幸村の性格から予想出来たこととはいえ、口を出さずにはいられない。
「おい、幸村!キスぐらいはしてんだろうな!」
「きす?」
「接吻だ!」
「せせせせせせせせ接吻!」
「うるせぇなぁ・・・」
幸村の慌てように、政宗はさらに呆れた様子で続けた。
「破廉恥とか言うんじゃねぇぞ。男だったらして当然なんだよ!」
「・・・当然と言われても」
「それでも男か!もたもたしてっと、俺が取っちまうぜ」
「ん・・・はぁ、ぅん!・・・」
「・・・ん、・・・」
初めての接吻なのに、段々と深く深くなっていく。お互いがお互いを求めているのか、キスに溺れる。足に力が入らなくなったは、すがるように幸村の背に腕を廻した。
「・・・殿」
「幸村さま・・・」
の行為に、幸村は戸惑うように唇を離した。我を忘れていたことに、しかし、それはも同じ。見つめあう瞳で語り、二人の境が一つに重なる。甘い甘いキスは、まだ終わらない。
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