君の味
台所では茶菓子の団子を作っていた。小さく丸めた餅を餡子で包んであんころ餅にしていた。
「あと少しかな」
右の皿には餅が数個。左の皿にはあんころ餅がたくさん並んでいた。もうすぐ出来上がりで、お茶の時間に間に合ったと手を早めて作業を進める。最後の一個を手に取ったとき
「ちゃん!」
「きゃ!・・・さ、佐助さん!」
声と共に、腰に腕が廻される。それどころか、背中にピッタリとくっ付いてきて、肩には顎を置いてきた。右耳に佐助の息遣いを感じ、意識が自然とそこに集中してしまう。
「手が止まってるよ。ちゃん」
「・・・これで終わりです」
ククッと微かな笑い声が耳に近い。頬に熱が集まるのがわかって、は恥ずかしさに絶えながら、最後の一個を皿に置いた。早く解放してほしくて形は歪になったが、これで茶菓子は完成したし、お茶と一緒に幸村の元へ運ぶだけだ。
「あの、離して・・もらえませんか」
離れる気配のない佐助に痺れを切らし、はおずおずと口を開いた。振り払うにも手は汚れているし、身動きの取れない状況に恥ずかしさが募る。
「えぇ〜!さっき来たばっかなのにぃ〜・・・やだ」
「や、やだって!幸村様が待ってるじゃないですか」
「少しくらい待たせたっていいよ」
「いけません!」
右耳の横で、佐助は唇を尖らせ、駄々っ子のようにに廻している腕の力を強めた。視線だけを見上げるようにに向けると、は真っ直ぐ前を向いたまま佐助を征したが、耳から首筋まで赤みが広がっているのをまじかで見て、佐助はニヤリと微笑んだ。
「そんなに幸村の旦那が大事?」
「えっ・・・お仕えする方ですから」
「じゃ、俺様は?」
「なっ!!」
を試すように、本心はわかっていても苛めたくなる。真面目なだから、素直な反応を見るともっとしたくなった。宙で手持ち無沙汰になっている右手を掴むと、佐助は迷うことなく口に含んだ。人差し指と中指を半分ほど銜え、わざと音をたてながらぴちゃぴちゃと嘗めだす。突然のことに、は固まったまま、視界の端に映る行為に力いっぱい目を閉じた。
「勿体無いでしょ・・・ぺろん」
「・・・だから、って・・・」
「なにかもんだいでもある?」
「口に、入れながら喋らないで下さい!」
「なんで?・・・ちゅっ」
指先から舌を這わせ、掌を絵でも描いているかのように嘗め回し、親指に吸い付く。目を閉じているからか、予想の出来ない動きと感触に翻弄され、は押し寄せる熱に唇を噛み締めた。佐助はといえば、そんなにはお構いなしで、親指の先を吸いたてる。
「はい。お・仕・舞い」
「・・・んんっ・・・」
「じゃ、これ持ってくから・・・お茶よろしく」
パッと離れた佐助は、あんころ餅の皿を持つと軽く手を振って去って行った。何事もなかったように、いつもの日常に戻った途端、はへなへなと座り込んだ。左手も念入りに嘗められ、両手は佐助の唾液だらけで、神経が麻痺したように感覚がない。
「立てない・・・佐助さんの馬鹿!」
幸村の元へ皿を運んだ。時間よりも、がいないことが気になったらしい。
「殿はどうしたのだ?」
「暫く、来れそうになくてね」
「うぬ?口の端に餡子が付いてるぞ。さては、先に食べたな!」
「いや〜ばれた!ははっ・・・」
顔をじっと見られ、まさか気付くわけとないと思っていたら、鋭く指摘され内心焦った。付いてることに気付かないとは、夢中になり過ぎたかと餡子を指で拭うと、食べた。
「(こんなことなら、嘗め取ってもらえば良かったな)」
同じ餡子の筈なのに美味しくないと、苦笑いを浮かべる佐助であった。
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