温もり
ある夜
佐助の部屋の前に人影があった。佐助が任務に出て数日、帰ってきたようではなさそうで・・・
「佐助さん・・・」
返事はない。返事があったらあったで困るのだが、いないことを承知で幸村付きの侍女をしているは、そっと襖を開けた。遠慮がちに中を覗くと、薄暗い部屋のままだった。ふぅっと息を吐き、想い人の無事を祈る。冷たい廊下に立っているせいで体は冷え、背筋が震えた。
「なにしてるんだろ・・・私」
部屋に戻るのが最善策なのだが、気付くと足は部屋の中に入り、後ろ手で音を立てないように襖を閉めていた。自分の大胆さに驚きつつ、薄暗い部屋を進む。真ん中辺りまで来て、足に何かが当たった。
「敷きっぱなしになってたんだ」
しゃがんで手を伸ばすと、柔らかな物が広がっていた。それは佐助の布団で、誰かが任務に出たことを知らずに敷いたのかもしれない。思わず、頬が緩むのがわかった。佐助のいない寂しさを埋めれるかもしれないと・・・
「佐助さんの・・匂いがする・・・」
破廉恥な行動なのはわかっている。でも、心が耐えれない。は佐助の布団に潜り込み、抱きしめるように布団に包まった。布団の中はひんやりしたが、それ以上に満たされた気分で体は熱くなる。多少、興奮したのもあって、いつの間にかは眠っていた。
半時後・・・
「はぁ〜・・・疲れた」
襖を開け、首をコキコキさせながら佐助が帰ってきた。任務の予定は明日までなのだが、一日早く終わらせて戻った。報告は明日にして、朝一で起きたいので寝るつもりでいたのだが
「先客か?」
忍だけあって、襖を開ける前から人の気配があることはわかっていた。しかし、目の前の状況に驚きを隠せない。敷かれた布団に膨らみ・・・誰かの悪戯かとしゃがんで布団を少し捲った。
「ちゃん!!」
大声を出しそうになって、慌てて口を手で覆う。あまりの衝撃に尻餅まで付いてしまった。これは夢かと頬を抓ったが痛い。の寝顔が見えるように布団を下げ、呆れた素振りで頭を掻いた。狼のねぐらに仔兎から飛び込んで来るとは、疲れも眠気も吹っ飛んでしまった。
「ぅん?・・・ね、寝ちゃってた!」
「残念だなぁ〜添い寝しようと思ってたのに」
「っ!さ、ささささささ佐助さん!!」
まどろみから目を覚ますと、最後の記憶から止まっていることに飛び起きた。すると、部屋の隅に置かれていた灯籠に灯りが灯っており、久しぶりの軽〜い声に胸が飛び跳ねる。横を見れば、待ちわびていた佐助がいた。
「な、なんでいるんですか?」
「ここってぇ、俺様を部屋なはずだよねぇ」
「そう、でしたね。・・・・・・・っ失礼しました!」
胡坐の上に肘を付いて顔を支えている佐助と目が合う。悪戯っぽく笑って、の反応を楽しんでいるかのようだった。口を尖らせ、この部屋の主であることを主張する。の顔から血の気が引いていった。
「待って!『きゃっ!』」
布団から立ち上がり、走り出そうとした体を佐助に止められた。腕を掴まれ、強く引き寄せられると、佐助の胸に倒れ込んだ。顔が上げれず、はそのまま固まった。
「あああの、佐助さん!」
「このまま帰せるわけないでしょ」
「・・・・・」
「どうしてここにいたのか、教えてくれるかな?」
の背中に腕を廻すと、そっと耳元に唇を寄せた。熱っぽく囁くと、の体がびくっと震えるのがわかった。素直な反応が可愛くて、もっといじめたくなる。
「教えてくれるまで、離してあげないから」
俯いたまま唇を噛み締めた。喉の奥で笑っている佐助を恨めしく思いながらも、言葉を紡ぐことが出来ない。耳まで真っ赤になってる姿を見れば、佐助なら気付いているだろう。だが、あえてに言わせたい。本心まで全部わかってるわけではないから、言ってほしい。
「あの・・その、えっと・・・」
言葉に詰まりながら、は口を開く。頭の中は真っ白で、考えるよりも心のままに告げた。
「・・ずっと、佐助さんに・・・会えなかったから、寂しくて・・・」
やっとの思いで声に出した。心が軽くなった気がして、の体から力が抜けた。それには佐助の腕が放れたことも手伝った。部屋に帰れると、馬鹿正直にも顔を上げた。
「はぁー・・・どうして、そんな可愛いこと言っちゃうかな〜」
「えっ!んっ・・・」
佐助の腕が肩に乗り、溜息と共にナニカを吐き出す。そして、佐助の顔が近付いたと思ったら、唇が重なっていた。なにが起きたのかわからないまま、は目を大きく見開き、後ろの布団に押し倒される。程よい重みに、自分の置かれた状態が理解できた。
「さささっさささささ佐助さん!!」
「俺様もう、我慢できないよ」
真剣な瞳にドキッとしてしまう。目を細め、頬を滑る手が唇へと触れ、指の腹でゆっくりとなぞられた。しっとりと柔らかな感触に、さっきよりも深く口付けられる。一つになる温もりに溶けてしまいそう。
「ちゃん。大好きだよ」
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