触りたくなる…




元親の元へお茶を持って行ったら、部屋の真ん中で大の字で寝ていた。周りには設計図らしき絵や文字が書き込まれた紙がたくさん散らばっている。新しい兵器を考えていたのだろか、紙の海には×が目立っていた。あまりの散らかりように、は困り顔で笑うと盆を置き、×とそうでない紙とを分けながら部屋を片付け始める。



「う〜ん・・・さっぱりわからない?」



紙を拾い上げ眺めてみたが、には何が書かれているのかわからなかった。ただ、元親が一生懸命なのはわかり、隣に視線を移した。寒くないから風邪をひくことはないが、無防備すぎる鬼の姿に自然と頬が緩む。規則正しい寝息がなんとも愛しい。



「よく寝てるなぁー」



部屋を片付け終えたは、元親の側にちょこんと座った。部屋の中をずいぶん歩いたが、元親に起きる気配はない。普段はなかなか見ることのできない元親の寝顔を眺めていただったが、ふと、視線をずらした。



「・・・元親様の胸板」



寝顔も貴重なのだが、こんな機会は滅多にないと、呼吸の度に上下する逞しい胸板にの興味が移る。何度となく抱かれた胸だが、じっくり見ることも触れることもそうなかった。



「触れても、いいよね」



言葉よりも先に手が動き、遠慮がちではあるが胸板に触れた。悪いことをしている訳でもないのに、異様な緊張にの手が震える。ぎゅっと手を握りしめ、震えを止めようとしたら、今度は胸がざわめき出した。



「なんで、こんな・・・」



胸に手を当て、はゆっくりと息を吐く。元親に触れたい。でも、少し触れただけなのに、身体の奥で生まれた熱には戸惑っていた。知らず知らずのうちに、自分も元親を求める身体になっていたのかと、恐る恐る手を伸ばすと指先で胸板を撫でる。自覚すると、案外、平気かもしれないと、は次に腹筋へと指を這わせた。硬く引き締まった腹を撫で回していると



「くすぐってぇーじゃねぇーか」



静寂を破った声に驚き、は慌てて手を引っ込めようとしたが、腕を掴まれた。口は開いているものの声は出ず、ゆっくりと声の方に顔を向けると、至極楽しそうな瞳と合わさった。その途端、の顔から血の気が引いていき、上機嫌に口角を上げると元親は身体を起こした。



「・・・も、も元親様・・お、起きられてたんですか!」
「そりゃ、起きるだろ?」
「い、いいいいいつから・・・」
「言ってもいいのか?」



元親の笑みを見て、は気が遠くなりそうだった。ほんとに寝てたとしても、元親ほどの者なら足音で気付くはず・・・始めから狸寝入りをしてたとしたら・・・はその場から逃げ出したくなった。元親の身体に夢中で、見られていたかもしれない事に気付かないなんて、は恥ずかしさで顔から首まで真っ赤にし、ただ俯いた。



「ナニ熱くなってんだ」
「ぁっ!」



掴んでいた腕の熱さに、元親はを抱き寄せた。着物越しではわかりにくいが、胸に掛かる吐息の熱さに元親は目を細める。頬に触れ、上を向かせると潤んだ瞳が悩ましく揺らいだ。



「好きなだけ、触ってもいいんだぜ!ただ・・・」
「んっ!」
「俺も、好きなだけ触らしてもらうがな」



強引に唇を押し付けられる。元親も気持ちに余裕はないらしいが、吐息の掛かる距離で見つめ合い、の髪を優しく撫でた。



「文句はねぇーよな。・・・



甘い熱に二人は溺れていく。



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