かくれんぼ
ある日、小十郎の畑の手伝いがしたいとが言い出した。当然のことだが、二人で行かせるわけにもいかず、政宗は渋々同行することにした。何度も説得したものの、は首を縦には振らなかった。
「はぁ〜・・・」
小さな掘っ建て小屋の縁側で、政宗は一人酒を喰らっていた。周りには空になった徳利が何本も転がり、手酌で酒を注いでは、出るのは溜息ばかり。視線の先には農作業をしている小十郎・・・その先には、子供らに囲まれたがいた。始めは収穫やら畑の手入れをしていただが、近くの農民の子供らが、珍しい客人であるを連れて行ってしまったのだ。珍しいと言えば、政宗の方が上なのだが・・・不機嫌全開なために、誰も近寄ろうとしなかった。
「糞餓鬼共が・・・」
の周りをちょろちょろと走り回る子供らに、掛かりきりのもだと杯を煽った。ごろんと寝っころがり、腕を曲げ頭を支える。ムスッとした頬が紅いのは酒のせいか、それとも・・・。恨めしく見つめる瞳にが気づくことはなく、いつしか重く閉じられた。
「政宗様!政宗様!」
数刻ぶりに名を呼ばれ、政宗は目を覚ました。寝ていたことに驚きつつ、目の前のに自然と腕を伸ばしていた。はその手を取ると、そのまま引っ張り、政宗の体を起こす。予想していなかったことに、政宗は鳩が豆鉄砲でも喰らったかのような顔をして、を見つめた。
「どうした?」
「かくれんぼしましょ?」
「かくれんぼ?」
寝起きのせいか状況が掴めず、政宗は漠然としていた。やっとを独占出来ると思っていたのに、抱き寄せようと伸ばした腕が虚しい。の笑顔になんでもOK!してしまいそうだが、かくれんぼの単語に眉間に皺が寄った。かくれんぼは二人でするものじゃないし、逸らした視界に子供らの姿が映る。思わず、引っ張られている腕に力を入れた。
「ちょっと待て!俺がか」
「はい。皆で遊びましょ!」
「餓鬼の相手なんかしてらんねぇ」
「これも民のためです」
「ならねぇよ・・・」
「私と太郎くんとお花ちゃんが鬼ですから、二十数える間に隠れてくださいね。政宗様」
「はぁ〜・・・」
結局、に押し切られ、かくれんぼをすることになった。子供らはワーッと言いながら走っていったが、政宗は浮かない表情のまま歩いていた。隠れる気などないらしいが、脇にある森に入ると大きな木の幹にもたれ掛かる。
「かくれんぼなんて、笑えるぜ」
奥州筆頭がなにをしているのか、政宗は薄ら笑みを浮かべた。来るべきじゃなかったと後悔しても後の祭りで、楽しいことなんかありゃしないと瞼を閉じる。耳に、二十っと子供の声が微かに届く。
「・・・楽しいことがない。否、楽しくすりゃいいだけじゃねぇか!」
口の端を上げ、含み笑いを喉の奥に留める。パーティーの始まりと、空を仰いだ。
「ぼく、こっち!」
「あたし、あっちいく!」
「元気だね。私は・・・」
二人の背中を見送ると、は辺りをぐるっと見渡す。無理に付き合わせてしまった政宗がちゃんと隠れたか、は数を数えながら様子を見ていた。子供らが走っていった方とは逆に向かった政宗に、苦笑いを浮かべるも森に隠れたんだから、参加はしてくれたんだと嬉しくなる。
「機嫌が悪くなる前に、探しに行きますか!」
もう十分機嫌は悪いんですが、それに気付いていないは、素直にかくれんぼを楽しんでいた。最初に見つけてあげないとなんて、暢気に森へと入って行く。政宗のことだから、見つかりにくいところいると思いきや・・・
「・・・アレは」
目の前の木の影から政宗の着物が見えていた。ここだと言わんばかりに立っている政宗に、少々拍子抜けしつつも、はそっと近付いて行く。
「政宗様!みぃ〜つけたぁっ!」
捕まえようとした手をあっさりかわされ、反対にその手を掴まれると頭の上まで上げさせられた。そして、そのまま木に押し付けられる。なにが起きたのかわからず、大きな目をさらに大きくして、は政宗を見上げた。少しずつずり落ちてくる着物の袖に気恥ずかしさを覚える。
「政むっん!」
開きかけた唇をいきなり塞がれた。拒むことも出来ず、深く激しい口付けに思考は止まり、とろとろと溶けてしまいそうになる。
「ぁ・・んんっ!」
捕らわれてる腕がもどかしいく、足に力が入らなくなり立っているのがつらくなってきた。自由の利かない体は政宗を求めているのに、唇以外許されない。無意識のうちに、も貪るようなキスに応えていた。
「っ・・・ん、はぁ・・・」
「・・・ヤラシイ顔だな」
潤んだ瞳を熱っぽく政宗の向ける。物足りなさには下唇を噛み締めた。至極上機嫌な笑みを浮かべると、政宗はの腕を自分の首に巻かせる。着物の合わせから無理やり足を入れると、の腰を抱き寄せた。
「俺をほっといた罰だ」
「・・・・・・」
「たっぷりと・・お仕置きしてやるぜ」
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