束縛主義



部活帰りに、ちょっと遠いが品揃えは抜群と評判のスポーツショップに青学レギュラー陣の何人かで来ていた。店内に入ったら各自自由行動になったのだが、目的は同じだったらしく奪い合いが始まった。



「俺が先に見つけた!」
「俺が先っス!」
「違う違う!オレのにゃ〜!桃、おチビ、ここは先輩に譲れ〜!」
「嫌だ!」
「先輩、後輩は抜きっスよ!」



越前、桃城、菊丸の争奪戦を微笑みながら見守っていた不二の目に、馴染みの顔が見えた。少し距離はあったが、見間違う相手でもない。3人を他所に不二は移動した。



「虎次郎じゃないか。こんなところで会うなんて奇遇だね」
「周ちゃん。まぁね。ちょっとした付き合いさ、買い物かい?」
「ああ。そうだよ」



試着室からそう距離のないところで、六角中の佐伯虎次郎は立っていた。後ろから声を掛け、幼馴染みだけあり、驚くこともなく自然と話が進む。不二の話した先に目を向ければ、今だ揉めている3人が飛び込んできた。ちょっとした人だかりも出来ていて、お互い苦笑いを浮かべる。



「賑やかだね」
「ああ。虎次郎は1人?」
「いや。この中」



それ以上触れることもせず、話は虎次郎に向いた。1人で立っているにはおかしな場所だったが、六角中のメンバーの試着を待っているのか?不二は、笑って指差された更衣室に目を向け首を捻る。



「ねぇー虎次郎。これ、変じゃない?」



不審に思っていたそこへ、虎次郎に掛けられた声と同じく、更衣室のカーテンが開かれた。真ん前ではなかったが、2人からも中からも見える距離で、虎次郎だけと思っていたから少し驚き、テニスウェアの試着だったため、スコートの丈に照れを感じる。



「うん。似合ってる」
「可愛いよ」



爪先から頭の先まで目を配り、虎次郎は納得したかのように頷く。その隣では、不二が優しい笑顔を浮かべていた。2人に見つめられ、先立つのはやはり恥ずかしさ。妙な緊張をしつつ、どうしていいのか視線を泳がせる。



「・・あ、ありがとう。・・・虎次郎の友達?」
「あ、ああ」



少し俯き、緊張を悟られないよう礼を言うも、の異変を虎次郎が見過ごすわけもない。気になるも、不二を紹介しようとしたが



「不二周助。よろしくね」
「・・です」



一足早く、不二は自己紹介をした。優しいトーンに優しい微笑み、一瞬、錯覚してしまいそうで、は頬を染めてしまう。こんなに疲れる初対面は初めてかもしれない。そして、虎次郎は、からかわれているにしろ、勘違いでも、を放しておくことが出来なくて、横に移動する。



「周ちゃん!俺の彼女なんだけど」
「虎次郎!」



言葉より手が早く、気付いたときには抱き寄せられていた。すっぽり腕の中に収まり、抗議もなにも虎次郎に染められる。不二への緊張も消え、心を占めるのは虎次郎だけ、瞳に映る顔に、微かな焦りが差していたのを、は見てしまった。



「可愛い彼女だね」
「そっ。だから、フリーにはなんないよ」
「わかってるよ。それじゃ」



不二も気付いたのか、意図していないことで困らせてしまったと、早々に引き上げた。痛くはないが、力一杯抱きしめられていることに、の心は痛む。どうすれば、この想いを



「虎次郎・・・」
「俺をフリーにしちゃ、ダメだよ」
「しないよ。ずっと・・・こうしてたい」
「今日は素直だね」
「もぅ・・・」
「周ちゃんに感謝しないとね」
「えぇ!」
「離してあげないよ」


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