ココア
寒い日の帰り道。リョーマとは自動販売機で寄り道をしていた。ホットとアイス、同じフェイス並んでいるが、冬はやっぱりホットの方が売れ行きは良いだろう。財布からお金を出したは何を買おうか悩んでいると、隣でジュース缶の落ちる音がした。
ガシャーン!
「リョーマ君。なににしたの?」
自動販売機からジュースを取り出しているリョーマに、選びかねてるは参考にしようと聞いた。でも、出てきた缶を見て、背筋をブルッと震わせる。
「冷たくないの?」
「別に」
「こっちまで寒くなるよ。温かいの・・・これ!」
リョーマが買った自動販売機の、隣の自動販売機が音を立てた。缶を取り出したはすぐには開けず、掌から伝わる温かさに、しばらく缶を両手で握り、ほっと一息吐くいた。
「温かい。冬はこれだよね」
「ココア・・・子供だね」
「むっ、いいの!」
缶をカイロのように頬に当てたを見て、心とは逆の態度をリョーマは取った。膨れたから目を逸らすと、帽子の鍔を少し下げる。スチール缶を開けにくそうにが開けると、辺りにフワッと甘いココアの香りが広がった。
「美味しい。温まる」
一口飲んで、は幸せそうに頬を緩めた。ココアも、家で作るのとお店と缶と、味に多少の違いがある。どれが一番かは決めにくいが、味が安定してる点でいけば、缶が妥当かもしれない。温かいから早くは飲めず、ゆっくり一口一口を味わいながら飲んでいた。
「ねぇ」
「ぅん?」
「一口、ちょうだい」
隣で美味しそうに飲んでるを見て、一足先に飲み終わっていたリョーマは缶をゴミ箱に捨てると、の少し前に立った。訊ねているのに疑問符はなく、飲んでる最中だったは返事をするために慌てて口を離すと、薄っすらココアが唇に滲んだ。
「・・っん!ぅぅ・・・」
「・・・・・ごちそうさま」
「リョーマ君!」
危うくココア缶を落としそうになり、もう片方の手で口を押さえた。唇をペロッと嘗め、甘いと顔を顰めたリョーマには怒りたくても怒れず、残りのココアを一気に流し込んだ。熱さで忘れようとしたのに、逆効果だったかもしれない。ココアの味が口いっぱいに広がり、さっきのキスを、味が消えるまで思い出すこととなる。
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