ジャージ
温かい陽気から、肌寒い陽気へと移り変ろうとしている季節は、着る物に困る頃合いでもあった。制服なら決まって、夏服から冬服に変わるが、部活時は個人の自由。判断のようなところがある。氷帝レギュラー陣も、ユニホームとジャージに分れていた。
「・・・っくしゅん!」
その中に、平のマネージャーからスピード出世で、レギュラーマネージャーになった氷帝2年のの姿もあった。その存在をアピールしたクシャミに、レギュラー全員の注目を集めてしまう。の格好は、薄いグレーのトレーニングパンツに白のTシャツとシンプルで、日の差してる間はいいが、陰ってくれば寒さがはっきりとわかる。
「・・冷えてきたかな?」
腕を抱くように擦り、寒さを紛らわす。皆の目が向いていることなど知らず、止まってしまった作業に取り掛かった。誰もが、我先にと行きたい気持ちを抑え、なにもなかったような素振りをする。
「!これ着なよ」
「長太郎君・・・待って、いいよ」
「ダメ!に風邪引かれたら困る」
「・・・ありがとう。借りるね」
レギュラーメンバーの中から1人、の元へ足を運んだのが鳳だった。着ていたレギュラージャージを脱ぎ、に渡す。合同学園祭から2人の仲は、皆が知るものとなり、知ったとき、ショックを受けた者も多かったとか?それが選手とマネージャー。見てる側として、部活内の接触は極力避けてほしいのが現状だった。
「なんや、ラブラブやな。あの2人」
「ぁあ。にしても、ジャージでか過ぎだよな」
「しゃぁないんとちゃうか」
放課後
部員達は着替えず帰る。それが普通のようだが、はそうもいかないので、部活後、長太郎は更衣室近くで待っていた。日も完全に落ち、風が出てきたため、肌寒さを一層感じる。
「くしゅん!」
クシャミが1つ。静まりかえった辺りに響く。
「長太郎君!」
「・・・」
着替え終ったが、慌てた様子で走って来た。なにかあったのかと心配げな鳳に、予想外の行動が起きる。
「少し屈んで」
「えっ、これ!」
屈むもなにも、鳳が動く前に背伸びをしたが目の前にいた。その手にはマフラーがあり、早くと言わんばかりに廻される。ふんわりとした温かさに首を包まれ、手際よく仕上がった。
「はい。いいよ。寒かったんでしょ」
ジャージを借りた時から、は鳳のことが気になっていた。優しい彼だから、でも、自分のために無理はして欲しくない。クシャミを聞いて、に出来ることはただ1つ。寒くないよう、温かくしてあげること。
「ありがとう・・・あったかい」
マフラーに手を当て、優しく笑う鳳に、も安心したように微笑む。マフラーとの温もりで、鳳は幸せいっぱいだったが逆に、のことが心配になった。
「でも、が寒いだろ」
「大丈夫!長太郎君に風邪引かれたら困るもん」
部活中とは逆になり、鳳は少し困った顔をした。確かに、寒そうには見えないが、このまま帰るには抵抗がある。だからといって、今の鳳には貸せる物などない。その時、目に付いたのが、のちっちゃな手だった。
「ふふっ。じゃ、この手は僕に貸してね」
「あっ・・・」
の右手をそっと握り、レギュラージャージのポケットへ。少し冷たくなってた手が、大きな手に包まれる。
「帰ろうか」
「うん」
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