過去
部活のないある日の午後。こんな日は滅多にないと、忍足は放課後デートにを誘った。と付き合い始めて、初めてとも言える一般学生らしいデートに忍足は浮き足立っていた。
「ええなぁー」
「なにが?」
「こっちの話や」
学生服で並んで歩く。いつもはジャージだったりするので新鮮、なのは忍足だけな気もするが、太陽がまだまだ沈まない時間に2人、並んで歩くのはやはり新鮮だった。まったりと浸っている忍足で、不思議そうに見つめるの瞳は真っ直ぐで、これも忍足を浮かれさせる要因の一つである。
「?…侑士、なんとなく顔が弛んでるよ」
ポツリと言った一言に、忍足の顔はピシッと固まり、と向かい合う。真剣な表情が近づき、思わず後ず去ってしまった。
「ど、どうしたの?」
「弛んでなんかないで、よう見てみ。男前やろ」
「はいは…」
驚いたのも束の間、結局それが言いたかったんだとの表情が変わったとき、嫌味なほど綺麗な含みを端に乗せた唇が、中途半端に開きかけた唇に重なる。不意な行為に嫌がる素振りはなく、暫し、時を忘れた。
「あのさ・…」
「?えち「リョーマ君!!」
2人の後ろから、聞き覚えのあるようでない声が掛かった。慌てもせず離れた目に映った姿に、忍足よりが反応した。ここが道だということに、人に見られたということに、急に恥かしさが込み上げてくる。
「えっ、知り合い?」
「あ、うん。幼馴染み。近所で昔、お母さんが友達なの、今も」
「それより場所考えたら、変わらないね」
鳩が豆鉄砲を喰らったような忍足は、始めて聞く事実に開いた口が塞がらない。どこでどう繋がっているか、わからないものである。2人の間でパニックになりつつ、そわそわとぎこちないとは対照的に、越前の言葉はハッキリしていた。なので、面喰った忍足でも、最後の語尾に引っ掛かる。
「…変わらへんってなんのこと」
「そんなこと言った?知りたい」
「な、何?なにもないよ。ただの幼馴染みだし」
「そう。ただの幼馴染み。・・キスなんて当たり前だよね」
「っ!」
「な、なな何言って、キスなんかしてない」
「したよ。そっちから」
「!し、したとしてもホッペかオデコでしょ!それに小さかったときの「話やないで」…」
鋭い眼つきにも、からかうような姿勢は変えず含みを持たせ、誤解を解こうと慌てふためくの発言に、越前の意地悪スイッチが入り、核心部をさらりと言ってしまう。それに喰い付いただったが、後ろで、表情に険しさが増したことには気付いていなかった。1人熱くなって、否定しようとするも墓穴を掘り悪化するばかり。そこへ、忍足の手がの肩へと置かれた。
「侑士…」
「ほんまなんか」
俯いたまま静かな声で、置かれた手は重く熱かった。ゆっくりと振り向いたの瞳に、さっきまでと違う忍足がそこにいた。返す言葉が見つからず、臥せた仕草に忍足が動く。
「俺はちいちゃかったときのことでも、許せへん。そない広い心は持ってへんからな」
「っ!・・・ん・」
もう一方の肩も掴まれ、豪雨のように思いを打ち付けられた後、少し前のキスが嘘のような噛み付くキスをされ、思わず押し返そうと手が忍足の制服を掴んだ。逃げれない逃さない。肩に合った手は、抱きしめるかのように背中に廻されていた。
「ぅっ、ゆうし」
「口とちごてもキスはキスや!悔しい。俺の知らんを越前は知っとる」
離れたの唇は赤みを増し、優しく名を刻んで同じように腕を廻した。子供のような理由に照れたのか、顔はそっぽを向けている。らしくない侑士がたくさんいて、どれも素直な気持ちなんだと可愛くなって、頭を撫でた。
「侑士しか、知らないわたしもいるよ」
「そやな。でも、アイツより…覚悟はええな」
「侑士?まっ!」
「だからさ、ここ道の真ん中なんだけど」
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