七夕



商店街で買い物をしていたは、お店の人に七夕だから短冊を貰った。懐かしく思いながらぶらぶら歩いて行くと、商店街の中心に大きな笹の木が飾られていて、近くには長机が幾つか用意され、短冊を書くスペースが設けられている。笹の木を見つめ、手にある短冊に目を移したは、すたすたと長机に向った。



「貰ったんだし、願い事はあるもんね」



長机に紙を置くと、ペン立てからボールペンを取った。ノック式の芯を出し、いざとなると手が進まなくなるもので、決めてたはずなのに悩んでしまう。小さい時は毎年のようにしていた行事も、大きくなると薄れていくもので、特に七夕は笹の入手が今一分らず、各家庭でもしなくなっていくものだ。それに対象者が決められている感じがして、学年が上がれば自然と距離ができる。寂しい話だが、今では川に笹を流すことさえ制限される時代になってしまった。



「失敗できないからな・・・誰かに見られることも考えないと」



テスト問題にでも悩んでいるかのように腕を組み、真剣にいろんなことを考慮し、文を考えていた。幼稚園・保育園などでは七夕行事は必須みたいで、商店街やショッピングセンターに飾られたりしている。それを覗けば、小さい子ならではのいろんな願いが書かれていて、小さい子に人気のあるキャラが分かったり、将来なりたい職業や夢、思わず笑ってしまう願いまであり、なかなか楽しいときを過ごせたりした。この事を考えると、あまり恥ずかしいことは書けない。



「う〜ん・・・でも、これが・・・・・・・・・・」



悩んだ末にペンを走らせた。照れながらも、今のが望むことは簡単なようで難しい。だから、形としてお願いした。



「・・・よし。あとは『なにしとるんじゃ?』!」



書き上げたのと同じく、の腰に蛇でも捲き付いてきたのか気付かぬうちに腕が這い、背中に密着感と重みが加わった。声と話し方で誰だか分かったが、首だけ振り向いたは相手の近さに驚く。



「ま、雅治先輩!?」
「よっ」



振り向いた先に仁王の顔があり、は慌てて顔を反らした。それとは反対に、呑気な返事を返した仁王は、の肩に顎を置き手元を眺める。



「よって、離れて下さい。なんでいるんですか?」
「買い物頼まれて、で、楽しそうにしとるを見つけたんじゃ」
「わ、分かりましたから、少し離れて下さい」



周りを見渡しながら、は人目を確認する。人も多いし、カップルがいる分目立ちはしないだろうが、人前でのこの密着は恥ずかしい。動きを制限されつつ、仁王の腕の中で打開策を探る。しかし、仁王に離れる気配はなく、興味はが手で隠している短冊に向いていた。



「ところで、なにをお願いしたんかの。ずいぶん、悩んじょったな」
「いつから見てたんですか!」
「当たりか・・・・・どれ」
「あぁー!」



仁王の手が短冊に伸び、守ろうとしただったが、仁王の言葉に一瞬の隙ができ、の手から短冊は鮮やかにすり抜けた。見掛けたのは短冊を書いてるときで、ならの予想で言ったのだが、素直な反応に、可愛くも複雑な思いで簡単にペテンに掛かってしまうを心配する。取られてしまったはつい、商店街だというのに大声を上げてしまった。



「ちぃっと静かにしんしゃい」
「あ!ぅん・・・・・・」



周りに目を向けつつ、を宥める。仁王の所為なのだが、場所が場所だと気付いたは大人しく引き、注目の的に紅くなった顔を隠すように俯いた。



雅治先輩とずっと一緒に居られますように・・」
「先輩!」



目立つ行動をしたので、まさか読むはずないと思っていただが、呟くように聞こえてきた文に声を抑え、抗議の視線を向けた。短冊を口に当て、静かに仁王は笑う。



「なぁ、
「なんですか」



短冊を取ったこと、読んだこと、笑ったこと、いくら恋人でも許せないこともある。優しく掛かった声に、は不機嫌を形に表し答えた。宥めるように頭を撫でる手も、今は逆効果である。



「こういうことは、本人に言うのが一番じゃけど」
「っ恥ずかしくて言えません」
「そうか?二人のとき・・・・・ベッドの中とか」
「雅治先輩!」



予期せぬ事態に、の不貞腐れは吹っ飛んだ。驚き、返した言葉はやはり素で、罠を張らなくとも、兎は自ら狼の腹に飛び込んでくる。



「何なら、俺から言ってやろうか?嫌ってほど、聞かせちゃるぜよ」


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